KAGEROインタビュー トレンドになったジャズ×ロックの先駆者

fox capture plan、Yasei Collective、H ZETTRIOなど、ジャズミュージシャンのスキルとロックやパンクの攻撃性を併せ持ったバンドの活躍が目立っているが、その中でもKAGEROの存在感はひときわ異彩を放つ。自らが掲げる「音の暴力」というキャッチコピーそのままに、作品を重ねるごとに楽曲はよりラウドに、ファストに進化し、最新作『KAGERO V』においても、その切れ味はさらに鋭さを増しているのだ。

そんなKAGEROの中心人物が、ベーシストの白水悠。彼は2014年にツインドラム+トリプルギター+ベースという特殊な編成のI love you Orchestraを始動させ、今年だけで2枚のアルバムを発表。6月に行われたKAGEROにとって2度目のアメリカツアーを収録したライブアルバム『LIVE IN NEW YORK』も含めれば、『KAGERO V』は白水にとって、今年4枚目のアルバムリリースということになる。果たして、何が彼をハイペースの創作へと突き動かしているのだろうか。KAGEROのメンバー四人に話を訊いた。

アメリカだと、(お客さんが)「この曲好き」って思ったらすごい勢いでバーッて前に来て、「よかった!」とだけ言ってまたすぐ戻ったりするんです。それでいいんですよね。(佐々木)

―近年のキャッチコピーである「音の暴力」という言葉通り、KAGEROはますますラウドに、ファストに、アグレッシブに進化しているように感じています。何か変化のきっかけがあったのでしょうか?

白水(Ba):やっぱり、いろんな意味でアメリカに行ったことは大きかったですね。それまでは「お客さんを盛り上げるために何かをする」ということはほとんどなかったけど、向こうでライブをやっていく中で、四人ともそれを考えるようになったのかなって。

白水悠
白水悠

―2013年に初のアメリカツアーがあって、向こうではお客さんがものすごい盛り上がりを見せたことで、「これが日本でもできるんじゃないか」という発想になったわけですか?

白水:もちろん、それまでも自分の中では盛り上がる曲を作ってるつもりだったんですけど、「盛り上がらないもんなんだな」って思ってたんです。でも、アメリカでやったら「やっぱりちゃんと盛り上がるじゃん」って感覚が湧いて、日本でもこういうライブをしたいと思いました。そこからいろいろと考えるようにはなりましたね。お客さんを煽るようになったのも、そこからかな。別に大きく曲の感じを変えたりとかはしてないんですけど。

―でも、ちょっとした意識の変化がステージングや曲に表れて、実際日本でのライブも盛り上がるようになっていったのではないでしょうか。

白水:そこは段々かな。その場の空気だったり、日にもよるしね。

佐々木(Sax):アメリカだと、街一番の酒場っぽい店でやることが多くて、個々がいろんな楽しみ方をしてる感じなんです。たとえばバーカウンターでお酒を飲んでた人が「この曲好き」って思ったらすごい勢いでバーッて前に来て、「よかった!」とだけ言ってまたすぐバーに戻ったりするんですけど、それでいいんですよね。日本だと「みんな」で盛り上がろうっていう印象なんだけど、一体感の楽しさだけじゃなくて、もっと勝手に、瞬発的に楽しんでくれたらいいなって思います。

佐々木“Ruppa”瑠
佐々木“Ruppa”瑠

―フェスの現場に集約されているように、日本は「一緒に盛り上がる」という価値観が強い国ですよね。一人で自由気ままに楽しむ感じではないというか。

白水:まあ、そうやって一緒に盛り上がるのが苦手な人もいるし、「こういう楽しみ方もあるよ」というのを提案できればいいとは思います。ただ、その件と自分たちの音楽の本質はそこまで関係なくて、変に意識して音楽自体を変えちゃうと、結局そこに飲み込まれちゃうと思うんですよね。

―では、白水さんが理想とするKAGEROのライブとは?

白水:今のKAGEROのライブは、個々のお客さんが自由に楽しめる、余裕のある空間を作ることができてないし、作ろうともしてないんですよね。メンバーから出てる音の圧からして、もっと切羽詰まったものが客席の空気を支配してる。だから、KAGEROのライブって集中力を使うと思うんですよ。見てる方もやってる方も、フワッとはできなくて、25分のライブでもクタクタになる。結局僕はライブを観に行くにしても、自分がやるにしても、そういうライブが好きなんです。

白水悠

佐々木“Ruppa”瑠

―集中して、音と向き合うようなライブが好きだと。

白水:それがお客さんの動きを固くしちゃってる原因にもなってると思うから、ジレンマでもあるんですけどね。実際に前作の『KAGERO IV』の曲には感情的な苦しさが込められていて、気持ちを圧迫する感じがあったから、今回はそうじゃないものを作りたいっていうのはあったかな。集中を必要とするということは変わらないけど、それで沈み込んじゃうんじゃなくて、テンションが上がるものが作りたくて。

ループ感がある時点で、この人(白水)にとっては革新的なんですよ。「こんなにベースのリフ少なくていいんですか? ライブでこれずっと弾くんですよ? 満足しますか?」って(笑)。(萩原)

―では、『KAGERO V』について訊かせてください。『KAGERO IV』からは、セッションから曲を固めるのではなく、白水さんが曲の全体像を作るやり方に変わったそうですが、今回ものその延長だったのでしょうか?

白水:そうですね。今回は結構時間がなかったんですよ。前作を出したのが去年の10月で、ツアーファイナルが今年2月の新宿ロフトで、僕はそこからI love you Orchestraもやってたから……。

―I love you Orchestraは今年だけで2枚アルバム出してますもんね(笑)。

白水:だから、9月にKAGEROのレコーディングをするのは決まってたんですけど、6月にアメリカツアー行った段階ではまだ4曲くらいしかなかったのかな。前作のセットリストを塗り替えられるものを作りたいと思って、自分の中でハードルをめちゃめちゃ上げちゃったせいで、50曲くらい作ったんじゃないかな。

―そのハードスケジュールの中で50曲ですか……曲は常に作ってるんですか?

白水:別に、暇だしね(笑)。月10日間ライブがあったとして、それ以外の20日は空いてるわけだから。まあ、いくら自分一人でたくさん曲を作れても、それをバンドで固めるには時間が足りないなって思ってたんだけど、前作からの積み上げで、みんなの理解がすごく速くなったんですよ。今回はとくにハギ(萩原)が集中して取り組んでくれて、最初にリズムを録った段階で、「これは絶対、前作を超える!」って確信はありましたね。

萩原朋学

萩原(Dr):レコーディング自体はとてもスムーズでした。ただ、最初の方に出てきた曲は、前作のイメージを頭に置きながらやってたかもしれなくて、それはそれでよかったんだけど……。

白水:後半にできた曲の方が割り切って、「こういう曲にしよう」ってはっきり言ったかも。

萩原:だから、最初は今回のアルバムがどんな作品になるのかあんまり見えてなかったんですけど、途中からそれが見えてきて、それが見えさえすれば、あとは早いんです。「この人はこういうアルバムにしたいんだ」っていう、俺はそれを“Ginger”で感じて。

萩原朋学
萩原朋学

―KAGEROとしては珍しい、ループ感のある曲ですよね。

萩原:そう、ループ感がある時点で、白水にとっては革新的なんですよ。「こんなにベースのリフ少なくていいんですか? ライブでこれずっと弾くんですよ? 満足しますか?」っていう(笑)。でも、やってみたらすごくいい感じで、「これがオッケーなアルバムなんだ」っていうのが見えてからは、スムーズにレコーディングができました。

たいそうな機材を使わなくても、信頼できる耳を持ったエンジニアが使い慣れた機材で作れば、それで十分じゃないかなって。(佐々木)

―白水さんとしては、アルバム制作においてどんなことがポイントでしたか?

白水:今回一番変わったのはレコーディングとミックスです。普通のレコーディングは、ブースの中に演奏してる人がいて、それ以外はミックスルームから、マイクを通じて話をするけど、今回は演奏する人と僕が一緒のブースの中にいたんです。別の部屋からマイク越しでディレクションするとちょっと変な空気になったりするけど、どう弾いてるかも見える距離にいたから、「こうしてみようよ」ってダイレクトに言えて、そういう方が合ってるなと思いました。KAGEROの最初のほうのレコーディングって、超一流のレコーディングスタジオだったんですよ。防音ドアを開けてくれる人までいたからね(笑)。

―リッチですねえ(笑)。

白水:でも、どんどん「それはなくてもいいだろ」って思うことが重なっていって、今回はホントに信頼できる人間だけの、小さなチームで作りました。全員の顔が見えて、「なんでこうなっちゃったの?」と思うことが一切なく、すごい楽しかった。

菊池(Pf):ずっと自然体のままレコーディングできましたね。前だと「これ終わらないと、誰か待たせちゃってるかな?」とかあったけど、そういうのも全然気にせず。

菊池智恵子
菊池智恵子

菊池智恵子

白水:前はCDを出す、イコールちゃんとしたスタジオでレコーディングする、というように思ってたけど、今はライブのPAもやってくれてる大津にエンジニアをやってもらっていて、発想がすごく自由になったのも大きかった。

佐々木:たいそうな機材を使わなくても、信頼できる耳を持ったエンジニアが使い慣れた機材で作れば、それで十分じゃないかなって。知らないマイクがいっぱい出てくるのも楽しいけど、KAGEROを熟知してる人間と精一杯やる方がいいんじゃないかっていう。

―ライブPAである大津さんに作品のエンジニアリングをお願いすること自体、やはりライブに繋げていくような意図があるのでしょうか?

白水:うーん……突き詰めると、結局は僕が震えるかどうかしか考えてないんですよ。グラフィックとか絵にしてもそうですけど、やっぱりアートとデザインって明確に違って、KAGEROはデザインじゃない。だから、明確な目的ってないんです。ライブに関しては、目の前にいる人のことぐらいは考えられるようになったけど、音源に関しては、どういうターゲットに届けたいとか、マーケティング的にこうしようとかは全然ない。もちろん、プロモーションは必要だから、こうやってインタビューを受けたりはするけど、音を作る過程はあくまで自分たちの方を向いていて、やっぱりデザインじゃなく、アートなんだと思うんですよね。

目的は相手を攻撃することじゃないからね。いいものを作るのが目的だから、そこに「怒り」じゃなくて「笑い」っていう術を身に着けたのかな。(白水)

―白水さんのやってることは間違いなくアートだと思うんですけど、今回のアルバムのために50曲作ったとか、その表現欲求がどこから来ているものなのかを改めてお伺いしたいです。途中で「暇だから」とおっしゃってましたけど、もちろんそれだけではないはずで。

白水:根源にあるのは、そんなにいい感情じゃないですよね。ご飯が美味しいとか、よく寝れたとか、そういう幸せな感情のときに「よし、これを曲にしよう」とはならない(笑)。僕って、すっごいむかつきやすいんですよ。今はもうそんなことないけど、ハギと出会った20歳前後の頃は……ねえ?

萩原:絶対一緒にバンドやりたくないと思ってた(笑)。

白水:ホントに何に対してもイライライライラしてて、それを昔は口に出して「むかつく」って言ってたんですよ。

萩原:そして誰も幸せにならない(笑)。

白水:そうだね。ライブを投げっぱなしにしなくなったのもそういうことで、そんなライブをしても誰も幸せにならないですよね。「むかつく」ってストレートに言っても誰も幸せにならないけど、それをちゃんと「表現」として出せれば幸せになることもあるから、根本はそれだけ。あとは、ホントに暇だから曲を作ってるんです(笑)。

KAGERO

―佐々木さんから見て、白水さんってどんな人なのでしょう?

佐々木:さっきのアートとデザインの話で言うと、できるだけアートをやりたい人で、できるだけ研ぎ澄まされた状態でいないと、不安になっちゃうんだろうなって。多分自身が思ってるよりも体が弱くて、研ぎ澄まして身が削れちゃうのは心配ですよね。あと、変わってきたことで言えば、表現したいことがはっきり伝わってくるようになったかな。

萩原:前は怒りでそれが見えなかったんですよ。すぐに「なんでわかんねえんだよ!」ってなって、でもそこからは何も生まれないし、よかったことなんてなくて。

白水:目的は相手を攻撃することじゃないからね。いいものを作るのが目的だから、そこに「怒り」じゃなくて「笑い」っていう術を身に着けたのかな。

萩原:今回のレコーディングのスピードアップはそこなんですよ。前は必ず「怒り」っていうプロセスがあって、みんながそれを乗り越えないといけなかったのが……。

白水:完全に無駄なプロセスだよね(笑)。

佐々木:(白水は)I love you Orchestraでどっかに行ってたり、他のメンバーも個々の活動があったから、今年はこれまでよりも会う時間は減ってて、これまでの感じだと「便りがないのがよい知らせじゃない気がするな、白水は」って思ってたんですよ。いつのまにか怒りばっかり溜めてそうで。ところが実際、久しぶりにKAGEROでスタジオに入ったら、白水がすんごい楽しそうだったんですよね。

―I love you Orchestraの活動もあるけど、やっぱりKAGEROがないと……。

白水:当たり前ですよ!(笑) 先にあっちを止めることがあっても、こっちがなくなって、向こうを続けるということはありえないです。まあ、体が弱いのもありますけど、実際いつまで生きてるかなんてわからないわけじゃないですか? 今は作ればリリースできる環境に置いてもらえてるけど、それもいつまで続くかはわからない。だったら、それができるうちに、生きてるうちに、思いついたことは全部表現して死にたいっていう、僕はそれだけなんです。

リリース情報
KAGERO
『KAGERO V』(CD)

2015年12月9日(水)発売
価格:2,160円(税込)
Ragged Jam Records / RAGC-011

1. LOVE AND HATE
2. Eraser
3. NO WAY
4. THE TRICKSTER
5. SIDE EFFECT DISORDER
6. dependence
7. Walk Alone
8. Ginger
9. a girl in the morning light
10. Ajisai
11. winter beach, and the beautiful sunset

イベント情報
『KAGERO V release tour「LOVE IS THE DISORDER」』

2016年1月10日(日)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:大阪府 天王寺 Fireloop
出演:
KAGERO
Jake stone garage
memento森

2016年1月11日(月・祝)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:愛知県 名古屋 APOLLO BASE
出演:
KAGERO
Jake stone garage
palitextdestroy
ワッペリン

2016年1月17日(日)OPEN 17:00 / START 17:30
会場:長野県 LIVE HOUSE J
出演:
KAGERO
UHNELLYS

2016年1月30日(土)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:北海道 札幌 SPIRITUAL LOUNGE
出演:
KAGERO
Jake stone garage
トリコンドル

『KAGERO V release tour「LOVE IS THE DISORDER」final oneman show』
2016年2月6日(土)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 渋谷CLUB QUATTRO

料金:各公演 前売2,500円 当日3,000円

プロフィール
KAGERO
KAGERO (かげろう)

白水悠(Ba)、佐々木“Ruppa”瑠(Sax)、菊池智恵子(Piano)、萩原朋学(Drums)。ジャズカルテット編成の想像を覆す攻撃的な轟音とパンクスピリット溢れるライブパフォーマンスを武器に、国内の数多のフェスやサーキットで話題沸騰。ジャズ、パンク、ハードコアシーンを股にかける異端児として全国、そして海外より注目が集まる。ベスト盤のリード曲“Pyro Hippo Ride”はiTunesジャズチャート1位を獲得。2013年から2度のアメリカツアーを開催、成功に収めている。



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