
一度は音楽業界と決別した藤井麻輝、復帰後の怒濤の活動を語る
minus(-)『G』- インタビュー・テキスト
- 小野島大
藤井麻輝が3年以上に及ぶ沈黙からカムバックし(詳しくは前回のインタビュー記事にて)、SOFT BALLET時代からの盟友である森岡賢に声をかけminus(-)を始動させてから1年半。昨年ミニアルバム『D』でデビューを飾り、コンスタントなライブ活動を経て新作ミニアルバム『G』を完成させた。アンビエント的なサウンドも展開していた前作に対して、森岡の作る楽曲を藤井がアレンジ、プロデュースしたという今作は、EDMを彼ら流に解釈したアッパーな内容となっている。
藤井はminus(-)のほか、芍薬とのユニット睡蓮や、BUCK-TICKの今井寿とのユニットSCHAFTのメンバーとしても活動している。先日21年ぶりの再始動を発表したSCHAFTは来年1月20日にアルバム『ULTRA』を発表する予定だが、その追い込み作業で佳境に入っている藤井をスタジオまで追いかけインタビューを敢行。SCHAFTの制作状況についても訊いた。
前作はいわゆる「環境音楽」ではなくて、「環境」を作れればいいなと思って作った作品でした。今回は「EDM」です。
―SCHAFTの進行状況はどんな具合ですか。
藤井:(全体の)1/10です。
―間に合うんですか?
藤井:いやあ、こればっかりは間に合わせないといけないから、不眠不休の覚悟で(笑)。今井くんの作業は終わってるので、あとは私が細かい作業をいろいろ……。普通だったら3~4か月かけるのを2週間ぐらいでやろうとしてるから。こういう作業は慣れてはいるものの……過去最大規模の危機感を持ってます。
―そんなお忙しい時にすみません(笑)。復帰されて約1年半。minus(-)ではこまめにライブをやってこられて順調ですね。
藤井:そうですね。かなりこまめに。特にminus(-)はフラットにステージに立ててる感じはします。
―森岡さんとのコラボもバッチリ……。
藤井:いや……はい。
―(笑)。微妙な答えですね。
藤井:昔は細かいディテールとか音周りとか、結構ピリピリ気を遣ってやってたんですよ。睡蓮とかはまさにそうで。睡蓮で復帰してたら別だと思うんですけど、minus(-)だったので。音は気を遣うんですけど、今は照明や映像を持ち込んでないのでそっちに気を遣わないで済んでる。音がきれいに鳴っていれば、あとは「森岡がいるからいいか」ぐらいのスタンスで臨んでるから、気楽といえば気楽ですね。
―睡蓮はすごく作り込むから。
藤井:ええ。睡蓮も楽しいんですよ。達成感はあるんですけど、その分気を遣うから疲弊度も大きくて。minus(-)は、「明日ライブをやるよ」って言われたら、スケジュールさえ空いていれば、すぐにできる。気楽にできるのでフラットでいられますね。
―minus(-)にとって1年ぶりの新作となるミニアルバム『G』がリリースされるわけですが、フルアルバムではないんですね。
藤井:睡蓮もそうなんですけど、ミニアルバムを短期間で続けざまに出すってスタイルって、どうやら僕には合ってるんですよ。minus(-)はちょっとペースが遅いですけど。
―というと?
藤井:たとえば睡蓮だと1音1音に執念がこもっているので、自分がリスナーとして聴いても、6曲くらいでどーんと疲れるんですよ。アルバム1枚聴くとエネルギーが吸い取られるような感覚があって。minus(-)は睡蓮ほどではないですけど……。
―作り手としてもフルアルバムを作るには体力が続かない?
藤井:体力というよりは精神力ですね。なのでミニアルバムくらいのボリュームがちょうどいい。飽きないですからね。minus(-)みたいに疲弊する音楽じゃなくても、10曲も聴かされたら途中で止めちゃうと思うんですよ。
―とはいえ、フルアルバムでこそ見せられるものもあると思うんですが……。
藤井:ありますかね? 今や1回アルバムを聴いて、何曲かだけをセレクトされて、お気に入りプレイリストみたいな形に編集されちゃう運命という気がして。アルバムトータルで起承転結をつけて作っても、作者の意図する形でそのまま聴かれることって、あまりないんじゃないですかね。
―今やフルアルバムを作る意義が揺らいでいると。
藤井:僕らの時代でもカセットで自分のベストとか作ってたじゃないですか。今はあれがもっと気軽にできるし、そもそもフルで買わないで試聴して気に入った曲だけダウンロード購入してる人も多いと思います。だからフルアルバムでストーリーを展開するというのはあまり考えてないんですけど、とはいえCDパッケージの作品なので、一応ストーリーは作者なりにあったりするんですよ。だから、それに耐え得るだけの楽曲が揃えば、今後フルで作るかもしれませんね。
―なるほど。では『G』には作品を貫くコンセプトのようなものはありますか?
藤井:いや、前回も今回もあります。前作の『D』は、こうやって会話してるときに後ろで鳴ってて、害にもならないし益にもならないような音楽。いわゆる「環境音楽」ではなくて、「環境」を作れればいいなと思って作った作品でした。今回は「EDM」です。
―たしかにそういう音ですよね。なぜ今回はEDMにしようと思ったんですか? 前に話したとき、EDMは禁じ手だと言ってましたよね。
藤井:ええ、僕は大嫌いなんですよ、EDM。なんでしょうね……「表層的にハッピー」みたいな匂い。
―ではなぜそれを今回やろうと思ったんですか?
藤井:それは、森岡が大好きだからです。
―(笑)。彼の意向?
藤井:『D』を出した後の彼の言動を見ていて、一度EDMをやっておかないと、彼の精神衛生上良くないなって思ったんですよ。だから今回は、彼のやりたいことを無理やり押さえつけないで作ろうかと。森岡が作ってきた曲を僕がプロデュースした形ですね。楽曲はすべて森岡です。
―そして、彼の作ってきた曲がEDMだったと。
藤井:そうですね。現在彼はそういう曲しか作る気がないというか、作れないというか(笑)。
―たしかに森岡さんは、今のEDMに通じる派手でダンサブルなエレクトロポップが得意ですからね。でも前作では、アンビエントな曲もありましたよね?
藤井:それは最初からそういうコンセプトの作品にすると言ってあったから。何も指定せず、普通に曲を作ってもらうとEDMになるんです。もろEDMではない、EDMですね。
リリース情報

- minus(-)
『G』(CD) -
2015年12月9日(水)発売
価格:2,160円(税込)
AVCD-931681. Descent into madness
2. Peepshow
3. Maze
4. Dawn words falling
5. The Victim
イベント情報
- 『ワンマンライブ「LIVE 2015 Vermillion」』
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2015年12月28日(月)OPEN 18:15 / START 19:00
会場:東京都 新宿 ReNY
料金:4,500円(ドリンク別)
プロフィール

- minus(-)(まいなす)
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元SOFT BALLETの藤井麻輝と森岡賢によるユニット。2014年5月に結成。ニュー・ウェーブ、エレクトロニカ、ノイズという要素を交え、他にはないオリジナリティに溢れたサウンドを構築。10月22日にファーストミニ・アルバム『D』をリリースし、その後、LUNA SEA主催のフェスを始め、ヒカシュー、BELLRING少女ハート、石野卓球、SUGIZO、THE NOVEMBERSといった幅広い相手との対バンを行なう。2015年12月9日にはセカンドミニアルバム『G』をリリース予定。さらに12月28日には新宿ReNYでのワンマンライブを予定している。