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80年の時を超えて、チャップリンが現代の労働者へ贈る皮肉と癒し

80年の時を超えて、チャップリンが現代の労働者へ贈る皮肉と癒し

『新日本フィルの生オケ・シネマ チャップリン「モダン・タイムス」』
インタビュー・テキスト
麦倉正樹

5月7日(土)、東京・錦糸町のすみだトリフォニーホールで開催される『新日本フィルの生オケ・シネマ チャップリン「モダン・タイムス」』。近年、全世界で流行傾向にあるという「シネマコンサート」のなかにあって、無声映画の名作中の名作であるチャップリンの『モダン・タイムス』を演目としていること、スタジオジブリ作品をはじめ、映画音楽に関わる機会も多い新日本フィルが演奏すること、さらには海外から有名指揮者を招聘していることなど、「世界最高水準」を目指して今回のイベントは企画されている。

オーケストラの生演奏とともに名作映画を観ることの愉楽とは? そして、映画史に燦然と輝くチャップリンの『モダン・タイムス』が、今の日本に提示するメッセージとは? 「サウンド&ヴィジュアル・ライター」として映画や音楽に関する記事を執筆するほか、今回のイベントの「企画監修」にも名を連ねている前島秀国に、その見どころはもちろん、シネマコンサートの醍醐味、さらには映画作家であると同時に優れた音楽家でもあったチャールズ・チャップリンの実像について、大いに語ってもらった。

大正時代ぐらいまで、映画を観ることと音楽を聴くことは同時に体験することで、しかも大騒ぎしながら観るのが当たり前だった。

―まずは、前島さんが『新日本フィルの生オケ・シネマ チャップリン「モダン・タイムス」』の企画監修を務められている経緯から教えていただけますか?

前島:もともと僕は、死ぬほどチャップリンの映画が好きで……今は「サウンド&ヴィジュアル・ライター」という肩書きで映画と音楽の両方について原稿を書く仕事を主にしているのですが、チャップリンの映画を見ていなかったら、恐らくこの商売をやっていなかったと思います。僕にとっては、それぐらい大きい存在なんですよね。そして、映画というのは、確かに目で見るものですが、音楽の力も非常に大きいわけです。それは単に、『アナと雪の女王』の“レット・イット・ゴー”が名曲であるとか、そういうレベルの話ではなく、映像と音楽が対等な関係で何かを表現したときに、1+1=2ではなく、4にも10にもなるんですよ。

―映像と音楽が対等な関係というと?

前島:そもそも映画というのは、チャップリンもそうですけど、サイレントだったわけですよね。ただし、サイレントというのはフィルムに音がついてないというだけで、映画は発明の直後から必ず音楽の伴奏つきで上映されていたんです。1895年、フランスのリュミエール兄弟が、『工場の出口』という史上初めての実写映画を上映したのですが、このときすでにピアノの伴奏が入っていたという記録が残っています。つまり、映画はその誕生時から音楽と一緒にあって、対等な関係だったんですよね。

―サイレント映画というと無音の映画と思いがちですが、映画は最初から音楽という表現を持っていたのですね。

前島:そうです。1899年、日本で最初に作られた映画『芸者の手踊り』も、生演奏がついていたという記録があります。つまり、映画を観るということは、生で音楽を聴くということでもあった。それが時代の流れのなかで分化してしまい、別々のものと考えられるようになってしまったんです。日本で言うと、大正時代ぐらいまで映画を観ることと音楽を聴くことは同時に体験することで、しかも、みんなが喜怒哀楽を露わにして、大騒ぎしながら観るのが当たり前だった。映画というのは、そういう大衆娯楽だったんですよ。

『モダン・タイムス』より / Modern Times © Roy Export S.A.S.
『モダン・タイムス』より / Modern Times © Roy Export S.A.S.

―そういう意味では、ある種原点回帰的と言えるかもしれませんが、近年は日本でも、映画とオーケストラのコラボレーションコンサート――いわゆる「シネマコンサート」というものが、あちこちで開催されるようになっていますよね?

前島:そうですね。去年も『ゴッドファーザー・シネマコンサート』や『「バック・トゥ・ザ・フューチャー」in コンサート』が日本でも開催されるなど、生のオーケストラが映像とシンクロしながら演奏するイベントが各地で行われていました。ただ……その試み自体、僕は評価していますけど、いかんせん、そのほとんどがトーキー映画なんですよね。つまり、台詞と効果音も同時に流れるわけです。もとのサウンドトラックから音楽だけを抜いて、オーケストラが演奏すると。もちろん、それはそれでいいとは思うのですが、そうなってくると、結局普通に映画館で映画を観る体験とあまり変わらなくなってくるんですよ。

―というと?

前島:やっぱり、みんな物語や台詞に集中してしまうから。せっかくそこで音楽が生で演奏されていても、ついつい画面に集中してしまうんです。それは非常にもったいないですよね。だから僕は、台詞や効果音のない作品でシネマコンサートをやるのがベストだと思っていて……そこで思いついたのが、チャップリンだったんです。彼の無声映画だったら、大人から子どもまで、言葉がわからなくても楽しむことができる。かつ、映像と音楽が対等であるということに関しては、かなり高いレベルのパフォーマンスで表現されている。だから、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『ゴッドファーザー』とは違うスタンスで、我々は今回のイベントを企画しているんです。

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イベント情報

『新日本フィルの生オケ・シネマ チャップリン「モダン・タイムス」』

2016年5月7日(土)
会場:東京都 錦糸町 すみだトリフォニーホール
[1]OPEN 13:00 / START 14:00
[2]OPEN 17:00 / START 18:00
上映作品:『モダン・タイムス』(監督:チャーリー・チャップリン)
指揮:カール・デイヴィス
演奏:新日本フィルハーモニー交響楽団
料金:全席指定6,000円 ペア券9,600円

『チャップリン「モダン・タイムス」公演記念トーク・イベント「泣いて!笑って!チャップリンの知られざる魅力」』

2016年4月9日(土)OPEN 15:30 / START 16:00
場所:東京都 渋谷Li-Po
出演:前島秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)
料金:1,000円(1オーダー別)

リリース情報

カール・デイヴィス(指揮)/ベルリン・ドイツ交響楽団『チャップリンの映画音楽』
カール・デイヴィス(指揮)/ベルリン・ドイツ交響楽団
『チャップリンの映画音楽』(CD)

2016年4月27日(水)発売
価格:2,000円(税込)
SICP-30930

1. 『キッド』~オープニング
2. 『キッド』~屋根裏部屋のワルツ
3. 『キッド』~ブルー・アイズ
4. 『キッド』~誘拐
5. 『キッド』~睡眠
6. 『黄金狂時代』~序曲と嵐
7. 『黄金狂時代』~感謝祭のごちそう
8. 『黄金狂時代』~ジョージア
9. 『黄金狂時代』~ロールパンの踊り
10. 『黄金狂時代』~拒否
11. 『黄金狂時代』~ディスカヴァリー
12. 『黄金狂時代』~偶然の出会いとフィナーレ
13. 『サーカス』~サーカス・マーチ
14. 『サーカス』~朝食と腹ぺこ少女
15. 『サーカス』~少女
16. 『サーカス』~気まぐれなワルツ
17. 『サーカス』~綱渡り芸人
18. 『街の灯』~ファンファーレ
19. 『街の灯』~大富豪
20. 『街の灯』~ナイト・クラブ(1)
21. 『街の灯』~ナイト・クラブ(2)
22. 『街の灯』~ナイト・クラブ サン
23. 『街の灯』~ナイト・クラブ(4)
24. 『街の灯』~花売り娘
25. 『街の灯』~ボクシング・リング
26. 『街の灯』~フィナーレ
27. 『モダン・タイムス』~メイン・タイトル
28. 『モダン・タイムス』~工場の機械
29. 『モダン・タイムス』~浮浪少女
30. 『モダン・タイムス』~カフェテリア/たばこ屋
31. 『モダン・タイムス』~ドリーム・ハウス(スマイル)
32. 『モダン・タイムス』~デパート
33. 『モダン・タイムス』~ランチタイム
34. 『モダン・タイムス』~イントゥ・ザ・サンセット(スマイル)

プロフィール

前島秀国(まえじま ひでくに)

サウンド&ヴィジュアル・ライター。クラシック、映画、映画音楽、現代音楽を中心に紹介記事やレビュー、CDライナーノーツなどを執筆。近年は朝日カルチャーセンター等の音楽講座で講師を務める。編著に『パーフェクト・オペラ・ガイド』(音楽之友社)、共著に『アートを書く!クリティカル文章術』(フィルムアート社)ほか。『キネマ旬報』創刊90周年記念『オールタイム・ベスト 映画遺産 映画音楽篇』(キネ旬ムック)では企画監修と執筆を担当。企画監修したコンサートに『フィリップ・グラス シネマ・コンサート』『チャップリン・フィルム・コンサート・イン・ジャパン』など。2014年から始まったコンサートシリーズ『久石譲プレゼンツ ミュージック・フューチャー』にも協力している。

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