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ピクサーを飛び出したアートディレクター堤大介の貪欲すぎる挑戦

ピクサーを飛び出したアートディレクター堤大介の貪欲すぎる挑戦

『トンコハウス展 「ダム・キーパー」の旅』
インタビュー・テキスト
萩原雄太
撮影:田中一人 編集:佐々木鋼平

人に作品を見せて、意見をもらい、悔しい思いをしながら続けていくしかない。

―制作の話をお伺いしたいのですが、堤さんがピクサーでされていたアートディレクターとは、どのようなお仕事なのでしょうか?

:スタジオによってまちまちですが、ピクサーの場合、一作品に2、3百人のスタッフが関わるので、キャラクター担当、背景担当というように、数人のアートディレクターが専門的な部分を担当しています。ぼくの専門は光と色。監督とともにストーリーを効果的に伝えていくため、照明や色の見せ方を考えていく仕事です。ピクサーではCGであっても実写映画のように「照明」でストーリーを伝えることにこだわりを持っているんです。

『トンコハウス展 「ダム・キーパー」の旅』チラシビジュアル
『トンコハウス展 「ダム・キーパー」の旅』チラシビジュアル

―世界中から選りすぐりの才能が集まるピクサーで、数百人ものクリエイターと一つの作品を作り上げていくのは、至難の業ではなかったですか?

:世界レベルの才能あるスタッフに「アートディレクターだから言うことを聞いてくれ」なんて言っても、誰も聞かないですからね(笑)。ピクサーで7年間働かせてもらってようやくわかったのは、監督やスーパーバイザーがすべての答えを持っているのではなく、クリエイターそれぞれが考えて、アイデアを出し合いながら、納得してもの作りができる環境を構築すること。それが本当の意味でのリーダーの仕事だったんです。

―「俺についてこい」ではなく、クリエイターそれぞれが工夫を凝らし、実力以上の力を発揮することでピクサーの傑作たちは生まれた。

:もちろん、自分のエゴをぶつけてしまうこともありましたが、それでうまくいった試しなんて一度もないんですよ。こちらのやりたいことも納得してくれたら、彼らは工夫をして想像以上のものを生み出してくれます。やっぱりチームによって生まれたアニメーション映画が、スクリーンに映し出される感動って何物にも代えられないんですよね。そういう意味では、人と一緒に仕事をする力に長けていないとできないし、監督やアートディレクターは「リーダーとはなにか?」を常に問われている立場といえます。

放課後のぶたくん『ダム・キーパー』最終フレーム 2013年
放課後のぶたくん『ダム・キーパー』最終フレーム 2013年

―『ダム・キーパー』は初監督だけでなく、トンコハウスとしてもはじめての作品でしたが、また違ったプレッシャーや苦しみがあったのでないでしょうか。

:アートディレクターの場合、あえて悪い言い方をすれば、作品が失敗しても、脚本や予算のせいにすることもできるんです。けれども、今回は作品がダメだったら、すべて自分たちで責任を取らなければならない。ゼロからストーリーを生み出すことの難しさ、スタッフに指示を出すことの難しさ。監督として自分が未熟だとわかりながら、それがどうしたら改善するかもわからないままでの制作はとても恐ろしいものでしたね。

『トンコハウス展 「ダム・キーパー」の旅』展示風景
『トンコハウス展 「ダム・キーパー」の旅』展示風景

『トンコハウス展 「ダム・キーパー」の旅』展示風景
『トンコハウス展 「ダム・キーパー」の旅』展示風景

―特に最初の作品は、納得のいくものを作りたいという「思い」が強くあって当然ですし、その思いと現実の差というのには、制作中かなり苦しまれたのではないかと想像します。

:ぼくもロバート(・コンドウ)も、こだわりにこだわる完璧主義者なので、いいものを見せなければという気持ちは人一倍強いですからね(苦笑)。

―完璧を目指せば目指すほど、終わりが見えなくなってしまいますね。

:「終わり」がないほうがじつは楽なんです。いつか絶対にベターになるって思い続けられることが「保険」にもなりますからね。でも、作品は99パーセント完成していても、100パーセントの完成品を見てもらえなければゼロでしかありません。だから、『ダム・キーパー』を作るにあたって、ぼくとロバートは「期限内に終わらせる」ということを、なによりも優先させようと決めました。どんなに恥ずかしい部分があっても、期限内に発表することを一番の優先事項に据えたんです。

左から:ロバート・コンドウ、堤大介
左から:ロバート・コンドウ、堤大介

『トンコハウス展 「ダム・キーパー」の旅』展示風景
『トンコハウス展 「ダム・キーパー」の旅』展示風景

―クリエイターとしては、心苦しい選択ではなかったでしょうか?

:ちょうどその頃、読んでいた本から学んだことでもあったのですが、ある陶器制作の授業での実験で、「質」を追究するチームと「量」を追究するチームの2つに分けて制作を行ったところ、トライ&エラーを数多くこなした「量」チームのほうが、結果的に「質」も高かったという話があって。

―なるほど……!

:作品作りはどうしても完璧さを求めてしまいますが、アーティストの人間そのままが出るのがアートだとすれば、人間はパーフェクトじゃない。だから、パーフェクトを求めるのはアートではないんです。『ダム・キーパー』も、もちろん完璧に納得できた作品ではありません。たまたまいろんな賞をいただきましたが、批判もたくさん受けました。でも、それも含めてすごくいい勉強になりました。人に見せるためにぼくらはこの仕事をしています。人に見せて、意見をもらい、悔しい思いをしながら続けていくしかないんです。

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イベント情報

『トンコハウス展 「ダム・キーパー」の旅』

2016年3月25日(金)~4月28日(木)
会場:東京都 銀座 クリエイションギャラリーG8
時間:11:00~19:00
休館日:日曜・祝日休館(3月27日は開館)

プロフィール

堤大介(つつみ だいすけ)

東京都出身。School of Visual Arts卒業。Lucas Learning、Blue Sky Studioなどで『アイスエイジ』や『ロボッツ』などのコンセプトアートを担当。2007年ピクサー入社。アートディレクターとして『トイ・ストーリー3』や『モンスターズ・ユニバーシティ』などを手がけている。2014年7月ピクサーを去り、トンコハウスを設立した。71人のアーティストが1冊のスケッチブックに絵を描いて、世界中に回したプロジェクト「スケッチトラベル」の発案者でもある。

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