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自分の感性を疑うな。未経験で世界とアーティストを繋げた中村茜

自分の感性を疑うな。未経験で世界とアーティストを繋げた中村茜

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インタビュー・テキスト
徳永京子
撮影:橋本倫史 編集:飯嶋藍子

フェスティバルに合わせて、売れることを意識すると、作品が似通ってくる。風穴を開けなきゃいけないと思っています。

―当初、チェルフィッチュにジャンル横断的な魅力を感じていたというお話でしたが、いまや彼らはヨーロッパを含めた世界の演劇シーンの中心と言っても過言ではない位置にいます。中村さんのジャンル横断的なものへの興味は、いまはどこにあるのでしょうか?

中村:横断的なことで言うと、最近の興味は「地域」ですね。昔は「ヨーロッパ=世界」だと思いこんでいたんですけど(笑)、ヨーロッパはヨーロッパ、アジアはアジアで、世界には違うフィールドがいくつもあるんだと実感するようになりました。

チェルフィッチュ『部屋に流れる時間の旅』 Photo:Misako Shimizu
チェルフィッチュ『部屋に流れる時間の旅』 Photo:Misako Shimizu

―それはヨーロッパを知ったことで、良し悪しも見えてきたということでしょうか?

中村:そうですね。これまで舞台芸術シーンに蓄積されてきたノウハウやネットワークは、すべてヨーロッパ主導のものなんですが、もはや完全にできあがって、形骸化してしまっているんです。ツアーにしても、プロデュースにしても、完成したシステムの中だけで動いているから、閉塞感を感じることも多々あります。

―効率的なのかもしれませんが、その弊害もあるんですね。

中村:アーティストもフェスティバルに合わせて、売れる作品を意識しているんです。ツアーで回りやすいように、照明と音響を兼ねたスタッフを入れて、プロダクションをコンパクトにしていくなどの流れがあって、すると作品が似通ってくるんですよね。もうちょっと風穴を開けなきゃいけないんじゃないかなって思います。

制作というのは「第一の観客」なんです。アーティストに対して、厳しい意見も、そうじゃない意見も率直に言う。

―中村さんご自身は、これからどのように活動されていくご予定ですか?

中村:じつは1年ぐらいバンコクに拠点を移そうと思っています。もう今週には出発するんですけど(笑)。舞台芸術および劇場文化のインフラが整備されていない、あるいはインフラの考え方が異なる地域で、どんなパフォーマンス作品が創作できて、受け入れられるのかを試してみたいんです。

岡崎藝術座『イスラ! イスラ! イスラ!』 Photo:Yuta Fukitsuka
岡崎藝術座『イスラ! イスラ! イスラ!』 Photo:Yuta Fukitsuka

―ヨーロッパ型にとらわれないパフォーミングアーツのあり方が見つかるかもしれませんね。

中村:それだけでなく、2050年にはアジアの経済がヨーロッパを抜くと言われています。実際、すでにヨーロッパよりアジアのほうが制作予算も潤沢にあるようなケースもありますし、日本に関してはアジアの中で貧乏だと感じるほどです。そんな中でヨーロッパと日本のシーンしか知らないのはつまらないし、これからはアジアが中心になっていく可能性も高いと感じています。

―ただ、あえて意地悪な見方をすると、アジア各国でパフォーミングアーツに関わっている人の大半は、お金持ちの子女が多く、欧米への留学経験も豊富なので、いまから舞台芸術シーンが盛り上がったとしても、結局はヨーロッパの後追いになるのでは? という懸念も感じます。

中村:難しい問題ですよね。スラムがあるような貧富の差が激しい国で、ハイソな人たちが作る作品だけがリアルなのか? という疑問も当然あって。一方で、多くのアジアの国では、芸能が生活に根づいていて、わざわざお金を払って演劇を観るという文化がないところも多いんです。まだまだ手探りの段階ですね。

岡崎藝術座『イスラ! イスラ! イスラ!』 Photo:Yuta Fukitsuka
岡崎藝術座『イスラ! イスラ! イスラ!』 Photo:Yuta Fukitsuka

―それでも1年滞在するということは、希望は感じているんですね。

中村:もちろん。あとインターナショナルなフェスティバルが果たしていく役割も大きいと感じていて、各国を見ていると検閲が厳しく、自由な表現がままならないという状況があります。今年の『クンステン』で、シリアの劇団による『While I'm waiting』という作品を観たんですが、演劇としてはオーソドックスでも、そこに集まっている俳優たちの人生や作品ができるまでの背景が壮絶で。

―シリアといえば、激しい内戦と難民問題が続いています。

中村:そう、だから劇団員の大半も難民としてヨーロッパに散らばって暮らしていたり、まだシリアに残っているメンバーもいたり、稽古するにもビザを取って、どこかの国に集まらなくちゃいけないんです。アフタートークでも、「演劇をやりたいというより、これを続けること自体が希望なんだ」と話していて。

―壮絶な状況ですが、演劇を続けないと現状に負けてしまう。負けないため演劇をやり続ける、ということですね。

中村:シリア人を取り巻く状況は厳しいし、差別的な目で見られることも多いけど、演劇を続けることでみんなが集まったり、自分たちの存在価値を表現できる。観る側にとっても、わかりやすい形に切り取られたマスメディアの情報ではない、その渦中にいる人の生き方や考え方に直で触れられることが国際的なフェスティバルの醍醐味だとあらためて感じました。ヨーロッパのフェスティバルは、そういうところも意識的にプログラムを組んでいるので見習いたいです。

中村茜

―そういった意味でも、アジアをつなぐフェスティバルやプラットフォームの役割は重要だということですね。最後に中村さんの仕事である「制作」についてお伺いしたいです。

中村:制作というのは「最初の観客」だと私は思っています。アーティストや作品に対して、厳しい意見も、そうじゃない意見も率直に言う。あまり近寄って、理解しすぎてしまうと、観客の視線ではなくなるので、細かいことは意識から外して、ある程度の距離をもって作家と向き合うようにしています。

―「最初の観客」としての視点を、どこに設定するかは決めていらっしゃるんですか?

中村:それは自分の感性だけですね。私が面白いと感じたら、絶対に面白いんだと信じています(笑)。

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イベント情報

『+51 アビアシオン, サンボルハ』三重公演

2016年7月9日(土)、7月10日(日)13:00~
会場:三重県 三重県文化会館 小ホール
作・演出:神里雄大
出演:
小野正彦(岡崎藝術座)
大村わたる(柿喰う客)
児玉磨利(松竹芸能)

『イスラ! イスラ! イスラ!』三重公演

2016年7月9日(土)、7月10日(日)18:00~
会場:三重県 三重県文化会館 小ホール
作・演出:神里雄大
出演:
稲継美保
遠藤麻衣(二十二会)
小野正彦(岡崎藝術座)
武谷公雄(プリッシマ)
和田華子

『瀬戸内国際芸術祭2016』犬島パフォーミングアーツプログラム
Nibroll新作ダンス公演
『世界は縮んでしまってある事実だけが残る』

2016年8月10日(水)~8月13日(土)OPEN18:30 / START19:00
会場:岡山県 犬島 犬島精錬所美術館発電所跡
振付・演出:矢内原美邦
映像・照明:高橋啓祐
音楽:SKANK / スカンク
出演:
小山衣美
石垣文子
ジョアンナ・タン
リュー・チャーレイ(世紀當代舞團)
料金:前売一般4,000円 前売学生3,000円(小学生以上、要学生証提示) 当日一般:4,500円 当日学生:3,500円(小学生以上、要学生証提示)
※当日受付時に『瀬戸内国際芸術祭』作品鑑賞パスポート提示で一般価格より200円割引返金

内橋和久
『犬島サウンドプロジェクト Inuto Imago』

2016年8月22日(月)~9月4日(日)START 17:00
※9月3日、9月4日は16:00開演、8月23日、8月30日は休演
会場:岡山県 犬島港 ライブハウスInuto Imago
出演:
内橋和久
ルリー・シャバラ
ヴキール・スヤディー
イマン・ジンボット
ほか
料金:前売一般2,800円 当日一般3,000円 学生2,000円(高校生以上・身分証明書要提示) 15歳以下1,200円

プロフィール

中村茜(なかむら あかね)

1979年東京生まれ。日本大学芸術学部在籍中より舞台芸術に関わる。2004年~2008年STスポット横浜プログラムディレクター。2006年、株式会社プリコグを立ち上げ、2008年より代表取締役。2004年より『吾妻橋ダンスクロッシング』、チェルフィッチュなどの国内外の活動をプロデュース。2009年、フェスティバル『スペクタクル・イン・ザ・ファーム』を立ち上げる。設立メンバーとしてNPO法人ドリフターズ・インターナショナルに参加。2012年、ブリティッシュ・カウンシルで『Musicity Tokyo』ディレクター、KAAT神奈川芸術劇場の舞台芸術フェスティバル『KAFE9』をプロデュース。また『国東半島アートプロジェクト2012』『国東半島芸術祭2014』パフォーマンスプログラムディレクターを務める。舞台制作者オープンネットワークON-PAM理事。

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