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大貫妙子が語る、何かを成すのではなく未来へ繋げるという人生観

大貫妙子が語る、何かを成すのではなく未来へ繋げるという人生観

大貫妙子『パラレルワールド』
インタビュー・テキスト
金子厚武
編集:山元翔一

私たちのやってきたことを踏み越えて、私たちが聴いてきたルーツに出会ってほしいです。

―ここ何年かは「シティポップ」という言葉が再流行していて、その文脈でシュガー・ベイブや大貫さんの音楽に接している若いリスナーも多いようなのですが、そういう話は耳に入っていますか?

大貫:チラッとは聞いたことがあります。でも、その頃って私には昔過ぎる(笑)。

―(笑)。シュガー・ベイブやはっぴいえんどのメンバーが東京出身だという話がありましたが、当時よく「東京」や「街」が歌詞のモチーフになっていたのは、ごく自然なことだったのでしょうか?

大貫:特に東京を意識していたわけじゃなく、そこで生まれ育ったから、その環境しか知らなかったし。まあ、どこにいても人は孤独を思うものだと思うし。特に東京のように人が多ければ多いほど、孤独感は増すものです。だから歌に助けられたりもするのでは?

―その感覚が今でも変わらないからこそ、若い人にも響いているのかもしれません。

大貫:人は変わらないですよ。『方丈記』(1212年)の時代ですでに「最近の若い者は」って書いてあって、今と全然変わらない。悩みも同じだし、新人類なんてないですよ。

―よく「~世代」とかって名づけられるけど……。

大貫:それは「シティポップ」と同じですよ。

―ただのラベルに過ぎないと。おっしゃるとおりです。

大貫:若いときにみんな孤独だっていうのも普通じゃない? 大人になれば自分の意見が社会に通るようになるけど、若いときは若いっていうことだけで何を言ってもそうまともに向き合ってはもらえませんものね。孤独になりますよ。

私も孤独な思いはしてきたので、そういうときの虚しさはわかります。クリスマスの街はキラキラしていて、ひとりでお店に入ろうとしたけれど、扉を開けるとどこもカップルだらけで、行き場をなくして街をひとりでとぼとぼ歩きながら、気がついたら涙がぽろぽろとまらなかった、っていうこともありました。あのときの気持ちを忘れないっていうことが、きっと素敵な大人になる何かなのかなって思います。

―若いミュージシャンと話すと、“都会”が好きだっていう声をよく聞くんです。あの曲も、都会のなかの「孤独」を歌ったものですよね。

大貫:“都会”はアレンジがいいんですよね、坂本さんですけど。ちょっとスティーヴィー・ワンダーっぽい。歌は最悪なので、演奏だけ聴いてください(笑)。全員20代だったけど上手かった。

矢野顕子さんと今でもよく話すんですけど、楽器の音色にもっとこだわってほしいなあと。当時の私たちのお手本は洋楽でしたが、とにかく聴き込んだ。気づいたら和製ポップスがお手本になっている時代があった。それはコピーのまたコピーみたいなもので。私たちのやってきたことを踏み越えて、私たちが聴いてきたルーツに出会ってほしいです。

2016年4月9日に行われたライブイベント『commmons10 健康音楽』より

―当時は海外の音楽を何とかして自分たちのものにしようとしていたわけですよね。最初に「音楽=生きざま」ではないという話をしましたけど、それは決してゆるく活動していたという話ではなくて、音楽そのものには厳しく向き合っていたはずで。

大貫:プレイヤーの人たちは特にそうだったと思います。この前も今回のボックスのために、林立夫さん(大貫もレコーディング参加していたティン・パン・アレーのドラマー)、小原礼さん(ベーシスト兼音楽プロデューサー)、小倉博和さん(ギタリスト兼音楽プロデューサー)たちとレコーディングをしたんですけど、とにかく音が良い。

細野(晴臣)さんも小原さんも、しっかりベーシストとはなんたるかを知ってます。もちろん、若い世代でも上手いバンドはいると思いますよ。でも、とにかく自分の楽器の音を磨くべし(笑)。出音がよければ、ミックスも楽ですよ、バランスとればいいだけですから。

―若いミュージシャンに何かアドバイスをするなら、そこの部分でしょうか?

大貫:全体を聴いていて、なんか濁った音色に思えるものは、やはり一つひとつの音への配慮のなさなのかな、と思いますね。もちろん、最初はみんな思いどおりにはならないでしょうけれど、ギタリストの人は特にすごい。ギターと一緒に寝てるぐらいですから(笑)。小倉さんも(鈴木)茂さんも、亡くなった大村憲司さん(Yellow Magic Orchestraのライブサポートを務めたことでも知られるギタリスト)も、みんな。「ギターが恋人以上」ですね(笑)。

―当然のことかもしれませんが、やはり努力があってこそだと。

大貫:好きとこだわりですね。もちろん、努力したものが報われないことはないと信じていますし。

大貫妙子

自分の一生で何かを成し遂げなくたっていいんです。つなげばいいんだから。

―キャリアの初期は「東京」がテーマになっていましたが、その後は世界のいろんな場所に行かれたり、自然を大切にされていて、ライフスタイルの変化とともに、大切にするものも変わっていったのではないかと思います。

大貫:中学生のときに、「この世の中の真理って何だろう?」って思ったことがあって、今でもそれを探す旅をしているような感覚なんです。真理っていうのは、遠くにある光のようなもので……宗教じゃないですよ(笑)。私はただそれを「こういうことだったんだ」って確認したいだけで、それが自分にとっての道しるべみたいなものなんです。よく言われる「自分探しの旅」って言葉はかなり苦手です。

―なぜですか?

大貫:旅に出なくても、自分を探す方法はいくらでもあると思うので。自分から目をそらさないで、自分のダメなところをちゃんと見つめれば、それが旅なんですよ。どんな遠くに出かけても、自分から目をそらしていたら、自分なんて一生見つけられない。大事なのは自分と向き合うことでしょう。

―最初におっしゃっていた「目には見えない扉」っていうのも、つまりは自分を見つめることで見えてくるものなのでしょうか?

大貫:ここで話を結び付けようとしてるのね(笑)。パラレルワールドの話と、自分探しの話は違うんですけど(笑)。この世の中には見えてないものがいっぱいあるの。見えてないだけで、誰かが隣に立っているかもしれない。犬とか猫とかを見ていると、そう思いません? 人は自分の目で見たものとか、科学が証明したことじゃないと認めないっていう悲しいところがあるけれど、私は人が見ているものはこの世の5%くらいで、常に目には見えないものが渾然と存在しているんだってことを感じようとしています。もうひとつ大切なのが、俯瞰力ですね。鳥くらいの目線になって、自分を見下ろしたときの自分が愛おしいか可哀想か。

―大局的な視点、長期的な視野の重要性ということでしょうか?

大貫:俯瞰して見れば、川がどこに向かって流れているのかも見えるでしょ? 木くらいに登っている人はいますけど、もっと高いところから見ることもヒントになります。

この前、「昔の人は300年先のことを考えて生きていたのに、今300年先のことを考えて生きている人は本当に少なくなりましたよね」って話をしている人がいて、そのとおりだなと思ったんです。今の政治家は目先の選挙くらいしか見てないでしょ? 明治神宮の森も、昔の人が100年先を想像して作ったわけで、それぐらいはきっと当たり前だったんですよ。私たちは300年先のことを考えて生きないといけないんです。

―今って何事に対しても「サイクルが速い」ということが言われていて、目先の利益を求めた結果、いろんなことが崩れてきている気がします。そういうなかにあって、今おっしゃったような長期的な視点を持つことが、世の中を豊かにしていくのかなって。

大貫:結局、自分の世代とか、自分だけで何かを成し遂げようという思いに固執しない。もちろん成し遂げるのは素晴らしいことですが、一生で何かを成し遂げなくたっていいんです。つないでいくことも「そのための道を切り拓ければいい」っていう、そのくらいの気持ちでいないと、この世は収縮していきますよね。私はヒット曲のひとつもないですけど、1970年代に女性のシンガーソングライターなんて本当にいなかったんです。でも、ずっとやり続けたことで、細い道くらいはできたと思うから、それでいいと思っているんですよ。

―次の世代がその道を通って、さらに広げてくれれば。

大貫:そうです。もちろん、みなさまのおかげで、私は幸せに音楽をやらせていただいていますしね。

大貫妙子

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リリース情報

大貫妙子『パラレルワールド』
大貫妙子
『パラレルワールド』(LP+2CD+DVD+絵本)

2016年7月6日(水)発売
価格:12,960円(税込)
PCBP-62212

[LP]
『PURE ACOUSTIC」
1. 雨の夜明け
2. 黒のクレール
3. 横顔
4. 新しいシャツ
5. Siena
6. Rain Dance
7. 突然の贈りもの
※1987年に通販商品として発売のセルフカヴァーアルバム。アナログテープよりロンドン・アビーロードスタジオにてハーフスピードカッティングによる初LP化
[CD DISC1]
『Best of my songs』
1.船出(One Fine Day'05)
2.LULU(LUCY'97)
3.Happy-go-Lucky(LUCY'97)
4.snow(note'02)
5.Volcano(LUCY'97)
6.空へ(LUCY'97)
7.東京日和(ピアノヴァージョン)(ひまわり 97)
8.虹(note'02)
9.Jacques-Henri Lartigue(コパン'85)
10.色彩都市(Cliche'82)
11.宇宙みつけた(カイエ 84)
12.ぼくの叔父さん(A Slice o f Life 87)
13.カイエⅠ(カイエ 84)
14.L'ecume des jours~うたかたの日々(ensemble'00)
15.RENDEZ-VOUS(ensemble'00)
16.Time To Go(One Fine Day'05)
17.Kiss The Dream(ATTRACTION'99)
18.3びきのくま(UTAU'10)
※40年間の楽曲の中から大貫妙子自身が選曲したオールタイムベスト(初市販)
[CD DISC2]
『大貫妙子 with 山弦& Re-recording Songs』
1. あなたを思うと
2. Hello, Goodbye
3. シアワセを探し
4. Forever Friends
5. 東京オアシス
6. 自由時間
※山弦とのコラボレーションに新録を加えたアコースティックアルバム新録曲3曲収録
[DVD]
NHKみんなのうたより
・「みずうみ」('83)
・「メトロポリタン美術館」('84)
・「コロは屋根のうえ」('86)
・「金のまきば」('03)
1988年8月26日放送 『サマーナイトミュージック』
1. テーマ・プリッシマ Tema Purissima
2. 雨の夜明
3. レインダンス Rain Dance
4. 朝の夏に開くパレット(バイオリンソロ)
5. 横顔
6. ヴォセ・エ・ボサノバ Voce é Bossanova
7. カヴァリエ・Cavaliere Servénte
8. 恋人とは…(ピアノソロ)
9. 黒のクレール
10. 突然の贈りもの
※1988年NHK総合テレビ放送 未発売スタジオライブ
映像提供:NHK/NHKエンタープライズ

イベント情報

大貫妙子 シンフォニックコンサート

2016年12月22日(木)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場 コンサートホール
出演:大貫妙子
指揮:千住明
演奏:東京ニューシティ管弦楽団

プロフィール

大貫妙子
大貫妙子(おおぬき たえこ)

1973年、山下達郎らとシュガー・ベイブを結成。75年に日本初の都会的ポップスの名盤『ソングス』 をリリースするも76年に解散。同年『グレイスカイズ』でソロデビュー。以来、現在までに27枚のオリジナル・アルバムをリリース。日本のポップミュージックにおける女性シンガー&ソングライターの草分けのひとり。その独自の美意識に基づく繊細な音楽世界、飾らない透明な歌声で、多くの人を魅了している。

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