
マガジンハウスが雑誌に込める想い。『Hanako』新編集長に聞く
マガジンハウス『Hanako』- インタビュー・テキスト
- 島貫泰介
- 撮影:鈴木渉 編集:野村由芽
食と東京をテーマにした雑誌『Hanako』は今年創刊28年目を迎えた。それにともない、毎年恒例の「自由が丘・二子玉川」特集から大幅なリニューアルに取り組んでいる。その陣頭指揮をとる田島朗は、長年『BRUTUS』の副編集長として数々のヒット特集を手がけてきた人物である。
『BRUTUS』と『Hanako』。どちらもマガジンハウスを代表する雑誌であり、大別すれば男性誌と女性誌である。そんなまったく異なるフィールドにある二誌が、田島という編集者を介して交差しようとしている。彼が考える雑誌のあり方、そして雑誌作りの楽しさを聞いた。
全力で仕事して、楽しいことすべてを体験したいと思う女性たちは、東京で「暮らす」というより「生きる」という言葉が合う。
―この10月に発売された「自由が丘・二子玉川」特集で、『Hanako』はリニューアルしました。それに合わせて、田島さんも同誌の新編集長になったわけですが、リニューアルのコンセプトからお聞きしたいです。
田島:28年前の創刊以来、『Hanako』は東京のリージョナル(地域的)な情報を中心に作ってきました。その路線は継承しつつ、そこにより「今」のマガジンハウスの雑誌たちが持つパワーを『Hanako』にも込めたいというのが出発点になっています。そこで立ち上げたキーワードが「東京を、おいしく生きる」でした。
『Hanako』リニューアルを告げる、マガジンハウス社内のポスター
田島:このキーワードには2つの意味があって、1つはシンプルに「東京で美味しいものを食べたい」ってこと。これは僕自身の人生のテーマでもありますね(笑)。そしてもう1つが、「東京生活を『おいしく』楽しみ尽くしたい!」っていうこと。いわゆる「おいしい思いをする」の「おいしい」ですね。
―そのテーマに行き着いたのには、どのような理由があったのですか?
田島:「丁寧な暮らし」や「憧れの生活」を謳うようなライフスタイル誌は世の中にもう十分あると思っていて。僕はずっと男性誌の現場にいたので女性の気持ちが本当にはわかっていないのかもしれませんが(笑)、少なくとも僕の周りにいる女性、そして今後『Hanako』の読者になってほしい20代後半から30代くらいの人たちって、毎日を等身大にめいっぱい楽しもうとしているし、貪欲に生きているぞ、って思うんです。つまり仕事も全力で、同時に東京の楽しいことすべてを体験し、味わいたいと思っている女性たちは、東京で「暮らす」じゃなくて「生きる」という言葉の印象のほうが近い。そんなアクティブさをこれからの『Hanako』も持っていきたいんです。欲望をまだまだ内に秘めた東京の女性たちの背中をそっと押せるような。
「女性誌じゃ物足りないから『BRUTUS』を読んでいるんだ」という声がかなりあった。
―最新号を拝見して、これまでの『Hanako』の感じを継承しつつ、テキストをどしっと読ませる方向に転身したのかな? と感じました。
田島:女性誌の見せ方ってただかわいくて、ほわっとしていればOKだなんていまだに言われたりしますよね。でも絶対そんなことないんですよ。僕が18年間在籍した『BRUTUS』では食とか旅の特集を多く担当していたんですが、けっこうハードな旅の提案をする特集でも、女性読者が多かったりしたんですね。で、読んでくださった人の意見を聞くと、「女性誌じゃ物足りないから『BRUTUS』を読んでいるんだ」って声があって。
―深掘りしたい人たち?
田島:というか、学術誌や専門誌のディープさまではいかなくても、取り上げているものの背後にある物語まで知りたい、自分で掘っていきたい、という人たちですね。そういう読者の需要があり、判型の大きな『Hanako』は、写真とテキストをきちんと見せたり、読ませたりすることのできる媒体でもある。ですからこれまで長年『BRUTUS』でやってきた考え方や方法論も取り込みつつ、新しい女性誌としてのかたちを提案できれば、というのが今回のリニューアルの骨子なんです。
―とはいえ、これまで18年間『BRUTUS』一筋だった田島さんが女性誌にフィールドを移すというのは、相当エネルギーが必要だったのではないでしょうか?
田島:最初は環境の違いに驚くこともありましたけど、『Hanako』の歴代編集長も半分近くが男性でしたからね。まあ、それよりも驚いたのは、『Hanako』は10月前半発売号で必ず自由が丘の特集をする、という流れがこの10数年あって、つまり異動したらリニューアル号のテーマがあらかじめ決められていた(笑)。でも、自分で決めたのではないテーマから始められるのって、けっこういいぞ、と思い直したんです。これまでの自由が丘特集と対比させながら特集作りができるから、自分のやりたい方向性が『Hanako』という雑誌の枠でどう見えてくるのかを確認できるし、それを読者に明快に示すことができる。
リニューアル号は、見開きいっぱいに広がる町の写真が気持ちいい
田島:リニューアル1号目のタイトルには、「自由が丘・二子玉川」の都市名の他に、「遊びたい町は、住みたくなる町」って言葉を入れているんですけど、こうやって町にキャラクター性を持たせるのは、僕の得意とするところなのかも(笑)。というか、そうしないと、読者は自分にとって具体的なイメージの湧かない町の特集を手に取ることはないと思うんです。つまり自由が丘や二子玉川が生活圏ではない人とは、はじめから接点のない特集になってしまう。最初から関係が切り離されているのって、ちょっとさみしいじゃないですか。だからこそ、新宿や渋谷などの大都市では体験できない、感度の高い住民たちが作りあげた「遊びたいし、住んでみたい町」の代表として自由が丘と二子玉川特集を取り上げよう、とこの言葉を入れたんです。
書籍情報
- 『Hanako』
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「東京で、おいしいモノを食べたい」「東京生活を“おいしく”楽しみつくしたい」。あたらしいHanakoは、東京を貪欲に楽しむ女子のための雑誌です。「食」と「東京」のテーマに強い誌面づくりで信頼を集め創刊から28周年を迎えたHanako。コンセプトはそのままに、より多くの「食好き」「東京好き」な人々をも巻き込んだユニークな視点から選び抜かれた“リコメンド”で、東京のライフスタイルを彩ります。「量」より「質」、そして一番大事なのは「熱」。ていねいに、リアルに、そして軽やかさとケレンミを加えた誌面作りでまだまだ欲望を内に秘めた、女性たちのココロを解放します。
- 『Hanako 2016年 11月10日号 No.1121』
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2016年10月20日(木)発売
価格:600円(税込)
発行:マガジンハウス


- 『Hanako 2016年10月27日号 No.1120』
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2016年10月6日(木)発売
価格:600円(税込)
発行:マガジンハウス
プロフィール
- 田島朗(たじま ろう)
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1974年生まれ。1997年株式会社マガジンハウス入社。宣伝部を経て1998年『BRUTUS』配属。2010年『BRUTUS』副編集長、2016年『Hanako』編集長。BRUTUSでの主な担当編集は、「おいしい酒場」「お取り寄せ&手みやげ(2011~)」「うまい肉」「あんこ好き」「キャンプしようよ」「一世一代の旅、その先の絶景へ」「わざわざいきたくなるホテル」「男だってディズニー」「犬だって」「この本があれば、人生だいたい大丈夫」など。