特集 PR

ろう者の世界からどう音楽を表現する? 南村千里×ライゾマの挑戦

ろう者の世界からどう音楽を表現する? 南村千里×ライゾマの挑戦

『ノイズの海』
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:岩本良介 編集:飯嶋藍子

「これ、理解してるよね?」って思うのも錯覚というか、幻想なんですよね。(石橋)

―『ノイズの海』のために、ライゾマティクスリサーチでは新しいデバイスを開発しているそうですね。

原田:ええ。音を可視化する一つの要素として、ダンスに組み込めるものを使いたいということだったので、現段階では音に合わせて光るLEDの棒を作っています。

原田克彦

石橋:音って空間の中で広がっていくので、音自体を可視化するというよりは、音の発生源がどこなのかが分かるようになるといいと思っています。南村さんのダンスには、地面や手を叩く振付があるんですけど、空間上に棒を置いて、その近くで音が鳴ったことを光で指し示すものにしたいと思っています。

―なるほど。音自体ではなく、その発生源を分かるようにするというのはなぜなのでしょう?

石橋:聞こえている人は、その音がどこで鳴っているかを無意識にマッピングしているじゃないですか。「どこで鳴っているのか分からない音」というのは意外とない。「あのスピーカーから音がしている」「あのケータイから着信音が流れている」「何かの機械からノイズが出ている」とか。僕らは音が聞こえるから音の出所を瞬時に探すことができますけど、聞こえない人は、振動が伝わってもそれがどこから出たものなのかって分かりづらいと思うんです。

石橋素

―先ほどのカーラジオの話とも繋がりますね。ムーブメントと語りとデジタルアートと演奏、キャプションというマテリアルをフルに使った『ノイズの海』は、五感を刺激され、意識させられるパフォーマンスになりそうですが、こうやってお話を伺っていると、「音楽って何なんだろう?」という本質を問われているような気がします。

南村:あなたにとって「音楽の本質」って何ですか?

―僕なりに考えて、まだそれが本当の答えなのかどうかは分からないのですが、音楽の本質とは「人間」そのものなのかなと思います。リズムやビートというのは心臓の鼓動であり、すべての楽器は声を模したものだとすれば、音楽というのは人間の体を拡張したコミュニケーションツールであり、その本質は「人間」なのではないかと。そして南村さんは、ご自身の体を使って「音楽の本質」に迫ろうとしているんじゃないでしょうか。

南村:なるほど。音楽の本質を理解できたらいいなと思っています。ただ、私の場合は「迫る」というよりも、音楽って不思議なものだなという気持ちが大きいです。私が今まで学んできたことを表現したら、聞こえる人にはどういうふうに見えるのかな、他の聞こえない人は私と同じように見えるのかなとか、楽しみながらやっています。

南村千里

石橋:今、聞いていて思ったのは、南村さんとは「聞こえる / 聞こえない」の違いが歴然としてあるので、「ちゃんとコミュニケーションを取らないと」と意識しながら対峙する。でも、例えば僕と原田くんで、「これ、理解してるよね?」って思うのも錯覚というか、幻想なんですよね。それこそ「阿吽」で分かったつもりになっているけど、実際は僕と原田くんだって、ちゃんとコミュニケーションを取らないといけない。南村さんと一緒にいると、そういうことに気づかされます。

南村:そうですね。『ノイズの海』では、そういう気づきや、ダンス、ライゾマティクスリサーチさんの作られるデバイスなど、いろいろなマテリアルを使って、「感覚の割合」を変えるようなパフォーマンスをできたらいいなと思います。そして、音や音楽についてだけでなく、「聞こえない世界」とは何か、みなさんにとっての「聞こえる世界」とは何か、そういったことを考えるきっかけになったら嬉しいです。

Page 3
前へ

イベント情報

あうるすぽっとプロデュース
『ノイズの海』

2016年12月15日(木)~12月18日(日)
会場:東京都 あうるすぽっと
アーティスティックディレクター:南村千里
テクニカルディレクション・エンジニアリング:Rhizomatiks Research
出演:
紅日毬子
菊沢将憲
酒井郁
田上和佳奈
南雲麻衣
望月崇博

プロフィール

南村千里(みなみむら ちさと)

コンセプチュアル・ダンス振付家、ダンスアーティスト、芸術解説者。生後7か月目に聴力を失う。女子美術大学日本画学士号習得。ロンドンのラバン校卒業後、横浜国立大学大学院修士課程修了。2003年より2006年末まで、英国のCandoCo Dance Companyのダンスアーティストとして活動。現在、フリーランスアーティストとして、ロンドンを拠点に20か国40都市以上で公演、ワークショップを実施。きこえない視点からの視覚的音 / 音楽という、他にはない独創的なものに取り組んでいる。

石橋素(いしばし もとい)

Rhizomatiks Researchディレクター。エンジニア、アーティスト。1975年生まれ。東京工業大学制御システム工学科、国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)卒業。フリーランスとして活動したのち、2008年に眞鍋大度と4nchor5 la6を設立。デバイス制作を主軸に、数多くの広告プロジェクトやアート作品、ワークショップ、ミュージックビデオ制作など行なう。やくしまるえつこmのPVや、『perfume 3rd tour -JPN-』武道館追加公演でのLED衣装などを制作。2011年『第15回文化庁メディア芸術祭』アート部門優秀賞受賞、同年『Prix Ars Electronica』インタラクティブ部門準グランプリ受賞。

原田克彦(はらだ かつひこ)

Rhizomatiks Research所属。ハードウェアデザイナー、エンジニア。1981年生まれ。情報科学芸術大学院大学(IAMAS)メディア表現研究科修了。メディアアート / インタラクティブメディア分野の大学教員を経て、2014年よりRhizomatiksに所属。表現に関わるハードウェア開発 / エンジニアリングを手掛ける。主な参加プロジェクトはダンスインスタレーション『border』、YASKAWA×Rhizomatiks×ELEVENPLAY『motion』など。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

BIM“Wink”

BIMの新作『NOT BUSY』より“Wink”の映像が公開。ゆるめに結んだネクタイは軽妙洒脱でも、背伸びはしない。どこか冴えない繰り返しのなかで<だって俺らの本番はきっとこれから>と、吹っ切れなさもそのままラップして次へ。BIMの現在進行形のかっこよさと人懐っこさがトレースされたようなGIFアニメが最高にチャーミング。(山元)

  1. ルパン三世・大野雄二が語る物作りの流儀「マンネリを恐れるな」 1

    ルパン三世・大野雄二が語る物作りの流儀「マンネリを恐れるな」

  2. 実写『浦安鉄筋家族』に水野美紀、岸井ゆきの、本多力、斎藤汰鷹、坂田利夫 2

    実写『浦安鉄筋家族』に水野美紀、岸井ゆきの、本多力、斎藤汰鷹、坂田利夫

  3. 賀来賢人が新川優愛に「バスドン」&岡田准一も修学旅行満喫 SoftBank新CM 3

    賀来賢人が新川優愛に「バスドン」&岡田准一も修学旅行満喫 SoftBank新CM

  4. Eveが『Smile』で果たした変化と独白。クロスレビューで探る 4

    Eveが『Smile』で果たした変化と独白。クロスレビューで探る

  5. 『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』が問いただす我々の歪んだ自意識 5

    『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』が問いただす我々の歪んだ自意識

  6. 妻夫木聡が「クルマ目線」で新型FITの気持ちを語る新CM 曲は奥田民生 6

    妻夫木聡が「クルマ目線」で新型FITの気持ちを語る新CM 曲は奥田民生

  7. モネら印象派の作品世界に「没入」 体験型展『Immersive Museum』4月開催 7

    モネら印象派の作品世界に「没入」 体験型展『Immersive Museum』4月開催

  8. 映画『Red』に岩井俊二、山下敦弘、あがた森魚、宇垣美里らがコメント 8

    映画『Red』に岩井俊二、山下敦弘、あがた森魚、宇垣美里らがコメント

  9. ビリー・アイリッシュ『007』主題歌“No Time To Die”音源公開&新予告編 9

    ビリー・アイリッシュ『007』主題歌“No Time To Die”音源公開&新予告編

  10. 椿昇×松倉早星 反逆のアートフェアが描こうとする京都の未来図 10

    椿昇×松倉早星 反逆のアートフェアが描こうとする京都の未来図