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沖縄から世界を驚嘆させた高嶺剛×石川竜一が語り合う、生ぬるくない表現

沖縄から世界を驚嘆させた高嶺剛×石川竜一が語り合う、生ぬるくない表現

『変魚路』
インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:高見知香 編集:野村由芽、飯嶋藍子

決定的な瞬間や象徴的なものを切り取るのは、報道的な価値はあるのかもしれないけど、その一点で止まってしまう。(高嶺)

―高嶺監督は石川さんの写真をどんなふうに見ているのですか?

高嶺:石川は普通の写真家が決めて撮るところを、あえて外しているような感じがあるよね。そこが面白いです。あと、写真に撮影以前の行為やその場の空気がちゃんと感じられる。そこがすごくいいと思いました。

石川:ありがとうございます。

八重瀬 YAESE, 2014 / 石川竜一『絶景のポリフォニー』より
八重瀬 YAESE, 2014 / 石川竜一『絶景のポリフォニー』より

那覇 NAHA, 2013 / 石川竜一『絶景のポリフォニー』より
那覇 NAHA, 2013 / 石川竜一『絶景のポリフォニー』より

高嶺:で、そういう「外し」が何で面白いのかっていったら、一点集中の決め打ちの写真というよりも、前後上下左右が感じられるからなんだよね。写っているものだけじゃなくて、それが浸っている空気が感じられる。そのへんが「外し」の効果かなって思ったけど。

石川:僕は、一番面白いのって頂点じゃなくて、その周辺だと思うんです。そこに行くまでの流れと、そこを過ぎたあとのこととか。だから、頂点という一点を、できるだけ避けているところはあるかもしれないです。

高嶺:それはつまり、「ええとこ取り」をしないってことだよね。決定的な瞬間や象徴的なものを切り取るのは、報道的な情報価値はあるのかもしれないけど、その一点で止まってしまうからね。だから、君が言う「頂点を持たない」というのは、自分の答えを押し付けないというか、人や物事を決めつけないっていうことなのかな。

石川:そうですね。そうであればいいなと思っています。

高嶺:なるほど。まあ、『変魚路』を撮影をしているときは、君がたまたまいたからやってもらっただけなんだけど、後から君の写真を見たりすると、ちょっと現場で注文が足りなかったと思いました。

映画『変魚路』より。中央が女装した石川
映画『変魚路』より。中央が女装した石川

映画『変魚路』より。石川は全裸で女性に石膏を塗りたくる青年も演じる
映画『変魚路』より。石川は全裸で女性に石膏を塗りたくる青年も演じる

―ヌードになったり女装したり、いろいろやっていましたが。

高嶺:彼の写真を見たら、あんなもんじゃないでしょう(笑)。まあ、あんまり映画を崩さないようにと、遠慮したのかもしれないけど。どうだったんだろう、実際のところは。

石川:映画に出ること自体、初めての体験だったので、自分がどういう状況で何をやっているのかも、よくわからなかったです(笑)。でも、できあがった映画を見たときは「おおっ」って思いました。普段自分が撮っている写真は、自分がコントロールしてできあがるので、映画だとこういうできあがりになるんだっていうのを初めて感じました。

高嶺:写真を撮ったあとって、被写体のことを、自分のものだと思ってしまうことってあるの?

石川:そのあたりはちょっと言葉にしづらい部分があるんですけど……。写真は一応僕が撮って、僕が並べていくものじゃないですか。

石川竜一

高嶺:僕が僕がってなるのか。

石川:いやいや、最終的には僕が並べるものだからこそ、撮影のときは、できるだけ自分を消したいと思っていて。

高嶺:以前、8ミリを撮っているときに、それをものすごく感じました。撮っている風景や人が自分のものになったような気になるわけ。で、そこにいるおばあさんとかを撮ると、そのおばあさんのことも、ものすごく愛おしくなってね。

ましてや、それを繰り返し見ているうちに、まるで自分の身内みたいな感じがしてきて、自分のものだと錯覚してしまう。だけどそれは、相手からすれば関係ないことで、勝手に自分のものになったような気にならないでくれっていう話ですよね。

石川:まあ、そうですよね。

高嶺:ただやっぱり、撮る側と撮られる側っていうのは、五分五分にはならないんだよね。撮っている本人にその気がなくても、何かの比喩になっていたりする場合がある。それに、すっかり打ち解けて、説得性を持っているはずの撮影でも、いつの間にか盗み撮りになっていることがある。

高嶺剛

―盗み撮りですか。

高嶺:僕がやっているような映画は「フィクションだから」って開き直って成立させているんだけど、写真家はどう成立させているのかな。要するに、相手からその写真撮影がOKかどうか承認を得たとしても、それを持って帰って、後処理や編集をするわけじゃない。そのへんの気持ちの納め具合はどうなっているの?

石川:そこは映画と写真の違うところですよね。僕は撮影のときに、できるだけその場で感じた「あっ」っていう気持ちのまんまで写したいんです。そうすることで、目の前にあるものを引き受けられるんじゃないかと思っていて。そのあと写真を選ぶ段階で、これが何なのかということを、自分で考えていくというか。だから僕は何かを探しに行かないです。撮ろうと思って、撮りにいかない。

高嶺:なるべく先入観を持たない、生の目で見ていくってことか。あらかじめ自分で答えを持っていかないんだね。

基本的にフィクションとはいえ、その土地の持っている「湯気」みたいなものをすくいたい。(高嶺)

―映画『変魚路』のことも聞かせてください。劇映画としては、実に18年ぶりの作品になりますが、本作を撮るに至った経緯というのは?

高嶺:別に頼まれたわけでもないし、多分、金が儲かるわけでもないし、世の中のためにもなっていないような気がする。撮りたいっていう気持ちなんですよね。せめて一太刀みたいな。単純な動機です。

あと、沖縄でそれをやりたいということからは、もう逃れられないと思っていて。僕は沖縄に限定したほうがのびのびできるというか、理屈ではなくそれが自分だと思うし、その中で自分を泳がせるようにやっていきたいと思っています。

高嶺剛

―文字通り、ホームグラウンドというか。

高嶺:そう。でも、だからといって、沖縄に縛られることもない。多分沖縄の人も、僕の映画を沖縄の映画だとは思わないだろうし。映画は沖縄のために、沖縄は映画のためにあるわけでもない。僕が沖縄で右往左往しながら、勝手に撮っているだけだから。

―先ほど言っていた、あくまでも個人を立脚点とするということですね。

高嶺:ただ、僕の作品は基本的にフィクションとはいえ、その土地の持っている「湯気」みたいなものをすくいたいなって。映画が土地から離れて独立した物語性を持つんじゃなくて、どんな映画の目的があっても土地と同調させることを心掛けています。

だから僕は役者さんにも、言いづらいが、その土地の「湯気」と同調してくれということを言っている。別の場所で撮れば、それはまた別のものになってしまうしね。ひたすら沖縄で撮りたいと思っているよ。

映画『変魚路』より。横たわるのが主演の平良進と北村三郎
映画『変魚路』より。横たわるのが主演の平良進と北村三郎

―高嶺監督が生まれ育った沖縄だからこそ感じることのできる「湯気」というか。

高嶺:沖縄芸能が面白いんですよね。僕が思っている「湯気」や土地性みたいなものを感じさせてくれるし、今回主演してくれた平良進さん(俳優、演出家。沖縄芝居を中心とした劇団「綾船」主宰)と北村三郎さん(沖縄出身の俳優、演出家)みたいな沖縄芸能のほとんどの方は、存在そのものが沖縄ですからね。それが最大の魅力です。そのような人たちが、沖縄の実際の空気の中で、芝居をするのですから、それはもう大変なことになるわけよ。

―そういう人たちを、高嶺監督は撮りたいと。

高嶺:ひそかにですけどね。フィクションの中に僕の毒を混ぜますが、沖縄芸能の人たちは、全然動じない。知らんふりしているのは、あちらなのか、こちらなのか、分かりませんがね。

石川:あの方たちの存在感は、ホントすごいですよね。何が作りもので何が自然なのかわからないというか、その境目がどんどんなくなっていくような感じがします。

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作品情報

『変魚路』

2017年1月14日(土)からシアター・イメージフォーラムで公開
監督・脚本:高嶺剛
音楽:
ARASHI(坂田明、ヨハン・バットリング、ポール・ニルセン・ラヴ)
ほか
出演:
平良進
北村三郎
大城美佐子
川満勝弘
糸数育美
河野知美
山城芽
西村綾乃
親泊仲眞
内田周作
花井玲子
石川竜一
配給:シネマトリックス

プロフィール

高嶺剛(たかみね ごう)

映画監督。1948年、沖縄県出身。高校卒業まで那覇で過ごしたあと、国費留学生として京都教育大学特修美術科に入学。日本復帰前後の沖縄を映した8ミリフィルム作品『オキナワン ドリーム ショー』でデビュー。1989年に発表した『ウンタマギルー』で『ベルリン国際映画祭』カリガリ賞など、国内外で多数の賞を受賞。『山形国際ドキュメンタリー映画祭』や、ニューヨークの『アンソロジー・フィルム・アーカイブ』で特集が組まれるなど世界で注目される。デビューより沖縄を舞台にした劇映画など、映像作品を制作し続けている。

石川竜一(いしかわ りゅういち)

写真家。1984年、沖縄県出身。2010年より写真家の勇崎哲史に師事。翌年、東松照明デジタル写真ワークショップに参加。2012年『okinawan portraits』で第35回写真新世紀佳作受賞。2014年、写真集『絶景のポリフォニー』『okinawan portraits 2010-2012』を刊行し、第40回木村伊兵衛写真賞受賞。2015年、日本写真協会賞新人賞受賞。主な個展に、2015年『zkop+』、2016年『考えたときには、もう目の前にはない』。主なグループ展に2014年『森山大道ポートフォリオレビュー展』、2016年『六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声』『野生派、夜明けの不協和音』など。2016年9月には写真集『okinawan portraits 2012-2016』(赤々舎)を刊行。

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