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現代写真を代表するトーマス・ルフを知ってる? 来日インタビュー

現代写真を代表するトーマス・ルフを知ってる? 来日インタビュー

金沢21世紀美術館『トーマス・ルフ展』
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影・編集:宮原朋之
2017/01/13

著名な写真家の中には「自分のこの特別なライカでなければダメ」などと言う人もいますが、自分の持つ手段に執拗にこだわる人は、虚栄心の満足を求めているだけだと思います。

―その恩師ベッヒャーから与えられた試練を、どのように乗り越えたのでしょうか?

ルフ:当時、写真の世界ではとにかく大きな写真が良いという流れがあったので、まずは大型のカメラを買って、身の回りの椅子を撮り続けました。それが、最初の『Interieurs(室内)』シリーズにつながります。

当時はまだカラー写真は亜流と思われていて、私もいろいろ批判を受けました。でも人間は色がある世界を見ているという素朴な思いから、カラー写真を選択したんです。そして写真を撮り続ける中で「ベッヒャーの作品はたしかに素晴らしいが、それはひとつの視点に過ぎず、他の視点も存在する」ということに、あるとき気がついたんです。

トーマス・ルフ

―さきほど言われていた写真というメディアに向き合う態度も、彼らから学んだものですか?

ルフ:そうです。たしかにすぐに「この作家の作品だ」とわかるような、一貫したブランディングをする作家もいますが、それに対してベッヒャーの教えは、「でも、撮っているのは機械であるカメラでしょう」ということだった。彼らはよく、写真など特定のメディアと関わるなら、その特徴を反映したものを作ろう、メディアの特性に誠意を持とうと言っていました。作家性というものには、最初からこだわりがなかったんです。

金沢21世紀美術館『トーマス・ルフ展』展示風景
金沢21世紀美術館『トーマス・ルフ展』展示風景

―その意味で、ルフさんを有名にした『Porträts(ポートレート)』のサイズの話は象徴的ですね。

ルフ:そもそも『Porträts(ポートレート)』は、コンセプチュアルアートなどが流行する時代に、現代アートから肖像写真が失われたのではないか、との思いから始めたシリーズでした。自分の友人を撮った作品で、最初は小さいサイズで展示したんです。そしたら会場に来た被写体でもあった友人たちが、その小さい写真を見ながら「これはヨハンだね」などと話していた。その光景を見て、私は「いや、本物のヨハンはそこにいるじゃないか」と思ったんです。

―写真と現実を混同していたと。

ルフ:そうです。そこで私は、彼らの写真をできるだけ引き伸ばして、再度展示した。すると「これはヨハンのずいぶん大きな『写真だ』」と反応が変わりました。つまり現実と写真の混乱がなくなって、写真を見ていることに自覚的になったんですね。写真の巨大化は、当時は二次的な芸術と思われていた写真が、第一級の芸術に仲間入りすることにもつながりました。人は写真の前を素通りできず、立ち止まって考えざるを得なくなったんです。

『Porträts(ポートレート)』作品が並ぶ展示室
『Porträts(ポートレート)』作品が並ぶ展示室

トーマス・ルフ

―その後、『Sterne(星)』や『Zeitungsfotos(ニュース・ペーパー・フォト)』のシリーズでは、「撮影」というプロセス自体が手放されることになります。前者は、ヨーロッパ南天天文台が撮影した天体写真のネガを元にした作品で、後者は、新聞から切り取られた報道写真を自分の作品としたものです。カメラを手放すことについて、躊躇はなかったんでしょうか?

ルフ:もちろん、最初は大変でした。自分で構図を決めることができないのは、やはり辛いことです。でも、私がこだわるのは、最終的にどのようなイメージを作り出すかという、結果なんです。

著名な写真家の中には「自分のこの特別なライカでなければダメ」などと言う人もいますが、私にとっては、そんなことはどうでもいい。自分の手持ちの技術で求める結果が達成できないなら、ほかの手段を探るだけです。自分の持つ手段に執拗にこだわる人は、虚栄心の満足を求めているだけだと思います。

トーマス・ルフ

―ルフさんは、少年時代から天体望遠鏡を持っていて、大学もアートの道に行くか、天文学を学ぶかで迷ったそうですね。ご自身の宇宙への関心が『Sterne(星)』の基となったと想像できるのですが、『Zeitungsfotos(ニュース・ペーパー・フォト)』では、なぜ報道写真というものに着目されたのでしょうか?

ルフ:もともと、面白いと思った新聞の写真を切り取って集めていたんです。それが10年ほど経つうちに、国際関係から経済、政治、スポーツ、文化などいろいろな写真が入り混じったものになっていきました。あるとき久々にそのコレクションを見返すと、写真が記事と切り離されたことで素性がわからないものになっていたんです。そこから、文章との関係が崩れたとき報道写真の「意味」はどうなるのか、ということに興味を持ちました。

『Zeitungsfoto 017』1990年 ©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016
『Zeitungsfoto 017』1990年 ©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016

―最新作『press++』でも、読売新聞の過去の報道写真も含め、写真と裏に記された編集デスクの指示書きを同じ画面に印刷し、その関係にあらためて着目しています。

ルフ:そもそも、報道写真はひどい扱いを受けていると思っています。写真家が素晴らしい写真を撮っても、デスクの判断で勝手にクロッピング(不要な部分などを切り取る行為)され、ズタズタに編集されます。まったく尊重されない、単に情報のためにあるかわいそうな写真です。それらを、アート写真のように額縁に入れ、展示空間に大事に飾って救いたかったんです。

『press++』展示室
『press++』展示室

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イベント情報

『トーマス・ルフ展』

2016年12月10日(土)~2017年3月12日(日)
会場:石川県 金沢21世紀美術館
時間:10:00~18:00(金、土曜は20:00まで)
休場日:月曜日(祝日の場合は翌平日)

プロフィール

トーマス・ルフ

1958年、ドイツ、ツェル・アム・ハルマースバッハ生まれ。1977年から85年までデュッセルドルフ芸術アカデミーでベルント&ベラ・ベッヒャー夫妻のもとで写真を学び、ドイツ人家庭の典型的な室内風景を撮り続けた『Interieurs(室内)』シリーズを皮切りに、友人たちの肖像を巨大なサイズに引き伸ばした『Porträts(ポートレート)』で大きな注目を集めました。以来、建築、都市風景、ヌード、天体などさまざまなテーマで作品を制作し、明確なコンセプトに基づいたシリーズとして展開しています。今日に至るまで世界各国での展覧会が開催され、現代ドイツを代表する写真家として活躍しています。

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