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現代写真を代表するトーマス・ルフを知ってる? 来日インタビュー

現代写真を代表するトーマス・ルフを知ってる? 来日インタビュー

金沢21世紀美術館『トーマス・ルフ展』
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影・編集:宮原朋之
2017/01/13

インターネットの登場以後の一番の問題は、人々がしっかり見ることをしなくなったことです。

―『Sterne(星)』も報道写真を扱った2つのシリーズは、一種のアーカイブを利用した作品だと思います。1990年代にはインターネットが現れ、誰もが画像のアーカイブにアクセスできるようになりますが、インターネットの登場はルフさんにとってどんな意味があったのでしょうか?

ルフ:インターネットは、私の人生の大事な一部になっています。多くの場合、私が求めているイメージは、インターネット上で見つけることができます。これは人類にとって明らかな進歩であり、実際、私はここ20年近く、図書館には足を運んでいません。でもインターネットを使う人の半数以上は、「一番安いスマホはどれか」とか(笑)、バカげたことを探しているだけなのではないかと思います。メディアは疑うのに、インターネットで見たものはすぐ信じる人が多いことも問題ですね。

トーマス・ルフ

『jpeg』シリーズ展示風景
『jpeg』シリーズ展示風景

―デジタル画像の流通の問題を扱った『jpeg』や『Substrate(基層)』シリーズは、そうしたイメージの正体を暴き、見る人に揺さぶりをかける意図も感じさせるものです。

ルフ:私たちが普段見ているものが、どういうものかを示したかったんです。インターネットの登場以後、一番の問題は、人々がしっかり見ることをしなくなったことです。表面ばかりを見て、それを読み解くことができなくなっていると思います。つまり、「見る」という行為の質が失われてきているということです。もちろん、目に見えるすべてのものを疑うわけにはいきませんが、違和感を敏感に嗅ぎとる力については、考えられなければいけないと思います。

金沢21世紀美術館『トーマス・ルフ展』展示風景

『Substrat 31III』2007年 ©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016
『Substrat 31III』2007年 ©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016

―写真をどう読み取るかは、たしかにますます重要になっていますね。

ルフ:まもなく我々が周囲を記録する手法というのは、ボタンのような大きさの装置を使うことになるはずです。とにかく万物のすべてをとりあえず記録して、あとから、その焦点はどこにあるのかを解釈し、意味付けるような世界が現れるでしょう。そのとき、見ることの質が問題になるんです。

トーマス・ルフ

情報環境がどんなに整ったとしても、物事を単純化して考えるのではなく、生きていく上で感じるリアルで複雑なものに向き合うべきです。

―一方でルフさんの作品では、写真史も重要な要素だと思います。『Porträts(ポートレート)』もそうですが、ネット上のポルノ画像に独自のアプローチをした『nudes(ヌード)』、1920年代に流行った技法を再解釈した『Photogram(フォトグラム)』、約1世紀前に撮られた写真を元にした『negatives(ネガティブ)』など、写真史への言及が散りばめられていますね。

ルフ:写真史は、テクノロジーの歴史と不可分です。私は、20世紀の写真家たちが新しいライカを手にしたことと同じような意味で、いま使える技術を使っているわけです。『Photogram(フォトグラム)』は、印画紙の上に物を置いて露光させるという原始的な技術を、バーチャルな仕方で更新することを目指しました。

『Phg.12』2015年 ©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016
『Phg.12』2015年 ©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016

トーマス・ルフ

ルフ:『nudes(ヌード)』では、自分なりにヌードという古典的な主題に挑戦しようとしたとき、ヌード写真の巨匠であるヘルムート・ニュートンなど男性的な視点でとられた写真が多い中で、そうではない新たな方法を模索しました。そして『negatives(ネガティブ)』シリーズは、私の娘のような、ネガというものに馴染みがない世代が現れ始めたいま、改めてその古い技術にもう一度、しっかり向き合うことで生まれました。

『nudes ez14』1999年 ©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016
『nudes ez14』1999年 ©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016

『negatives india01』2014年 ©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016
『negatives india01』2014年 ©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016

―今の3シリーズはすべて「自身で撮る」ということから大きく逸脱したものです。多くの写真家が、自分の手でシャッターを押すこと、あるいはカメラという機械を使うことにこだわり続けることで、結果的に「写真」の可能性は狭まると思われますか?

ルフ:そう思います。NASAが公開する土星の画像を加工した『cassini(カッシーニ)』や、火星探査船が捉えた画像を加工した『ma.r.s』シリーズでは、カメラの背後には誰もおらず、まさに機械が撮った写真を使っています。高解像度のリアルな画像でありながら、究極のフィクションとも言える写真です。

科学者は好奇心の塊で、裸眼では捉えられないものを見るための装置を生み出し続けています。私の作品では、自分の作家性以上に、そうしたテクノロジーの進化によって、人の認識がどう変化したかを掘り下げているんです。

『cassini 10』2009年 ©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016
『cassini 10』2009年 ©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016

『ma.r.s. 19』2011年 ©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016
『ma.r.s. 19』2011年 ©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016

―最後にお聞きしたいのですが、あなたが活動を始めたころにはなかったインターネットの環境が、制作や生活の中で当たり前に存在している世代が登場しています。そうした状況の中で、若いアーティストが制作をする際に重要な意識とは何だと考えますか?

ルフ:どんな世代であっても、その時代ごとに独自の表現を模索するべきだと思います。なので若いアーティストには、きちんと時代に向き合った作品を作ってもらいたいですね。先ほど言ったとおり、私はテクノロジーの進化と過去のドイツ写真の歴史の中で仕事をしてきたと思っています。

ドイツ写真の歴史をどう扱うかは、いつも大きな課題のひとつであり、そうした課題は、日本も含めどの国や地域にもあるはずです。私は、いわゆる「インターナショナルスタイル」というものは、存在しないと思っているんです。情報環境がどんなに整ったとしても、物事を単純化して考えるのではなく、生きていく上で感じるリアルで複雑なものに向き合うべきです。

トーマス・ルフ

―ルフさんの今までの幅広い試みは、そのような複雑なものに向き合う中で生まれてきたんですね。

ルフ:自分でも、駆け出しのころには、まさか日本で個展をやるとは思いませんでした。ただ、あらためて自分がやってきた数々のシリーズを振り返ると、巨大なジグソーパズルのピースを少しずつ見つけてきたように思うんです。そのパズルが完成したとき、タイトルが「写真の文法」になるのか、「写真の歴史」になるのか、まだわかりません。でもその完成を目指して、今後も写真を通した世界の探求をしていきたいと思っています。

トーマス・ルフ自身が我々取材陣の写真を撮る一幕も
トーマス・ルフ自身が我々取材陣の写真を撮る一幕も

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イベント情報

『トーマス・ルフ展』

2016年12月10日(土)~2017年3月12日(日)
会場:石川県 金沢21世紀美術館
時間:10:00~18:00(金、土曜は20:00まで)
休場日:月曜日(祝日の場合は翌平日)

プロフィール

トーマス・ルフ

1958年、ドイツ、ツェル・アム・ハルマースバッハ生まれ。1977年から85年までデュッセルドルフ芸術アカデミーでベルント&ベラ・ベッヒャー夫妻のもとで写真を学び、ドイツ人家庭の典型的な室内風景を撮り続けた『Interieurs(室内)』シリーズを皮切りに、友人たちの肖像を巨大なサイズに引き伸ばした『Porträts(ポートレート)』で大きな注目を集めました。以来、建築、都市風景、ヌード、天体などさまざまなテーマで作品を制作し、明確なコンセプトに基づいたシリーズとして展開しています。今日に至るまで世界各国での展覧会が開催され、現代ドイツを代表する写真家として活躍しています。

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