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ぼくのりりっくのぼうよみインタビュー 情報社会をどう生きる?

ぼくのりりっくのぼうよみインタビュー 情報社会をどう生きる?

ぼくのりりっくのぼうよみ『Noah's Ark』
インタビュー・テキスト
武田砂鉄
撮影:森山将人 編集:矢島由佳子

人間は、感情があるからこそ意志決定が速くなる。でもその感情が、今では足を引っ張っている。

―今回リリースされる2ndアルバム『Noah's Ark』、「ノアの方舟」というコンセプトを思いついたきっかけはなんだったんですか?

ぼくりり:洪水が起きて世界が一掃されてしまう「ノアの方舟」を今の時代に置き換えると、その洪水って情報のことなんじゃないかなと思ったんです。情報の洪水で自由意志を奪われているなと。

ぼくのりりっくのぼうよみ『Noah's Ark』ジャケット
ぼくのりりっくのぼうよみ『Noah's Ark』ジャケット(Amazonで見る

―「ノアの方舟」って、人々の堕落がうごめいていた環境下で起きたわけですが、今の社会に「堕落」を感じているのですか?

ぼくりり:あれが人間の感情そのものなんじゃないかな、って思っていて。以前、人間が感情というソフトをインストールしたのは判断が速くなるから、という話を聞いたことがあります。感情があるからこそ意志決定が速くなる。

でもその感情は、最初こそ便利だったんだけど、今では足を引っ張っている。「ポスト・トゥルース」(世論形成において、事実よりも感情的な訴えかけのほうが大きく影響する状況)という言葉が示すところもそうですよね。トランプ大統領への評価を感情で下してしまった。

―自分はそういうものを堕落というか悪だと思ってしまいますが、ぼくりりさんは悪だとは思わないんですか?

ぼくりり:意図的に操作している人たちに対しては「上手いな、テクニシャンだな」と思いますね。

ぼくのりりっくのぼうよみ

―そのテクニックを取得しようとは思いますか。

ぼくりり:練習しようと思ってます。人を操る練習……怖い怖い(笑)。言葉ひとつで印象操作ができるんじゃないかなと思い、実はこの前、LINEブログで試してみたんです。「自分への批判が重なってとても辛かった」と書いたら、「頑張っててすごい」みたいな返事がいくつもあった。実際は、批判的なツイートが1個か2個あったくらいなんですが、実際がどうかは関係なく、僕の言葉に対してそういった感情の反応が返ってきたわけです。

―そういう操作って、表に立つ人間はみな個々人でやってきたことだとは思います。それが今は、政治家や国家という大きな括りで起きているのかもしれません。「ポスト・トゥルース」という言葉が出ましたが、その状況を作品に投影させようと思ったとき、まずはどういったアプローチを試みたのでしょうか?

ぼくりり:情報の洪水に飲まれてしまった、というのが一番のテーマではなくて、その洪水によって自由意志が、クオリアが奪われていくということを伝えたかったんです。2曲目の“shadow”という曲は、実は「デキ婚」の曲なんですが……。

―え、そうなんですか。<中途半端な自分が首を絞めてる>と。

ぼくりり:そうです。感情に負けて自由意志がなくなっていることを意味しています。言葉の数が限定され、思考ができなくなっていくことを歌った“Newspeak”も同様のテーマ性です。その次の“noiseful world”という曲が一番洪水の状態を表しているというか、色々なものが溢れすぎて感覚がわからない、ということを歌っています。

―これまでのインタビューでも、歌詞ではメッセージ性を消して、ただ事象自体を書いていく、ということをおっしゃっていました。今作では、自由意志が剥奪されている世の中で、自由意志を「取り返そう」と伝えたいのか、「そういう世の中だよね」なのか、どちらなのでしょう。

ぼくりり:強いのは「だよね」ですね。救おう、とは思ってないんです。このアルバムは3部構成で、1~8曲目が1部、9曲目が2部で、10曲目が3部になっています。第1部では、ノアの方舟の物語のように色々な人が出てくる。堕落して自由意志を失っている人もいれば、頑張っている人もいる。9曲目“Noah's Ark”で、正しくない人は溺れて死んでいく。そこで生き残った人たちについて歌ったのが最後の“after that”です。

教育の問題だという気もします。「自分でやって楽しいことを、自分で楽しくやろう」と教えておけば、やるはずです。

―自由意志って、今の時代を生きる自分たちが強制的に剥奪され始めたものですよね。ものすごくわかりやすい例を挙げれば、ぼくりりさんの使っているポイントカードが取得した情報を分析して、次に買いそうなものを予測して目の前に出される。

ぼくりり:分析されたものしか目の前に表示されなくなったら嫌ですよね。でも、りんごも好きだけど、たまにはみかんも食べたい、といった揺らぎは機械には対応できない。「今日はこういう気分」みたいな感覚って、結局は人間の感情に帰属するような気がするし、そこを殺しすぎてはいけない。

Apple Musicで好きな音楽だけを聴いていると似た音楽ばかりが表示されますよね。結果的に、知っている音楽しか出てこなくなってイライラする。まだまだ機械の機能は、揺らぎの部分に対応するのが弱いのかなと。

ぼくのりりっくのぼうよみ

―そのうち巧妙なタイミングで「そろそろ、みかんもどうですか?」と言い始めるはずです。

ぼくりり:そしたらもうお任せでいいです。

―「そうそう、みかん!」って素直に従うんですか。

ぼくりり:今日ちょうどみかん食べたかった、みたいになったら、それは幸せじゃないですか。最近、自由意志の定義ができたんです。落合陽一さん(メディアアーティスト)と対談したときに、「自分の文脈を自分で規定するのが大事」とおっしゃっていて。

自分はこういう人間でこういうふうに生きますと設計できれば、そこに向かって歩こうとすること以外を他者に委ねることができる。目的地を決めて自分でカーナビに入力することと、目的地まで誰かに選ばせるのとは大きく違います。自分で行きたいと意思を示して、それを機械が指示して動いている状態ならば、自由意志って言えるんじゃないかと。

―機械に自由意志を委ねた時点で創造性が剥奪され、委ねる分量ばかりが膨らみ、人間がのっぺりとしてしまう可能性も高いわけですね。

ぼくりり:それはそうですね。ただ、それは教育の問題だという気もします。「自分でやって楽しいことを、自分で楽しくやろう」と教えておけば、やるはずです。今はなんでもやりたいことがやれるし、そういう意味ではいい時代だなと思います。

働くにも学ぶにも「型」がないわけですから。誰かに規定されたルートじゃなくても大丈夫になってきた。クオリアをなくすと哲学的ゾンビになる、なんて言い方をしているんですけど、そういう意志を持たない人間はサイボーグ化していく。

―『伊藤計劃トリビュート2』(早川書房)に小説「guilty」を書かれましたが、これまでの話にも通じる内容ですね。

ぼくりり:人間の意思決定を司っているコンピューターがあり、それによって人間が操られている世界を、未来の人間が発見するという話を書きました。高度に発展してきた世界が人間の自由意志を奪う、しかしそれによって戦争がなくなるならばそちらのほうがいいのかどうか、と問いかけたかったんです。

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リリース情報

ぼくのりりっくのぼうよみ『Noah's Ark』完全生産限定盤
ぼくのりりっくのぼうよみ
『Noah's Ark』完全生産限定盤(CD)

2017年1月25日(水)発売
価格:3,024円(税込)
VICL-64689

1. Be Noble
2. shadow
3. 在り処
4. 予告編
5. Water boarding -Noah's Ark edition-
6. Newspeak
7. noiseful world
8. liar
9. Noah's Ark
10. after that
※特殊パッケージ、漫画家の坂本眞一描き下ろしイラスト掲載7インチEPサイズジャケット仕様

ぼくのりりっくのぼうよみ『Noah's Ark』通常盤
ぼくのりりっくのぼうよみ
『Noah's Ark』通常盤(CD)

2017年1月25日(水)発売
価格:2,700円(税込)
VICL-64690

1. Be Noble
2. shadow
3. 在り処
4. 予告編
5. Water boarding -Noah's Ark edition-
6. Newspeak
7. noiseful world
8. liar
9. Noah's Ark
10. after that

ウェブサイト情報

Noah's Ark

ぼくのりりっくのぼうよみによる、クラウドファンディングで集めた資金をもとに開設されたオウンドメディア。1本目の記事として、メディアアーティスト・落合陽一との対談が公開中。

書籍情報

『伊藤計劃トリビュート2』

2017年1月24日(火)刊行
著者:草野原々、ぼくのりりっくのぼうよみ、柴田勝家、黒石迩守、伏見完、小川哲
価格:972円(税込)
発行:早川書房

プロフィール

ぼくのりりっくのぼうよみ
ぼくのりりっくのぼうよみ

現在大学一年生の18歳。早くより「ぼくのりりっくのぼうよみ」、「紫外線」の名前で動画サイト等に投稿を開始。高校2年生の時、10代向けでは日本最大級のオーディションである「閃光ライオット」に応募、ファイナリストに選ばれる。提携番組であるTOKYO FM『SCHOOL OF LOCK!』で才能を高く評価されたことで一躍脚光を浴び、高校3年生だった2015年12月、1stアルバム『hollow world』でメジャーデビュー。言葉を縦横無尽に操る文学性の高いリリックは多方面から注目を集めており、雑誌「文學界」にエッセイを寄稿するなど、音楽フィールド以外でも才能を発揮している。2016年7月、EP『ディストピア』をリリース。CDの遺影を模したアートワークや、EPの限定盤用に書き下ろした短編小説で再び大きな話題を集めている。

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