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湯川潮音×world's end girlfriend ありのままの「歌」を求めて

湯川潮音×world's end girlfriend ありのままの「歌」を求めて

sione『ode』
インタビュー・テキスト
金子厚武
編集:山元翔一

どんな国の人が聴いても、自分の故郷の色になるというか、そういう誰の色にも染まれるような音楽をやってみたいなって。(sione)

―昨年WEGさんに取材をさせていただいたときに(衝撃的な災害や事件を前に、音楽は?world's end girlfriendに訊く)、sioneさんも参加された『LAST WALTZ』について、「直接的なメッセージではないやり方で、人間の奥底に触れたい」とおっしゃっていて、その感覚は間違いなく『ode』にもあると思ったんですよね。今作のような歌詞のない作品を作るにあたって、sioneさんは原点回帰的な側面もあるとおっしゃっていましたが、WEGさんはいかがですか?

WEG:歌詞というか言葉について最近よく思うのは、SNSなどに顕著だけど、「言葉」やそれに伴う「意味の情報的な側面」が強調されすぎているなってことで。本当は、言葉って限定的な部分しか表現していないはずなのに、文字になっているものが全てのように捉える人が多いなと思っていて、それがちょっと邪魔くさいというか。今作には歌詞や言葉の意味としての縛りがあまりないほうがいいなって思います。まあ、作品自体はそういうことを考えずに作っているんだけど。

sione:そう思います。私はこれまでずっと、「歌詞を書く」ってことと格闘してきていて。言葉に魅力を感じてきたので、なんとか表現しようと、ずっとやってきたんです。

でも、今は「言葉で表現しなくてもいいや」って、ふと思った瞬間があって。もっと人間の奥深い部分というか、言葉によって限定されないものを作ってみたいと思ったんです。どんな国の人が聴いても、自分の故郷の色になるというか、そういう誰の色にも染まれるような音楽をやってみたいなって。

―その発想は、ニューヨークという人種のるつぼで暮らしているからこそのものかもしれないですね。ただ、sioneさんがご自身で歌詞を書くようになった背景には、アイルランドに語学留学をしたときに、逆に日本語に強い興味を持った、ということがあるんですよね?

sione:そうなんです。当時は広辞苑の「あ」から「ん」まで読むのが趣味だったくらい、「言葉」の時代がありました。でも今、言葉から離れてみて……それはそれですごく楽しいです。今回みたいな作品を作ってみると、また歌詞を書きたくなるんですけどね。

―今作は、歌詞のない歌の作品ですが、『ode』というタイトルは、ギリシャ語で「歌」を意味するそうで。

WEG:タイトルは、「歌の原始の姿」みたいなイメージの言葉にしたかったんです。「歌」が生まれた当初の姿に近いものがやりたいと思っていたので、そのイメージにぴったりだなって。

sione:作品としても、メロディーから感じる感情や原始的な部分を大事にしました。昔、<言葉じゃなくて想いなんだな>って歌詞の曲(“緑のアーチ”)を書いたこともありましたけど(笑)。

『湯川潮音』(2006年)収録

心がなにかに反応して、でもそれが言葉では表現しきれないときに、歌になって外に出てくるんじゃないかな。(WEG)

―「『歌』が生まれた当初の姿に近いものがやりたい」という想いは、先ほどおっしゃったような、SNS以降の言葉の弊害という話と繋がるような気がしていて。そこで、今の情報社会 / デジタル社会である現代において、原始的な歌の力はどんな役割を果たせるのか? ということをお訊きしたいのですが。

WEG:今回やりたかったことのひとつが、なにも考えずに歌われる鼻歌とか、それに近いような音楽だったんです。きっと周りを気にせずに解放できたら、歌はもっと自然に出てくると思うんですよ。

今、社会のなかの自分とか、他人から見られる自分というものを気にしてしまって、息苦しさを感じている人がたくさんいると思う。そういう人がsioneさんの曲を聴いて、普段の自分が無意識におしこめてる、本来なら出てくるはずだった歌に近い音楽に共鳴すれば、その人の生きづらい想いも多少はほぐれるかもしれない。そういう響き方をすると嬉しいかな。

―言ってみれば、『ode』は鼻歌と歌の中間の音楽というか。

WEG:鼻歌って、歌ってることを意識してないときもあるじゃないですか? でも、歌うことを意識せずとも歌になっている。農作業をしながら歌う歌とかも、そういう感覚に近いと思っていて、その人の生きているなにかと地続きになっている感じがあるんです。そういうのが魅力的だなって思う。

sione:私も人間が本来持っている感覚的な部分が大事だと思うんです。今って自分がなにかを見て、なにかを感じても、その前に他人の意見とか評価が入ってきてしまうほうが早かったりする。それで、「あれ? 自分は最初どう感じたんだっけ?」ってわからなくなったりすることもあったりして。

そういう意味では、ニューヨークや海外は感覚的な人が多くて、自由度が高い分、人生を豊かに生きているなって感じる部分はありますね。日本のほうが素晴らしいよ! ってこともそれ以上にあるのだけれど。今回のアルバムは感覚的に作ったアルバムなので、そういう部分が伝わればいいなって。

―たしかに、それこそSNSとかでいろんな意見や評価が入ってきて、自分の感覚を見失いがちっていうのはよくわかります。

sione:そうなると物事の芯が見えにくくなっていくと思うから、個々が持っている感覚を刺激できたらいいなとは思ってます。

たまに自転車に乗りながらすごく楽しそうに鼻歌歌ってる人や大声で熱唱している人っているじゃないですか? まるで世界がそこで完結してるような、ああいうのはすごい喜びだなって思うんですよ。あの感覚がある人は安全っていうか(笑)。幸せだと思う。

―なるほど(笑)。

sione:私、よく大声で歌って歩いていますけど、そういえばアメリカだと振り向かれないですね。

WEG:心がなにかに反応して、でもそれが言葉では表現しきれないときに、歌になって外に出てくるんじゃないかな。さっきも言ったように、本来言葉って限定的なものだから、それだけでは掬いきれないものを、小説家は物語にするし、詩人は詩にするし、音楽家は音楽にする。その表現方法はいろいろで、それが芸術作品になるんだけど、鼻歌っていうのは最も身近な表現方法っていうかね。

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リリース情報

sione『ode』
sione
『ode』(CD)

2017年4月15日(土)発売
価格:2,646円(税込)
VBR-040

1. Birds
2. Wealth of Flowers
3. Nocturne
4. ivy
5. The Seeker
6. Plein Soleil
7. Golden Age
8. The Hole in Your Heart
9. Harvest
10. I saw you one time
11. Kemono
12. Coda

『「ターシャ・テューダー 静かな水の物語」サウンドトラック』
『「ターシャ・テューダー 静かな水の物語」サウンドトラック』(CD)

2017年5月15日(月)発売
価格:2,700円(税込)
VBR-041

1. Winter Fire Place / world's end girlfriend
2. What a Day / sione
3. Happiness / mio-sotido
4. Sweet Cycle / world's end girlfriend
5. Nocturnal Dialogue / world's end girlfriend
6. Blooming Blooming! / sione
7. Weeding the Garden / mio-sotido
8. The Bottom of a Lake / world's end girlfriend
9. Share the Joys / 良原リエ
10. Graceful Cycle / world's end girlfriend
11. Link / ハチスノイト
12. Winter Calms / world's end girlfriend
13. Nocturnal Whispers / world's end girlfriend
14. Delightful Days / 良原リエ
15. The Clock Loses Time / sione
16. Pumpkin Moonshines / 良原リエ
17. Little Happiness / mio-sotido
18. Family / mio-sotido
19. Wealth of Flowers (Garden ver.) / sione
20. What a Day (instrumental) / sione

プロフィール

湯川潮音
湯川潮音(ゆかわ しおね)

1983年、東京出身。小学校時代より東京少年少女合唱隊に在籍、多くの海外公演などを経験。2001年、ポップフィールドではじめて披露された歌声が多くの話題を呼ぶ。翌年のアイルランド短期留学から帰国後、自作の曲も発表し本格的な音楽活動をスタート。以降、美しいことばの響きを大切にした歌詞、クラシックやトラディショナルを起点に置いた独自の世界観で音楽を紡ぎ続けている。

world's end girlfriend
world's end girlfriend(わーるず えんど がーるふれんど)

1975年11月1日かつて多くの隠れキリシタン達が潜伏した長崎県の「五島列島」に生まれ10歳の時に聴いたベートーヴェンに衝撃を受け音楽/作曲をはじめる。2000年デビュー。アジア、EU、USツアーなどを行い『ATP』『Sonar』など各国フェスにも出演。映画「空気人形」の音楽を担当し2009年カンヌ映画祭や世界中で公開された。2010年『Virgin Babylon Records』を設立し「SEVEN IDIOTS」をワールドワイドリリース。圧倒的世界観を提示しつづけている。

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