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マームとジプシー代表・林香菜が語る、10年の歩みと次の10年

マームとジプシー代表・林香菜が語る、10年の歩みと次の10年

マームとジプシー『MUM&GYPSY 10th Anniversary Tour vol.1』
インタビュー・テキスト
橋本倫史
撮影:豊島望 編集:宮原朋之

プリコグでインターンをしたことで、制作のイメージが全然変わりました。

―第3回公演の『ほろほろ』(2008年)から、林さんは制作としてクレジットされてますね。

:大学3年生の終わり頃になって進路をどうしようか考えていたときに、「得意なことを仕事にしたほうが有利だよ」って母親に言われたんです。当時、学内では制作ができる方だったし、制作という役割や仕事内容がとても得意だと思っていたので、それなら制作として生きてみようかと思ったんですね。

それで、藤田やいまも活動を一緒に続けているメンバーの多くが、大学を卒業する時に作った『ほろほろ』という作品ではじめてマームの制作を担当したんです。その頃には、制作として生きてみようかなと思っていたし、マームに集まってくる俳優や優秀なスタッフも含めて、藤田の作品が世界で一番面白いと心底思っていたし、自分にとってはなによりも大事な存在でした。

だから、当時はまだ少し距離を置いて手伝っていたと思います。それで、どうやって制作として生きて行こうかと考えて、プリコグ(チェルフィッチュなどの国内外の活動をプロデュースするカンパニー)の代表の中村茜さんにお誘い頂いて、インターンとして現場に入らせてもらうことにしました。

林香菜

―プリコグでインターンとして働いている期間も、マームとジプシーに制作として関わっています。その2つは林さんのなかでどういうバランスだったんですか?

:その頃はまだ「私がマームとジプシーの制作です」とはとても言えなかった。当時はすべてを藤田が考えて、「こういう作品をやろうと思っている」ということを自分一人で成立させていたので、どんなことを考えているか、かなり書き込まれたテキストをもらって、それを私が助成金の申請用に書き換えるだけだったんですね。どこでやるかも、誰が出るかも、基本は藤田が決めてきて、本当に相談役ぐらいの関係性だったと思います。

プリコグでのインターンも、あくまで間接的にマームや藤田になにか良い影響があればいいなと思っていました。でもいま振返ると、インターン期間中に、知ることも出会う人も、頭のなかではすべて直接マームにつなげて考えていたと思います。とはいえ当時はとにかく必死すぎて言われたことをこなすことで精一杯で、そんな実感はなかったですけどね。

―ある意味では「修行」ですね。実際にプリコグで働いてみてどうでしたか?

:それまでは「制作が得意だ」なんて思ってたけど、そこで伸びてた鼻をへし折られました(笑)。私が見ていた制作の役割は、実際の制作の仕事のほんの一部でしかなかった。

自分が得意だと思っていたことって、例えば「いかに開場中に、客席をきれいに埋めるか」とか「時間を押さずに開場できるか」とか「定番化している制作のスケジュールを滞りなく完了していくか」とか、そういうことだったと思います。もちろん、それは大事なことだと思うけど、それだけがすべてではないことを、身をもって経験できました。ただタスクをこなすということではなくて、「いかに面白い視点で作品を見ているか」とか「いかに新しいことを自分自身で楽しめているか」みたいなことが重要だと教えてもらったと思ってます。

林香菜

:それで、芸術作品を作る人が自分たちがやっていることを「職業」にすることは、こういうことなんだろうなと気づかせてもらえて、「それを成立させるのが制作なんだ」と実感したんです。だから戦略的にもならなきゃいけないし、実現させるために助成金も獲得する必要があるし、作品を自分自身で一度咀嚼して制作的な言葉を持って作品に関わる必要がある。

制作の仕事は1を100にする仕事だと思ってたけど、作家と共に0を1にする仕事でもあると、制作のイメージが全然変わったんです。それで、プリコグを離れて、きちんとマームに「制作」として関わって、自分ができることをやろうと決心しました。

マームに関わってくださる方に、思ったことを言っていただきやすい関係性を作らないといけない。

―それで2009年の『夜が明けないまま、朝』以降、すべての作品に制作として関わるわけですね。マームの作品が少しずつ評価されていく時期でもあります。

:マームの動員が伸びていく過程を説明すると、まずは岡田利規さんが『コドモもももも、森んなか』(2009年)をものすごく褒めてくれたんです。それで、多分その噂が広まって、次の『たゆたう、もえる』(2010年)でこまばアゴラ劇場(平田オリザが支配人兼芸術監督を務める小劇場)をいっぱいにすることができました。桜美林大学の卒業生にとってアゴラ劇場は特別な場所だし、藤田やマームのメンバーがアゴラでやるなら観にいこう、という大学時代の先輩や同期もたくさんいたんだと思います。

『コドモもももも、森んなか』撮影:飯田浩一
『コドモもももも、森んなか』撮影:飯田浩一

:次の『しゃぼんのころ』(2010年)で徳永京子さん(演劇ジャーナリスト)や佐々木敦さん(評論家)が観にきてくれました。当時はちょうどTwitterが流行りはじめた頃で、徳永さんや佐々木さんもはじめたばかりという頃だったんじゃないかな。今よりもTwitterのコメントが注目されやすかったと思います。そこからは本当にみるみるうちに動員が伸びていきました。

制作的な話をすると、劇評家の方や発信力がある方に作品を観てもらうタイミングは見極めた方が良いと当時から思っていて、『しゃぼんのころ』までは、まだそのタイミングじゃないなと漠然と思っていました。ただ、『しゃぼんのころ』は当時藤田が考えていたことと作品や俳優さんたちが噛み合った、という実感が私にはあって、その作品を徳永さんがはじめて観てくださって、作品の劇評を書いて下さいました。

『しゃぼんのころ』撮影:飯田浩一
『しゃぼんのころ』撮影:飯田浩一

―その翌年に発表した三連作で岸田國士戯曲賞を受賞すると、様々な作家とコラボレーションする「マームと誰かさん」シリーズがはじまります。岸田戯曲賞を受賞した作品を全国ツアーに回すというひとつの流れがあるなかで、それを選ばなかったのはなぜですか?

:まず、岸田戯曲賞をいただいた作品をそのままツアーに回す必要性を全く感じなくて、私も藤田もそういう考えに至らなかったんですね。いわゆる演劇界にとっての必然性という意味ではそうなのかもしれないけれど、なによりも自分たちの必然性が重要だと当時から思っていました。そういう意味では、どんな機会にどの作品を上演するかという感覚が藤田とズレたことはないと思います。藤田から出てくる企画や提案に関しても、違和感を感じたことは一度もないです。

『マームと誰かさん 穂村弘さん(歌人)とジプシー』撮影:橋本倫史
『マームと誰かさん 穂村弘さん(歌人)とジプシー』撮影:橋本倫史

『マームと誰かさん 名久井直子さん(ブックデザイナー)とジプシー』撮影:橋本倫史
『マームと誰かさん 名久井直子さん(ブックデザイナー)とジプシー』撮影:橋本倫史

―様々なジャンルとのコラボレーションは、ここ数年のマームの活動の特徴ですね。そうして関わる人が増えていくと、その場所を成立させる制作の役割も増すと思うんですが、林さんはどんなことに気をつけていますか?

:超具体的ですが、最初に聞くのは、「昼型ですか、夜型ですか」ってことと、「連絡は電話がいいですか、メールがいいですか、LINEがいいですか」ってことですね。様々なジャンルの方がいるので、きちんと伝わる言葉で説明するように心がけています。

「ゲネプロ(舞台上で本番とすべて同じように最初から最後まで通して行う最終リハーサル)」という単語ひとつとっても、一般的に通用する単語ではないと思うので、ニュアンス含めてそれぞれの方に通じる言葉で説明するように気をつけています。いまではマームに関わり続けて下さっている他ジャンルの皆さんは、演劇用語をかなり分かるようになって下さいました。

マームに継続的に関わっている人たちは、「いまマームがどんな活動をしているか」ということを常に気にしてくれているんですね。だから、普段から「今日で公演が終わりました」とか「いまから海外に行ってきます」とか、こまめに連絡は取るようにしています。

あとは、やっぱり皆さん、藤田や作品のことをリスペクトして関わってくださっているので、作品を作るなかで生まれるネガティブな感情を藤田には気づかれないようにしてくださる方がとにかく多いんです。でも、私はそれを言っていただかないといけないポジションだと思うので、思ったことを言っていただきやすい関係性を個人的に作らないといけない、と思っています。私みたいな立場の人とネガティブなことも含めて話しやすい関係性が築けるというのは、マームにとってより可能性があることだと思うので。

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イベント情報

マームとジプシー
『MUM&GYPSY 10th Anniversary Tour vol.1』

2017年7月7日(金)~7月30日(日)
会場:埼玉県 彩の国さいたま芸術劇場 小ホール

『クラゲノココロ モモノパノラマ ヒダリメノヒダ』
作・演出:藤田貴大
音楽:山本達久
衣装:suzuki takayuki
出演:
石井亮介
尾野島慎太朗
川崎ゆり子
中島広隆
成田亜佑美
波佐谷聡
吉田聡子
山本達久

『ΛΛΛ かえりの合図、まってた食卓、 そこ、きっと──────』
作・演出:藤田貴大
音楽:石橋英子
衣装:suzuki takayuki
出演:
石井亮介
荻原綾
尾野島慎太朗
川崎ゆり子
斎藤章子
中島広隆
成田亜佑美
波佐谷聡
長谷川洋子
船津健太
召田実子
吉田聡子

『夜、さよなら 夜が明けないまま、朝 Kと真夜中のほとりで』
作・演出:藤田貴大
衣装:suzuki takayuki
出演:
石井亮介
伊野香織
尾野島慎太朗
川崎ゆり子
中島広隆
成田亜佑美
波佐谷聡
長谷川洋子
船津健太
吉田聡子

『あっこのはなし』
作・演出:藤田貴大
音楽:UNAGICICA
出演:
石井亮介
伊野香織
小椋史子
斎藤章子
中島広隆
船津健太

料金:
前売 1作品券4,000円 4作品セット券13,500円
当日 1作品券4,500円
※『あっこのはなし』は前売3,000円、当日3,500円

プロフィール

林香菜(はやし かな)

桜美林大学総合文化学群卒業。07年マームとジプシー旗揚げに参加。以降ほぼ全てのマームとジプシーの作品や、藤田の外部演出の作品で制作を担当。14年マームとジプシーを法人化し、代表に就任。

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