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真鍋大度×湯山玲子対談 テクノロジーで更新するオペラ『オテロ』

真鍋大度×湯山玲子対談 テクノロジーで更新するオペラ『オテロ』

『オテロ』
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:豊島望 編集:宮原朋之、川浦慧

数多くの傑作オペラを生み、「歌劇王」と称されたジュゼッペ・ヴェルディの晩年の代表作『オテロ』。原作はシェイクスピアの戯曲『オセロ』で、英雄オテロが旗手であるイアーゴの策略にかかり、若く美しい妻デズデーモナへの嫉妬を募らせ遂には殺め、自らも命を絶つという悲劇を描いたものである。

そんなイタリア・オペラの最高峰が、2017年9月8日と10日に東京・渋谷Bunkamuraオーチャードホールで演奏会形式で上演される。指揮と演出は、アンドレア・バッティストーニ。クラシック界での国際的な評価はもちろん、デトロイトテクノの巨匠ジェフ・ミルズとの共演を果たすなど、新しい試みにも積極的に挑戦する若きマエストロである。そして映像演出を務めるのは、Rhizomatiks Research(ライゾマティクスリサーチ)の真鍋大度。Perfumeからリオ五輪閉会式まで様々なプロジェクトを手がけ、メディアアートの旗手として世界的にも注目されている人物だ。この二人が『オテロ』を、一体どのような形で現代に蘇らせるのか。今から期待は高まるばかりである。

そこで今回、ジェフ・ミルズとバッティストーニのコラボオーケストラ公演を仕掛けた『爆クラ!(爆音クラシック)』の主宰者であり、著述家、プロデューサーの湯山玲子と真鍋の対談を行い、『オテロ』の魅力や舞台演出の最前線についてなど、大いに語り合ってもらった。

このところ連日のように、某俳優とその妻の愛憎劇がテレビで垂れ流されていて(笑)。渦中の彼女は、まさにシェイクスピアの「女版オセロ」みたいな感じ。(湯山)

―まずは、『オテロ』とはどのような作品なのか、湯山さんから解説していただけますか?

湯山:『オテロ』は1887年に初演された4幕からなるオペラで、原作はシェイクスピアの『オセロ』です。作曲者のヴェルディは石橋を叩いて渡るタイプというか、「万が一にでも新作を失敗させたら、晩節を汚す」っていう風に考えていたみたいですね。なので『オテロ』は、1871年に初演された『アイーダ』から16年ぶりに満を持して出された作品というわけです。

―16年というのはちょっとした歳月ですよね。

湯山:『オテロ』の中で有名なのは、第四幕のいわゆる「アヴェ・マリア」ですが、現代のコンサートで取り上げられるような有名なセクションというのが、実はあまりないんです。よくオペラってフィギュアスケートに使われるのだけど、そういう華やかな曲がない。なにせ、基本的には悪い男2人の話ですからね。「男芝居」というか玄人筋の作品、ですよ。

湯山玲子
湯山玲子

―なるほど。

湯山:ただ、とにかく圧倒的にオーケストラがすごい。『オテロ』は序曲がないのが特徴の一つですが、いきなり前置きなしで嵐の海に投げ込まれるんですよ。森羅万象あらゆるものを1曲の中に詰め込むようなオーケストレーションをしたんですね。そのスペクタクルな展開は、「つかみ」としても最高にキャッチーだし、おそらく真鍋さんもそこにはポイントを置くはず。

それと、後半の悲劇ですよね。登場人物の苦悩や葛藤を描き、心をグッと掴んで離さない。暗いパッションがみなぎっているんです。

―原作となったシェイクスピアの物語も、愛と憎しみ、信頼と疑惑という、現代に通じるテーマが貫かれています。

湯山:いや、もうグッドタイミングでしょう。つい最近も、某俳優とそのタレント妻の愛憎劇がマスコミを賑わしてたじゃないですか(笑)。私はワイドショーのコメンテーターもやっているからよく知ってますが、渦中の彼女は、まさに「女版オセロ」みたいな感じでしょう?

一同:(笑)

湯山:愛情が嫉妬によって憎しみに変わってしまう。嫉妬で妄想が爆走し、いろんな物証を出して夫を責め立てていますけど、それって『オテロ』でいうところのハンカチじゃないですか(『オテロ』では、主人公オテロが妻のデズデーモナに贈ったハンカチが、他の男の部屋から出てきたことで嫉妬に苛まれる)。

愛していた人に裏切られると、人はあそこまで憎しみに染まってしまうのかと。その顛末を、今まさに私たちはテレビという劇場で見ているわけですよね。極めて『オテロ』的な空間が出来上がっている。そこで今回の上演なのですから、グッドタイミング以外の何物でもない。

―(笑)。確かに、有名人夫婦のダークサイドがここまで白昼の下に晒されたことは、かつてなかったかもしれないですね。「オペラ鑑賞」というのは、オーケストラとはまた違った楽しみ、醍醐味があると言えますか?

湯山:芝居の要素が入ってきますからねぇ。しかもオペラの芝居は、普通の芝居とは違う。例えば登場人物4人のエピソードがあったとして、普通の芝居だったら一つひとつ場面を設けて説明していかなければならないところを、オペラなら和声にして、手法としては1曲の中で表現できちゃうんですよ。映像だと画面を4分割にする感じ? そういうことを19世紀から舞台でやっていたんだからオペラはすごいよね。

そして、これは真鍋さんの演出法とも関わってくるのですが、『オテロ』って、何か情景を描き出すというものではなくて、出演者の内面の葛藤を描き出すような場面が中心なんです。男同士の嫉妬や男女の愛憎、裏切りや葛藤といった感情を、ライゾマがどんな風に見せてくれるのか。新しい表現の扉が開くのではないかと今から期待で胸がいっぱいですよ。

公演されるオーチャードホール舞台の正面写真。この壁面全面にライゾマティクスリサーチ演出の映像が投影される
公演されるオーチャードホール舞台の正面写真。この壁面全面にライゾマティクスリサーチ演出の映像が投影される

公演メインビジュアル ライゾマティクスリサーチが実験時に3Dスキャンしたホールの画像が使用されている
公演メインビジュアル ライゾマティクスリサーチが実験時に3Dスキャンしたホールの画像が使用されている

―真鍋さんは今回、どのような経緯で関わることになったのでしょうか。

真鍋:今回の指揮・演出も務める、指揮者のバッティ(バッティストーニ)からですね。これまでにも彼は、映像を使った新しい試みを色々とやってきたのですが、それをさらに拡張したいという思いがあったようで、お声がけをいただきました。

最初のミーティングでは、僕らがこれまでやってきた作品、コンテンポラリーダンスから、PerfumeやBjorkとのコラボまで見てもらって。そこで意見交換をしつつ、本格的に制作に入っていきました。基本的には彼が思い描いていることを、ライゾマリサーチがカタチにしていくという流れです。

真鍋大度
真鍋大度

アンドレア・バッティストーニ(東京フィルハーモニー交響楽団 首席指揮者)©上野隆文
アンドレア・バッティストーニ(東京フィルハーモニー交響楽団 首席指揮者)©上野隆文

―具体的には、どのようなことをやっているのですか?

真鍋:まずは、モーションキャプチャを使ってバッティの動きをデータ化しました。それから登場人物の「感情」もデータ化するために、既にオテロを何度も鑑賞している方達に協力してもらって、最初から最後まで登場人物の感情、喜怒哀楽を人力でトレースしてデータ化する作業を行いました。これには主観が伴いますが、オペラの中でも特に『オテロ』は、感情の起伏がわかりやすい作品なので、ある程度、誰がやっても一緒になる部分が多いかと思います。

これをどう使うかは実際に映像のパラメーターに割り当てて、映像化は見てうまくいくかどうかを確認しながら考えます。fMRI(=磁気共鳴機能画像法。MRI装置を使って無害に脳活動を調べる方法)で鑑賞するというプランもありましたが、それはまた次回ですね。

―なるほど。物語やオーケストラの起伏と映像が、インタラクティブに連動しているわけですね。例えばPerfumeのように、テンポや尺が決まっているパフォーマンスよりも、難易度が高そうです。

真鍋:そうなんです。映像のテンポや尺を変えるのって一般的には難しい。例えばこちらで作った映像を書き出して納品し、クリックを聴きながら指揮者が映像に合わせてコンダクトを振るという方法もあります。バッティも以前テレビ番組に出演した時は、クリックを聞きながら指揮をしたと言っていました。

湯山:それこそ、ジェフ・ミルズとの共演(『爆クラ!presents ジェフ・ミルズ×東京フィルハーモ二ー交響楽団×バッティストーニ クラシック体感系II -宇宙と時間編-』)を振ったときも、彼はクリックを聞きながら指揮しました。

『爆クラ!presents ジェフ・ミルズ×東京フィルハーモ二ー交響楽団×バッティストーニ クラシック体感系II -宇宙と時間編-』のジェフ・ミルズ PHOTO:正木万博
『爆クラ!presents ジェフ・ミルズ×東京フィルハーモ二ー交響楽団×バッティストーニ クラシック体感系II -宇宙と時間編-』のジェフ・ミルズ PHOTO:正木万博

『爆クラ!presents ジェフ・ミルズ×東京フィルハーモ二ー交響楽団×バッティストーニ クラシック体感系II -宇宙と時間編-』の様子 PHOTO:正木万博
『爆クラ!presents ジェフ・ミルズ×東京フィルハーモ二ー交響楽団×バッティストーニ クラシック体感系II -宇宙と時間編-』の様子 PHOTO:正木万博

真鍋:なのであらかじめ映像を用意しておいて、それに合わせて指揮をしてもらうことも、彼は出来なくはない。けど『オテロ』ではやりたくないと。そうすると、技術的にはチャレンジングなことがたくさん出てくるんですよね。尺も変わるし音楽の表現も全部変わるので、リアルタイムで映像を生成する必要があります。ハードルはグッと上がりましたね。大変だなあ……って思っているところです(笑)。

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イベント情報

オペラ『オテロ』

2017年9月8日(金)、9月10日(日)
会場:東京都 渋谷 Bunkamura オーチャードホール

原作:ウィリアム・シェイクスピア
台本:アッリーゴ・ボーイト
作曲:ジュゼッペ・ヴェルディ
指揮・演出:アンドレア・バッティストーニ(東京フィルハーモニー交響楽団)
映像演出:Rhizomatiks Research
出演:
フランチェスコ・アニーレ
エレーナ・モシュク
イヴァン・インヴェラルディ
ジョン・ハオ
高橋達也
清水華澄
与儀巧
斉木健詞
合唱:新国立劇場合唱団
合唱指揮:冨平恭平
児童合唱:世田谷ジュニア合唱団
児童合唱指揮:掛江みどり
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

プロフィール

真鍋大度(まなべ だいと)

メディアアーティスト、DJ、プログラマ。東京を拠点に活動。2006年Rhizomatiks 設立、2015年よりRhizomatiksの中でもR&D的要素の強いプロジェクトを行うRhizomatiks Researchを石橋素と共同主宰。慶応大学SFC特別招聘教授。プログラミングとサウンドデザイン、インタラクションデザインを駆使して様々なジャンルのアーティストとコラボレーションプロジェクトを行いながら、国際的な大型イベントやエンターテイメントプロジェクトの演出技術開発を行う。また、メディアアーティストとして、身近な現象や素材を異なる目線で捉え直し、組み合わせることで、高解像度、高臨場感といったリッチな表現を目指すのでなく、注意深く観察することにより発見できる現象、身体、データ、プログラミング、コンピュータそのものが持つ本質的な面白さに着目し、作品制作を行っている。

湯山玲子(ゆやま れいこ)

1960年生まれ、東京都出身。著述家。文化全般を独特の筆致で横断するテキストにファンが多く、全世代の女性誌やネットマガジンにコラムを連載、寄稿している。著作は『四十路越え!』『ビッチの触り方』『快楽上等 3.11以降を生きる』(上野千鶴子との対談本)『文化系女子の生き方 ポスト恋愛時宣言』『男をこじらせる前に 男がリアルにツラい時代の処方箋』等々。クラシック音楽を爆音で聴くイベント『爆クラ』と美人寿司主宰。

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