元鮨職人のフィッシュバーガーdeli fu cious、行列の秘密に迫る

現地に住むキュレーターがその街のカルチャースポットを紹介するクリエイティブシティガイド「HereNow」と連動して、人気モデルの村田倫子さんが同ガイドのスポットを巡り、東京のカルチャーを学ぶ連載『村田倫子が学ぶ東京カルチャー』。

第2回は、フィッシュバーガー専門店「deli fu cious(デリファシャス)」を訪れました。「deli fu cious」は、ミシュラン2つ星を獲得している鮨屋「銀座 青空(ハルタカ)」をはじめ、有名店で修行を積んだ鮨職人・工藤慎也さんがプロデュースするお店。

毎日行列が絶えず、オープン半年にして『ヒルナンデス!』の「2017年上半期取材殺到グルメBEST10!」で第2位になるほどのメディア露出量です。今回は、そんな「deli fu cious」から話題になるお店の作り方について学びます。

鮨職人の技術を盛り込んだ新しいお店ができたら、絶対に刺さるっていう自信はあったんですよね。(工藤)

工藤:どうぞ。まずは、温かいうちに食べてみてください。

店の看板メニュー「昆布締めフィッシュバーガー」
店の看板メニュー「昆布締めフィッシュバーガー」

村田:わー! サクサクしていて、本当に美味しいですね! しかもハンバーガーなのに出汁の旨みがすごいです。「出汁巻き卵ドッグ」も卵がふわふわ。

「出汁巻き卵ドッグ」を頬張る村田倫子
「出汁巻き卵ドッグ」を頬張る村田倫子

工藤:ありがとうございます。一つひとつ注文が入ってから作っているんです。

村田:工藤さんは元々ミシュラン星付のお鮨屋さんで働かれていたんですよね。14年間鮨職人として働いたあと、鮨屋として独立をしなかったんですか?

工藤慎也
工藤慎也

工藤:僕は20歳で職人の世界に入って、自分よりも仕事が出来る親方や先輩達をたくさん見てきました。誰もがストイックに仕事をする姿勢を目の当たりにして、果たして自分に同じ生活が出来るんだろうか? と感じて……。それなら、日本ではなく元々興味もあった海外で店を開きたいと思い、鮨職人として独立はしませんでした。

村田:なるほど。

工藤:そんなとき、鮨職人の先輩がニューヨークで独立をして、『ニューヨーク・タイムズ』にも載るくらい有名なお店になったのを見て刺激を受けたんです。元々10代のときからストリートカルチャーが大好きで、LAのファッションや音楽にどっぷりとハマっていたので、14年間働いた銀座のお店を辞めた後、僕もLAでお店を出すつもりで渡米しました。

4、5㎏以上ある魚をさばく工藤
4、5㎏以上ある魚をさばく工藤

村田:アメリカでお店を出したんですか?

工藤:そのつもりだったんですけど、スポンサードの話がいろいろと流れてしまったんですよね。そういうこともあって半年で帰国しました。

村田:帰国してすぐに今のお店を?

工藤:そうですね。割とすぐでした。僕の同級生でもある岡田茂っていう相棒が、「なんか俺らで面白いことやってみない?」って誘ってくれて。

そんなとき、沖縄の音楽フェスで「仲間で飲食店を開きたい」って思っていた2人と出会って意気投合をしちゃったんです。それで僕と、岡田、その2人の4人でこのお店を始めました。仲間同士でお店をやると、喧嘩別れをするってよく言いますけど、僕はそういう風には思っていないんですよね。同じバイブスでやりたいことをやれるし、この仲間でやれてよかったなって思ってます。

deli fu ciousは外から注文をするスタイル
deli fu ciousは外から注文をするスタイル

村田:仲間と一緒に開業って素敵ですね。どんなお店にするかは決まっていたんですか?

工藤:いえ、まったく決まっていなかったです(笑)。僕は20歳から34歳まで魚しか触ってこなかったので、「他のことはできないけど大丈夫?」みたいな話をして。ただ、魚で何かをするということだけは決まっていました。

村田:魚料理と一口にいっても、いろんなお店がありますもんね。そこからどうやってフィッシュバーガー屋さんになったんでしょうか?

工藤:最初はタコス屋とか居酒屋をやろうという話も出てたんですけど、みんなフィッシュバーガーって好きじゃないですか?(笑) でもなかなかおいしいフィッシュバーガー屋さんってないなと思っていて。日本だし、鮨職人の技術を盛り込んだ新しいお店ができたら、絶対に刺さるっていう自信はあったんですよね。

村田倫子

村田:フィッシュバーガーというと洋食のイメージが強いですけど、deli fu ciousさんのフィッシュバーガーは出汁の味がして、和の要素も強い気がします。

工藤:そうなんです。僕も岡田も、最終目標はアメリカでお店を出すことだったので、そのためにはどういうものを作るべきなのか、逆算して考えました。そこで生まれたのが、アメリカの国民食「ハンバーガー」と、日本の国民食「鮨」を融合するというアイデア。

ただ、お店のキッチンを使えるようになったのがオープンの2週間前で、フィッシュバーガー試作の期間も2週間しかなかったんですよ。二人でこの店のコンクリートの上に寝袋を引きながら、あーでもない、こーでもない……と毎日試作を繰り返して(笑)。

左から:村田倫子、工藤慎也

村田:過酷でしたね(笑)。看板メニューの「昆布締めフィッシュバーガー」はどのように作り上げたんですか?

工藤:まずは、フィッシュバーガーといえばタルタルソースだ! と思って、100個くらい卵を使って試作を繰り返したんですけど、どれもしっくりこなかったんですよね。なので、あえてタルタルソースを捨てることにしました。

そこから和の方向に振り切って、かつおの一番出汁を餡にしてみたら、結構おいしくて。でも、なんとなく白身にパンチがなかったので、いっそのこと昆布締めにしちゃおうと。

昆布締めにする魚
昆布締めにする魚

工藤:昆布締めも、1日だと昆布のノリが薄くて、2日締めたらしっかりと昆布が染みたんです。フライにすると昆布の匂いが鼻に抜けて、これでいけるって思いました。

村田:すごく斬新なアイデアですね。

工藤:そうですね。でもここでも問題があって。ごはんに挟んだらおいしいんですけど、バーガーに挟んだら全然おいしくなかったんですよ。都内でいろんなハンバーガー屋さんに行ったり、フィッシュバーガーも食べてみたけど、初めての試みだったので、全くヒントがありませんでした。

 

村田:何からインスピレーションを得たんですか?

工藤:やはり、14年間の職人時代の経験と知恵ですね。そのすべてを振り絞りました。

1日重石を載せて水分を抜いた豆腐をソースに使ったことで、状況が好転したんです。次の日に裏ごしをかけて、毎日取っている一番出汁に合わせ、葛粉でとろみをつけたらめちゃくちゃ美味しいソースが出来ました。片栗粉を使うとだれてきてしまうんですけど、葛粉ってしっかりしているので冷めにくいし、冷めても美味しい。テイクアウトをやるつもりだったので、それなら一石二鳥じゃんって。

その他バンズにはバター醤油を塗って炭で焼いたり、カツオの一番出汁で炊いたレンコンを乗せて食感と歯ごたえを出したり、結構手間暇かけています。

村田:本当にこだわり抜いているんですね。

工藤:そうですね、東京でお店をやっていくには、味がしっかりしていないと流行らないですし。でも、仕込みが大変すぎて、帰るのがいつも夜中になっちゃいました(笑)。魚も新鮮で美味しいものを仕入れたいので、信頼できる仲買いさんといつも夜中の3時とかに連絡を取り合っています。

味への自信はありますが、僕らがメディアに取り上げられている理由は、「ギャップ」なのかもしれません。(工藤)

村田: deli fu ciousさんの店構えや店内、ハンバーガーはすごくフォトジェニックで、「インスタ映え」するお店ですよね。意識されているんですか?

 

工藤:そうですね。今やSNSの1投稿が何百万人にも届く時代なので、宣伝効果は計り知れません。だから、僕たちもすごく力を入れています。店内のここで写真を撮ってくれるんじゃないかなってことを想像しながら、内装も仕上げていきました。

村田:どんなところがポイントですか?

工藤:ネオン板や和柄のタイル、盆栽、あとは器もこだわっています。トイレもサウナ風になっているんですよ。「アメリカ人が作る銭湯」というモチーフで内装を考えてもらいました。

deli fu cious店内
deli fu cious店内(HereNowで見る

 

 

 

村田:メインビジュアルの写真もどこのアパレルブランドだろうというくらいスタイリッシュですよね。

工藤:メインビジュアルは、タレント・渡辺直美さんの写真集なども撮影している、カメラマン新田桂一さんに撮っていただきました。岡田の昔からの先輩ということもあって、快く引き受けてくださいました。パンチあるビジュアルに仕上げていただいて、大満足です。

新田桂一が撮影したメインビジュアル
新田桂一が撮影したメインビジュアル

メンバーは全員洋服が大好きなので、ユニフォームにもこだわっていて。ユニフォームは先輩がやっている「SUNNY C SIDER」、黒のパンツは「BEDWIN」、足元は「ニューバランス」さんに提供いただいています。

「SUNNY C SIDER」とコラボしたユニフォーム
「SUNNY C SIDER」とコラボしたユニフォーム

工藤:こうして、ユニフォームや内装にもこだわっていたら、ファッション誌などからも取材の依頼がたくさん来るようになって、今度アパレルブランドとコラボすることになったんです。

村田:取材前は、元鮨職人がやっていると聞いて硬い感じの方なのかな~と思っていたら、すごくオシャレなお兄さんばかりでびっくりしました。それにしても、なぜこれだけメディアに取り上げられるようになったんでしょうか?

工藤:味への自信はもちろんありますが、僕らがメディアに取り上げられている理由は、「ギャップ」なのかもしれません。鮨職人だけどバーガー屋さんをやるとか、バーガー屋さんだけど店内は銭湯っぽいとか、飲食店だけどユニフォームやビジュアルにまでこだわるといったように……。

左から:村田倫子、工藤慎也

 

工藤:あとは、「専門店」であることも重要だと思います。僕たちは「フィッシュバーガー専門店」とうたっていますが、『ヒルナンデス!』の「上半期取材殺到グルメBEST10!」で1位を獲得したお店は「エビフライ専門店」だったそうで……。1つのことに絞ったほうが話題になりやすいのではないしょうか。

今ではお子さんから年配の方まで幅広い年代のお客さんが来てくれるようになりました。朝日新聞とか日経新聞にも出していただいたんですけど、おばあちゃんが「写ってるよ!」とか言ってもってきてくれるんです。そういうの、最高にうれしいですね。

取材を終えて村田倫子が想うこと

ギャップについて興味深い話をしてくれた工藤さん。今回の取材、私の中での一番ギャップは彼の出で立ちその物。ミシュラン2つ星獲得、格式高い鮨屋で修行を積んだ職人。(誠に勝手な想像ながら)角刈りで、無口、ずっしり厳格な方とのインタビューか…緊張するな…。失礼のないようにしなくては…と、勝手に身構えていたのだがキッチンから顔を覗かせたのは、LAの風を感じさせる爽やかでお洒落なお兄さん。…こりゃいい意味で裏切られた!

仲間たちの声が飛び交い、活気にあふれてる店内。オープンキッチンからはお腹の音を誘うよい香りが立ち昇る。和と洋の絶妙なデザインをミックスさせた店内は斬新かつユニークで、同時にどこか懐かしさも感じる。

看板メニューのフィッシュバーガーの旨みを噛み締めながら聞いた、お店や、夢に対しての熱い男の話。私の中の熱量も触発されて、じんと胸が熱くなる。好きなことを真っ直ぐに語る人の目は、それはもう爛々に輝いていて眩しかった。

自分の夢、経験、好きなことに正直で、熱い男たちが手間暇かけて振るう料理。そりゃ、こんだけ美味しくてファンが多いわけだ。

サイト情報
HereNow

アジアを中心としたクリエイティブシティガイド。現在東京、京都、福岡、沖縄、台北、バンコク、シンガポール、ソウルの8都市で展開しています。

店舗情報
deli fu cious

住所:東京都目黒区東山1-9-13
営業時間:12:00〜21:00
定休日:水曜
電話番号:03-6874-0412
最寄り駅:中目黒駅

プロフィール
村田倫子 (むらた りんこ)

1992年10月23日生まれ、千葉県出身のモデル。ファッション雑誌をはじめ、テレビ・ラジオ・広告・大型ファッションイベントへの出演など幅広く活動している。自身初のスタイルブック「りんこーで」は発売から1週間で緊急増刷となり、各種SNSのフォロワーも急上昇中。趣味であるカレー屋巡りのWEB連載企画「カレーときどき村田倫子」では自らコラムの執筆も行ない、ファッションだけにとどまらず、カルチャー・ライフスタイル分野でも注目を集めている。

工藤慎也 (くどう しんや)

1982年9月10日生まれ、愛知県出身。20歳で鮨職人の世界に入り23歳から銀座の有名店で修行する。32歳のときに渡米し、帰国後中目黒に鮨屋が作るフィッシュバーガー専門店deli fu ciousを オープンする。



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