脱スタバ宣言のニール・ヤング、遺伝子組み換え作物にまだまだ吠える

ニール・ヤング「GOODBYE STARBUCKS!!!」宣言は続く

ニール・ヤングが、「これまで毎日列に並んでラテを買ってきたが、昨日が最後になった」とし、「GOODBYE STARBUCKS!!!」を宣言したのは昨年末のこと。遺伝子組み換え作物(GMO)の使用を明記する制度を条例化したアメリカ・バーモント州に対して、バイオ化学メーカー・モンサントが、条例を差し止める訴訟を起こした。ニール・ヤングはこの訴訟にスターバックスが加わっているとし、声を上げたのだ。モンサントは、かつてはベトナム戦争の際にアメリカ軍が空からバラまいた枯葉剤を製造、その後、牛成長ホルモン剤、除草剤のラウンドアップ、GMOなどで事業を拡大してきた。とりわけ、GMOについては90%もの世界シェアを持つ。ニール・ヤングは、モンサントの主義主張に同調しようとしたスターバックスを名指しすることで、消費者の知らぬ間に荒らされていく食への危機を訴えたのだ。

彼の申し出に対し、スターバックス側は「バーモント州の法差し止めには加わっていないし、モンサントと同盟を組んでいるわけでもない」と反論している。その反論を受けた形で、今月、ニール・ヤングがホームページに再度声明をアップした。「食べ物の中身を知る権利を求める人々に対して、その主張を負かそうとする企業を支援するつもりはない」とし、改めて「モンサントとスターバックスは同盟を組み、バーモント州を提訴している」という主張を繰り返し、「スターバックスは、自社の製品にGMOが含まれているのかどうかという、こちらからの設問に反応しなかった」と批判している。

「大体一緒だから」という乱暴な言い訳を使う遺伝子組み換え作物

いたちごっこになりつつあるが、ニール・ヤングが相手にしているモンサントを単なる大企業の1つとして捉えるだけではいけない。ブレット・ウィルコックス『日本では絶対に報道されないモンサントの嘘』(成甲書房)を開けば、同社はGMOを量産し、世界の種子市場を独占してきた挙句、今ではアメリカの国家戦略とも寄り添っているとある。国務省とモンサントは蜜月関係にあり、農業の世界における『ノーベル賞』とも言われる『世界食糧賞』の授賞式でケリー国務長官が、「飢餓と栄養不良を撲滅するために尽力した」「バイオテクノロジーが作物の収穫量を劇的に増やすのは紛れもない真実だ」とモンサントの主張をそのまま代弁した。

モンサントがGMOの安全性を示すために使う概念が、米国食品医薬品局(FDA)が提示する「実質的同等」。先の本から引くと、「実質的同等」とは「バイオテクノロジーによって改良された作物由来の成分を使った食品はまったく安全であり、それ以外の食品と異なるところは一切ない」という考え方。大体一緒だから大丈夫、という乱暴な言い訳を国家が率先して広めようとしている。

「反モンサント」アルバム&ツアーを発表した、ロック親父の粘着質な攻勢

怒れるロックンローラーの憤怒は、まだまだ収まらない。ニールは、ウィリー・ネルソンの息子たちが所属するバンド、Promise of the Realとコラボレーションし、反モンサントを訴えるアルバム『The Monsanto Years』を6月にリリースする予定になっている。

本作に収録される新曲を、先月行なわれたライブで披露したが、それらのタイトルは“The Monsanto Years”“Rock Starbucks”“Seeds”“Too Big to Fail”と超直接的。昨年からの一連の訴えを楽曲に注ぎ込んでいるようだ。7月には「反モンサント」を掲げてのツアーも実施、ツアー中盤の7月19日には、訴訟で揺れるバーモント州にある「Champlain Valley Expo」でもプレイする予定になっている。ロック親父の粘着質な攻勢に痺れる。

「食料が足りていない」「飢餓を救う」と主張するトリック

闇雲に「安全です」と喧伝されているGMOに対して、「安全ではない」と立証していくことは難しい。現在上映されている、GMOをめぐるドキュメンタリー映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』を観ると、モンサントをはじめとした遺伝子組み換えビジネスが「何が安全か」をはぐらかし続けることによって規模を拡大してきた危うさが浮き彫りになる。

『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』
『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』

彼らは常套句として、「GMOが飢餓を救う」と繰り返す。企業広告としてこんなメッセージが流される。「10億人には十分な食料がありません。我々が直面している課題は人口の増加です。食料供給を増やし、不足している所に届けられるかが我々の課題です(トム・ウィルトラウト / ダウ・アグロサイエンス社)」「10億人が飢えています。その多くは小さな農家です。世界の食料危機を解決できるのは我々です(ヒュー・グラント / モンサントCEO)」。

多額の広告費を使ってばらまかれるこれらの見解は、繰り返されることで正義の主張に思えてしまう。しかし、映画の中でミレニアム研究所代表のハンス・ルドルフ・ヘレンが断言する。「私たちは1人1日当り、4600カロリー分の食料を生産しています。必要な量の2倍です。すでに140億人に十分な食料を生産しているのです。食料が足りないと主張するのはバイテク産業です」。食料が足りないのではなく、分配が適切ではないのだ。「飢餓を救う」「食料危機を解決する」は、受け手を勘違いさせようと働きかけるトリックでしかない。

「ニール・ヤングってやっぱりすげーな」で済ませてはいけない

モンサントの種子を受け取る側も黙っているわけではない。この映画で紹介される、ハイチの農民の事例が象徴的だ。2010年、ハイチ大地震によって31万人を超える人が亡くなり、首都ポルトープランスを中心に壊滅的な被害が生じ、数百万人がテント暮らしを余儀なくされた。モンサントは、ハイチに対して475万トンの種を寄贈した。困窮の中にある農民たちは喜んで受け取ったのか。否。農民は、その種子を燃やしたのだ。現地の農民運動指導者がその理由を語る。「資本主義的な企業の典型的なやり方です。モンサントの目的は利益を得ることです。彼らの目的は食の安全を保証し生命を守ることではないのです」と厳しい口調で繰り返す。

先ほど「怒れるロックンローラー」とあたかも特別なことのように書いたが、やっぱり、「ロックンロール」と「怒れる」は平然とくっ付いていてほしい。特定の企業を名指しし、その企業を支援するコーヒーチェーンを拒否し、その主張をアルバムに仕立て、ツアーを組んで訴え続けるニール・ヤングの憤りは、表現者としての「生物多様性」を守っていく行為だ。彼の問題提起は、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参入の動きが進展する日本にとっても、目の前の大きな課題になりつつある。「ニール・ヤングってやっぱりすげーな」だけではなく、今こそ、彼の主張をしっかりと受け止めるべきだろう。

作品情報
『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』

2015年4月25日(土)から渋谷アップリンク、名演小劇場ほか、全国順次公開中
監督:ジェレミー・セイファート
出演:
セイファート監督のファミリー
ジル=エリック・セラリー二
ヴァンダナ・シヴァ



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