特集 PR

クラシック界の若きスター・反田恭平の魅力を湯山玲子が徹底解説

クラシック界の若きスター・反田恭平の魅力を湯山玲子が徹底解説

反田恭平『Clair de Lune〜Recital Pieces Vol.1』
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:豊島望 編集:山元翔一、川浦慧
2017/08/10
  • 727
  • 328

ほとんどのクラシックマニアは、音楽そのものよりもウンチクが好きだったりするんですよ。「こんなにクラシックを知っているオレ様すごい」という。(湯山)

反田:今回演奏したのは晩年の作品に近いんですけど、それ以降になると、ソナタでも50分近くの曲もあったりして――昔の人たちもやっぱり曲を書いて生活をしたのですが、この時期のシューベルトは「ヒットさせよう」と思って書いてなさそう(笑)。

自分の音楽を最後まで貫き通した作曲家だと思いますし、だからこそ普通に弾くと、ちょっとつまらなく聴こえてしまう楽譜なんですよね。それを自分の中でどう解釈し、どう味付けして色をつけて、工夫をしていくかが勝負の鍵なのだと思いますね。そこで編み出したのが、さっきお話したオーケストラ譜に見立てるという方法なんです。

―なるほど。演奏するときは、その曲が生み出された時代背景や、作曲者が置かれていた境遇なども、切り口として調べているのですか?

反田:それは絶対に必要です。例えば、ショパンの“革命のエチュード”という曲がある。ショパン自身がそういうタイトルをつけたわけじゃないんですが、なぜ「革命」かというと、「11月蜂起(ロシアの支配に対する武装反乱)」での、ロシアによるワルシャワ侵攻(1831年)とほぼ同じ時期に公表された曲だからなんですね。

そのときショパンはパリにいて、ロシアに侵攻された祖国に戻ることができなかった。そういう思いから書かれているんです。もちろん、有名な曲だし聴けば楽しい曲とは誰も思わないですけど、その「悲しみの度合い」を弾き分けるためには、その曲の背景を知る必要がありますね。

―聴く側もそういう予備知識を持っていた方が、より作品を理解する手立てになりそうですよね。

反田:なので僕は、できれば演奏する前に「この曲はこういうシチュエーションで書かれて……」みたいなことを説明したいんですよね。例えば美味しい料理を食べるときも、その食材がどこのもので、って説明された方が背景がわかって楽しめるじゃないですか。

反田恭平

湯山:でもね、そういうウンチクは両刃の刀で、クラシックをダメにしたとも言える(笑)。「こういうストーリーがあるんだから、こういう気持ちで聴きなさい」というのは、ある意味では固定観念を植え付けることになるでしょう? 私は作曲家の家に生まれたから痛感しているのだけど、ほとんどのクラシックマニアは、音楽そのものよりもウンチクが好きだったりするんですよ。でもって、「こんなにクラシックを知っているオレ様すごい」という。

でも、さっきも言ったように、音楽は感覚で聴き、感情で受け止めるべきものです。その上で、それらを廃してこそ、という表現もある。最初に聴いたときの、生理的な好き嫌いみたいな感覚をもっと大切にしてほしいんです。だって、ベートーヴェンなんてそうとう、キャッチーなメロディーメイカーとしての魅力がある。しかし、彼の伝記を読んで、交響曲ばかり聴いていると「苦悩の作曲家」みたいな固定観念が植え付けられてしまうじゃないですか。それはもったいないと私は思うんですよ。モーツァルトの楽曲も、映画『アマデウス』(1984年)的なイメージからは、逸脱する独特の闇があるし。

左から:反田恭平、湯山玲子

反田:確かに。一理ありますね。

―湯山さんが『爆クラ!』を開催しているのも、そういう固定観念から自由になってクラシックを楽しんでもらうため?

湯山:そうですね。『爆クラ!』では毎回ゲストをお呼びして、その人たちの超個人的な感想からクラシックを語ってもらうようにしています。例えば、先ほど話題になった池上英樹さんにゲストで出てもらったのですが、打楽器という楽器を通して見た場合のクラシック音楽、というのは、また、聴こえ方が違う。ゲスト各々の独特な視点を共有しながら、新しいクラシックの聴き方を楽しむのが『爆クラ!』。

他にも、例えばショパンの中にある「サウダージ感」を見出すとか。サウダージというのはブラジル音楽、カエターノ・ヴェローゾ(作曲家 / 歌手)やジョアン・ジルベルト(歌手 / ギタリスト)の中にある、なんとも言えない切なさなんですが、ショパンを聴いたときの気分はそこに非常に近いのではないか、と私は思うのですが、そういうことを発見していくのが『爆クラ!』の楽しさですね。

湯山玲子

自分で学校を創設して、そこに世界中の音楽家の卵を呼び寄せたい。(反田)

―そういえば、8月半ばに『富士山河口湖音楽祭 2017』で、ぱんだウインドオーケストラと共演してガーシュウィンの“ラプソディインブルー”を演奏するそうですね。この曲はジャズとクラシックの中間みたいな曲で、それこそいろいろな切り口で語れるし、演奏の仕方も様々なバリエーションがありそうです。

反田:そうですね。湯山さんのおっしゃる「超個人的な思い入れ」ということで言えば、僕にとって“ラプソディインブルー”はそれこそ『のだめカンタービレ』のドラマで知った曲で。あと、ガーシュウィンはメチャクチャどヤンキーだったんです。札付きの不良で、そんな彼がピアノを弾くというので周りは驚いたし、書いた曲があんなだった。僕もアウトローって言われている組なので、少しは気持ちもわかります。

湯山:え、『のだめ』で知ったの!

反田:はい。このアルバムに入っている曲は、最初は漫画で知ったものがほとんど……(笑)。

反田恭平

―ジャズや即興についてはどう思いますか?

反田:僕にとってはすごくハードルが高いですね。でも、いずれは一から勉強してみたい。そのとっかかりとして、今回“ラプソディインブルー”を演奏するということは、僕にとってものすごく大きな一歩です。なかなかクラシックにはないリズムが出てくるんですよ。ひたすら連打するなんて、モーツァルトやベートーヴェンの曲にはない(笑)。

―ロック、ポップス畑の私からすると、ガーシュウィンってThe Beach Boysにすごい影響を与えたんだなあって思います。

反田:あ、The Beach Boysは僕も好きですね(笑)。

―そういうところから、クラシックに入っていくこともできそうですね。洋楽を聴いている人や、クラブミュージックが好きな人は、歌詞の意味より「音」そのものに重きを置いている人が多いですし、クラシックを聴くための「耳」は出来上がっているはず。

湯山:そうですね。言葉を理解するのとは違う感覚というか、もっと純粋に、音やメロディー、和声に耳を向け、自分の中からどんな種類の感情が引き出されているのか、そこに向き合っていく。そう、クラシック体験は、自分に向ける感情実験。それが出来るようになると、クラシックの楽しさにどんどん引き込まれていくと思いますよ。

左から:反田恭平、湯山玲子

―反田さんは今、何か成し遂げたい夢をお持ちですか?

反田:ピアノやバイオリンのような楽器がなさそうな地域に行って、子どもたちに弾かせてあげるというのが一つの目標でもあるんです。「ピアニストになりたい」と思った14歳の頃、「将来の夢は?」と聞かれて「夢を与えられるピアニストか音楽家になりたい」と答えたことがあるのですが、そのときから変わらずそう思っています。自分でコンセルヴァトワール(フランスの芸術系高等教育機関)を創設し、そこに世界中の音楽家の卵を呼び寄せたい。

例えば今、クラシックを演奏する黒人ってあまりいないじゃないですか。黒人のグルーヴをクラシックに持ち込んだらすごいことになると思うのに。そういう学校を、この日本に開校できたらいいなと思っています。

湯山:それこそ、最初に話したような「権威主義」とは無縁の学校にしてもらいたいよね。「学校」という形態じゃなくてもいいのかもしれない。今の教育システムは、もう将来キープできないだろうから。それにしても、そんな壮大な計画が反田くんにはあったんだね。

反田:もっと言えば、僕が今ピアノを弾いているのってそのためなんですよね。ピアニストって、後世に残せるものが少ないんじゃないかっていう思いがあって、そういう意味でもコンセルヴァトワールを作るための準備を今からでも始めなきゃと思っています。

Page 3
前へ

リリース情報

反田恭平『Clair de Lune~Recital Pieces Vol.1』
反田恭平
『Clair de Lune~Recital Pieces Vol.1』(CD)

2017年6月21日(水)発売
価格:3,240円(税込)
COCQ-85364

1. I. アレグロ・モルト・モデラート
2. II. アレグロ
3. III. アンダンテ
4. IV. アレグレット
5.亡き王女のためのパヴァーヌ(ラヴェル)
6.喜びの島(ドビュッシー)
7.月の光 ~《ベルガマスク組曲》より 第3曲(ドビュッシー)
8.献呈(シューマン/リスト編)
9.別れの曲 ~《12の練習曲 作品10》より 第3曲(ショパン)
※HQ-CD仕様

ライブ情報

反田恭平ピアノ・リサイタル2017 全国縦断ツアー

2017年7月8日(土)
会場:神奈川県 ミューザ川崎 シンフォニーホール

2017年7月13日(木)
会場:静岡県 静岡音楽館AOI

2017年7月15日(土)
会場:愛知県 愛知県芸術劇場 コンサートホール

2017年7月21日(金)
会場:新潟県 長岡リリックホール コンサートホール

2017年7月28日(金)
会場:富山県 富山県教育文化会館

2017年8月3日(木)
会場:北海道 札幌コンサートホールkitara 大ホール(プログラムI)

2017年8月4日(金)
会場:北海道 函館市芸術ホール

2017年8月6日(日)
会場:福岡県 アクロス福岡 シンフォニーホール

2017年8月17日(木)
会場:岩手県 岩手県民会館 中ホール

2017年8月20日(日)
会場:福島県 福島市音楽堂

2017年8月26日(土)
会場:兵庫県 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール

2017年8月31日(木)
会場:秋田県 秋田アトリオン 音楽ホール

2017年9月1日(金)
会場:東京都 初台 オペラシティ コンサートホール(プログラムI)

『河口湖音楽祭2017 反田恭平のKIDSコンサート ~ピアノってどんな楽器!?』

2017年8月15日(火)
会場:山梨県 河口湖円形ホール

『河口湖音楽祭2017 ぱんだウインドオーケストラ2017』

2017年8月16日(水)
会場:山梨県 河口湖ステラシアタ-

プロフィール

反田恭平
反田恭平(そりた きょうへい)

1994年生まれ。2012年高校在学中に、第81回日本音楽コンクール第1位入賞。併せて聴衆賞を受賞。2013年M.ヴォスクレセンスキー氏の推薦によりロシアへ留学。2014年チャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院に首席で入学。2015年プロとしての第一歩を踏み出す。イタリアで行われている「チッタ・ディ・カントゥ国際ピアノ協奏曲コンクール」古典派部門で優勝。7月にはデビューアルバム「リスト」を日本コロムビアより発売。またCDのデビュー以前に東京フィルハーモニー交響楽団定期への異例の大抜擢を受け、ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 を熱演し、満員の会場で大きな反響を呼んだ。そして、年末には「ロシア国際音楽祭」にてコンチェルト及びリサイタルにてマリインスキー劇場デビューを果たす。2016年に開催したデビューリサイタルは、サントリーホール2000席が完売し、圧倒的な演奏で観客を惹きつけた。夏の3夜連続コンサートをすべて違うプログラムで行うも一般発売当日に完売し、3日間の追加公演を行い新人ながら3,000人を超える動員を実現する。コンサートのみならず「題名のない音楽会」「情熱大陸」等メディアでも多数取り上げられるなど今、もっとも勢いのあるピアニストとして注目されている。最新CDは11月に発売された、Aバッティストーニ指揮RAI国立交響楽団とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番のセッション録音。現在、国内外にて演奏活動を意欲的に行っている。

湯山玲子(ゆやま れいこ)

1960年生まれ、東京都出身。著述家。文化全般を独特の筆致で横断するテキストにファンが多く、全世代の女性誌やネットマガジンにコラムを連載、寄稿している。著作は『四十路越え!』『ビッチの触り方』『快楽上等 3.11以降を生きる』(上野千鶴子との対談本)『文化系女子の生き方 ポスト恋愛時宣言』『男をこじらせる前に 男がリアルにツラい時代の処方箋』等々。クラシック音楽を爆音で聴くイベント『爆クラ!』と美人寿司主宰。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

Bullsxxt“Stakes”

ラッパーのUCDを中心とする5人組ヒップホップバンド、Bullsxxtによる1stアルバムから“Stakes”のMVが公開。絡み合う枠線の中で自由に揺れる彼らを街の光が彩る映像は、まるで青春映画のよう。アーバンメロウな生音ヒップホップに耳が喜び、胸が高鳴ります。(井戸沼)

  1. アメリカのユネスコ脱退にニューヨーク・メトロポリタン美術館が声明発表 1

    アメリカのユネスコ脱退にニューヨーク・メトロポリタン美術館が声明発表

  2. カズオ・イシグロ原作ドラマ『わたしを離さないで』が地上波で連日再放送 2

    カズオ・イシグロ原作ドラマ『わたしを離さないで』が地上波で連日再放送

  3. 高橋一生と二人鍋気分が味わえる動画公開 Mizkan『一生さんと〆チェン』 3

    高橋一生と二人鍋気分が味わえる動画公開 Mizkan『一生さんと〆チェン』

  4. 有安杏果に取材。ももクロとは異なる、ソロで見せる大人びた一面 4

    有安杏果に取材。ももクロとは異なる、ソロで見せる大人びた一面

  5. CINRAが贈る新イベント『CROSSING CARNIVAL』 12月に渋谷2会場で初開催 5

    CINRAが贈る新イベント『CROSSING CARNIVAL』 12月に渋谷2会場で初開催

  6. 柳楽優弥と有村架純がWOWOW新CMで初共演 柳楽は謎の鼻歌男に 6

    柳楽優弥と有村架純がWOWOW新CMで初共演 柳楽は謎の鼻歌男に

  7. ZAZEN BOYSからベース・吉田一郎が脱退「あらたな一個の肉の塊」に 7

    ZAZEN BOYSからベース・吉田一郎が脱退「あらたな一個の肉の塊」に

  8. 香取慎吾がアート展に作家として登場 「新しいこと、始まってます」 8

    香取慎吾がアート展に作家として登場 「新しいこと、始まってます」

  9. 木村拓哉が初の刑事役&長澤まさみと初共演 映画『マスカレード・ホテル』 9

    木村拓哉が初の刑事役&長澤まさみと初共演 映画『マスカレード・ホテル』

  10. 歌う心理カウンセラー心屋仁之助、苛立ち疲弊する日本人に助言 10

    歌う心理カウンセラー心屋仁之助、苛立ち疲弊する日本人に助言