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醒めた世代の表現者たち 佐藤麻優子と関川航平『1_WALL』対談

醒めた世代の表現者たち 佐藤麻優子と関川航平『1_WALL』対談

第18回『1_WALL』作品募集
インタビュー・テキスト
内田伸一
撮影:豊島望 編集:宮原朋之

自分の表現について言葉で考え、語るうえで良い機会になった――。異口同音にそう語るのは、『1_WALL』グランプリの経歴をもつ佐藤麻優子(写真部門)と、関川航平(グラフィック部門)だ。『1_WALL』は、多様化する時代に「表現すること」と真摯に向き合い、新しい表現を考える場を目指すコンペティション。毎回、写真とグラフィックの2部門に多彩な表現が集結する。

佐藤と関川は同じ第14回(2016年)のグランプリ受賞者で世代こそ近いが、『1_WALL』応募の動機も、表現スタイルも全く異なる。そんな二人が、表現と作品にまつわる思考との関係を語り合った。「表現すること」と「伝えること」をめぐる、俊英の対話をお届けする。

作品に言葉を尽くすべきとは思うけれど、それ以上に作ることは言葉を追い抜かなきゃいけない。(関川)

—関川さんの『1_WALL』グランプリ受賞作『figure』(2015年~)は、想像上のモチーフを、あたかも実在するもののように緻密に描いたドローイングでした。表現力だけでなく、そうした手法の示唆するものが、審査員から高く評価されたそうですね。

関川:僕はパフォーマンス作品を中心に活動していますが、ある時期からしばらく、鉛筆のドローイングを描き溜めていました。せっかくならこれを嫁に出したいというか。発表の場を得ることも含め、ただ漫然と作るのではなく、期日を決めて制作に張りを持たせたいという気持ちもあって応募しました。

関川航平
関川航平

関川航平『figure』シリーズより(2016年)紙・鉛筆 990×690mm
関川航平『figure』シリーズより(2016年)紙・鉛筆 990×690mm

—関川さんは身体を使う表現が多いこともあってか、「表現すること」と「伝わること」の関係に、とても意識的な印象を受けました。例えば『風邪をひいて、なおす』(2014年)は、美術館に設置したベッドの中で、自ら風邪をひき、会期中に治すというユニークな作品ですね。なにかを訴える表現というより、なにが伝わるかを探る実験のようでもあります。『figure』もこうした関心とつながっているのでしょうか?

関川航平『風邪をひいて、なおす』(2014年)広島市現代美術館
関川航平『風邪をひいて、なおす』(2014年)広島市現代美術館

関川:なにかメッセージがあって、それをある形の作品にして伝えたいと考えたことがあまりないんです。行為があって、そこに別の人がいれば、必ずなにかは伝達「されてしまう」。

また、これは自戒も含めてですが、コンセプトありきでそれを「変換」しているだけだと、作品自体ではなくて、作品にまつわる言葉の方が面白いってことが起こりがちだと思うんです。でも『figure』のときは、まず手が動いてくれるみたいな実感が強くあって。

関川航平『figure』シリーズより(2016年)紙・鉛筆 390×475mm
関川航平『figure』シリーズより(2016年)紙・鉛筆 390×475mm

—考えより先に、自然と創作が進んでいくような?

関川:実在しないモチーフを描きながら決めていくのですが「このあたりがこう凹んでいて……」とか勝手に描いては、自分でフムフム言っていました。手が先に動かせる作業がまだ自分のなかに残っていた喜び、みたいな。

ただ一方で、作ったものが自分自身にとって謎であっても、死ぬほど言葉を尽くすべきだとは思う。でもそれ以上に、作ることは言葉を追い抜かなきゃいけないと思うから……自分の内側での言葉と制作のレースみたいなものですね。でもこういう話って、写真にもあるんじゃないでしょうか?

本当にあったイヤなことが、写真で一度フィクションのような、別のものになることで消化できる。(佐藤)

—佐藤さんのグランプリ作品『ただただ』は、日常風景の中で友人たちを撮影した、生っぽさと奇妙さのある写真シリーズですね。実際は、事前の絵コンテやモデルへの指示、撮影後のデジタル加工など、かなり作り込まれたものだというのも興味深いです。

審査陣からは「若い世代の抱える閉塞感や退屈さを的確に表現」している、「写真の持つリアリティーが伝わる」と評価を得たと聞いています。そもそもの応募の動機はどんな経緯からだったんでしょうか?

佐藤:当時デザイン事務所で働いていたのですが、後輩の子が賞を獲ったりするのを横目で見つつ、自分の毎日がすごく嫌だったんですね。それで「なんでもいいから賞が欲しい」とデザインコンペにたくさん応募したのですが(苦笑)、全然ダメで。それから、本当は写真が一番好きだったと思い返して、写真で出してみようと決めたんです。その応募先として『1_WALL』を選びました。

佐藤麻優子
佐藤麻優子

佐藤麻優子『夜用』より(2016年)
佐藤麻優子『夜用』より(2016年)

—つまり、実質的なデビュー作ということですね。撮影の方法論というか、作り方はどんなものなのでしょう?

佐藤:私はマイナスの感情をきっかけに撮ることが多いんです。だいたいまず、不満やストレスに感じることや、その気持ちを言葉で書き出して整頓します。それをもとに絵コンテのラフイメージを描いて、どこで撮るのがいいか考えて。

モデルさんはその気持ちと見た目的にも合う人にお願いして、撮りに行く感じです。ラフはある程度イメージが固まったら、あとは余白を残したまま撮影に出て、その場で思いついたものも足しています。

佐藤麻優子『その後の私「奈々」』より(2017年)
佐藤麻優子『その後の私「奈々」』より(2017年)

—状況の再現というより、感情を起点に写真化するんでしょうか?

佐藤:実際の状況とは違うものも多いですね。本当にあったイヤなことが、写真で一度フィクションのような、自分とは別のものになることで消化できるというか。だから、ただ悲しい写真にしたいとかではなくて、むしろ自分のなかで笑い事にしてしまいたいという気持ちがあります。

それと、撮ったものができあがったら完結するのではなくて、それを他の人が見ることで、また全然違うものになる感覚もあります。『1_ WALL』の審査ではそうした他の人の視点に触れて、自分の引き出しを刺激してもらいました。話したり、言われたりして気づくことが多くて。

左から:佐藤麻優子、関川航平

—『1_WALL』の審査は、作家さんが自作を言葉で説明する場が多い仕組みですね。一次と二次の審査でポートフォリオをまとめて面接し、ファイナリストになると、最終審査のためにプレゼンテーションも行います。

佐藤:賞を頂いてからも、自分の写真に説明を求められることが多いので、すごく良い経験になりました。ただ、そこで端的にお話しするために言葉を用意するんですけど、ホントのはじまりは、言葉でうまく言えないモヤモヤしたもの。明確にこれとは言えない感覚や気持ちを写真にして出したものなんです。だから、さっきの関川さんの話は共感します。

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イベント情報

第18回『1_WALL』作品募集

応募受付期間:
[グラフィック部門]
2017年11月24日(金)~12月1日(金)
[写真部門]
2018年1月11日(木)~1月18日(木)

審査員:
[グラフィック部門]
川上恵莉子(アートディレクター)
菊地敦己(グラフィックデザイナー)
白根ゆたんぽ(イラストレーター)
大日本タイポ組合
都築潤(イラストレーター)
[写真部門]
飯沢耕太郎(写真評論家)
鈴木理策(写真家)
百々新(写真家)
姫野希美(赤々舎代表取締役、ディレクター)
増田玲(東京国立近代美術館主任研究員)

『BankART LifeV~観光』

2017年8月4日(金)~11月5日(日)
会場:神奈川県 横浜 BankART Studio NYK、ほか

『代官山フォトフェア2017』

2017年9月29日(金)~10月1日(日)
会場:東京都 代官山ヒルサイドフォーラム、ヒルサイドプラザ

「1_WALL」グランプリ受賞者トークセッション

2017年9月29日(金)17:00~18:30
会場:東京都 代官山ヒルサイドフォーラム、Exhibition Room
参加費:500円
定員:40名
お申し込み:当日先着順(フェア会場入り口にお集りください)
登壇:
吉田志穂(写真家)
青木陽(写真家)
浦芝眞史(写真家)
佐藤麻優子(写真家)
田中大輔(写真家)

プロフィール

佐藤麻優子(さとう まゆこ)

1993年3月7日東京生まれ、埼玉県育ち。専門学校 桑沢デザイン研究所中退。第14回写真『1_WALL』グランプリ。個展「ようかいよくまみれ」開催。

関川航平(せきがわ こうへい)

美術作家。1990年生まれ。パフォーマンスやインスタレーション、イラストレーションなど様々なアプローチで、作品を介して起こる意味の伝達について考察している。

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