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金森穣に訊く。ライバル不在の状況から、どう自身を高める?

金森穣に訊く。ライバル不在の状況から、どう自身を高める?

『NIDF2017―新潟インターナショナルダンスフェスティバル2017』
インタビュー・テキスト
友川綾子
撮影:豊島望 編集:川浦慧
2017/09/22
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Noism芸術監督・金森穣のこれまでは、全てが成功の道のりのように思えてしまう。舞踊の才を伸ばすべく17歳で留学。欧州の第一線の舞踊団で舞踊家・振付家として活躍し、帰国後は日本で未だにひとつしか存在しない劇場専属舞踊団を立ち上げている。さらに2年前には、新潟を世界から質の高い舞踊芸術が集まってくる地域にすべく、『新潟インターナショナル・ダンスフェスティバル』(以下、『NIDF』)を立ち上げたのだ。

快進撃を続ける金森のあり方を、「天から与えられた特別な才能の持ち主」だからと言ってしまえばそれまでだろう。しかし、金森は日本の劇場文化と舞踊芸術をより高みに押し上げるべく、今も平坦とはいえない道を歩み続けている。きっと何か原動力があるはずだ。そう思って、今回のインタビューではあえて「ライバルとは何か?」と問いかけてみた。

2015年に続いて今年ふたたび開催される『NIDF』は、金森率いるNoismと同じく、香港、韓国、シンガポールを拠点にプロフェッショナルに活動する舞踊団を招いている。Noismが他の舞踊団と比較をされやすい形のインターナショナル・ダンスフェスティバルを継続していくことで、いったい何が変わっていくんだろうか。

(メイン画像撮影:井上佐由紀)

自分のためにもNoismのためにも、一日も早く国内に劇場専属舞踊団ができてほしい。

―日本で唯一の劇場専属舞踊団を束ねていらっしゃる金森さんに、どうご自身を高めているかお聞きしたくて。日本で唯一ということは、戦う相手やライバルがいない「無敵」な状態であるといえると思うんです。

金森:自分が一舞踊家としてやっていた若い頃は、負けたくない相手もライバルもたくさんいました。それこそ、海外から日本に帰ってきたときは、みんながライバルだと思っていましたし。

でも、Noismを立ち上げて劇場専属の舞踊団を統括する立場となった今は、正直ライバルと呼べる存在はいないかもしれません。

―今、同じ立場で切磋琢磨できる存在はいない?

金森:そうですね。日本では自分と同じようなフィールドで活動している舞踊団がありませんから。だけど、ライバルがいないことは良くない事ですよね。切磋琢磨し合えるライバルの存在は必要です。

だからこそ、自分のためにもNoismのためにも、一日も早く国内に劇場専属舞踊団ができてほしいと思っています。そうでなければ、自分で自分を批判して鼓舞して、続けていくのがしんどくて(笑)。

金森穣
金森穣

―それだけ特殊な立場ということでしょうか。

金森:そうですね。たまにNoismの活動への批判を耳にすることもあるのですが、「いやいや、じゃあこの状況でやってみたら?」って、どこか批判を批判として受け止められない自分がいるんです。でも、それではいけない。

今自分がいる環境と、一舞踊家だった時は、考えなきゃいけないことが違うんですよね。だからこそ、自分と同じように集団を抱えて、行政とのやりとりが必要なところで戦っている人たちと出会いたい。今は『NIDF』などを通じて、同じような立場で活動している世界の舞踊団から刺激を受けるしかないんですよね。

―世界の舞踊団からは刺激を受けても、ライバルとまではいい切れないのでしょうか?

金森:劇場専属舞踊団のあり方は、たとえばフランスにはフランスの現状と歴史がありますし、それを日本に無理やり押し込んでも無理ですよね。日本の歴史と現状に対して何ができるかと考えることが重要ですから、海外の舞踊団から刺激は受けるけれど、ライバルという感じではない気がしますね。もちろん、芸術家としてのライバルはたくさんいますよ。今言っているのはあくまでも、舞踊団として自治体や国の文化政策と関わる活動におけるライバルね。

金森穣

―比較できる存在があれば、自分の強みも弱みも知ることができますよね。若い頃はライバルがたくさんいたということですが、金森さんは、ライバルから受けた刺激をどのように力にしていったのでしょうか?

金森:「すごいな。綺麗だな」ってまずは感動しますよね。そして「なんでそんな踊りや作品ができるのかな」と、まずは相手に憧れに近い興味を持つんです。で、自分もそれだけ感動を与えたり、評価されたいと思いますよね。だって負けたくないから。そこからが勝負というか、どうしてもその人や方法を知りたくなる。それで自分でも試していく過程で自分のダメなところとか、強みみたいなものを見出していく。

―舞踊の世界にはライバルはいないということですが、たとえば異分野ではどうでしょう?

金森:演劇だと、鈴木忠志さん(演出家であり、1966年に劇団早稲田小劇場を設立し、寺山修司や唐十郎とともに小劇場運動を担った代表的な推進者)は、すごくおこがましいけれど、勝手にライバルだと思っています。

―鈴木忠志さんは演劇界の方ですが、1982年から富山県利賀村で世界的な演劇祭を開催し続けていますね。

金森:そう。でも演劇祭をやっているというのは鈴木さんの活動のたったひとつであって、もう語り出したらすごいことがたくさんあるんですよ。本当に尊敬しているし、鈴木さんには敵わないと思ってしまいますが、それでも「くっそー!」と思うわけです。

完全にはひれ伏したくなくて。そういう意味でライバルだと思っているんです。だから、鈴木さんに対しての興味なら誰にも負けないです。

金森穣

―何がきっかけで、鈴木さんをライバルだと思うようになったんでしょう?

金森:鈴木さんを知ったのは、自分がりゅーとぴあの舞踊部門芸術監督に就任して、Noismを立ち上げ、日本の劇場文化についていろいろ学んでいた2005年頃のことですね。そのとき鈴木さんは、静岡県の劇場で芸術監督をされていて、その作品、言動、全てに感動しましたね。それで鈴木さんについて調べまくるわけですよ。舞台を見に行ったり、本を読み漁ったりしてね。

そこでスズキ・トレーニング・メソッドの存在も知りました。演劇の世界でこれだけ身体と向き合い、独自の方法論を確立している。しかもそれを日本で、なおかつ世界的視座で実践している人がいる。これはもう衝撃だよね。で、当然自分も負けたくない。舞踊家としての理論と、訓練メソッドを確立しなければならない、と。それでNoismオリジナルのトレーニングメソッドを作り始めました。

次の世代やもっと大きな何かのために、与えられたチャンスを、いかに真摯にいかすか。

―コンテンポラリーの舞踊芸術で、オリジナルメソッドを持っている舞踊団は世界的にも珍しいのでは?

金森:そうですね。現代ではそもそも集団でトレーニングしている舞踊団が少ないですからね。だから3月に公演を行ったルーマニアのブカレストやシビウでも、Noismのメソッドに関心を持つ人が多かったです。

ただね、発端は鈴木さんとの出会いだったけど、今となったら集団を維持していくためには、皆が何らかの言語を共有する必要があるし、舞台上にある身体の集団的強度を考えたら、みんなでトレーニングをしていることがいかに重要かということに気づくわけ。そのためにはメソッドが必要なんだと。

それで舞台の質も上がり、観客に集団ならではの感動も与えられる。それがたとえ古い考え方だとしても、自分が感動したり、憧れたりするような先人たちはそこを踏まえている。だったらNoismでもそこを目指したい。だからこそ、朝から晩まで使える稽古場と、舞踊家たちの生活の保障が必要だと、劇場専属であることの理論が強化されて来るわけなんです。

金森穣

―独自のメソッドや方法を作り出すのは、なかなか大変なことですよね。

金森:そうですね。バレエとモダンダンス、あるいは西洋と東洋の舞踊の融合とか。それにメソッドの開発も劇場専属舞踊団の運営方針も前例がないわけですから。ただ逆にいうと、1からフォームを作れるわけですからやりがいはあるんですよ。そして、それこそが、これだけの環境を与えてもらった自分の責務だし、次の世代に残していけるものだと思うんです。

Noismメソッドを、次の世代がいかしていくもよし、批判して何か新しいものを立ち上げるもよし。劇場専属舞踊団の運営方針も、継承したり変更したりすればいい。ようは何か次の世代に影響を与えるものを作っていかなければならない。作品とは別に活動形態としてね。

―尊敬と負けたくないという思いから、次世代に残すべきものが生まれてくるんですね。

金森:次の世代やもっと大きな何かのために、自分に与えられたチャンスを、いかに真摯にいかすことができるか。恵まれただけの自分に負けたくないでしょう。だから、異分野であっても大きな志を持つ人を見つけて、「あの人がそうやってきたんだから、自分にももっと何かできるんじゃないか」と思い続けることが大切です。鈴木忠志さんのような偉大な方が、今も世界と戦い続けているんですから。

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イベント情報

『NIDF2017―新潟インターナショナルダンスフェスティバル2017』
『NIDF2017―新潟インターナショナルダンスフェスティバル2017』

2017年9月26日(火)~12月17日(日)
会場:新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館

大邱市立舞踊団
『Mosaic』『Bolero』

2017年9月29日(金)
会場:新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
振付:ホン・スンヨプ
出演:大邱市立舞踊団

T.H.Eダンスカンパニー
『As It Fades』

2017年10月8日(日)
会場:新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
振付:クイック・スィ・ブン

城市当代舞踊団
『Amidst the Wind』

2017年10月15日(日)
会場:新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
振付:ウィリー・ツァオ、ヘレン・ライ、サン・ジジア、ドミニク・ウォン、ノエル・ポン

Noism1
『NINA-物質化する生け贄』

2017年12月15日(金)
会場:新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
演出・振付:金森穣
出演:Noism1

国際シンポジウム
『アジアにおける劇場文化の未来』

2017年12月17日(日)
会場:新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
登壇:
ホン・スンヨプ(大邱市立舞踊団)
クイック・スィ・ブン(T.H.Eダンスカンパニー)
ウィリー・ツァオ(城市当代舞踊団)
金森穣(Noism)
料金:無料

プロフィール

金森穣(かなもり じょう)

演出振付家、舞踊家。りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館舞踊部門芸術監督、Noism芸術監督。17歳で単身渡欧、モーリス・ベジャール等に師事。NDT2在籍中に20歳で演出振付家デビュー。10年間欧州の舞踊団で舞踊家・演出振付家として活躍後帰国。2004年4月、日本初の劇場専属舞踊団Noismを立ち上げる。2014年より新潟市文化創造アドバイザーに就任。平成19年度芸術選奨文部科学大臣賞、平成20年度新潟日報文化賞ほか受賞歴多数。

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