伊藤万理華と最新のプラネタリウムへ。職人に学ぶもの作りの極意

東京スカイツリータウン®内のコニカミノルタプラネタリウム“天空”が2017年11月にリニューアル。「Magic Blue」をデザインコンセプトに、訪れる人が「特別な瞬間」を体感できるエンターテイメント施設を実現すべく、最新の立体音響や投映システムなどを導入した。中でも目玉のひとつとなっているのが、プラネタリウム体験を至極のものにするチェア「三日月シート」。家具メーカー・ミネルバとのコラボレーションにより、三日月のデザインをもとに形状から材質に至るまで全てを、日本を代表するモデラーであり、卓越の職人であるミネルバの宮本しげるが自ら手掛けた。オーダーメイドで製作された3席限定の特等席は、連日予約で埋まる状況が続いている。

そんなプレミアムシートを、昨年末に乃木坂46を卒業した伊藤万理華が体験。乃木坂46の人気ユニット曲“あらかじめ語られるロマンス”では、星座について歌っていたものの、実はこの日が初めてのプラネタリウム体験だったという。

卒業前には初の個展『伊藤万理華の脳内博覧会』を開催し、2月に発表された初の写真集『エトランゼ』では自らスタイリングも担当するなど、生粋のクリエイタータイプである彼女。コニカミノルタプラネタリウムPRの佐野大介、ミネルバの宮本しげると共に、もの作りの心得について話し合ってもらった。

ホントは一人で座るものじゃないですよね?(伊藤)

—伊藤さん、これまでプラネタリウムに行ったことは?

伊藤:実は、これが初めてなんです。学校の遠足とかでも行ったことなくて。

伊藤万理華
伊藤万理華

—今日は『フランス 星めぐりの空で』というプログラムを三日月シートに座って鑑賞していただきましたが、初体験の感想はいかがでしたか?

『フランス 星めぐりの空で』(サイトで見る

伊藤:プラネタリウムって、もっと「星座の学習」みたいなものだと思っていたので、想像していたものと全然違いました。映像だけじゃなく、音とか香りも入り混じって空間ができあがっているんですね。それが、映画館とはまた違う「ひとつの空間」というか。

佐野:アロマの香りと共に星空を楽しむ作品もあって、香りが残っているのはその影響です。音に関しては、リニューアル時に新たに最新の立体音響システム「SOUND DOME®」を導入していて、ドームの裏側に47個のスピーカーが埋め込まれてるんですよ。

伊藤:えー!

伊藤万理華

プラネタリウムを鑑賞中
プラネタリウムを鑑賞中

—乃木坂46では「個人PVの女王」と呼ばれていたように、映像作品好きの伊藤さんからすれば、映像自体も気になったのでは?

伊藤:そうですね。ドーム型のスクリーンに映像が映し出されると、包まれている感じがしました。この形を生かして、もっといろんな映像を作るのも面白そうですよね。「プラネタリウム=星空」ではあると思うけど、今日観た作品はパリの街並みを観光するような感じで、面白かったです。

伊藤:この「三日月シート」も気持ちよくて、寝ちゃいそうでした(笑)。クッションもすごいモチモチしてて……でも、ホントは一人で座るものじゃないですよね?

佐野:基本ペアシートなので、一人で座ってもいいんですけど……大体二人です(笑)。

伊藤万理華

伊藤万理華

私みたいに、ものができるまでの過程を知りたい人は絶対いると思うし、そこに興味を持つと、もっと楽しいと思うんですよ。(伊藤)

—そもそも伊藤さんは、乃木坂46在籍中から『月刊MdN』(エムディエヌコーポレーション)でクリエイターとの対談連載を持っていたり、「もの作り」と近い距離感で活動をされていますよね。

伊藤:もともと母がファッションデザイナーで、父がグラフィックをやっていたりする中で育ってきたので、気になるものに対しては、「誰が作っているんだろう?」とか「素材は何だろう?」とか、調べたくなっちゃうんです。なので、もの作りの話を聞くのはすごく好きで。

伊藤万理華

—今日は、伊藤さんが「気持ちよかった」とおっしゃった「三日月シート」を作られた、ミネルバの宮本さんにも来ていただきました。

伊藤:私、演技やダンスといった表に立つ活動も好きなんですけど、ものを作る人と近い存在でいたいと思っていて。私みたいに、ものができるまでの過程を知りたい人は絶対いると思うし、そこに興味を持つと、もっと楽しいと思うんですよ。

—宮本さんは、普段はどういったものを作られているのでしょうか?

宮本:うちは家具の製造をやっていて、特に特注の家具が多いです。椅子とかソファがメインなんですけど、自動車のシートもやりますし、アーティスト作品のお手伝いをしたりもします。椅子を作る技術を使って、椅子からはみ出るような依頼も受けたりしています。「デザイナーやクリエイターの想いを形にする」モデラーとして、いろいろなお手伝いをしていますね。

宮本しげる(ミネルバ)
宮本しげる(ミネルバ)

佐野:「はみ出る」っていう表現いいですね。うちも一般的なプラネタリウムというイメージからはだいぶはみ出してるんで(笑)。

佐野大介(コニカミノルタプラネタリウム)
佐野大介(コニカミノルタプラネタリウム)

—伊藤さんもアイドルからだいぶはみ出してますよね(笑)。

伊藤:だいぶはみ出てますね(笑)。

もっと「ものを作る人」にスポットが当たってほしいなと思っているんですよね。(宮本)

—ミネルバの先代である宮本さんのお父さまは、日本初の「家具モデラー」だそうですが、それはどういったお仕事なのでしょうか?

宮本:「デザイン」と「もの作り」をつなぐ役割というか、デザインしたスケッチを、どうやって実際に具現化して、生産につなげていくか。そこをつなぐのがモデラーなんです。

ヨーロッパなんかでは、そういう役割が確立していて、社会的な地位もちゃんとしているんですけど、日本ではなかなかそうはいかないのが現状で。私はずっと工場で働いていて、職人として手を動かす人に対する想いが強いので、もっと「ものを作る人」にスポットが当たってほしいなと思っているんですよね。

—伊藤さんはそういう「作り手」に対して、強いリスペクトの気持ちを持っていらっしゃいますよね。

伊藤:それこそ連載をやっていたときは、クリエイターさんが、実際にものを作ってる様子を見せてもらったりもしたんです。自分の知識はまだ浅いし、全部を理解することは難しかったんですけど、その場に行くことで知れることがたくさんあって。そういう、もの作りの魅力を少しずつでも広められる人になりたいと思っています。

伊藤万理華

コニカミノルタプラネタリウムとしては「寝てしまうのも楽しみ方のひとつ」というスタンスなんですよ。(佐野)

—三日月シートを作るにあたっては、どんな苦労がありましたか?

宮本:ブルーとイエローの精密な縫製と、三日月をイメージできる滑らかな丸い形状を作るのが、なかなか難しかったです。普段は四角いものを作ることが多いので。それに、上を向く姿勢になるものは普段なかなか作らないので、それも大変でしたね。

通常のソファは前から後に向かってなだらかに傾斜をつけて、お尻の部分を低くするのがセオリーなんですが、今回の三日月シートは、使う人の姿勢がほぼ寝る状態なので、逆にお尻の部分を高くしました。

開発中、実際に試作品をプラネタリウムに設置して検証をしたところ、「寝ながら、空を見上げる」ためのもの、という事を実感しました。

 

三日月シート。正面から見ると、人が三日月に乗っているように見えるデザイン
三日月シート。正面から見ると、人が三日月に乗っているように見えるデザイン

伊藤:囲まれてる感じが落ち着くなって思いました。ソファと違うくつろぎ方ができるというか。すごくフワフワしていますよね。

宮本:「体にあたる部分は柔らかいけど、体をしっかり支えてくれる」という構造にするために、クッション材を硬いものから重ねていく、という作り方をしているんです。一般的なソファではここまでしているものは少ないのですが、今回の三日月シートに関しては、当社の旗艦ブランド『Kairos&M』の最上級品並みにかなりこだわって作ったんです。

伊藤:制作期間はどのくらいかかったんですか?

宮本:スタートしてから半年くらいかな? 通常は長くても3か月くらいでできるんですけど、様々なソファを見ていただいた中で、丸い形のソファ「TONDO」をベースに作ることになりました。デザイナーの方々に工場の現場にも入っていただいて、ああでもないこうでもないって、結構長くかかりましたね。

「三日月シート」のモデルとなった『Kairos&M』の「TONDO」ソファ
「三日月シート」のモデルとなった『Kairos&M』の「TONDO」ソファ

『Kairos&M』ショールームの様子
『Kairos&M』ショールームの様子

左から:宮本しげる、伊藤万理華

三日月シート制作時の資料を見ながら
三日月シート制作時の資料を見ながら

—今回の三日月シートに限らず、ものを作る上で、どんなことを大事にされていますか?

宮本:ブランド名でもある『Kairos&M』のカイロスは、ギリシア神話の「記憶に残る特別な時間をつかさどる神」なんです。なので、使ってもらう人に気持ちのいい時間を過ごしてほしいっていうのは常に思っていることですね。

佐野:先ほど伊藤さんがおっしゃった「寝ちゃいそう」って、作品の制作者側からすると、「寝てもいいですよ」とは言わないと思うじゃないですか? でも、コニカミノルタプラネタリウムとしては「寝てしまうのもプラネタリウムの楽しみ方のひとつ」というスタンスなんですよ。

エンターテイメントって、ライブにしろ、映画にしろ、「静」か「動」かっていったら「動」のイメージがありますよね。でも、「興奮する」とか「ワクワクする」と同じくらい、「癒される」とか「リラックスする」とか、何なら「眠たくなる」っていうのも、人間の感情として大切な要素だと思うんです。

伊藤:そうですね。

佐野:今まではエンターテイメントのジャンルに「癒し」というジャンルはあまりなかったかもしれないですけど、三日月シートで楽しむプラネタリウムは、究極の癒しのエンターテイメントになり得るんじゃないかという想いがあるんです。

だから、「とことん寝かせてやろう」くらいの感じで、こういうデザインのものを宮本さんに作っていただきました。三日月シートをきっかけに、「癒し」もエンターテイメントのひとつとして認知されたらいいなって。

佐野大介

宮本:佐野さんがおっしゃった「癒し」のエンターテイメントには、すごく共感する部分があります。最初はそういった想いまでは知らずにお手伝いしていたんですけど、実はコニカミノルタプラネタリウムのブランドコンセプト「Magic Blue」(=特別な瞬間)というのは、先ほどもお伝えしたように、当社のブランドの理念でもある、ギリシア神話の「記憶に残る特別な時間をつかさどる神」と共感する部分が多くて、今回プラネタリウムに関われたことはすごくラッキーでしたし、楽しかったですね。

伊藤:プラネタリウムって、専門的なイメージがあって、気軽に行くイメージがなかったんです。でも、映画とかと同じくらい、気軽に行けるものなんだなって、今日でイメージが変わりました。ふとした時に「プラネタリウム行く」って、かっこよくないですか?(笑)

伊藤万理華

佐野:プラネタリウムって、どうしても「学習」というイメージがあると思うんですけど、それだけにとらわれずどんどん新しいこと、新しい楽しみ方を提案しようと、エンターテイメントの方向に振り切るように意識しているんです。弊社は民間企業で唯一プラネタリウムの運営事業をやっている会社なので、自由度を高く次の次元の楽しみ方を提案していきたいなと。

粘ったから、自分がやれる限界を超えるところまでいけたと思います。(伊藤)

—伊藤さんの初の写真集『エトランゼ』(集英社インターナショナル)では、被写体だけでなく、スタイリングもご自身でされたそうですね。

伊藤:この写真集を作る前の卒業間近に、初めて個展(『伊藤万理華の脳内博覧会』)をやらせていただいたんです。そこでは自分の私物の展示と、自分で撮ったメンバーの写真、私物でスタイリングした自分の写真、ショートフィルムを作ったりと、いろんなことを詰め込んだんですね。

『伊藤万理華の脳内博覧会』(2017年10月5日~15日まで、渋谷GALLERY X BY PARCOにて開催された)
『伊藤万理華の脳内博覧会』(2017年10月5日~15日まで、渋谷GALLERY X BY PARCOにて開催された)(サイトで見る

伊藤:だから、自分の脳みそが「制作に関わりたい」というモードになっているときに、写真集の話をいただいて(笑)。写真集の制作のスタッフさんもすごく理解があって、私の提案をちゃんと聞いてくださり、話し合いながら一冊ができたので、他にないものになったと思います。

伊藤万理華写真集『エトランゼ』
伊藤万理華写真集『エトランゼ』(Amazonで見る

—でも、撮影初日はかなりテンパったそうですね(笑)。

伊藤:そうなんです! 事前に衣装を全部フィッティングして納得して、「これで撮影頑張りましょう」ってなっていたのに、撮影前日までずっとモヤモヤしてて、「私スタイリングに納得いってないんだ」って気づいたんですよね。それで誰にも言わずに服を買い足して、そのまま現地に行って……ご迷惑おかけしたなって。

宮本:ものを作る事にベストを尽くせてないと思うと、すごく不安になっちゃうんですよね。

伊藤:そうなんです。でも、そこで粘ったから、自分がやれる限界を超えるところまでいけたと思います。写真集って何冊も出せるわけじゃないから、大事にしたかったし、力試しにもなってよかったなって。

ちゃんと気持ちを押し通そうと思ったし、「年齢差は関係ない」って言っていただけると、すごく安心しました。(伊藤)

—では最後にもの作りの先輩であるお二人から、何か伊藤さんにアドバイスをいただけますか?

宮本:逆に、教えてもらいたいくらいです(笑)。作り手って、年齢が違えば先輩・後輩というのはあるにしても、同じ時代を生きてる人同士が刺激し合えば、学べることもたくさんあると思うんです。だから、年齢の差に関係なく、互いにデザイナーとモデラーの関係のように「いいもの」を作ろうと努力し合うことが大事なのかなと。

佐野:組織の中でもの作りをするのって、いろんな人がいろんなことを言い始めると、収集つかなくなることがあるんです。でも、自分が「こうしたほうが絶対良いものができる!」と思うことがあるなら、社長に「ダメ」と言われても、再度進言して理解を得るようにしています。

だって、やりたくないことをやってお客様に「よくなかった」って言われたら、最悪じゃないですか? それだったら、やりたいことをカタチにした上で、「ここはよくなかった」という部分が出たのなら、次に直せばいい。もの作りをする上ではある程度強引にでも、自分のやりたいことはやっていくことが大事だと思いますね。

—伊藤さん、お二人のアドバイスを聞いた上で、今後の展望はどうでしょうか?

伊藤:これまではずっとグループにいたので、その中で個性を出していくのが基本だったんです。でも、一人になったら、グループの中だと直接話せなかった人とか、制作側の人とも直接やりとりする機会が増えると思うんですよね。

伊藤万理華

伊藤:ただ、そこでちゃんと自分の意見を言えるのか、相手の意見を受け入れられるのかって、不安があったんです。でも、今日お二人の話を聞いて、ちゃんと気持ちを押し通そうと思ったし、「年齢差は関係ない」って大人の方に言っていただけると、すごく安心しました。一緒に楽しんでひとつのものを作るということを、私もどんどんやっていけたらなって思います。

サービス情報
コニカミノルタプラネタリウム“天空”

場所:東京都墨田区押上1丁目1番2号 東京スカイツリータウン・イーストヤード7階
営業時間:10:00~21:00
※時節に応じて変動あり

ミネルバ

場所:東京都品川区平塚1-10-7(ショールーム)
営業時間:10:00〜17:00

書籍情報
『エトランゼ』

2018年2月20日(火)発売
著者:伊藤万理華
価格:1,944円(税込)
発行:集英社インターナショナル

プロフィール
伊藤万理華 (いとう まりか)

1996年2月20日生まれ。2011年乃木坂46に1期生メンバーとして加入。演技、ファッション、芸術面と、グループの中では多岐に渡って才能を発揮し活躍。2017年12月をもってグループを卒業。2018年からソロ活動を開始。2月20日にはファースト写真集「エトランゼ」を発売。

佐野大介 (さの だいすけ)

2014年8月コニカミノルタプラネタリウム株式会社にPR・広報担当として入社。SNSをはじめデジタルマーケティング・PRを主に担当。現在は作品のアーティストキャスティングから、プラネタリウムでの音楽イベント「LIVE in the DARK」のプロデュースも担当している。プラネタリウム入社前は、大手音楽レーベルにて販促担当として関西・四国エリアの媒体を担当していた。

宮本しげる (みやもと しげる)

株式会社ミネルバ代表取締役。父宮本茂紀氏が創業した㈱ミネルバに入社、海外研修も含めて入社10年は職人に専念。JRや日産自動車のシート開発を担当する一方、宮内庁の儀装馬車の修繕、天皇の玉座修繕に携わる。2014年㈱ミネルバの代表取締役の就任。自社ブランドKairos&Mを立ち上げる。2016年 東京都優秀技能者(東京マイスター)知事賞受賞し、現在は設計や営業の現場にも立ち、隈研吾建築都市設計事務所の長岡市庁舎、坂茂建築設計の大分県立美術館など、多くのモデラーとしてマイスターとして特注家具を手掛ける。



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