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『ふじのくに⇄せかい演劇祭』宮城聰が語る、今芸術が必要な理由

『ふじのくに⇄せかい演劇祭』宮城聰が語る、今芸術が必要な理由

『ふじのくに⇄せかい演劇祭 2018』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:今井正由己 編集:宮原朋之

毎年ゴールデンウィークに静岡で開催される『ふじのくに⇄せかい演劇祭』。主催するSPAC(静岡県舞台芸術センター)の芸術総監督・宮城聰のディレクションのもと集められた国内外の実力作は、今日の社会が向き合う課題や問題と強くリンクしている。

今年、宮城は「発信」過多の世の中に対し、「聞く力」をひとつのテーマに据えた。例えば、SNSの世界で話題になった人や出来事に対して感じる、共感や反感。しばしば私たちは、彼ら有名人と自分の立場のあまりの違いに屈折した感情を覚えたりするが、そういった「差違」は本当に決定的なものなのだろうか。ひょっとすると、羨望を集める人々も、なんらかの焦りを抱いて言葉を発信しているのかもしれない。

そんな小さな想像をめぐらせ、そこから広い世界についてへと思いを広げていくことは、日常ではすこし難しい。でもひょっとすると、演劇やアートでならそれは可能かもしれない。『ふじのくに⇄せかい演劇祭』は、数々の上演作を架け橋として「あなた」と「世界」をつなげるのだ。同演劇祭が秘めている可能性、想像力のありようについて、今年のオープニング作品となる『寿歌』を自ら演出した宮城に聞いた。

『寿歌』はもっとも手も足も出なかった作品。でも、執筆当時の北村想さんの身体感覚があれば、自分に乗り移らせることができるかもしれない。

1979年、名古屋を拠点に活動していた劇作家・北村想によって書かれた『寿歌』は、「世界の終末の後」を舞台にした作品だ。登場人物は3人。旅芸人のゲサク、彼とともに踊りや歌を披露する奇妙な少女キョウコ、そして浮世離れした雰囲気をまとう長髪の男ヤスオが、ミサイルが飛び交い、放射能が漂う世界で旅を続ける、一種のロードムービーである。

しかしプロットと呼べるものはほとんどなく、3人は突然漫才を始めたり、いきなり死んで蘇ったりする。舞台も日本のような日本ではないような場所で、イエスキリスト本人であるらしいヤスオ(ヤソ)が存在する理由もはっきりしない。とにかく、あらゆるものが支離滅裂なままに話は進んでいく。

『寿歌』ビジュアル / 愛知県芸術劇場・SPAC-静岡県舞台芸術センター 共同企画 © 松本久木
『寿歌』ビジュアル / 愛知県芸術劇場・SPAC-静岡県舞台芸術センター 共同企画 © 松本久木

愛知県芸術劇場・SPAC-静岡県舞台芸術センター共同企画『寿歌』より ©羽鳥直志
愛知県芸術劇場・SPAC-静岡県舞台芸術センター共同企画『寿歌』より ©羽鳥直志

しかし、このデタラメな「エエカゲン」さが、終末を迎えた架空の世界にあっけらかんとした独特の明るさと殺伐さをもたらしている。何かと失望する出来事の多い現在だからこそだろうか? 本作を観ていると「こんな生き方こそ、リアルかもしれない」と、妙な切実さに駆り立てられる。

宮城:『寿歌』は初演以降、様々な演出家が何度も取り組んだ伝説の戯曲です。これまでチャンスに恵まれなかったのですが、いつか必ず北村想さんの作品に取り組みたいと思っていました。

年齢的にも物理的にも、僕が新作に取り組むことができるのは1年に1本が限界になりつつあります。そうなると、自分の残りの人生のなかで演出できる作品の残り本数を切実に考えるようになるんですね。それは「どんな人と出会いたいか?」という問いに、言い換えることもできるでしょう。そこで、真っ先に向き合いたいと思えたのが想さんでした。

宮城聰(SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督)
宮城聰(SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督)

「演出家は無から有を生み出す人ではない」と、宮城は言う。器に素材を盛り、ドレッシングをかける。サラダを作るような行為が演劇の演出だとすれば、そこで重要なのは素材に対する興味や好奇心なのだという。

宮城:僕には、演出をすることで戯曲を書いた人の思考回路がわかるようになる、という感覚があります。戯曲には、作者の世界の感じ方が、思いもよらず露呈してしまうような性質がある。

例えばそれはプロット(筋立て)に潜む「作為」から読み取ることができるのですが、『寿歌』からは、その「作為」がまったく見えてこない。想さん自身「どうしてこれを書いたのか自分でも不思議だ」とおっしゃっていますが、本当に奇妙な作品なんです。

宮城聰

『寿歌』を執筆した当時の北村は、精神的に不安定な状態だったという。一歩も外出せず、眠りに落ち、ふと目覚めては文章を書く。筆が止まれば、また眠る。そうやってわずか2日間で書き上げたのが、この終末的な世界だった。

宮城:このエピソードを聞くと、想さんは天から降ってきた言葉をそのまま書き付けたのではないかと思うんです。じつは、これまで私自身が取り組んできた作品のなかで、『寿歌』はもっとも手も足も出なかったものなんです。けれども、執筆当時の想さんの身体感覚があれば、自分に乗り移らせることができるかもしれない、と思いました。

この感覚を言葉にするのはひどく難しい。でも強いて言えば、それは孤独に対していかに向き合うか、ということになるでしょう。不安定な精神状態で、宙ぶらりんのまま孤独と付き合うのはとてもヘビーなことだったでしょう。カエルの卵のようにデリケートな心のコアを、むき出しにしたまま孤独と向き合った末に生まれたのが、この作品なのではないでしょうか。

宮城聰

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イベント情報

『ふじのくに⇄せかい演劇祭 2018』
『ふじのくに⇄せかい演劇祭 2018』

2018年4月28日(土)~5月6日(日) 会場:静岡県 静岡芸術劇場、舞台芸術公園、駿府城公園、レストラン フランセ

上演作品:
『寿歌』(演出:宮城聰、作:北村想)
『民衆の敵』(演出:トーマス・オスターマイアー、作:ヘンリック・イプセン)
『夢と錯乱』(演出:クロード・レジ、作:ゲオルク・トラークル)
『リチャード三世 ~道化たちの醒めない悪夢~』(演出・出演:ジャン・ランベール=ヴィルドほか、原作:ウィリアム・シェイクスピア)
『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』(演出:宮城聰、台本:久保田梓美)
『シミュレイクラム/私の幻影』(演出・振付:アラン・ルシアン・オイエン)
『ジャック・チャールズ vs 王冠』(演出:レイチェル・マザ、作:ジャック・チャールズ、ジョン・ロメリル)
『大女優になるのに必要なのは偉大な台本と成功する意志だけ』(演出・作:ダミアン・セルバンテス)
料金:一般4,100円 全演目パスポート16,000円
※障害者割引2,800円(要障害者手帳、付添1名無料)

プロフィール

宮城聰(みやぎ さとし)

1959年東京生まれ。演出家。SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督。東京大学で小田島雄志・渡辺守章・日高八郎各師から演劇論を学び、90年ク・ナウカ旗揚げ。国際的な公演活動を展開し、同時代的テキスト解釈とアジア演劇の身体技法や様式性を融合させた演出で国内外から高い評価を得る。2007年4月SPAC芸術総監督に就任。自作の上演と並行して世界各地から現代社会を鋭く切り取った作品を次々と招聘、「世界を見る窓」としての劇場づくりに力を注いでいる。14年7月アヴィニョン演劇祭から招聘された『マハーバーラタ』の成功を受け、17年『アンティゴネ』を同演劇祭のオープニング作品として法王庁中庭で上演、アジアの演劇がオープニングに選ばれたのは同演劇祭史上初めてのことであり、その作品世界は大きな反響を呼んだ。他の代表作に『王女メデイア』『ペール・ギュント』など。04年第3回朝日舞台芸術賞受賞。05年第2回アサヒビール芸術賞受賞。平成29年度(第68回)芸術選奨文部科学大臣賞(演劇部門)受賞。

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