インタビュー

黒瀬陽平が語るカオス*ラウンジ新芸術祭。震災後のアートを問う

黒瀬陽平が語るカオス*ラウンジ新芸術祭。震災後のアートを問う

インタビュー・テキスト
中島晴矢
撮影・編集:宮原朋之

昨年末、福島県いわき市で開催された『カオス*ラウンジ新芸術祭2017 市街劇 「百五〇年の孤独」』。「かつての復興の失敗を歩く」というセンセーショナルな見出しを冠されたこの展覧会は、明治時代に起こった寺院の打ちこわしがなされた「廃仏毀釈」の痕跡を辿りながら3つの会場を巡る「市街劇」だった。

殺風景な街並みの中、無縁仏の供養された寺跡や設置された作品群を見ながら歩いていくと、そこには本展開催に合わせて開山した密嚴堂という寺や、2017年暮れ、アルミ缶で鋳造された鐘で150年ぶりに除夜の鐘がつかれたという観音堂が待っていた。

言うまでもなく東日本大震災(以下、3.11)の被災地であるこの地で、3年連続して極めて異例の芸術祭を敢行してきたカオス*ラウンジ。その実践は、平、小名浜、泉と場所を拡張しながら、その土地の歴史を過剰と言えるほど掘り下げ、アートを通じた現在の復興のあり方や未来について考えるきっかけを模索してきたように見える。

ネットやアニメ、キャラクターといったオタクカルチャーをモチーフとしてきた彼らが、震災以降、なぜこれほどまでに徹底したリサーチを重ね、神話や宗教を動員してまで被災地を立体化する必要があったのだろう? キュレーターの黒瀬陽平に話を伺った。

日本国内のほとんどの芸術祭は単なる町おこし。震災後は特に、震災問題を扱う作品の違和感が強かった。

—2010年代の芸術祭隆盛の一方で、『カオス*ラウンジ新芸術祭』はそれらとは異なり、スペースを自分たちで開拓し、しかも被災地で行うというオルタナティブな芸術祭を志向していたと思います。黒瀬さんの感じていた既存の芸術祭に対する疑問点と、『新芸術祭』の開催意図とはどのようなものだったのでしょうか?

黒瀬:自前でやることに関してはいくつか理由があります。まず分かりやすいのは僕たちが震災後に、震災をテーマとした作品を作ったことで「炎上」したこと。それによって、助成金や公的なお金で活動することができなくなった。役所はクレームに弱いですから、炎上しているアーティストや団体に助成金を出すことは極めて難しい。

ただ、そのことで問題がはっきりしました。本来我々がやっていることは、日本の文化行政が全面的に喜ぶようなことではない。震災という大きなテーマを扱う以上、場合によっては地元住民が見たくないもの、考えたくないことについても触れなければならない。でもそれは、行政による町おこしの予算ではやらせてもらえない。だったら自前でやるしかない、と。

黒瀬陽平
黒瀬陽平

黒瀬:芸術祭に関して言うと、北川フラムさん(『越後妻有アートトリエンナーレ』『瀬戸内国際芸術祭』などの芸術祭を手掛けるアートディレクター)を先駆者とした日本の芸術祭の系譜は、とても重要だと思っています。北川さんは、日本が近代化する過程で切り捨てられた山村、農村を、現代アートの聖地にすることで復興させました。それは、かつて全共闘運動に深くコミットしていた北川さんなりの「前衛」であり、社会実験なのだと思います。

ただ、北川さん以降に出てきた芸術祭の多くは、単なる町おこしとして動員を期待されているに過ぎない。現在、全国各地でこれほど芸術祭が流行っているのに、3.11の被災地を舞台とした大型の芸術祭は、驚くほど少ないのです。復興はしたい、でも震災のことは深く掘り下げてほしくない、という自治体の欲望がはっきりと表れています。

もちろん、被災地でのアート活動にもたくさん助成金が落ちていますが、震災の問題を扱う作品の想像力の貧困に対して、違和感が強かった。

—それはどんな部分での違和感ですか?

黒瀬:例えば、被災地に入って当事者の言葉や経験を細かく引き出し、それらに寄り添いながら作っていくタイプの作品やプロジェクトがあります。そのような作品やプロジェクトは、一見、震災をテーマにした真摯な取り組みに見えます。

しかし、当事者に寄り添いすぎることで、本来であれば多くの「よそもの」と共有すべき震災や原発事故という人類的問題が、当事者の名の下に囲い込まれてしまうケースが多い。それは結果的に、震災にまつわる普遍的な問題を、当事者とそれを代弁するアーティストだけで独占することになってしまう。

そのような活動をしているアーティストの多くは、当事者しか分からないこと、経験できないことを安易に共有すべきではなく、むしろ「わかり得ない」ことを自覚するのがアートであり、倫理であると言います。しかし僕は、それは単に情報の独占であり、被災の記憶を死蔵してしまうのではないか、と疑問に思っていました。

今回の震災は、人類にとっても普遍的な事件であり、アーティストは作品を通じて、様々な人がアクセスして考えることのできる思考空間を提供すべきです。僕らは、震災をめぐる問題がわれわれに問いかけていることを言語化し、イメージし、作品体験として共有するためにはどうすればいいかを、ずっと考え続けてきました。

黒瀬陽平

—震災をめぐる問題のなかで、特にどのようなことに注目されたのでしょうか?

黒瀬:究極的には「死者」の問題です。災害や事故が起こればたくさんの人が亡くなります。3.11でも、たくさんの人が亡くなりました。その周りには多くの人々が取り残され、街全体がたくさんの死者を抱えることになる。残された人や街は喪失感を抱えたまま、死者の隣で生きていかなければならない。そういった問題を震災は僕らに問うていると感じたんです。

そのことを考えながら、なにかヒントとなるようなものを探しましたが、現代美術の中にリファレンスを見つけるのは難しく、宗教について考えるようになりました。人類史を見れば、長い間「宗教と美術」が死者の慰霊や鎮魂の役割を共有していました。そう考えると、かつて宗教が生きていた時代、美術と手を携えていた時代には、死者をどのように扱っていたのか。そういった興味が出てきたんです。

市川ヂュン『白い鐘』撮影:水津拓海(rhythmshift) / 『カオス*ラウンジ新芸術祭2017 市街劇 「百五〇年の孤独」』の会場のひとつとなった子安観音。アルミ缶で鋳造された鐘が吊り下げられ、2017年の暮れに150年ぶりに除夜の鐘がつかれた
市川ヂュン『白い鐘』撮影:水津拓海(rhythmshift) / 『カオス*ラウンジ新芸術祭2017 市街劇 「百五〇年の孤独」』の会場のひとつとなった子安観音。アルミ缶で鋳造された鐘が吊り下げられ、2017年の暮れに150年ぶりに除夜の鐘がつかれた

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イベント情報

『カオス*ラウンジ新芸術祭2017 市街劇 「百五〇年の孤独」』

2017年12月28日(木)~2018年1月28日(日)
主催:合同会社カオスラ
会場:福島県 いわき市 zitti

プロフィール

黒瀬陽平(くろせ ようへい)

1983年、高知生まれ。美術家、美術評論家。東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻博士後期課程修了。『思想地図』公募論文でデビュー。美術からアニメ・オタクカルチャーまでを横断する鋭利な批評を展開する。また同時にアートグループ「カオス*ラウンジ」のキュレーターとして展覧会を組織し、アートシーンおよびネット上で大きな反響を呼ぶ。著書に『情報社会の情念 —クリエイティブの条件を問う』(NHK出版)。

カオス*ラウンジ

ネットを中心に活動するアーティストたちが集まる、カオス*ラウンジ。2008年にアーティストの藤城嘘が展覧会&ライブペイント企画として立ち上げたところからはじまり、2010年から黒瀬陽平がキュレーターとして参加して以降、さまざまなプロジェクトを展開し、日本現代美術の歴史や文脈に対する批評的な活動で議論を呼んできた。

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