インタビュー

細田守が語る、映画『未来のミライ』で描きたかった現代の家族像

細田守が語る、映画『未来のミライ』で描きたかった現代の家族像

インタビュー・テキスト
宮田文久
撮影:豊島望 編集:久野剛士

アニメーションというのはジャンルとして見られがちですが、僕はそう思いません。

細田:僕は観客に対して、より現実感を浮かび上がらせる手法のひとつとしてアニメーションがあると思います。これは別に、僕が言い出したことではありません。最初にこう言ったのは高畑勲さんです。アニメーションというのは、ものすごく一生懸命、その対象を突きつめて観察して、描写することによって、写真で見る以上の現実を浮かび上がらせることができるものなんです。

細田守

高畑は、ほぼ2~3頭身のキャラクターによる『ホーホケキョ となりの山田君くん』(1999年)にあってでさえ、人物はどのように動くのか徹底して考え抜いていた。そのようなアニメーション観を引き継ぎながら、その先に、細田はアニメーションがなしうる可能性を見つめている。

細田:もっと言えば、西洋美術史における写真が登場して以降の絵画の存在理由、みたいなことと一致してくるのでは、と。アニメーションのほうが、現実を表現しうる……できるとはいいません、しうるんだ、と信じています。アニメーションだからこそ、現実や日常を描く意味がある、と。

あともうひとつ。アニメーションという技法を使えば、実写の映画が表現できないような視点から、作品を描くことができるんです。『未来のミライ』であれば、「4歳児の視点で家族を見たら、こんなふうに見えます」ということですね。実写では4歳児を演出しきることは難しいでしょうから。まったく異なる視点の物語を、映画史の中に刻み付けることができるという意味でも、僕はアニメーションにメリットを感じているんです。

その4歳児ならではの、アニメーションならではの描写として注目するべきは、予告映像でも使われている、くんちゃんと、とある女の子が家の中ではしゃぎまわり、飛び跳ねるシーンだ。

『おおかみこどもの雨と雪』でも、雪の斜面を転がり落ちながら高らかに笑い声を上げる子どもたちの姿が描かれていたが、こうした子どもたちが爆発させるエネルギーの描写は、『未来のミライ』においても監督こだわりのシーンだったという。

細田守監督『おおかみこどもの雨と雪』予告編

細田:ああいうシーンも、おそらくですが、映画史の中で珍しいシーンだと思います。これまで映画の中の子どもというのは、もっとかわいそうだったり、悲劇的だったり、もしくはその反動でスーパーヒーローっぽい超能力を持っているような描き方をされてきた。でも、ああいう生なましさ――気持ちが解放されて、「むちゃくちゃやったる!」みたいな(笑)、大人だったらとてもできない、子どもの欲望のままにみなぎるエネルギーや気持ちを、「部屋の中で暴れまくる」という描写で表現したんです。

あれは僕としては一種、純文学的に描いたところさえあります。「こんな描写、いままでないな、新鮮だな」って。だから自分としても痛快だったし、ご覧いただく皆さんにとっても、面白いシーンだと思うんですよね。そうしたシーンにふさわしく、田中敦子さん(『サマーウォーズ』や『バケモノの子』、ジブリ作品など、1970年代から活躍する名アニメーター)というめちゃくちゃパワフルな方に描いていただいているんですよ。こういうことが、アニメーション表現で可能なんだということを、楽しんで堪能してほしい、届いてほしいと願っています。

細田守

『未来のミライ』の中で、4歳児のくんちゃんは、1軒の家の中庭から世界に飛び立ち、その鮮やかな手触りと、自分が立っている場所を知っていくことになる。同様に『未来のミライ』という作品自体が、アニメーションという1軒の家から、不思議に満ちた世界と楽し気に取っ組み合い、感じたことのない喜びを引き出そうとしているように見える。

そのチャレンジに対しては、さまざまな見方、バラエティー豊かな感想が出てくるだろう。それくらい『未来のミライ』は、細田作品における新たな挑戦であり、新境地なのである。

細田:普通、アニメーションというのはジャンルとして見られがちですよね。つまり、アニメーションは子どものもので、子ども向けのことが描かれているだろう、と。僕はそうは思いません。アニメーションは、技法であり、視点だと考えています。

実写映画の150年の歴史の中で、才能ある監督が何本もの名作をものにしてきていますが、その中に、アニメーションという技法で、まったく新しい、面白い視点を刻み込むことができるとすれば、それはすごく意義があることだと感じます。

ジャンルという枠を外して、アニメーションというものを、もっとイノベイティブにとらえて僕らは作っていますし、ぜひ皆さんにも、そうしたジャンルにとらわれずに見ていただければ嬉しいですね。

細田守『未来のミライ』ポスタービジュアル/ ©2018 スタジオ地図
細田守『未来のミライ』ポスタービジュアル/ ©2018 スタジオ地図(サイトを見る

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作品情報

『未来のミライ』
『未来のミライ』

2018年7月20日(金)から全国東宝系で公開
監督・脚本・原作:細田守
音楽:高木正勝
オープニングテーマ:山下達郎“ミライのテーマ”
エンディングテーマ:山下達郎“うたのきしゃ”
声の出演:
上白石萌歌
黒木華
星野源
麻生久美子
吉原光夫
宮崎美子
役所広司
福山雅治
配給:東宝
プロデューサー:齋藤優一郎
企画・制作:スタジオ地図

プロフィール

細田守(ほそだ まもる)

1967年生まれ、富山県出身。金沢美術工芸大学卒業後、1991年に東映動画(現・東映アニメーション)へ入社。アニメーターを経て、1997年にTVアニメ「ゲゲゲの鬼太郎(第4期)」で演出家に。1999年に『劇場版デジモンアドベンチャー』で映画監督デビュー。2000年の監督2作目、『劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』の先進性が話題となる。その後、フリーとなり、2006年に公開した『時をかける少女』(原作:筒井康隆)が記録的なロングランとなり、国内外で注目を集める。2009年に監督自身初となるオリジナル作品『サマーウォーズ』を発表。2011年に自身のアニメーション映画制作会社「スタジオ地図」を設立し、『おおかみこどもの雨と雪』(12)、『バケモノの子』(15)と3年おきに話題作を送り出し、国内外で高い評価を得ている。最新作『未来のミライ』は『第71回カンヌ国際映画祭』「監督週間」に選出された。

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