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市原えつこが考える、テクノロジーを用いた新しい「弔い」の形

市原えつこが考える、テクノロジーを用いた新しい「弔い」の形

スパイラル『Ascending Art Annual Vol.2 まつり、まつる』
インタビュー・テキスト
内田伸一
撮影:佐藤麻優子 編集:宮原朋之

メディアアートの面白さは異質なものを現実にぶつけられる力があること。そこに挑戦し続けたいです。

—市原さんはもともとヤフー株式会社でデザイナーとして働きながら創作を続けた後、アーティストとして独立したのですよね。会社を辞めるか悩んでいたころ、占い師に相談したのが決断につながったとか。

市原:「あなたの守護霊が、早く会社を出なさいと言っている。脚を一回折ってゆっくり考えさせようとしている」と言われまして。その1か月後に会社で階段から落ちて本当に足を骨折したんです。骨折と言っても粉砕骨折ではなく、骨にひびが入った程度でしたが、それで背中を押されました。

ちなみに、今もその占い師さんには、コンサル的にいろいろ相談にのってもらってます。「このコンペを通すにはどうしたらいいか」「この人たちとのコラボレーションはいいのかどうか」とか。

市原えつこ

—それは完全に信じて頼っているのか、市原さん流の「合理性」でとらえているのか、どちらでしょうか?

市原:私にとっては「最終確認」ですね。会社員時代と違って、フリーランスは自分で自分を守るしかないので、一つひとつの選択に重圧がかかります。「うすうすイヤな予感はしてたけど、やってみたらやっぱりダメだった」的な経験も割としてきたので、その種の直観の精度を占い師さんとのお付き合いで磨いていく、そんな関わり方ですね。

—以前メディアアーティストの八谷和彦さんに取材した時、いわゆる「ニセ科学」の盲信などは別として、非合理的とされる考えが何かの「折り合い」を付けるために活きることはある、というお話がありました。子供だけで川に行くなと言うより、「河童に尻子玉を抜かれるぞ!」と話すほうが効果的な場合があるかもしれない。そこから視野を広げていくと、肉親の死の受け入れや宗教との関係などにも考えが及ぶという話でした。

市原:興味深いですね。私が面白いなと思うのは、たとえば河童の存在がそうした警告になることに加えて、やっぱりオカルトな一面もあることです。河童は水害で犠牲になった魂の集合体を表象するものではないか、と民俗学者の畑中章宏さんに教えてもらいました。

ナマハゲもコミュニティを維持するシステムとして優れているのと同時に、残り半分は「ほの暗い不気味さ」が残っている。その両面があるものに特に惹かれます。

市原えつこ

—市原さんはメディアアーティストとして、そうした「何か」を作りたいのですね。

市原:そうですね。メディアアートの面白さのひとつに、単にテクノロジーの斬新さだけでなく、パラレルワールド的なものや、異質なもの、白昼夢的なものを現実にぶつけられる力がある。そこに挑戦し続けたいです。そのことで世界の新鮮さや、隠れていた不気味なものが見えたりするかもしれない。

人って数十年も生きれば、常識やルーティンにどんどん囲まれていきますよね。それは培われたものだとも言えるけれど、そういう日常風景に異物が見えてしまった時の感覚が好きなんです。道端で化け物に出くわしたような驚きや余波を、自分の作品でも与えられたらと思います。

みんなは花火大会とか楽しんでるのに、なんで私は死と弔いのことばかり考えているのだろう……?

—市原さんは活動初期に、センサーを仕込んだ大根をさわると喘ぎ声が聞こえてくるという珍作にして問題作『セクハラ・インターフェース』なども手がけていますね。その初期の活動と今の作風がどうつながっているのか不思議だったのですが、そのお話でわかる気がしました。

市原えつこ、渡井大己、慶野優太郎『セクハラ・インターフェース』(2012年)
市原えつこ、渡井大己、慶野優太郎『セクハラ・インターフェース』(2012年)

市原:当時は日本の性文化のユニークさにとにかく関心がありまして(苦笑)。でも思い返せば、古い村社会にあった性器崇拝が発想源ですし、『セクハラ・インターフェース』のPepper版の感覚で開発した『ペッパイちゃん(PEPPAI-CHAN)』が炎上したことから、人がいかにロボットに感情移入しやすいかという気付きを得ました。だから、色々つながっている気はしますね。

私はグロいものとかは苦手ですが、キラキラした綺麗なものを作りたいとも思わないんです。そういうものは勝手に広がっていくと感じるから。一方で、簡単に割り切れないものは面白いですよね。たとえば『デジタルシャーマン』の制作時も、死について考え続けた果てに、めっちゃ気分が晴れて明るくなる瞬間を感じることもありました。

—それはどんな体験だったのですか?

市原:ちょうど季節が夏で世間は行楽ムードだったので、「みんなは花火大会とか楽しんでるのに、なんで私は死と弔いのことばかり考えているのだろう……?」と陰鬱な気分になっていました。当初は「死」全般について考えようと枠を広げすぎていて、いわゆる自殺の名所をめぐったり、死期を迎えた心理学者のテキストや、末期患者さんの世話をする看護士さんの手記を読んだりしていたんです。SNS経由で様々な方にアンケートをお願いして「自分が死んだらどう弔ってほしいか」「身近な人の死をどう乗り越えるか」を聞いたこともあります。

 

—それは精神的な体力が要りそうですね。

市原:そうなんです。でも続けていると、誰もがその人なりのやり方で死と向き合っていることが感じられてきて、「死とは、たとえば一日が終わってベッドに入るのとあまり違わないのでは」という、割とあっけらかんとした死生観に辿り着きました。

—市原さん自身は、どんなふうに死を迎えたいですか?

市原:それを考えた結果が『デジタルシャーマン・プロジェクト』でもあります。「死に支度」というか、自分がこの世を去ったら発動するシステムを用意しておけば何かと安心かなと。

今はFacebookにもそういう機能がありますよね(死後にアカウントを削除するか、思い出を家族や友人がシェアできる「追悼アカウント」状態に変更するかを、事前に選んでおける)。じつは死後、私の葬儀でロボットが司会進行できるように、「本日はワタクシ、市原の葬儀にお集りいただきありがとうございます」という自分の声も録音済みです。

 

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イベント情報

『Ascending Art Annual Vol.2 まつり、まつる』

『Ascending Art Annual Vol.2 まつり、まつる』

会期:2018年7月19日~8月5日(日)
会場:東京都 表参道 スパイラルガーデン(スパイラル1F)

画像:(左上)久保寛子『土頭(つちあたま)』(右上)市原えつこ『デジタルシャーマン・プロジェクト(左下2点) スクリプカリウ落合安奈『KOTOHOGI』(右下)桝本佳子『橘/皿』

久保寛子 作品公開制作

日時:2018年7月18日(水)11:00~20:00
会場:東京都 表参道スパイラルガーデン(スパイラル1F)
申込不要、観覧無料

市原えつこ トーク「日本の弔い、祭、儀式のリデザイン」&「顔面3Dスキャン体験」

日時:2018年7月28日(土)14:00~15:30
会場:東京都 表参道 スパイラルガーデン(スパイラル1F)
申込不要、参加無料

参加型盆踊りパフォーマンス『OBAKE音頭』

日時:2018年7月22日(日)14:30~(1時間程度を予定)
会場:東京都 表参道 スパイラルガーデン(スパイラル1F)
出演:快快-FAIFAI-
音楽:山中カメラ
申込不要、参加無料

プロフィール

市原えつこ(いちはら えつこ)

メディアアーティスト、妄想インベンター。1988年、愛知県生まれ。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系卒業。日本的な文化・習慣・信仰を独自の観点で読み解き、テクノロジーを用いて新しい切り口を示す作品を制作する。アートの文脈を知らない人も広く楽しめる作品性から、国内の新聞・テレビ・Web媒体、海外雑誌等、多様なメディアに取り上げられている。主な作品に、大根が艶かしく喘ぐデバイス『セクハラ・インターフェース』、虚構の美女と触れ合えるシステム『妄想と現実を代替するシステムSRxSI』、家庭用ロボットに死者の痕跡を宿らせ49日間共生できる『デジタルシャーマン・プロジェクト』等がある。第20回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞を受賞、総務省異能vation(独創的な人特別枠)採択。2018年に世界的なメディアアート賞であるアルスエレクトロニカInteractive Art+部門でHonorary Mention(栄誉賞)を受賞。

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