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長塚圭史が語る、演劇の本質。観客の想像力を喚起する演出とは

長塚圭史が語る、演劇の本質。観客の想像力を喚起する演出とは

『KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「セールスマンの死」』
インタビュー・テキスト
萩原雄太
撮影:江森康之 編集:宮原朋之

今の社会は、あたかも、僕らがバカになるように仕向けられているように感じる。

—「エンターテイメント作品」といえば、「頭を空っぽにして楽しめる作品」と理解されることもしばしばですが、随所に暗い影の射している『セールスマンの死』は、決してそのような種類の作品ではありません。長塚さんがエンターテイメントという言葉を使う時、どのような意味を指しているのでしょうか?

長塚:僕はどんな難解な劇を手がける時にも、「エンターテイメント」であることを心がけています。例えば、2011年から上演している三好十郎の『浮標(ぶい)』は、1940年に執筆され、戦争に巻き込まれていく時代を背景としています。これを、白い砂を敷いただけの抽象的な舞台で上演しました。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『セールスマンの死』稽古場写真 撮影:細野晋司
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『セールスマンの死』稽古場写真 撮影:細野晋司

—理解が難しそうな舞台ですね……。

長塚:しかし、白い砂の上で演技している俳優を見ていると、観客の頭の中には、あたかも畳が敷かれた部屋にいる登場人物たちが見えてくる。優れた劇は、観客の想像力を刺激し、登場人物の心情や関係性だけでなく、彼らがいる場所、そしてその裏にある社会までもクリアに見せてくれるんです。そこには、演劇を観る上での最も大きな喜びがあると思います。

—観客が想像力を駆使して見えないものが見えてくるということが、長塚さんの考える「エンターテイメント」なんですね。

長塚:一方で暴力的なまでに情報が詰め込まれ、観客を楽しませるだけの作品は、劇場に座っている時間を「現実を忘れるための時間」にしてしまいます。もちろん、それが悪いわけではないし、僕自身もそれを求めることがある。ただ、そんなエンターテイメントばかりでは、非常に危険だと思うんです。

長塚圭史

—「危険」とは?

長塚:想像することは、人間にとっての原始的な力です。演劇を観ながら想像力を育てていくことで、いろんな物を触ったり、見たり、時間を過ごす時に「豊かさ」を感じることができる。しかし、テクノロジーの発達によって、すごいスピードで何でも手に入る世の中になると、想像力は必要とされず、僕らの肉体性は奪われていきます。今の社会は、あたかも、僕らがバカになるように仕向けられているように感じるんです。

だから、いわゆる「エンターテイメント」とは対極的な、思考したり、何かを思い返したり、想像力を広げていく「能動的なエンターテイメント」があってしかるべき。僕にとっては、能動的に考えられる作品の方が、はるかに「エンターテイメント」ですね。

—そんな「エンターテイメント」のあり方を、昔から考えていたのでしょうか?

長塚:いえ、20代の頃は、それこそ暴力的に情報を与え、観客をびっくりさせることばかりを考えていたし、それによって人気を獲得していきました。けれども、そればかりを続けていくことに対して、僕自身がだんだんと疲弊してしまったんです。

驚きを与え続けるばかりでなく、お客さんの想像力を信用したい。それによって、お客さんとの新たな関係性を作ることができなければ、この先演劇を続けていくことはできないと感じたんです。10年くらい前、30歳を少し過ぎた頃の話ですね。

長塚圭史
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イベント情報

『KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「セールスマンの死」』ビジュアル
『KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「セールスマンの死」』

作:アーサー・ミラー
演出:長塚圭史
出演:
風間杜夫
片平なぎさ
山内圭哉
菅原永二
伊達暁
加藤啓
ちすん
加治将樹
菊池明明
川添野愛
青谷優衣
大谷亮介
村田雄浩

神奈川公演
2018年11月3日(土・祝)、11月4日(日)、11月7日(水)~11月18日(日)全12公演
会場:神奈川県 横浜 KAAT神奈川芸術劇場
料金:S席8,500円 A席6,000円 U-24券3,000円 高校生以下1,000円 65歳以上8,000円
※11月3日、11月4日はプレビュー公演

愛知公演
2018年11月29日(木)、11月30日(金)全2公演
会場:愛知県 東海市芸術劇場大ホール
料金:一般9,000円 U-25券4,500円

兵庫公演
2018年12月8日(土)、12月9日(日)全2公演
会場:兵庫県 西宮 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
料金:A席6,000円 B席4,000円
※未就学児入場不可

プロフィール

長塚圭史(ながつか けいし)

1996年、演劇プロデュースユニット・阿佐ヶ谷スパイダースを旗揚げし、作・演出・出演の三役を担う。2008年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト・葛河思潮社を始動、『浮標(ぶい)』『冒した者』『背信』を上演。また17年4月には、福田転球、山内圭哉らと新ユニット・新ロイヤル大衆舎を結成し、北條秀司の傑作『王将』三部作を下北沢・小劇場楽園で上演。同年10・11月には初めてKAATプロデュース作品に演出家として参画、『作者を探す六人の登場人物』を上演した。
近年の舞台作品に、『華氏451度』(上演台本)『MAKOTO』(作・演出・出演)、『ハングマン』(演出・出演)、『かがみのかなたはたなかのなかに』(作・演出・出演)、『プレイヤー』(演出)、『はたらくおとこ』(作.・演出・出演)、『ツインズ』(作・演出)、『十一ぴきのネコ』(演出)、『蛙昇天』(演出)、など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。また俳優としても『あさが来た』(NHK)、『Dr.倫太郎』(NTV)、『グーグーだって猫である』(シリーズ/WOWOW)、映画『花筐』、『yes!-明日への頼り』(ナレーション/TOKYO FM)など活動。

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