インタビュー

ポール・マッカートニーが日本で語る、感受性豊かな若い人たちへ

ポール・マッカートニーが日本で語る、感受性豊かな若い人たちへ

インタビュー・テキスト
黒田隆憲
通訳:染谷和美 編集:矢島由佳子、柏井万作

人にはそれぞれ人生の方向があり、自分たちで気づいて進んでいくのが大切なんだ。

—『Egypt Station』は素晴らしいアルバムで、あなたはThe Beatles時代から現在に至るまで、常に新しいものを取り入れて、最新の表現を実践しながら世界の最前線を走ってきました。

ポール:The Beatlesというグループは、アルバムを出すたびにアートフォームとして前進し続けてきたからね。とりわけ『The White Album』での成長は大きかった。内容も盛りだくさんだったし、かなりユニークな楽曲も入っていたからね。

自分たちとしては、『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』を作り上げたときに、「もうこれ以上、先には行けないかな」って正直思った。だけど、道を探せばちゃんと前に行けるということを、『The White Album』が証明してくれた。

The Beatles『The Beatles(The White Album)』(Apple Musicはこちら

—ただ、当時はメンバー同士の絆にも、少しずつ亀裂が生じ始めていたと聞きました。

ポール:ビジネス的にはゴタゴタしていたからね。オフィスに顔を出せば、大人たちから「ああしろ」だの「こうしろ」だの言われたわけだよ。僕らはその場で、「つまんない話だな」って内心思ってた(笑)。

だけどスタジオに戻れば、そこは4人だけの空間だ。クリエイティブな作業ができる、アーティスト集団としてのThe Beatlesはいつだって最高だった。ジョンの曲で僕がベースを弾き、僕の曲でジョンがギターを弾く……リンゴもジョージも、みんな一丸となった曲もたくさんあったんだ。

今振り返ってみれば『The White Album』も、The Beatlesのキャリアの中で1つの通過点だよね。The Beatlesの時代は、自分でも驚くような変化を経験してきた。様々なタイプのアルバムを出して、有名になってお金も入ってきて。未だに真似する人がたくさんいるくらい、クールなファッションを身に纏ってね。ガールフレンドができたり、結婚するメンバーもいたりして、人間的にも成長した。それが僕の20代。

—そのあともずっと変化し続けて、『Egypt Station』は36年ぶりの全米ナンバーワンを獲得しました。

ポール:そうだね。『Egypt Station』でまた前進ができたと思っているよ。「ああもう、アルバム作りなんて飽き飽きだ。お金も充分稼いだし、バケーションでも取るか」なんて言うこともできるわけじゃない?

—そうしたいですか?

ポール:いや、無理だな(笑)。時間があればすぐ創作活動に取り掛かりたくなるから。

—本当にワーカホリックなんですね。

ポール:言っておくけど、ちゃんと休暇も取ってるよ? 「すっごく忙しそうですよね」なんてよく言われるけど、実はこの8月は丸々休んでたしさ。そんなことできる人なかなかいないでしょ?(笑) 言うほどワーカホリックな人間ではないんだよ。でも、ひと月休むと「よし、また頑張ろう」って思えるからね。

—休暇は家族のためにも必要ですしね。家族といえば、ファッションデザイナーのステラを始め、写真家のメアリーや音楽家のジェームズなど、あなたの子どもたちはみなクリエイティブな仕事に就いていますよね。

ポール:そう、みんな頭がいいんだよね。ほら、これ見て(と言って、ポケットからスマホを取り出し、裏面に貼られた孫や子どもたちが写った集合写真を見せてくれる)。こうやってスマホのケースに写真を貼っておけば、いちいち画面を操作しなくていいから楽なんだ(笑)。

—とても愛らしい写真ですね。クリエイティブな人になるよう、特別な子育てをしたんですか?

ポール:いや全然。すべて本人に任せていたよ。ステラに「ファッションデザイナーを目指しなさい」なんて、僕からもリンダ(写真家だった最初の妻)からも言ったことはない。自分からファッションに興味を持つようになって、大学で服飾の勉強するようになった。メアリーも、ジェームズもそうだよ。

人にはそれぞれ人生の方向があり、自分たちで気づいて進んでいくのが大切なんだ。僕はそれをサポートしただけ。決して無理強いをしてはいけないんだよね。そんなことをすると、抵抗して親の望みとは真逆の道へ進むことだってあるから。

ポール・マッカートニー。© MPL Communications / MJ Kim
ポール・マッカートニー。© MPL Communications / MJ Kim

世界で起きていることは「振り子」のようなものだと思っている。

—あっという間に時間がきてしまったので、最後の質問をさせてください。『Egypt Station』でも様々なメッセージが歌われていますが、あなたは今の社会をどう見ていますか?

ポール:僕はね、世界で起きていることは「振り子」のようなものだと思っている。たとえば、リベラルな考えの方向へ偏ると、その反動で今度は逆方向へ向かう。残念なことに、それが今の「右傾化」じゃないかな。

たとえばトランプは、うーん……(顔をしかめる)やはり無神経な人間だなって思う。ピッツバーグの乱射事件(10月27日、米ペンシルベニア州ピッツバーグにあるユダヤ教礼拝所で、男が銃を乱射し11人が死亡し6人が負傷)があった直後に政治集会を行い、そこでファレル・ウィリアムスの“Happy”を使っただろ?

—はい。

ポール:(“Happy”を口ずさむ)“Happy”だぜ? あの曲を、あの状況で流せる人間が、果たして無神経でなくてなんだろう。トランプっていうのは、人に対する思いやりや想像力に欠けた人物だと思うね。

彼に限らず世界では今、様々な国で右傾化が進んでいると思うし、それはいいことじゃないと僕は思う。なので今は、その振り子がまた揺り戻されるのを僕自身は待っているんだ。必ず戻るとも思っているしね。

—そんな中、音楽はどういう状況にあると思いますか?

ポール:音楽そのものは、今なかなかいい状況なんじゃないかな。音楽的な人間は、リベラルな人が多いしね。一部のヒップホップに過激な歌詞が見受けられるけど、そういった内容に特別注意を払ったり、その内容に心酔したりするリスナーはほとんどいないだろうしね。「ただビートを楽しんでいるだけ」というか。

だから、そんなに深刻には考えてないし、音楽で人が悪い方向へ進むと僕自身は一切思わない。むしろその逆で、どんなポップミュージックであっても、音楽は人間にとっていいものだと僕は思っているんだ。今、問題があるのは政治の世界の人間だけだよ。

実は今日、Instagramにメッセージを投稿しようと思ってる。それは銃規制に関するメッセージなんだ。「アメリカのみなさんが、選挙において選ぶ政治家が、理性的な考えを持って銃規制に臨む考えの人であって欲しい」と。また、銃規制に関する集会に参加してきたのだけど、素晴らしかった。主に若い人たちが中心でね。中には、学校で銃撃戦にあったという人もいた。そういう人たちが参加しているのはとても意味のあることだと思うし、やはりここら辺で変化が訪れなくてはいけない。そうあって欲しいと思っているよ。

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イベント情報

『ポール・マッカートニー フレッシュン・アップ ジャパン・ツアー2018』

2018年10月31日(水)
会場:東京都 東京ドーム

2018年11月1日(木)
会場:東京都 東京ドーム

2018年11月5日(月)
会場:東京都 両国国技館

2018年11月8日(木)
会場:愛知県 ナゴヤドーム

リリース情報

ポール・マッカートニー『Egypt Station』
ポール・マッカートニー
『Egypt Station』(CD)

2018年9月7日(金)
価格:2,808円(税込)
UICC-10040

 

1.Opening Station
2.I Don’t Know
3.Come On To Me
4.Happy With You
5.Who Cares
6.Fuh You
7.Confidante
8.People Want Peace
9.Hand In Hand
10.Dominoes
11.Back In Brazil
12.Do It Now
13.Caesar Rock
14.Despite Repeated Warnings
15.Station II
16.Hunt You Down/Naked/C-Link
17.Get Started(ボーナルトラック)
18.Nothing For Free(ボーナルトラック)

プロフィール

ポール・マッカートニー

1942年6月18日、セールスマン兼アマチュア・ジャズ・ミュージシャンの父の下、リヴァプールに生まれる。1962年10月5日、ビートルズは『ラヴ・ミー・ドゥ』でレコード・デビューを果たす。1966年6月29日に初来日を果たし、6月30日、7月1日、2日に日本武道館において初のロック・コンサートを開催。ザ・ビートルズは1970年4月に事実上解散するまでの活動期間内に母国イギリスで12作のオリジナル・アルバムを発売し、その内11作が全英アルバムチャートで1位を獲得。ギネス・ワールド・レコーズでは最も成功したグループアーティストと認定されている。1970年4月10日にポールは音楽的な意見の相違などを理由にザ・ビートルズ脱退を表明したが、その1週間後に発売した初のソロ・アルバム『ポール・マッカートニー』はビルボードとキャッシュボックスでも1位を獲得。1971年には妻のリンダとの連名でアルバム『RAM』を発表。さらに同年、妻リンダ、元ムーディー・ブルースのデニー・レインの3人を中心に構成されたロック・バンド、ウイングスを結成。ウイングスは1981年の解散までに7枚のオリジナル・アルバムと1枚のライヴ・アルバムを発表。代表曲に“心のラヴ・ソング”“マイ・ラヴ”“バンド・オン・ザ・ラン”“007 死ぬのは奴らだ”“ジェット”がある。中でも1973年のアルバム『バンド・オン・ザ・ラン』は全世界で600万枚以上のセールスを記録し、ザ・ビートルズ解散後のマッカートニーのアルバムとしては最大級の商業的成功を収めた。ウィングスは1981年4月のデニー・レインの脱退表明によって自然消滅に近い形で終焉を迎える。1980年に10年ぶりとなるソロ名義のアルバム『マッカートニーII』を発表。しかし、12月8日のジョン・レノンの突然の訃報にポールは大きな衝撃を受け、数か月間、自宅に引き篭もることに。1982年に3枚目のオリジナル・ソロ・アルバム『タッグ・オブ・ウォー』と1983年に4枚目『パイプス・オブ・ピース』を発表。『タッグ・オブ・ウォー』では、スティーヴィー・ワンダーとのデュエット曲“エボニー・アンド・アイヴォリー”が大ヒットし全米・全英No.1に。『パイプス・オブ・ピース』にはマイケル・ジャクソンが参加し、デュエット曲“セイ・セイ・セイ”が全米・全英No.1を獲得。1990年3月には、ビートルズ公演以来となる24年ぶりの来日公演が実現。1993年にアルバム『オフ・ザ・グラウンド』を発表したポールは、『ニュー・ワールド・ツアー』を敢行。この年の秋にソロとして2度目の来日公演も果たしている。1998年、長年連れ添った妻のリンダが乳癌で他界。1999年にはロックの殿堂入りを果たした。2002年に7月には元モデルで平和運動家のヘザー・ミルズと再婚。11月には、3度目のソロでの来日公演が実現。2003年にはロシアのモスクワにある「赤の広場」で、外国人アーティストとして初となる大規模なコンサートを開いて話題に。2008年、ヘザー・ミルズとの離婚が成立。2011年、ナンシー・シェヴェルと3度目の結婚。2013年、オリジナル作品としては5年ぶりとなる『NEW』を発表。全英・全米では3位、日本では2位(デイリーチャートでは1位)とヒットし、ゴールドディスク(10万枚売上)にも認定された。11月には『アウト・ゼアー・ツアー』の一環で11年ぶり4回目となる来日公演を大阪、福岡、東京で実施し26万人を動員。2015年4月には『アウト・ゼアー ジャパン・ツアー2015』が京セラドーム大阪、東京ドームで計4回、そして追加公演として1966年のザ・ビートルズ以来49年ぶりの日本武道館公演が実現。2016年、4月13日のカリフォルニア・フレズノ公演を皮切りに新たなワールド・ツアー『ワン・オン・ワン・ツアー』をスタート。6月10日には45年のソロ・キャリアの集大成となるオール・タイム・ベスト『ピュア・マッカートニー~オール・タイム・ベスト』をリリース。2017年、『ワン・オン・ワン ジャパン・ツアー2017』で来日、4月27日、29日、30日の東京ドーム3公演を実施。2018年、5年ぶりのオリジナル・アルバム『エジプト・ステーション』が9月7日に発売すること、そして新しいツアー『フレッシュン・アップ・ツアー』を9月からスタートすることを発表。デビューから半世紀以上経過した現在でも、第一線で活躍し、ギネス世界記録で「ポピュラー音楽史上最も成功した作曲家」として認定されている最高のロック・レジェントである。

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