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いとうせいこう×石川直樹 偶然に身を任せる人生こそ面白い

いとうせいこう×石川直樹 偶然に身を任せる人生こそ面白い

東京オペラシティ アートギャラリー『石川直樹 この星の光の地図を写す』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:鈴木渉 編集:宮原朋之

行けば行くほど、いろんな道ができて、そしてどんどん世界が広がっていく。(石川)

—石川さんは文章も書かれていますよね。

石川:そうですね。文章に関しては、言葉でしか描けないようなものを書きたいと思っています。人物に関することだとか。写真と文章のあいだにはぼくの中では明確な区分けがあって。

いとう:それをごっちゃにしている人って多くてさ。写真に全部を写してしまおうと思う人は「この写真を見て、なんで今の自分の苦しみがわからないの?」と言ってしまうし、文章を巧みに工夫してビジュアル的な描写をがんばっていても、肝心の内面にフォーカスできていないことだってある。メディアによって意識や感覚は変わるってことを石川くんは経験的に理解している。

石川:写真の情報量と比べると、文章はどんなに文字数を尽くして描写してもこぼれ落ちるものが膨大にあると思っています。文字にしてみたら単なる海に浮かんだ氷でしかないけれど、その複雑な色を言葉で表現するのはすごく難しい。

いとう:あとさ、今回あらためて写真をたくさん見て思ったのは石川くんの踏破量、踏破区域の広さ! 「メートルがすげえなあ!」って思ったよ。

石川:垂直方向にも水平方向にも、まったく見境なく旅してますよね(笑)。この展覧会で、20年間の旅をようやく少しだけ振り返ることができたんですが、1人の人間がこれだけの距離や高さを移動した例は、客観的に見ても、他にあまりないかもしれないなあ、と。

石川直樹

いとう:脚力がすごい。そこに行ったからといって、確実に自分が思うよいものが撮れるとは限らないわけじゃない。それをふまえて探し歩くわけでしょう。

俺は、1年に1度海に行って、魚を突いて獲っていたからよくわかる。自分が泳いだ面積だけ、獲物は見つかるんだよ。必勝法や裏技はない。そういう意味で、石川直樹の動き方の量ははんぱない。

石川:行けば行くほど、いろんな偶然の出会いがあって、そこから枝葉が分かれて、どんどん世界が広がっていく感じがあるんですよね。目的地に固執して脇目もふらずAに行くのではなくて、「Bが面白いよ」って言われたらBにも行ってみる。そういう旅の仕方です。あらかじめ決めた目的地のコレクターみたいになっちゃうと面白くない。

行程にこそいろんな学びがあり、逆に学べなかったわけのわからないものがあることを知る。(いとう)

いとう:例えばパリに行って、ノートルダム寺院を見たいって観光客がいるとするよね。人によっては、脇目もふらずにノートルダムを目指すんだけど、そんな馬鹿馬鹿しい旅はないと俺は思う。

その途中にどんな美味しいものがあって、変わったホームレスがいて、どんな橋を人は渡って暮らしているのか……。そういうぶらぶら歩きの体験が旅なんだよ。もし、ノートルダム寺院を見れなかったとしても、それは失敗じゃないんだ。

これは旅だけじゃなくて人生や働き方についても言える。今って、メリットや費用対効果を意識する人がすごく多いよね。「これだけ投資したのに十分なお金を得られなかった。ダメだ!」って。

違うんだよ。そこに至る行程にこそいろんな学びがあり、逆に学べなかったわけのわからないものがあることを知る。そこにこそ、人生の醍醐味がある。だから、次の『見仏記』のタイトルは「道草編」なんです。

いとうせいこう

石川:ぼくの旅もまさに道草そのものです。人生観も同様で「ああなりたい、こうしたい」と思いながら、別の方に行っちゃったりしながら生きている。それを受け入れることが、じつは豊かさと直結するんじゃないかなって思うんです。

いとう:得な人生だよ。だって、あらゆることを面白がれるんだから。「ああしまった。これができなかった」はないんだもん。でも、社会はそれを否定しすぎてるよね。

石川:会場の最後のほうに仮面の来訪神の写真があったじゃないですか。玄関先で家に入ってくる瞬間を撮りたくてずっと待ってるんですけれど、一発勝負なんですよ。あの人たちは撮影のために止まってくれたりしないし、いきなり出てくるもんだから、ストロボでバシっと撮るしかない。古いフィルムカメラを使っているから連射のような撮影もできないし。でも、その「突然」がなかったり、セットアップで撮っちゃったら、自分にとっては何の意味もないんですよ。

石川直樹『この星の光の地図を写す』展示風景 撮影:木奥恵三
石川直樹『この星の光の地図を写す』展示風景 撮影:木奥恵三

いとう:もしも撮れなかったら、また別のやり方で追いかけようとするじゃない。それは、とても豊かな「無駄」なんだ。その無駄の面白さを我々は丁寧に見ないといけない。石川くんの写真には、無駄が写っていますよ。

石川:天候待ちとかもほとんどしませんからね。曇っていたら曇った空を撮る。「自分が出会っている世界は今ここなんだ」って思って、出会い頭の瞬間を撮っていく。自分の主観で目の前の世界をねじ曲げたくない。

いとう:そうやって撮られた世界は、肯定されているよ。だから石川くんの写真は気持ちよい。今ふと思ったんだけど、石川くんはいつか司会者になるね!

石川:司会者ですか?

いとう:司会者ってそういう存在じゃん。俺は完全にそう。自分で語りたいものは何一つなくて、人から何か言われたとか、人との話で出てきたものをどう面白くするかが大好き。石川くんは世界を司会してるんだよ。「どうぞ!」って。ときには「あれ、出て来ませんね?」とか言ったりしてさ(笑)。

いとうせいこう

石川:そうかもしれないです。自分なりに(世界を)切り取るという意識なんてない。だって、相手にしているもののほうが大きいし、面白いし、とてつもない偶然を呼び込んで、思ってもいないものが急に飛びこんだりしてくるから。でもそうか、それって司会者なんだ。

いとう:特になんの打ち合わせもせず、偶然に身を任せる。そういう生き方を不安に思う人は多いと思うけれど、きちっと決まった仕事をこなし続けることってストレスが溜まるし、できなかったことばかりでしょげちゃうよ。それよりも、毎日司会者として暮らしていたら、これほど面白いことはないよね。

左から:いとうせいこう、石川直樹

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イベント情報

『石川直樹 この星の光の地図を写す』

2019年1月12日(土)~3月24日(日)
会場:東京都 初台 東京オペラシティアートギャラリー

時間:11:00~19:00(金、土曜は20:00まで、入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜(祝日の場合は翌火曜)、2月10日(全館休館日)
料金:一般1,200円、大高生800円
※中学生以下無料
※障害者手帳をお持ちの方と付き添いの方1名は無料

プロフィール

いとうせいこう

俳優、小説家、ラッパー、タレントとさまざまな顔を持つクリエーター。雑誌『ホットドッグ・プレス』の編集者を経て、1980年代にはラッパーとして藤原ヒロシらとともに最初期の日本語ヒップホップのシーンを牽引する。その後は小説『ノーライフキング』で小説家としてデビュー。独特の文体で注目され、ルポタージュやエッセイなど多くの著書を発表。執筆活動の一方で宮沢章夫やシティボーイズらと数多くの舞台・ライブをこなすなど、マルチな活躍を見せている。近年では音楽活動も再開しており、口口口やレキシ、dubforceなどにも参加している。

石川直樹(いしかわ なおき)

1977年東京生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)により、日本写真協会新人賞、講談社出版文化賞を、『CORONA』(青土社)により第30回土門拳賞を受賞。著書に、開高健ノンフィクション賞を受賞した『最後の冒険家』(集英社)ほか多数。最新刊に、エッセイ『極北へ』(毎日新聞出版社)、都道府県47冊の写真集刊行プロジェクト『日本列島』(スーパーラボ×BEAMS)、本展のカタログでもある大冊の写真集『この星の光の地図を写す』(リトルモア)など。

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