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一柳慧×白井晃 「企業化」する社会。今必要なのは総合的に見る力

一柳慧×白井晃 「企業化」する社会。今必要なのは総合的に見る力

『Memory of Zero』
インタビュー・テキスト
宮田文久
撮影:江森康之 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

複数分野の結びつきの表現を、もう一回考え直す時期に来ているんじゃないか。(一柳)

—今回の演目では、“タイム・シークエンス”“リカレンス”といった、1970年代に一柳さんが機械文明と対話し、抗っていらした頃の楽曲も演奏されるようですね。

一柳:それは私が抱いている音楽の現状への懸念と結びつきます。今、先端的とされる表現、出し物で、現代音楽を使うことが減ってきています。そこで音楽はメインの出し物と合体してはいるんだけれども、一般的に流れているようなエンターテイメント性がどうしても入ってくる。いえ、エンターテイメントが悪いとはいっていません。しかし、メインの出し物が非常に先端的なものを提示し、総合的な表現をプレゼンテーションしているのに、音楽の方は本当に理想的な表現を追究しているのか、と違和感を抱くのです。

半世紀前、自分たちが活動していた頃の発想、思想の中に、「妥協」はなかったと思います。本当にやりたいこと、理想を自由に追求していた。その意味で、私がニューヨークから帰ってきたころに行われていたような、複数分野の結びつきの表現を、もう一回考え直す時期に来ているんじゃないか、という気がしているんです。

—妥協なき音楽、トータルな表現を追求するときに、今回の対話の核として身体=ダンスがある、と。

白井:物を作る時、「融合させよう」と僕たちはよくいいます。でもポジティブに、積極性として融合を目指そうとするがゆえに、一柳さんがおっしゃるような気がつかない妥協をしてしまっているのではないか……その危機感は僕も最近持つことがあります。

僕もダンサーとコラボレーションしてきましたが、演劇も、そして音楽も、ダンスのバックアップになってしまってはいけない。皆が本当の熟練、鍛錬、突き抜ける努力をする必要がある。強化されたもの同士が共存した時、それは初めて融合と呼べるのでしょうから。

左から:一柳慧、白井晃

一柳:今回やるのは一種の総合芸術です。古典的な総合芸術は、みんなで100を目指すものでしたが、それではどこかが崩れたら破綻してしまう。それは場合によって音楽がそうであるように、他の表現に依存してしまっている、ということです。そうではなくて今回は、それぞれの表現が100を出して自由に羽ばたき、全体で400、500へと向かっていくようなものにしたいんですね。

—第二部では白井さんがたびたび取り上げてきた現代アメリカの作家、ポール・オースターの作品から、『最後の物たちの国で』が扱われますね。20世紀以降を彷彿とさせるような、崩壊した世界で兄を探す女性のお話です。

白井:これはすべてが崩壊する話です。すべてが崩壊する中で、さて、我々は最後にどこに行くのか。その中で、この劇場空間、ダンサーの肉体、振付、一柳さんの楽曲、その演奏が「これは何だ?」と観客の皆さんから問われる。一つひとつの要素が、厳然として存在できるのかどうかのせめぎあいです。第二部のプロットをお渡しした時、一柳さんから“交響曲第8番 リヴェレーション2011”の名前が挙がったんです。

一柳:ええ、ピッタリだと思いました。

—「予兆」「無常」「祈り(レクイエム)」「再生」の4セクションで構成される、一柳さんが東日本大震災を受けて書かれた楽曲ですね。その中で踊るダンサーを、観客は眼前で観る、と。

白井:劇場が今後、都市の中で果たしていく役割は何だろう、ということをすごく気にしています。だからこそ、この劇場そのものを見せようともしているんです。スマートフォンで得た手の中の情報は、あっという間に消えてしまう。でも自ら足を運んで、五感で得たものは、記憶に残り、自分を形作っていくはずなんです。

昔の僕は、寺山修司の「書を捨てよ町へ出よう」という言葉に衝撃を受けました。それは、自分とは違う「異物」に出会うということであり、異物を異物だと思うということは、自分を知ることでもあります。場所と時間を共有することの意味――それを今、僕たちは一番発信しなければいけないのではないか、と思っているんです。

左から:白井晃、一柳慧
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イベント情報

一柳慧×白井晃 神奈川芸術文化財団芸術監督プロジェクト『Memory of Zero メモリー・オブ・ゼロ』
一柳慧×白井晃 神奈川芸術文化財団芸術監督プロジェクト
『Memory of Zero メモリー・オブ・ゼロ』

2019年3月9日(土)、3月10日(日)全2公演
会場:神奈川県 横浜 神奈川県民ホール

ピアノ:一柳慧
構成・演出:白井晃
振付:遠藤康行
指揮:板倉康明
演奏:東京シンフォニエッタ
出演:
小池ミモザ
鳥居かほり
高岸直樹
引間文佳
遠藤康行
梶田留以
木ノ内乃々
五島茉佑子
児玉アリス
佐藤明花
鈴木彩海
鈴木春香
平雛子
まりあ
米持愛梨
上田尚弘
大橋武司
掛場一慶
郡司瑞輝
ながやこうた
水島晃太郎
吉﨑裕哉
料金:一般6,500円 学生3,000円
※学生は24歳以下が対象・枚数限定
※未就学児は入場不可

プロフィール

白井晃
一柳慧(いちやなぎ とし)

1933年神戸市生まれ。ピアノを原智恵子、B・ウェブスターの両氏に師事。高校時代に毎日音楽コンクール(現日本音楽コンクール)作曲部門第1位入賞。1954年からジュリアード音楽院に学び、クーリッジ賞、クーセヴィツキー賞等を受賞。留学中にジョン・ケージと知り合い、不確定性の音楽を展開、61年に帰国。これまでに尾高賞、フランス芸術文化勲章、サントリー音楽賞等多数受賞。また紫綬褒章、旭日小綬章、文化功労者に顕彰される。平成28年度には第65回尾高賞、日本芸術院賞、及び恩賜賞を受賞。平成30年秋、文化勲章を受章。現在、日本・フィンランド新音楽協会理事長、神奈川芸術文化財団芸術総監督。(プロフィール写真撮影:Koh Okabe)

白井晃
白井晃(しらい あきら)

演出家、俳優。京都府出身。早稲田大学卒業後、1983-2002年、遊◎機械/全自動シアター主宰。劇団活動中よりその演出力が認められ、多くの演出作品を手がける。演出家として独立後は、ストレートプレイからミュージカル、オペラまで幅広く発表し、緻密な舞台演出で高く評価される。中でもポール・オースター作『ムーン・パレス』『偶然の音楽』『幽霊たち』やフィリップ・リドリー作『ピッチフォーク・ディズニー』『宇宙でいちばん速い時計』『ガラスの葉』『メルセデス・アイス』『マーキュリー・ファー』『レディエント・バーミン』など海外の小説・戯曲を独自の美学で演出し、好評を博す。神奈川県民ホール開館30周年記念事業 一柳慧作曲 オペラ『愛の白夜』(06年、09年再演)では演出を手がけ高い評価を得た。読売演劇大賞優秀演出家賞、湯浅芳子賞、佐川吉男音楽賞、小田島雄志・翻訳戯曲賞などの受賞歴がある。2014年4月KAAT 神奈川芸術劇場アーティスティック・スーパーバイザー(芸術参与)。2016年4月、同劇場芸術監督に就任。(プロフィール写真撮影:二谷友希)

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