インタビュー

七尾旅人が歌い続けてきたこと 名もなき人生を照らす音楽家の20年

七尾旅人が歌い続けてきたこと 名もなき人生を照らす音楽家の20年

インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:タイコウクニヨシ 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

七尾旅人は、誰かのために、歌を歌ってきたのだろうか。それとも彼は、自らのために、歌を歌ってきたのだろうか。この問いに対して、ひとつのハッキリとした明確な答えがあるとは思わない。ただ、言えることはひとつ。彼が、この20年間において生み出してきた、不思議な形の音楽――いびつで、しかし、ため息が出るほど美しい形をしたその音楽は、たしかに誰かの人生を照らしてきたのだ、ということ。巨大なものの陰に隠れながら、それでもたしかにそこにある、名づけられることのない人生や感情の存在を、彼の音楽は照らし続けてきた。

新作『Stray Dogs』は、『リトルメロディ』や『兵士A』といった近作に比べても、七尾自身の「独白」という性格が強いアルバムとなった。この20年間、世界中から溢れる様々な声に耳を傾け、それを表現し続けてきた力強く巨大な音楽家であると同時に、部屋でひとり佇む、無力な少年の面影を残し続けてきた七尾。それら全ての表情が、この『Stray Dogs』には刻まれている。そして、その全てが柔らかく細やかな光となって、この作品に出会う人々の横顔を照らすだろう。

この世界に、歌があってよかった。歌が「人」から生まれるものであってよかった。そして、七尾旅人の紡ぐ歌に出会えて、本当によかった。『Stray Dogs』を聴いて、僕は心からそう思っている。

自分のなかには、メディアでは脚光を浴びていないけど、決して忘れてはいけない人たちの横顔が、いっぱい蓄積されている。

—アルバム『Stray Dogs』、本当に素晴らしい作品だと思いました。

七尾:ありがとうございます。自分では、まだあまり客観視することができていないんだけど……ただ、不思議だったのは、このアルバムを作っている間、10代の頃に作った1stアルバム(1999年発表の『雨に撃たえば…!disc 2』)や、20代の頃に作った2ndアルバム(2002年発表『ヘヴンリィ・パンク:アダージョ』)を思い出す感覚があったんですよね。

僕の作品は初期とそれ以降でファン層がすごく別れてしまっているみたいなんだけど、この20周年アルバムは、昔のお客さんにもぜひ聴いてみてほしいですね。

七尾旅人
七尾旅人

七尾:“迷子犬を探して”(『Stray Dogs』収録曲)なんて、それよりもっと前のアマチュア時代、高知県にいた15歳の頃の曲みたいで。当時、こういうポップソングをたくさん作っていて「そのうち東京に行ってバンドメンバーを見つけて、サザンやミスチルみたいに日本中の人を感動させるんだ」みたいな素朴な青写真を描いていたんだけど、その数年後、実際にデビューしたら「なんだこのキチガイは!」みたいなリアクションで(笑)。

—(笑)。

七尾:悪い癖で、入り込みすぎちゃうんだよね。自分のなかで課題が生じると、納得がいくまで一切、他のことができなくなってしまう。その結果が、『911FANTASIA』(2007年)や『兵士A』(2016年)だったりとか。

『兵士A』は「覚悟のあるヤツだけ聴いてくれ」っていう感じだったけど、今回は、「みんな、ちょっと聴いてみてよ」って言えるようなアルバムになったと思う。自分の一番ポップで聴きやすい部分と、他の人の音楽とはちょっと違う部分が同居している感じがして。

七尾旅人『Stray Dogs』(2018年)収録曲

七尾:さっき「1stや2ndに近い」って言ったけど、それ以上に、今までの僕の音楽人生の記憶みたいなものが少しずつ、ここには含まれているような気もするんですよね。実際に、2ndアルバムで使用したシンセ音や、『911FANTASIA』で使用したSEを、過去データから探し出してきて、楽曲の重要な部分に織り込んだりもしました。たとえば、“崖の家”で鳴っている風の音は、10年以上前に“荒野”という曲で使ったものです。

「自分はなぜ歌ってきたんだろう?」とか、「これまで何がしたかったんだろう?」「これから何がしたいんだろう?」ということを考えながら、『ドラえもん』に出てくるようなタイムマシンで、自分の半生を横切っていく感覚で録音していたと思う。

—その感覚は、聴いている側としても感じました。このアルバムは、これまでの全ての旅人さんのアルバムと密接に繋がっていると同時に、そのどれとも違っている。この作品からは、まるで少年のような旅人さんの姿も、子を見守る父親のような旅人さんの姿も見えてくるような感覚があって。それに、僕が今作を聴いて改めて思ったのは、旅人さんの音楽は一貫して、まだ名前のつけられていないものに名前をつけるような、そんな力を持ち続けていたんだということでした。

七尾:今言ってもらったことはすごく嬉しい。自分の、これまでの20年間を概観してみたとき、まだ名づけられてない、歌や映画にも取り上げられていないような人たちにスポットをあてるべきなんじゃないか? っていう気持ちは、いつも心の片隅にあったから。

それは、社会的な正義感から来る気持ちというよりも、単に、自分自身がそういう磁場で育った人間だったからではないかと思います。僕のなかには、メディアでは脚光を浴びていないけど、決して忘れてはいけない人たちの横顔が、泣き顔とか、小さい笑顔とかが、いっぱい蓄積されているので。

七尾が、デビュー当時から兄弟のように並走してきたシンガーソングライター・国府達矢との対談より(記事を読む) / 撮影:タイコウクニヨシ
七尾が、デビュー当時から兄弟のように並走してきたシンガーソングライター・国府達矢との対談より(記事を読む) / 撮影:タイコウクニヨシ
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リリース情報

七尾旅人『Stray Dogs』(CD)
七尾旅人
『Stray Dogs』(CD)

2018年12月12日(水)発売
価格:3,024円(税込)
PECF-1164 / cap-294

1. Leaving Heaven
2. Confused baby
3. 迷子犬を探して
4. スロウ・スロウ・トレイン
5. DAVID BOWIE ON THE MOON
6. Almost Blue
7. 崖の家
8. Across Africa
9. きみはうつくしい
10. 蒼い魚
11. 天まで飛ばそ
12. いつか

イベント情報

七尾旅人
『20周年記念ワンマンツアー「Stray Dogsの冒険」』

2019年3月10日(日)
会場:北海道 ペニーレーン24
ゲスト:瀬尾高志

2019年3月16日(土)
会場:福岡県 電気ビルみらいホール
ゲスト:瀬尾高志

2019年3月17日(日)
会場:広島県 広島CLUB QUATTRO
ゲスト:瀬尾高志

2019年4月7日(日)
会場:大阪府 梅田CLUB QUATTRO
バンドセット:
Shingo Suzuki(Ba)
Kan Sano(Key)
山本達久(Dr)
小川翔(Gt)

2019年4月27日(土)
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
バンドセット:
Shingo Suzuki(Ba)
Kan Sano(Key)
山本達久(Dr)
小川翔(Gt)

2019年4月29日(月・祝)
会場:東京都 恵比寿ガーデンホール
バンドセット:
Shingo Suzuki(Ba)
Kan Sano(Key)
山本達久(Dr)
小川翔(Gt)

2019年5月25日(土)
会場:沖縄県 桜坂劇場ホールB

2019年6月15日(土)
会場:京都府 磔磔

2019年6月22日(土)
会場:高知県 キャラバンサライ

プロフィール

七尾旅人(ななお たびと)

シンガーソングライター。これまで『911fantasia』『リトルメロディ』『兵士A』などの作品をリリースし『Rollin' Rollin'』『サーカスナイト』などがスマッシュヒット。唯一無二のライブパフォーマンスで長く思い出に残るステージを生み出し続けている。即興演奏家としても、全共演者と立て続けに即興対決を行う「百人組手」など特異なオーガナイズを行いアンダーグラウンド即興シーンに地殻変動を与え続ける。その他、ビートボクサー、聖歌隊、動物や昆虫を含むヴォーカリストのみのプロジェクトなど、独創的なアプローチで歌を追求する。2018年12月12日、にニューアルバム『Stray Dogs』をリリース。

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