インタビュー

七尾旅人が歌い続けてきたこと 名もなき人生を照らす音楽家の20年

七尾旅人が歌い続けてきたこと 名もなき人生を照らす音楽家の20年

インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:タイコウクニヨシ 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

聴いてくれた人の苦痛とも並走できるような、そんなアルバムを目指したくて。

—“天まで飛ばそ”は、NHK『みんなのうた』でもオンエアされましたね。

七尾:“天まで飛ばそ”は、その人の葬式の日の夜にできたんです。この曲が『みんなのうた』で流れることになったとき、担当者の方が「この曲は現代の“シャボン玉”ですね」って言ってくれたんだけど、そういう聴こえ方もあるのかなと。あと、Twitterで「この曲が流れると、うちの2歳の子どもが『悲しい曲だね』と言って涙を流します」みたいな書き込みをけっこうたくさん見つけて、驚きました。子どもの鋭敏さって、すごいなと。全部見透かされているんだよね。

—“天まで飛ばそ”もそうですけど、『Stray Dogs』はパーソナルな主題の作品だからといって、決して、重く暗い作品ではないし、閉ざされた作品でもないんですよね。むしろ、すごく柔らかさのある作品だと思いました。

七尾:そう言っていただけるのは有り難いです。『兵士A』は、もう剥き出しで、戦場を突きつけるような気持ちでやったけど、今回は、自分にとってどれだけシリアスな曲でも、聴いた人が引っ張られて余計に落ち込むようなものにはしたくなかったんですよね。むしろ、こうして心の内を語った作品があることによって、聴いてくれた人の苦痛とも並走できるような、そんなアルバムを目指したくて。

それに『兵士A』をやり終えたあと、なんとか本来の夢に向けて舵を切ろうとしていた僕が、またドツボにはまって、『兵士A』よりもさらに重い方向へ潜っていくことを、亡くなった彼は望まないだろうと思ったんです。半年くらいずっと彼と心のなかで話し合ったんだけど、そういうことではないだろうと思った。だから、自分自身でも納得がいきつつ、彼にも、お客さんにも、身近な仲間にも元気を出してもらえるような、そんなバランスを見つけようと思ったんです。

七尾旅人

今の時代を生きる誰もが「はぐれ犬」のようにも思えたんですよね。

—結果として、このアルバムはこれまでの旅人さんのディスコグラフィーのなかでも、特筆して、聴き手を選ばない作品になっているように思います。

七尾:自分でも、この形になってよかったと今は思ってます。このアルバムにはポップな曲も多いと思うけど、僕は、「いい曲を何曲か並べました」っていうだけの作品では不満で、もっと何か強烈な必然性によって楽曲が互いに結び合っていてほしいんだよね。まるで生き物のような、世界のような、ある種の自律性を持った作品が作りたいというか。それを徹底しすぎると『911FANTASIA』や『兵士A』みたいになっていくけど、今回は、また違う答えにたどり着くことができたのではと。

そういう過去の大作みたいにどっぷり聴くこともできるけど、BGMとして気楽に流しておくこともできる、そんな不思議なバランスが作れたんじゃないかな。人生のなかで一番ヘビーだったことも、ちゃんと作品のどこかに刻印していないと、シンガーソングライターとしては不誠実なんじゃないかと思っていて。作り笑いで乗り切るようなことはしたくなかったから。いろいろ悩んだけれど、着地点を見つけられたと思います。

—岡田喜之さんのイラストによるアートワークも、この作品の持つ悲しさと優しさを見事に表現していますよね。

七尾:岡田さんは、このジャケットに使わせていただいた絵をネットで見て、一目惚れしたんです。岡田さんの絵はビックリするぐらい、僕が表したかった心象風景に近かったんですよね。この、男の子が犬に傘を差しかけている光景は、彼の子ども時代の思い出らしくて。

岡田さんは子どもの頃、雨の日の散歩中に、愛犬が濡れないよういつも傘を差しかけていたらしいんだけど、この絵を見たとき、他人の気がしなかったんだよね。その時点で既に『Stray Dogs』っていうタイトルも決まっていて、曲のモチーフに犬も出てきていたし……「何だろう、この不思議な絵は?」って。

七尾旅人『Stray Dogs』ジャケット
七尾旅人『Stray Dogs』ジャケット(Amazonで見る

七尾:そこには、自分自身だけでなく、僕の記憶のなかのいろんな人たちが映りこんでいるような感覚があった。それで、「この絵を使わせてください」ってお願いしたんです。さらに全曲分の歌詞に対応した新しい絵も描き下ろしてくださって、僕からの手紙というか、セルフライナーのようなものも封入して、今までで一番トータル性の高いパッケージにすることができました。

今回のアルバムは亡くなった彼と僕のあいだに子ども時代からずっと横たわっていた「レコード」という物体そのものへの夢に基づいて生まれた感じがしていて、手にとってジャケットを開いてもらうことで初めて全体像が見えてくる作りになっています。なので、できればCD版を手に入れてほしいなと思います。

—曲のなかに出てくる「犬」のモチーフや、『Stray Dogs』というタイトルはどういったところから生まれたのでしょうか?

七尾:犬って多頭飼いするとよくわかるんだけど、人間に似て、すごく社会的な動物で、仲間や家族に対して強い愛情と帰属意識を持つんですね。だからこそ、1匹だけはぐれてしまっている状態の犬には、独特の物悲しさがある。

みんなの輪を離れてひとり死んでいくという選択をした彼のことを考えるうちに「はぐれ犬のようだ」と、ふと思ったんですよね。同時に、人間みんな、どこかではぐれているんじゃないかとも思った。今はSNSなんかもあって、繋がりの感覚は得られやすいかもしれないけれど、全員が完膚なきまでに漂流してしまっている時代とも言えるよね。

愛犬を連れて来場、観覧することを目的に開催されたライブ企画『犬たちのためのコンサート』より

七尾が愛犬とともに登場した、タワーレコードの意見広告シリーズ「NO MUSIC, NO LIFE!」ポスター
七尾が愛犬とともに登場した、タワーレコードの意見広告シリーズ「NO MUSIC, NO LIFE!」ポスター

七尾:誰しもが完全に、どこかに帰属できているわけではなくて、たとえ昼間には誰かと笑っていても、夜にはひとりで綱渡りをしなくちゃいけない。みんな、究極的には「ひとり」なんだけど、それでも、ときにすれ違って、互いに大切なものを投げ渡したりしながら、生きている。完全に孤立した者同士が、何かのきっかけで束の間だけ結び合う光景はきれいだし、考えてみれば音楽だってそれぞれに孤立した単音の瞬間的な重なり合いを、リズムやハーモニーのような形で永遠に固着化(レコード)したものです。

そんなことを思ううちに、『Stray Dogs』っていうタイトルになっていきました。それに、僕自身の20年間の音楽人生を振り返ったときにも、「あ、盛大にはぐれてるかもな~」っていう懸念があったので(笑)。親にもらったこの「旅人」っていう名前も、なんだか定住しづらいというか、平穏な暮らしを維持するための障壁になっている気がします(笑)。

七尾旅人
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リリース情報

七尾旅人『Stray Dogs』(CD)
七尾旅人
『Stray Dogs』(CD)

2018年12月12日(水)発売
価格:3,024円(税込)
PECF-1164 / cap-294

1. Leaving Heaven
2. Confused baby
3. 迷子犬を探して
4. スロウ・スロウ・トレイン
5. DAVID BOWIE ON THE MOON
6. Almost Blue
7. 崖の家
8. Across Africa
9. きみはうつくしい
10. 蒼い魚
11. 天まで飛ばそ
12. いつか

イベント情報

七尾旅人
『20周年記念ワンマンツアー「Stray Dogsの冒険」』

2019年3月10日(日)
会場:北海道 ペニーレーン24
ゲスト:瀬尾高志

2019年3月16日(土)
会場:福岡県 電気ビルみらいホール
ゲスト:瀬尾高志

2019年3月17日(日)
会場:広島県 広島CLUB QUATTRO
ゲスト:瀬尾高志

2019年4月7日(日)
会場:大阪府 梅田CLUB QUATTRO
バンドセット:
Shingo Suzuki(Ba)
Kan Sano(Key)
山本達久(Dr)
小川翔(Gt)

2019年4月27日(土)
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
バンドセット:
Shingo Suzuki(Ba)
Kan Sano(Key)
山本達久(Dr)
小川翔(Gt)

2019年4月29日(月・祝)
会場:東京都 恵比寿ガーデンホール
バンドセット:
Shingo Suzuki(Ba)
Kan Sano(Key)
山本達久(Dr)
小川翔(Gt)

2019年5月25日(土)
会場:沖縄県 桜坂劇場ホールB

2019年6月15日(土)
会場:京都府 磔磔

2019年6月22日(土)
会場:高知県 キャラバンサライ

プロフィール

七尾旅人(ななお たびと)

シンガーソングライター。これまで『911fantasia』『リトルメロディ』『兵士A』などの作品をリリースし『Rollin' Rollin'』『サーカスナイト』などがスマッシュヒット。唯一無二のライブパフォーマンスで長く思い出に残るステージを生み出し続けている。即興演奏家としても、全共演者と立て続けに即興対決を行う「百人組手」など特異なオーガナイズを行いアンダーグラウンド即興シーンに地殻変動を与え続ける。その他、ビートボクサー、聖歌隊、動物や昆虫を含むヴォーカリストのみのプロジェクトなど、独創的なアプローチで歌を追求する。2018年12月12日、にニューアルバム『Stray Dogs』をリリース。

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