
映像作家・山田智和の時代を切り取る眼差し。映像と表現を語る
『SPACE SHOWER MUSIC AWARDS 2019』- インタビュー・テキスト
- 黒田隆憲
- 撮影:伊藤惇 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
どんなカメラを使おうが、技術的に多少稚拙であろうが、心動く映像は絶対に撮れるはず。
—ともあれ強烈な違和感と、抗い難い魅力がないまぜになった不思議な作品です。米津さんの踊りや、その後ろで踊る人々の動きも独特ですし、アスペクト比が1:1になっているのも影響しているのかと。
山田:ちょっと前にグザヴィエ・ドランが1:1で映画を撮りましたが(2014年公開の『Mommy/マミー』)、あれはInstagram時代の象徴でもあると本人が語っていて。画角が狭まることで人物に対してより感情移入ができるということを表現してみせたのですが、“Lemon”でやってみて新しい発見がありました。この画角で見る映像は、FaceTimeやSkypeに近いものがあるんじゃないかと。
画面から直接こちらに語りかけてくるような、「正対の関係」を上手く作れた気がします。米津さんがいて、その後ろで祈っている人たちがいる、そして、米津さんの視線の先には踊っている女性ダンサー(吉開菜央)がいる。視聴者は、米津さんとダンサーの間にいるという、新しい視点の軸が生まれたんです。私たちが、知らず知らずのうちにFaceTimeやSkypeなどで慣れ親しんだ視点を今回、意識的に取り入れられたのが大きな成果でした。
—なるほど。
山田:それにアスペクト比は、時代に左右されやすいものだと思っています。そもそもなぜ、今は16:9になっているんだろう? なぜYouTubeに合わせなきゃいけないのか? というのは常々考えていて、“Lemon”ではそこから自由になってみたんです。
1:1であれば、この先再生デバイスが縦長になろうが横長になろうが関係ない、と。……円型の画面になってたら別問題ですが(笑)。この素晴らしい楽曲は「時代に左右されたくない」という思いで試みた1:1により、今話したような現代的な視点を発見したわけなんですが。
—あいみょんの“マリーゴールド”も、非常に不思議な作品です。部屋のシーンは画面も暗いし、あいみょんの顔も影になっていて見えなかったりする。でも強烈に惹きつけられるリアリティーがあって。
山田:この曲は、風のなかに佇んで歌っているような、涼しげなイメージですけど、歌詞を見ると「これってどっちの意味なのだろう?」と思わせる二面性があって。マリーゴールドという花自体が、両極端の意味の花言葉を持っているんですよね(嫉妬、絶望、および健康、可憐な愛情などが代表的)。
なので、映像にも異なる要素を入れたいと思いました。アクティブなスケボーに乗っているのに、雨でずぶ濡れだったり、暗い部屋と明るい屋外の対比だったり。フィルムとデジタルを混ぜたのも、そういう対立構造を作るためです。
—撮影場所は上海だそうですが、曲の後半で部屋から外に飛び出したときの開放感がとても印象的です。
山田:実はこのビデオ、僕が撮影しているんです。というのも、最近はいろんなプロジェクトに携わり、優秀なカメラマンさんや美術さんと仕事をしていくなかで、「嘘っぽくなってないか?」と感じはじめていて。要は、自分の実力以上のことができるようになっていくことへの「疑い」があるんです。
もちろん新たな可能性を得られることは絶対に正義だと思うし、そこまで責任を負う必要がないとも思う。でも自分は映像ディレクターになりたいわけじゃないんだと気づいたんです。それで、この曲では僕がカメラを回してみました。
山田:曲自体も私的な内容だったので、上手すぎると伝わらない熱量みたいなものが込められたらと。今は、クオリティーの高い映像を求められることが多いけど、それすら「マストではないだろ?」と思うんです。職業としては必要な要素だけど、表現としてはファーストチョイスじゃない。
どんなカメラを使おうが、技術的に多少稚拙であろうが、心動く映像は絶対に撮れるはずですから。Charaさんの“Tiny Dancer”も自分で撮影監督をしたんですけど、それとはまた違う角度で自分のクセを出せたかなと思います。
番組情報
- 『SPACE SHOWER MUSIC AWARDS 2019 BEST VIDEO DIRECTOR作品集 -山田智和-』
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2019年3月15日(金)25:00~26:00にスペースシャワーTVで放送
※3月25日(月)24:00~25:00にリピート放送
プロフィール
- 山田智和(やまだ ともかず)
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映画監督、映像作家。東京都出身。クリエイティブチームTokyo Filmを主宰、2015年よりCAVIARに所属。2013年、WIRED Creative Huck Awardにてグランプリ受賞、2014年、ニューヨークフェスティバルにて銀賞受賞。水曜日のカンパネラやサカナクションらの人気アーティストの映像作品を監督し、映画やTVCM、ドラマと多岐にわたって演出を手がける。シネマティックな演出と現代都市論をモチーフとした映像表現が特色。