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志賀理江子が写す春。輝かしく溢れる生命と、腐食から訪れる死

志賀理江子が写す春。輝かしく溢れる生命と、腐食から訪れる死

『志賀理江子 ヒューマン・スプリング』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望 編集:川浦慧、宮原朋之(CINRA.NET編集部)

古今東西を見渡せば、歌謡曲には写真について歌ったものは多い。個人的に印象に残っているのは、椎名林檎の“ギブス”。

<あなたはすぐに写真を撮りたがる あたしは何時も其れを厭がるの だって写真になっちゃえば あたしが古くなるじゃない>

これに続けて、恋人(?)がすぐ口にする「絶対」に、歌の語り手である女性は疑いを向けるわけだが、この考え方は自分が理解する写真の実体に近い。つまり、写真とは「過去」を撮るもので、それは絶対的な真実・事実を保証するものではないということ。SNSに溢れる写真が、そもそもの意図を離れて一人歩きし、曲解されたり炎上の火種になったりすることを思えば、現在の写真の移ろいやすさや危うさを理解できるのではないだろうか?

東京都写真美術館で開催中の『志賀理江子 ヒューマン・スプリング』展も、同様に「写真のうつろいやすさの正体は何か?」を考えるような展覧会である。ただし、かなり過激な方法で。

遺影がそうであるように、写真には、死者の存在を忘れない、記憶を残す、という役割がある。

—とても強烈な印象を受けました。巨大な箱がいくつも並んでいて、その表面を写真が覆っている。そしてそこに写されているのは廃墟や、泥の海を泳ぐ人や、赤く照らされた夜の風景だったりして、禍々しい印象を受けます。写真が、なんだか「墓」のように見えてきました。

『志賀理江子 ヒューマン・スプリング』展の会場風景(撮影:志賀理江子)
『志賀理江子 ヒューマン・スプリング』展の会場風景(撮影:志賀理江子)
『志賀理江子 ヒューマン・スプリング』展の会場風景(撮影:志賀理江子)
『志賀理江子 ヒューマン・スプリング』展の会場風景(撮影:志賀理江子)

志賀:3年前に展覧会のオファーをいただいて、このプランを考え始めたときから「墓のように見える」と言われるだろうとは思っていました。もちろん写真はイメージや記憶を扱うものだから墓になることは予想できるんです。でも、すべてが終わった後に作られることの多い「墓」になってはいけないんですよね。その手前の、もがり(殯)の空間でなくてはならない。私はこれまでにいくつかの展覧会をやってきましたけど、常に考えてきたのはそのことです。

志賀理江子がどんな写真家か、手短に説明しておこう。高校生の頃にカメラを手にして、身近な友だちを撮ったり、身の回りの日用品や人形を舞台のように並べ替えて撮ったりすることから写真を始めた志賀は、東京の写真大学を経て、ロンドン芸術大学に留学する。その後、とあるレジデンスプロジェクトで訪れた東北で大きなインスピレーションを得た彼女は、現在に至るまで宮城県を拠点に活動を続けている。

周囲の人の協力を仰いで、さまざまなシチュエーションを作り、撮影する。そのプロセスから生まれた作品は高く評価され、『Lilly』『CANARY』の2冊の写真集の発表で2007年には「写真界の芥川賞」とも呼ばれる、『木村伊兵衛写真賞』を受賞した。その後も国内外で精力的な活動を続けてきたが、ある大きな出来事が、志賀と彼女の友人知人たちを襲うことになる。2011年に起きた東日本大震災である。

今回の展覧会図録の中で、担当学芸員の丹羽晴美はこう書いている。

北釜の地は津波に呑まれ、住民53名が亡くなり1名は未だに行方不明だ。作家のアトリエや作品も含め、全住民の住居が流され、避難所を経て仮設住宅暮らしとなった。

そのような経験をした直後にもかかわらず、志賀は同年6月から全10回のレクチャープロジェクトを行い、そこでの対話の蓄積を踏まえた展覧会『螺旋海岸』を2012年に開催した。大きながらんどうの空間に、人物や石などを写した写真がゆるやかにグループ分けされて屹立する展示は、震災と、震災で亡くなった人たちへの「悼み」を否応なく感じさせるものだったが、今回の『志賀理江子 ヒューマン・スプリング』展にも同じ意識が感じられる。

志賀:亡くなった人を本葬するまでの期間、棺に遺体を仮に置いて、別れを惜しみながら、その死を確認するのが「もがり」の儀式です。例えば遺影がそうであるように、写真には、死者の存在を忘れない、記憶を残す、という役割がある。

だから私たちは写真と「死」を結びつけて考えると思うんですけど、だからこそ、この展覧会では棺の中に遺体は入っていてはいけないと思いました。ひとつだけ、写真で覆っていない躯体を置いていますが、これは「中には何もないんですよ」っていう意味。あれがたくさんの写真の中身なんです。だから、写真の前を人が歩くと、宙に浮いたようにゆらゆら揺れたりするんです。

志賀理江子<br>(しが りえこ) / 1980年、愛知県生まれ。2008年より宮城県在住。11年東日本大震災で被災しながらも制作を続け、12年「螺旋海岸」展(個展・せんだいメディアテーク)開催。その他、15年「In the Wake」展(ボストン美術館)、「New Photography 2015」展(ニューヨーク近代美術館)、17年「ブラインド・デート」展(個展・猪熊弦 一郎現代美術館)等多数。
志賀理江子(しが りえこ)
1980年、愛知県生まれ。2008年より宮城県在住。11年東日本大震災で被災しながらも制作を続け、12年「螺旋海岸」展(個展・せんだいメディアテーク)開催。その他、15年「In the Wake」展(ボストン美術館)、「New Photography 2015」展(ニューヨーク近代美術館)、17年「ブラインド・デート」展(個展・猪熊弦 一郎現代美術館)等多数。
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イベント情報

『志賀理江子 ヒューマン・スプリング』

2019年3月5日(火)~2019年5月6日(月・振休)
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 2階展示室

休館日:毎週月曜日(ただし、4月29日(月・祝)および5月6日(月・振休)は開館)
料金:一般700円 一般団体560円、学生600 学生団体480)円、中高生・65歳以上500円 中高生・65歳以上団体400円
※小学生以下、都内在住・在学の中学生および障害者手帳をお持ちの方とその介護者は無料
※第3水曜日は65歳以上無料
※当館年間パスポートご提示者無料(同伴の方1名様まで無料)

プロフィール

志賀理江子(しが りえこ)

1980年、愛知県生まれ。2000年東京工芸大学写真学科中退後渡英、04年Chelsea College of Art and Design(ロンドン)卒業。2008年より宮城県在住。11年東日本大震災で被災しながらも制作を続け、12年「螺旋海岸」展(個展・せんだいメディアテーク)開催。その他、15年「In the Wake」展(ボストン美術館)、「New Photography 2015」展(ニューヨーク近代美術館)、17年「ブラインド・デート」展(個展・猪熊弦一郎現代美術館)等多数。

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