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志賀理江子が写す春。輝かしく溢れる生命と、腐食から訪れる死

志賀理江子が写す春。輝かしく溢れる生命と、腐食から訪れる死

『志賀理江子 ヒューマン・スプリング』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望 編集:川浦慧、宮原朋之(CINRA.NET編集部)

私がやっているのは人間にとってクラシックな、普遍的なことのように思うんです。

—もうひとつ、特に強烈な印象を残すのが、入り口から見て、箱の裏側にある青年のたくさんの写真です。顔を赤く塗って、陶然とした視線をこちらに向けている。図録に収められた小原真史さんとの対談で、志賀さんは青年のことを「彼」と呼んでいるように受け止められたのですが、「彼」とはいったい何者なんでしょうか?

『志賀理江子 ヒューマン・スプリング』展の会場風景(撮影:志賀理江子)
『志賀理江子 ヒューマン・スプリング』展の会場風景(撮影:志賀理江子)
『志賀理江子 ヒューマン・スプリング』展の会場風景(撮影:志賀理江子)

志賀:あまり詳しく書いていないですし、メディアに載ることを私は非常に怖れていますが……。いまの言葉で言えば「両極性躁鬱病」みたいなことでしょうか。極限的な精神状態になった人を、現代は病気としてとらえてしまいますが、思うにそれは、人間のものすごく正直な心身のありさまなのではないでしょうか。だからこそ、人間が語ってきた物語や共同体の祭礼の中に、精霊や鬼という存在が繰り返され描かれてきた。

私が思い描く「彼」とは、特定の人を指す場合もあれば、もっと広い概念的な存在でもあります。そして、私は身体の中に抱えている自然のバランスの問題について「彼」からたくさんのことを教えてもらった感じがあります。

作品撮影のためにチームを組むときって、みんなのテンションをむりやり躁状態に持っていくようなところがあるんですね。「躁」と言うと、すごく激しい感じに聞こえるかもしれないのですが、例えば集落とかに伝わるお祭りや儀式って、何者かを自作自演することで非日常を起こす、自らの意志で揺らぎを起こすようなことに近い。自分たちの内なる自然が暴れる前に、自分から「しならせる」ことでバランスを取るというか。

そして、その儀式性は写真行為の中にも強くある。三脚を据えて、カメラを置いて、人に立ってもらって、シャッターを切る。すごく儀式めいている。今回、偶然にも私の展覧会と同時開催で、19世紀のイギリスで撮られた写真を集めた『写真の起源 英国』展が美術館で開催されていますけど、この儀式性はひょっとすると写真が生まれたときからあって、その根源的な秘密は何も解明されていないんじゃないかって気がします。だから、一緒に2つの展覧会を見てほしいんですよね。ひょっとしたら約200年近く前のイギリスで撮られた写真のほうが未来に見えるかもしれないし、今年発表した私の写真のほうが昔のものに見えるかもしれない。

—志賀さんの言う「時間軸を外れた写真」のありようを感じられるかもしれないですね。今回の展覧会に限定した質問ではないのですが、志賀さんが東北に行って暮らし方を変えたり、人と出会って話したりする中で探りたかったこととは何でしょうか? もちろん、なぜ写真を撮るのか、ということも含めて。

志賀:そのことについて、一言でうまく言い表すのは難しいですが、やっぱり、死を恐れているからだと思います。だからこそ、真反対のことを求めて、自分の生とは離れた空間を作り出すことに何らかの望みをかけてるのだと思います。

写真の中の空間が「永遠」だとは言いませんが、ある種、永遠に近いような時間軸の空間ではある、というところに願を懸けている。それは、死を恐れた人間が芸術のような表象行為を始めたことにも近くて、その意味で、私がやっているのは人間にとってクラシックな、普遍的なことのように思うんです。これは科学的根拠のない、動物的な勘に近いけれど、しかし自分にとっては納得できるし、信憑性がある。そうでなかったら、こんなこととっくにやめているはずですから。

志賀理江子
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イベント情報

『志賀理江子 ヒューマン・スプリング』

2019年3月5日(火)~2019年5月6日(月・振休)
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 2階展示室

休館日:毎週月曜日(ただし、4月29日(月・祝)および5月6日(月・振休)は開館)
料金:一般700円 一般団体560円、学生600 学生団体480)円、中高生・65歳以上500円 中高生・65歳以上団体400円
※小学生以下、都内在住・在学の中学生および障害者手帳をお持ちの方とその介護者は無料
※第3水曜日は65歳以上無料
※当館年間パスポートご提示者無料(同伴の方1名様まで無料)

プロフィール

志賀理江子(しが りえこ)

1980年、愛知県生まれ。2000年東京工芸大学写真学科中退後渡英、04年Chelsea College of Art and Design(ロンドン)卒業。2008年より宮城県在住。11年東日本大震災で被災しながらも制作を続け、12年「螺旋海岸」展(個展・せんだいメディアテーク)開催。その他、15年「In the Wake」展(ボストン美術館)、「New Photography 2015」展(ニューヨーク近代美術館)、17年「ブラインド・デート」展(個展・猪熊弦一郎現代美術館)等多数。

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