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雪下まゆは、後味悪いラース・フォン・トリアー映画に救われる

雪下まゆは、後味悪いラース・フォン・トリアー映画に救われる

『ハウス・ジャック・ビルト』
インタビュー・テキスト
宮田文久
撮影・編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

人間の本質をまざまざと見せつけて、それでも生きていかなきゃいけないと語りかけてくる映画が好きだ、と彼女は言う。

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『ニンフォマニアック』など、センセーショナルな反響を巻き起こしてきた映画界の鬼才、ラース・フォン・トリアーの新作『ハウス・ジャック・ビルト』。シリアルキラーが過去の残酷な殺人を告白する、という衝撃作を、ネット上で人気を博し、近年はミュージシャンのCDジャケットや書籍の装丁でも活躍するイラストレーター・雪下まゆが鑑賞した。

ほの暗さが滲むそのイラストが人の心を掴むように、トリアーの陰鬱さもまた、人を惹きつける。私たちはなぜ、暗い世界に魅せられるのだろうか。ダークな映画に救われてきた過去を持つ雪下へのインタビューで、一緒にその暗がりを見つめてみよう。

みんなが必死でグループを作っていた日常はまるで監獄。雪下を救ったのは、映画『告白』だった

―『第71回カンヌ国際映画祭』で上映された際は途中退場者が続出、でも最後はスタンディングオベーションと、賛否両論の『ハウス・ジャック・ビルト』ですが、ご覧になっていかがでしたか。

雪下:楽しかった……です(笑)。

―よかったです、安心して伺えます(笑)。マット・ディロン演じるシリアルキラーのジャックが、12年間にわたる惨い凶行を振り返る、という作品でしたよね。

雪下:ラース・フォン・トリアー監督のコメントを読んでいると、マザー・グースの“ジャックの建てた家”という童謡から着想を得た、ってありましたよね。言葉が雪だるまのようにどんどん大きくなっていく、という。

雪下まゆ(ゆきした まゆ)<br>1995年12月6日生まれ、多摩美術大学デザイン卒。イラストレーター。TwitterやInstagramといったSNS上にアップした、女の子をモチーフにしたイラストが、10代、20代の女子を中心に人気を集める。アパレル、CDジャケット、雑誌、またイベントでのライブペイントを行う。主な活動に、国府達矢『ロックブッダ』アルバムジャケットや渋谷PARCOでのライブペイントなど。
雪下まゆ(ゆきした まゆ)
1995年12月6日生まれ、多摩美術大学デザイン卒。イラストレーター。TwitterやInstagramといったSNS上にアップした、女の子をモチーフにしたイラストが、10代、20代の女子を中心に人気を集める。アパレル、CDジャケット、雑誌、またイベントでのライブペイントを行う。主な活動に、国府達矢『ロックブッダ』アルバムジャケットや渋谷PARCOでのライブペイントなど。

―「ジャックの建てた家」というフレーズにはじまって、「そこに転がっていた麦芽」「それを食べたネズミ」「それを殺したネコ」と言葉を積み上げていく、英語圏のわらべ歌ですね。映画の主人公ジャックも、家を建てる技師です。

雪下:まさにあの歌みたいな感じでしたよね。主人公が初めて殺人を犯して、快楽に溺れ衝動を抑えられなくなり、最終的にヤバいことになっちゃう。マザーグースも、子ども向けなのに実は恐い、不気味さがあるじゃないですか。シリアルキラーの人も、普段は一般人を装っているけど、実は見え隠れする狂気があって、そこも歌の世界に通じる不気味さなのかなあ、って。

『ハウス・ジャック・ビルト』場面写真 ©2018 ZENTROPA ENTERTAINMENTS31, ZENTROPA SWEDEN, SLOT MACHINE, ZENTROPA FRANCE, ZENTROPA KÖLN
『ハウス・ジャック・ビルト』場面写真 ©2018 ZENTROPA ENTERTAINMENTS31, ZENTROPA SWEDEN, SLOT MACHINE, ZENTROPA FRANCE, ZENTROPA KÖLN

―ジャックが鏡の前で笑顔を練習するシーンもありましたね。

雪下:あと、潔癖症のくだりは笑えるところでした(笑)。

―殺した初老の女性の家から出たあと、椅子の脚の下などに血痕が残っているんじゃないか、と何度も戻っては、ない血痕をふき取るところですね。

雪下:同じように主人公が快楽殺人を犯す『アメリカン・サイコ』(メアリー・ハロン監督 / 2000年)もすごく好きなんですけど、自分の肉体美を愛する主人公が、セックス中に鏡に向かってマッチョポーズをするじゃないですか(笑)。ああいう、一見完璧そうな人が抱えるアンバランスさ、というのが面白いな、と思いました。

雪下まゆのイラスト作品
雪下まゆのイラスト作品

―雪下さんのイラストは、若い人々を描く中に、どこか暗さが漂う世界観ですよね。映画に関してもダークな世界を感じるものが好きだということですが(参照記事:『SNSでイラストの支持を集めた雪下まゆが語る、作風への葛藤』)、そうした作品を好きになるきっかけはなんだったんでしょうか。

雪下:私、小中高一貫の女子校に通っていて、ずっと陰々滅々とした日々をおくっていたんです。監獄だと思って暮らしていました。 基本的にそれぞれグループがあるのですが、中には1人トイレに言ったらその人の陰口を叩いたりするグループもあったりして、「人って信用できないな」と思いました。

そんな中3のとき、中島哲也監督の『告白』(2010年)を、家でDVDで見たんですが、すごく感動しました。冒頭で、ガヤガヤした教室のシーンがあるんですよ。これでもかっていうくらい、キャーキャーって生徒の声が響いていて、閉鎖的な教室の中で、すごく嫌な感じがする。それに感動したんです。「こうした作品が作られているということは、私が普段持っているこの感覚を、同じように抱いている人がいるんだ」って。

雪下まゆのイラスト作品
雪下まゆのイラスト作品

―それが、雪下さんにとっての原体験なんですね。

雪下:しかも、制作の裏側が描かれた映像を見ていたら、教室の窓にすりガラスのような加工をしていて、それによって閉鎖感を出していることがわかって。「映画すごい!」と思って、そこから映画に興味を持ちはじめたんですよね。

ただ、ちょうど映画館で『告白』が再上映されていたので、当時つきあっていた彼氏と観に行ったら、ボロクソにいわれました。「なんだこれは。すごく不快だ」って(笑)。私も「ああ、人それぞれなんだな」と思いましたね。

―ダークな映画が苦手な人もいる、と気づいた(笑)。

雪下:はい(笑)。そのあとですけど、俳優のジャック・ニコルソンをきっかけにアメリカン・ニューシネマにもハマりました。彼が出演する『イージー・ライダー』(デニス・ホッパー監督 / 1969年)など、世の中になじめなかった人たちが自分の生き方を探すんだけど、最後は破滅的に終わることが多いジャンルですね。

雪下まゆが描いた、『ハウス・ジャック・ビルト』とのコラボレーションイラスト
雪下まゆが描いた、『ハウス・ジャック・ビルト』とのコラボレーションイラスト
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作品情報

『ハウス・ジャック・ビルト』
『ハウス・ジャック・ビルト』

2019年6月14日(金)から新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

監督・脚本:ラース・フォン・トリアー
出演:
マット・ディロン
ブルーノ・ガンツ
ユマ・サーマン
シオバン・ファロン
ソフィー・グローベール
ライリー・キーオ
ジェレミー・デイビス
配給:クロックワークス、アルバトロス・フィルム
©2018 ZENTROPA ENTERTAINMENTS31, ZENTROPA SWEDEN, SLOT MACHINE, ZENTROPA FRANCE, ZENTROPA KÖLN

プロフィール

雪下まゆ(ゆきした まゆ)

1995年12月6日生まれ、多摩美術大学デザイン卒。イラストレーター。TwitterやInstagramといったSNS上にアップした、女の子をモチーフにしたイラストが、10代、20代の女子を中心に人気を集める。アパレル、CDジャケット、雑誌、またイベントでのライブペイントを行う。主な活動に、国府達矢「ロックブッダ」アルバムジャケットや渋谷PARCOでのライブペイントなど。

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