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感情を持たない虫や植物への憧れから、今村文は花を描き続ける

感情を持たない虫や植物への憧れから、今村文は花を描き続ける

Shiseido art egg
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:前田立 編集:川浦慧(CINRA.NET編集部)

作家としての大きな転機となった、「エンコスティック」という技法との出会い

今村の幼少期の趣味は、新聞から気に入った写真を切り抜いて集めることだったという。選ぶ基準は、風景や植物の写真であること。たとえば人が少しでも映り込んでいたりすると、興味はみるみる萎んでいったのだそうだ。

今村:当時はよくわかってなかったんですけど、なんとなく物語を読み取ってしまうような人や動物が苦手だったのかもしれませんね。

つまり、花を描くことは彼女にとって「作ること」の原点に立ち戻ることだったのかもしれない。

今村:とはいえ、美大みたいな環境でお花を描いていても先生からは「それだけじゃあ作品にならないよね?」と言われることが多いんです。自分らしさみたいなものがなければ作品とは見なしてもらえない。でも、その「自分らしさ」や「個性」のバリエーションを求める / 求められることの息苦しさから距離を置くために、自分にとってお花はどうしても必要なモチーフだったんです。

―なるほど。

作業部屋の様子
作業部屋の様子
壁に飾られた作品
壁に飾られた作品

今村:もうひとつ、フレスコ画の特別授業で、蜜蝋を使った「エンコスティック」という技法に出会えたのも大きな転機でした。

エンコスティックは、エジプトのミイラの棺にも描かれているぐらい古い時代から伝わってきた技法です。顔料と蜜蝋と樹脂を混ぜて作った絵の具で絵を描き、それをドライヤーや炎で熱することで漆喰地に焼き付けていくのですが、正式な方法ははっきり決まっていません。この焼き物みたいな質感は、自分にとって水彩と油絵のちょうど中間という感じで、やりたいことに合っているなと思いました。

エンコスティックの作品
エンコスティックの作品

―陶器や焼き物の質感は、手で描いた印象を抑える効果があります。

今村:お花は描いていて一番楽しいモチーフですが、思い入れがあるという感じではないかもしれません。お花というあまり意味の生まれないひとつの言葉に絞ることで、作品との距離を保つことができているという感覚があります。エンコスティックの物質感はモチーフの形を曖昧にして、混ぜ合わせます。言葉が分解し、再生するような。ひとつの画面の中で、言葉はひとつでも、多くの事象が生まれる。そうやって存在として成立させてくれているような気がします。

虫や花には「感情」が存在しない。感情に左右されない自由さに憧れる

エンコスティックで作るタブロー(板やキャンバスに描かれたそれ単体で自立した存在感を持つ絵画のこと)と同時に、今村は切り絵のためのドローイングの花も描いてきた。描くプロセスの集積である前者に対して、後者は花や植物が持っているエネルギーやバランスを表現するための「かたち」に重きを置いているという。

今村:小さい花であっても、すごく大きな根を地中に張っていることにパワーを感じるんです。切り絵のためのドローイングを描いているとき、私は身体のことを強く意識している気がします。でも、それは人間的な身体のあり方とはちょっと違う。脳みそに相当するような中心がなくても、どこまでも根や茎が広がっていくことでできる、身体のネットワーク。それは最近描いている虫にも感じる感覚で、きっと私は植物や虫のあり方に憧れているんです。

今村文

―人や動物よりも、親しみを覚える?

今村:犬や猫と違って、虫には大脳がありませんし、植物も同様です。でも、そのかわりに身体中に走っている神経節の連なりが、内外からの刺激に反射・反応して生きているのだそうです。そこには、人間が持っているような「感情」が存在しないと言われています。

でも、感情に由来する苦しみや悩みから虫や植物が無縁だとしたら、それはとてもうらやましいことだと思うんです。私自身、「こうありたい」と思っても実際にはうまくいかないこと、うまく表現できず伝えられないこと、心のままに行動できないことのほうが多い人間です。だからこそ、感情に左右されない虫たちの自由さに憧れるのかもしれません。

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イベント情報

『Shiseido art egg 13th』

今村文展
2019年7月5日(金)~7月28日(日)
会場:東京都 資生堂ギャラリー
平日11:00~19:00 日・祝 11:00~18:00
毎週月曜休(祝日が月曜にあたる場合も休館)
入場無料

小林清乃展
2019年8月2日(金)~8月25日(日)
会場:東京都 資生堂ギャラリー
平日11:00~19:00 日・祝 11:00~18:00
毎週月曜休(祝日が月曜にあたる場合も休館)
入場無料

遠藤薫展
2019年8月30日(金)~9月22日(日)
会場:東京都 資生堂ギャラリー
平日11:00~19:00 日・祝 11:00~18:00
毎週月曜休(祝日が月曜にあたる場合も休館)
入場無料

作家によるギャラリートーク
今村文
2019年7月6日(土)14:00~14:30
会場:東京都 資生堂ギャラリー

小林清乃
2019年8月3日(土)14:00~14:30
会場:東京都 資生堂ギャラリー

遠藤薫
2019年8月31日(土)14:00~14:30
会場:東京都 資生堂ギャラリー

※事前申し込み不要。当日開催時間に直接会場にお越しください。
※予告なく、内容が変更になる場合があります。
※やむを得ない理由により、中止する場合があります。
中止については、資生堂ギャラリー公式Twitterにてお知らせします。
※参加費無料

プロフィール

今村文(いまむら ふみ)

1982年愛知県生まれ。2008年金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科絵画専攻油画コース修了。愛知県在住。主な活動としては、2015年に芸術植物園(愛知県立美術館)参加。2016年にあいちトリエンナーレ2016参加。

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