ROTH BART BARONがファン代表と語る、コミュニティー作りの1年

2018年、ROTH BART BARONがリリースした3rdアルバム『HEX』は、バンドが新たな地平へと到達したことを示す傑作だったが、その『HEX』の制作に伴い始動したFacebookコミュニティー「P A L A C E」もまた、開設から約1年の月日が経ち、「オンラインでのつながり」という枠を超えた、新たなタームへと足を踏み入れているようだ。

そのひとつの成果として、9月14日には多摩六都科学館プラネタリウムドームにて単独ライブが開催される。このライブは「P A L A C E」に参加する有志たちが出資し合い、全面的なプロデュースまでも手がける公演。チケットは既にソールドアウトとなっているが、ここで生み出されるものがきっと、ROTH BART BARONを、そして「P A L A C E」をまた新たな場所へ連れていくだろうし、それはこの国のカルチャーにとっても、間違いなく価値のある一歩になるだろう。

そこで今回、三船雅也に加えて、「P A L A C E」のライブプロジェクトにおいて中心的に活動しているという栗原まゆみと伊與部絢子のふたりを「ファン代表」として招き、鼎談を実施。「P A L A C E」開設からの1年を振り返りながら、プラネタリウムライブについて、そして新曲“Skiffle Song”から見えてくる4thアルバムの展望、それに伴い展開される予定の新たなクラウドファウンディング案についてまで、じっくりと語り合ってもらった。

オンラインとオフラインのどちらかに偏ることもなく、ふたつのラインが並列に存在している面白い関係が作れた。(三船)

三船雅也

―今日はROTH BART BARONが主宰するFacebookのコミュニティー「P A L A C E」の現在について、三船さんと「P A L A C E」に参加されているメンバーのおふたりを招いた座談会という形で語り合っていただこうと思っています。まずは三船さんに、「P A L A C E」の立ち上げから1年が過ぎた今の手応えを伺いたいです。

三船:そもそも「P A L A C E」は『HEX』の制作に伴ってはじめたプロジェクトなんですけど、当初は自分たちでも見えないことが多かったし、かなり手探りでやっていたんです。

でも今年に入ってから、他のバンドの人から「『P A L A C E』みたいな活動って、どうやったらいいんだろう?」っていう相談を受けることが増えたんですよね。みんなが「どれどれ?」って覗きに来たくなっているのだとすると、かなり面白いことが起きているんだなと思います。実際、『HEX』がリリースされた2018年のうちに完結するはずだったものが、延長して、今現在も続いているので(参考記事:ROTH BART BARON×若林恵 21世紀のバンドはどうあるべきか?)。

ROTH BART BARON(ろっと ばると ばろん)
三船雅也(Vo,Gt)、中原鉄也(Dr)から成る2人組フォークロックバンド。2014年、米国フィラデルフィアで制作された『ロットバルトバロンの氷河期』でアルバムデビュー。2015年、2ndアルバム『ATOM』をカナダ・モントリオールにて制作。2017年、EP『dying for』英・ロンドンにて制作。2018年、3rdアルバム『HEX』を発表し、『Music Magazine』『The Sign Magazine』をはじめ多くの音楽メディアにて年間ベストにランクイン。2019年、ファンコミュニティー「PALACE」の有料版「PALACE Premium」が始動した。
ROTH BART BARON『HEX』を聴く(Apple Musicはこちら

―「P A L A C E」では、参加者とバンドの間で、かなり密なコミュニケーションがなされているんですよね?

三船:そうですね。『HEX』の制作中はバンドのレコーディング風景を生中継したり、ツアーでは「P A L A C E」メンバーにオープニングアクトで出演してもらったりました。それ以外でも、『フジロック』のベストアクトの報告会や、普段、僕がどんな曲を聴いているかとか、「最近、なんでシティポップが流行っているんだろうね?」みたいな素朴な疑問とか、僕の脳を移植するくらいの感じで「P A L A C E」内のタイムラインではいろいろ投げかけていて。そこで積極的に会話に入ってくる人もいれば、見ているだけの人もいるんですけど、そういう参加者のグラデーションも含めて面白いなって思います。

もちろん、「バンドの裏側を知られすぎるのはどうなんだろう?」っていう気持ちもありましたけど、そういうところも自分たちでブレイクスルーして、恐れずに自分が思いつく限りのことを試していくうちに、「P A L A C E」がどんどん日常に入ってくる感じがあって。今はもう、1日1回は「P A L A C E」を覗いていないと、ちょっと居心地が悪くなる感じにはなっていますね。

―日常にまで溶け出して作用しているような感じなんですね。

三船:「P A L A C E」で出会った人たちと一緒にイベント作りはじめたり、「絵が描けます」っていう子のアイデアから一緒に新しいグッズを作ったり。ネットのコミュニティーから生まれたものから、フィジカルなものが生み出される関係になっています。

三船:オンラインとオフラインのどちらかに偏ることもなく、ふたつのラインが並列に存在している面白い関係が作れたなって思います。ここにいる人たちとは、バンドが続く限り、音楽をやり続ける限りの長い付き合いになりそうだなっていう予感があるんですよね。

どうしたら自分の好きなアーティストに音楽を続けてもらえるんだろう? っていうことはすごく考えていて。(栗原)

―では、今日はそんな「P A L A C E」に参加されているメンバーのおふたりに来ていただいているんですけど、まずは自己紹介をお願いします。

栗原:栗原まゆみです。「P A L A C E」のライブプロデュースチームの代表をしています。

伊與部:伊與部絢子です。私は、栗原さんが言い出したことを全力でサポートしています(笑)。

伊與部絢子(いよべ あやこ)
「P A L A C E」ライブプロデュースチーム サブリーダー、デザイン・グッズ担当。ROTH BART BARONを好きになったきっかけは、仕事帰りに『ATOM』を聴いて、泣きながら夜道を歩いたとき。

―おふたりは最初期の段階から「P A L A C E」に参加されているそうですが、そもそも、このプロジェクトの存在を知ったとき、どう思いましたか?

栗原:私は去年の6月に秋葉原のDMM.makeであった30人限定の新曲披露イベントに行っていて、そのとき隣に座っていたのが絢子さんだったんです。そこで最初に「P A L A C E」の構想も聞いたんですよね。

そもそも、私はROTH BART BARONが最初にやったクラウドファンディングにも参加したんですけど、当時はクラウドファンディングがどういうものかもわかっていなかったし、音楽以外のところでファンの期待に応えさせてしまうことに葛藤があったというか……「バンドに、こういうことをやらせてしまっていいのだろうか?」というふうに思って。

栗原まゆみ(くりはら まゆみ)
「P A L A C E」ライブプロデュースプロジェクトの発起人。ROTH BART BARONを好きになったきっかけは『ATOM』ツアーの熊谷でのライブ。以来、常に進化を続ける彼らのライブパフォーマンスに惚れ込み「P A L A C E」に参加し、ライブをプロデュースするまでに至った。

三船:実はそれ、僕は栗原さんに直接言われたんですよ(笑)。

栗原:えっ、覚えてるんですか!?

三船:僕は記憶力がすごくいいみたいで(笑)。2017年に実施した1回目のクラウドファンディングのリターンで「バンドの打ち上げに参加できる」っていうのがあったんですけど、そこに栗原さんは来てくれたんです。その打ち上げで、僕と栗原さんがサシ飲みみたいな感じになって、「クラウドファンディングとか、本当はやってほしくないんですよ!」って、すごく熱く言ってくれて。「こいつ、面白れぇな」って思ったら、今ここにいるっていう(笑)。

栗原:いやだ~、恥ずかしい……。そのときのクラウドファンディングは、いろいろ葛藤がありつつも、結果的に「バンドを応援したい」っていう気持ちで参加しました。CDもなかなか売れなくなっているなかで、どうしたら自分の好きなアーティストに音楽を続けてもらえるんだろう? っていうことはすごく考えていて。それに対して、ROTH BART BARONが出した答えのひとつがクラウドファンディングなら、それに乗ろう、と。

でも、「P A L A C E」の構想を聞いたときには、率直に、「こんな感じだったら応援していきたいな」って思えました。これだったら、バンドに意に沿わないことをやらせることなく、純粋に応援できるんじゃないかなって。それに踊っている人を見ているよりも、自分が踊ったほうが絶対に楽しいから(笑)。

―伊與部さんはどうですか?

伊與部:私も、その6月の秋葉原のイベントで、「P A L A C E」に関して、どういう想いでやっていくのかっていう話がしっかりとバンドからあったので、「そこまでの想いでやるんだったら乗りたいな」って思いました。それに、その日披露された新曲たちがものすごくよくて、この曲たちでこれからアルバムを作るっていうなら絶対たくさんの人に届いてほしいなと強く思ったし、そこにお金だけじゃないかたちで参加できる仕組みというか、場所というか、そういうものを手探りでも作ってくれるなんて、なんて素敵なことだろうって思いました。

音楽を聴いて受け取ったものを、お金の支援以外でも、お互いの持っているもので物々交換するみたいに、なにかしらの形で返せるんじゃないか。ただの消費で終わらずに、なにか小さなことでもできることがあるんじゃないかって考えるととてもワクワクしたんです。

もはや「お客さん」っていう感じじゃなくて、一緒にライブの空間を作る仲間のようになってきた。(三船)

伊與部:あと、私は普段、激しめのライブによく行くんですけど、ROTH BART BARONのライブはいつもお客さんが大人しいので、もっと賑やかになってほしいなって思ったんですよね。「ライブめっちゃいいのに、なんでもっとガッと盛り上がらないんだろう?」っていう疑問があって。そういうことにも自分が関与していけるなら、「やるやる~」っていう感じで、楽しみながら参加した感じでしたね。

―ライブを盛り上げたいというモチベーションは、とても素敵ですね。

栗原:実際、5月に渋谷WWWであった『HEX』のツアーファイナルのときは、ライブの雰囲気がかなり変わったなって私は感じました。普通、ライブで会場が温まってくるのって中盤くらいだと思うんですけど、あの日は、最初の2~3曲目くらいからグワーっと盛り上がっていて。エンジンのかかり方が尋常じゃない、というか。

栗原:バンドの熱量もすごいし、それに応えるお客さんの前のめりな感じもすごくて。今までROTH BART BARONのライブでは感じたことがなかった「ホーム感」みたいなものが、あのライブにはあったんですよね。それは「P A L A C E」のような場があったから、あのライブになったんだろうなと思って。

伊與部:私も、あのツアーファイナルは「念願が叶った!」って思いました(笑)。

―三船さんの実感はどうでしたか?

三船:たしかに、ライブの雰囲気はかなり変わりましたね。それに、ライブのあとにクローズドな空間で「P A L A C E」の参加者たちと会うようになって、彼らの表情が変わってきたことを感じたんですよね。もはや「お客さん」っていう感じじゃなくて、一緒にライブの空間を作る仲間のようになってきた。みんなの目の輝きが変わってきたなって思うし、そういう小さなことでも、確信めいたものを得られるようになりましたね。あのツアーファイナルを終えて、もう1ステップ踏み込んだ場所にいけたような気はします。

「ミュージシャンはこう活動するべきだ」みたいな、ここ60年くらいで作られた幻影に縛られる必要はまったくない。(三船)

―栗原さんと伊與部さんは、9月14日に多摩六都科学館プラネタリウムドームで開催されるROTH BART BARONの単独ライブの運営の中心にいるおふたりということで今日来ていただいていますが、このライブはどのようにして実現に向かっていったのでしょうか?

栗原:去年行われた「P A L A C E」開設に向けたクラウドファンディングのリターンの目玉のひとつに、「ROTH BART BARON 単独ライブをコーディネートプラン」というのがあったんですよね。でも、そのプランの出資額は20万円で、ひとりでやるのは難しいなって思ったんです。それで、「これ、数人で割れば楽しそうだよね」っていう話を、さっき言った秋葉原のイベントの帰りに絢子さんとしていて。

その話が去年9月のライブ終了後に開催された「P A L A C E」のオフ会イベント(『Meet Up at 新代田FEVER』)のときに再浮上したんです。今ここで周りの人たちにも呼びかければ、20万円集まるんじゃないかって。そうしたら周りの人たちも「いいですね」っていう感じになったので、その場で「P A L A C E」を通して呼びかけて。

伊與部:で、結果としてすぐに目標の人数が集まって、プロジェクトがはじまったんです。

―そもそもライブって、バンドにとってとても大事なものだと思うんです。そのプロデュース権限をクラウドファンディングのリターンにするというのは、かなり勇気がいることだったのでは?

三船:「恐れ」よりも「面白そう」が勝っちゃいましたね(笑)。だって自分だったら、自分が好きなバンドのセットリストから会場まで全部決めていいのって、絶対に楽しいだろうなって思うから。実際、ふたりが目を輝かせながら「これを20人でやります!」って言ってきた瞬間に「面白い!」って思ったし、それが可能な世界であったら楽しいよなって思ったんです。だから、あまり勇気はいらなかったですね。

「ミュージシャンはこう活動するべきだ」みたいな、ここ60年くらいで作られた幻影に縛られる必要はまったくないと思うんです。だから、それが罰当たりでないことを祈りながら、お札を剥がしていくようにタブーを取り払っていく必要があるなと。

結局、そこにあるタブーは神様が作ったものではなくて、人間が作ったものなので、罰は当たらないんですよ。それにコケたらコケたで、そのとき考えればいいなと。で、案の定、最近、セットリストの案がきたんですけど、ちょっと本人がたじろぐような感じで(笑)。

伊與部栗原:ははははは(笑)。

三船:「これが観たかったのかぁ」みたいな(笑)。場所も、いろんな案が出ていたんですよ。洞窟とか、教会とか。二転三転しながらも、最終的にはプラネタリウムに決まって。

「P A L A C E」のなかで生まれる議論に関しては、僕は、なるべく自分が笛を吹かない状態で、どんなカオスが生まれるのかを見たいっていう気持ちがあったんです。最後に必要があれば意見を出しますけど、このライブプロジェクトで20人の人たちが意見を出していく様を見ているのが面白くて。「そんなアイデアも出るんだ!」みたいなものも多々あるし。

やっぱり、自分は自分のバンドのファンになりえないし、自分で自分のライブを観ることもできないじゃないですか。オーディエンスという角度からしか見えない景色が自分にも入ってくるっていうのは、相当なインスピレーションになります。それは、自分を知ることにもつながるというか……ある種、僕はこのプラネタリウムのライブで、初めて、自分のライブを観ることになると思うんですよ。

僕らのお客さんは、今の時代になにか違和感があったり、なにか足りないと思っていたり、時代をよりよいものに変えたいと思っている。(三船)

―プラネタリウムライブのフライヤーのデザインは伊與部さんがやられているそうですね。

伊與部:そうなんです。

『“The PLANETARIUM”ROTH BART BARON's Acoustic Live at 多摩六都科学館・プラネタリウムドーム』フライヤー
『“The PLANETARIUM”ROTH BART BARON's Acoustic Live at 多摩六都科学館・プラネタリウムドーム』フライヤー

栗原:「P A L A C E」は今250人くらいて、みんなやっぱりなにかしら一芸を持っているんですよね。

三船:そうだね。「実は私は絵が描ける」とか「実は私は映像を作れる」とか。「人と話をすることが上手い」とか、そういうことでもいい。そういう「実は……」ってみんな持っているものなんですよね。それをアウトプットする機会はなかなかなかったりすると思うけど、「P A L A C E」では、僕らを言い訳にして、それをアウトプットしてもらえればいいなって思っていて。もちろん、決して気負う必要はないし、自分に無理をさせることはない。

自然に歯車が噛み合っていくのであれば、今回のプラネタリウムでのライブのように、最終的に「P A L A C E」の外の世界にも影響を及ぼすことができるようになればいいなって思います。SNSで毒づいているだけだと空回りしちゃうけど、実際になにかを起こすことで、その人の生きがいやアイデンティティーも手に入るはずだから。

―やはり、オンライン上での議論に留まらず、今回のライブ企画のように、オフラインで実現化されるなにかがあり、それによって現実に着地していけるというのは「P A L A C E」にとってとても大きなことですよね。

三船:「P A L A C E」をはじめて見えてきたんですけど、僕らのお客さんは、現状をよしとしていない人が多い気がするんです。今の時代になにか違和感があったり、なにか足りないと思っていたり、時代をよりよいものに変えたいと思っている。

僕らだって、今ある音楽や今ある世界で満足していたら、バンドなんてやっていないですし。そういう感覚がお客さんと共通して持てているんだっていうことが、どんどんと見えてきた。だからこそ、こうやって少しずつ行動していくことで、小さいことでも、どんどん形になっていけばいいなと。この先どうなっていくのかわからないけど、夢を持ちながら現実にアウトプットしている場所があって、たしかな手応えと希望としてそこにあるのは、すごくいいなと思います。

三船さんって、絶対に否定しないですよね。全部受け入れてくれるから、すごいなって思う。(伊與部)

―今、三船さんがおっしゃったことに対して、おふたりはどうでしょう。「P A L A C E」に参加することで、なにかを果たせているような感覚はありますか?

栗原:私の場合は、高校生の頃に「自分が30歳になったら、どんな大人になっているんだろう?」って考えていて。それは「つまんない大人になりたくないな」っていう、よくあるティーンエイジャーのこじらせなんですけど(笑)、結局、大人になって、昔なりたかった職業に就けているわけでもないし、高校生の自分が見たらガッカリするのかなっていう気持ちもあったんです。

でも今は、「好きなバンドのライブをプロデュースしているよ」って言えるし、高校生の頃の自分にも「かっこいい!」って思ってもらえると思うんですよね。昔の自分に胸を張って「私はこういう大人になった!」って、この1点で言える。それは、ごくごく個人的なことだし、「世界をよくしたい」みたいなことではないんですけど、でも、自分はこれをやって変わったというか、「大人って楽しいな」って思えていると思います。

伊與部:私も、そもそも仕事としてデザインはやっていたんですけど、音楽関連ではなくて。好きなバンドのフライヤーをやるなんて、ちょっとした夢だったから、叶えてもらえたなって感じがしていますね。

三船:栗原さんは「個人的な目標」って言ったけど、個人的な目標を叶えるために、みんな存在しているわけだから。それが喧嘩しないように、上手く生きることができる空間があればいいなって思うんですよね。

伊與部:「P A L A C E」に参加して思ったんですけど、三船さんって、絶対に否定しないですよね。全部受け入れてくれるから、すごいなって思うんです。そういう姿勢には、私生活や仕事の面でも影響を受けました。

三船:そういう性分なんだよね。もし差別的なこととかを言う人がいたら、それに対しては否定すると思うけど、そういうことがない限りは、なるべく「ノー」は言いたくない。そもそも僕自身、なにかを「ダメ」って言われると、「なんでだ? やってみよう」って思うタチなんですよね(笑)。

三船:「ダイオキシンが出るから、ビニールは燃やしちゃダメ」って言われると、「なんでだ?」って思ってビニールを燃やしてみるんだけど、すげえ気持ち悪くなって後悔する、みたいな(笑)。一度酷い目にあわないとわからないんですよね。そんなふうに生きてきたんです。

―とにかく実践あるのみというか。

三船:そういう感じです。そもそも、日本の子どもって「やっちゃいけないことリスト」みたいなものを日々見せられながら育つじゃないですか。そんな環境じゃなにもできなくなるし、そんなトラウマを抱えてきた大人たちが街を歩いているとなると、ヤバイなって思うんです。

―たしかに、意識せずとも、それはトラウマになっていますよね。

三船:自分もそんな古い教育システムのなかで育ってきた日本人だけど、もし自分の考えたこと、やりたいことに対して「それ、いいじゃん!」って言ってくれる人が10代の頃に目の前にいてくれたら、すごくよかったんだろうなって思う。それなら今、自分たちでそういう場所を作れたらいいなって思うんです。「それ、いいじゃん!」って言ってくれる人がいる人生といない人生では、まったく変わってくると思うから。

性別の壁を超えたり、家族の形を再定義したりっていうテーマは昔から一貫して歌っていた。(三船)

―この夏のROTH BART BARONとしては、シングル『Skiffle Song』が配信と7インチでリリースされますね。その話も聞かせてください

三船:“Skiffle Song”は、曲自体はデビュー前からあった曲で、でも、しばらくやれる気がしなくて封印していた曲なんです。『HEX』のタームでまた演奏する機会があったりして、7年越しぐらいにやっと日の目を見ることになって。

ROTH BART BARON “Skiffle Song”を聴く(Apple Musicはこちら

三船:自分にとってはかなり過去の曲だし、この曲を演奏することは今までなんとも言えない葛藤があったりもしたんですけど、前に、あるレコード会社の人に「10年近く前の曲を、今でも歌えるというのはすごいことだよ」って言われたことがあったんです。

そう考えると、今でも僕は『化け物山と合唱団』(2012年)の曲を演奏してるしなと思って。気持ちは変われど、今でも歌える曲を作れてきたっていうことは、すごいことなのかもって気づいたときに目から鱗が落ちたというか、つっかえが取れた感じがしたんです。

―“Skiffle Song”は、<自分の子供が育てられないのなら / 他人の子供を育ててみてはいかが?>というラインがかなり印象的ですよね。

三船:「新しい家族の構築」みたいなものをテーマにしている歌詞なんですけど、そもそも僕自身、性別の壁を超えたり、家族の形を再定義したりっていうテーマは昔から一貫して歌っていたんですよね。

三船:遺伝子の螺旋から抜け出して、血のつながりを超えたところに「家族」というものを新たに定義できるのか……。血がつながっていても子どもを殺す人もいるし、血がつながっていなくても家族だと言う人たちもいる。でも、いつの間にか僕らは「家族とはこういうものだ」って決めつけて、そこから変わっていくことを恐れているような気がして。

そういうことに対する疑問を、僕はずっと抱えてきたんだと思うんです。僕はブリティッシュ・インヴェイジョンの頃のバンドのなかではThe Whoが好きだったんですけど、それは、他のバンドたちは「あの娘が好きだ」みたいなことしか歌っていなかったけど、The Whoは“My Generation”――つまり「俺たちの世代の話をしているんだ」っていうことを歌っていたからなんですよね。そこに、すごく自分に近いものを感じたんだと思うんです。

人が変わる瞬間を見ることができるようなことができたらいいなって思っています。(三船)

―「家族の再定義」というテーマは、今、「P A L A C E」という明確に定義しようのない新たなコミュニティーを生み出している三船さんの姿から見ても、しっくりきます。アルバムは年内に聴けそうですか?

三船:新しいアルバムのリリースは11月20日に決まりました。今まさに仕上げている最中なんですけど、“Skiffle Song”は4thアルバムの原石のような曲だと思います。『HEX』も大作だったけど、今回はもっと参加する人数が増えたアルバムになっています。

正直、今回は秘密が多くて、「P A L A C E」メンバーにもまだ見せていないものがたくさんあるんですよ。やっぱり、どれだけ内側を見せるといっても、ショートケーキのイチゴの部分は秘密にしておきたいので。今作っているアルバムはイチゴだらけだから、全然レコーディング風景も見せられないんです(笑)。

伊與部栗原:えぇ~!(笑)

三船:あと、次のアルバムに向けてのクラウドファンディングのプランもいろいろ考えているんですけど、僕らが今やりたいことと、「P A L A C E」のみんなと見たい景色と、それからそもそもどういうふうに僕らの作品をお客さんに届けたかったんだろうという気持ちに立ち返って考えたフィジカルリターンのアイデア、そしてプラネタリウム公演が実現したように、クラウドファンディングだからこそできる面白い体験のリターン。

あと来年5月には、めぐろパーシモン大ホールというところでワンマンライブをやることが決まっていて、この公演にみんなもなにか一緒に参加できるアイデアはないか、と模索しています。人が変わる瞬間を見ることができるようなことができたらいいなって思っています。

三船:僕は、このホールがある都立大学という街の出身なんです。僕が通っていた中学校の合唱コンクールが、このホールのこけら落としだったので、いわば、このホールで最初に歌った子どもたちのひとりが僕なんです。そういう場所に凱旋してライブをするような感覚なんですよね。

今はもうその街には住んでいないんですけど、幼少期からずっとそこで遊んでいたし、中原(ROTH BART BARONのドラムの中原鉄也)ともそこで出会いましたし、今、そういう場所でライブをやることに意味があるんじゃないかと思っていて。

―“Skiffle Song”もそうですけど、『HEX』を経て、三船さんの原点的な部分に戻っていく感覚があるんですね。引き続き、エポックなタイミングになりそうですね。

三船:そうですね。『HEX』以降の世界をちゃんと見せるし、これをもってROTH BART BARONの2010年代が終わるっていうことを宣言できるアルバムになっていると思います。

プロジェクト情報
Makuake「ROTH BART BARON最新作『けものたちの名前』&パーシモン大ホール公演」

ROTH BART BARON、2019年最新作4th Album『けものたちの名前』を Makuake クラウドファンディングにて先行予約、集まった資金で Music Video を3本作ります。また4th Album ツアーファイナルは2020年5月30日、めぐろパーシモン大ホールにて、応援して下さる皆さんと一緒にメモリアルな単独公演を開催します。今回、このプロジェクトでは ROTH BART BARON の最新アルバム(通常盤とスペシャルパッケージ盤)を Makuake にてプレオーダーし、Music Video の制作とめぐろパーシモン大ホールでの単独公演を応援してくださる方を募集致します。

詳細情報
ROTH BART BARON「PALACE Premium」

ROTH BART BARONによるファンコミュニティの有料版。「PALACE Premium」では、ROTH BART BARONライブの生配信や動画配信、バンドメンバーによるラジオ配信、デモ音源や写真の販売、ここでしか投稿されないトピックなど、「PALACE」では公開されない限定コンテンツをお届けします。有料版「PALACE Premium」でご支援いただいた資金は、バンドの活動資金、また新しいアルバムや Music Video の制作費に充てさせていただきます。制作のプロセスや使い方などもコミュニティの中で共有していく予定です。ROTH BART BARONをよりもっと深く楽しみたい方へ、新しいコミュニティ「PALACE Premium」をどうぞよろしくお願い致します。

リリース情報
ROTH BART BARON
『Skiffle Song』(7インチアナログ盤)

2019年8月21日(水)発売
価格:1,836円(税込)
PEKF-1176

[SIDE-A]
1. Skiffle Song
[SIDE-B]
1. GREAT ESCAPE -Okada Takuro mix-

ROTH BART BARON
『けものたちの名前』

2019年11月20日(水)発売

イベント情報
『ROTH BART BARON Tour 2019』

2019年8月21日(水)
会場:東京都 渋谷 WWW X

2019年8月23日(金)
会場:愛知県 名古屋 APOLLO BASE

2019年8月25日(日)
会場:大阪府 心斎橋 CONPASS

出演:
ROTH BART BARON
岡田拓郎
竹内悠馬
須賀裕之
大田垣正信
西池達也

料金:一般3,500円 学生2,500円(共にドリンク別)

『“The PLANETARIUM”ROTH BART BARON's Acoustic Live at 多摩六都科学館・プラネタリウムドーム』

2019年9月14日(土)
会場:東京都 西東京 多摩六都科学館

出演:
ROTH BART BARON
岡田拓郎
竹内悠馬
大田垣正信
西池達也

料金:
一般 前売4,000円 当日4,500円
学生 3,000円

『ROTH BART BARON単独公演』

2020年5月30日(土)
会場:東京都 めぐろパーシモンホール 大ホール

プロフィール
ROTH BART BARON
ROTH BART BARON (ろっと ばると ばろん)

三船雅也(Vo,Gt)、中原鉄也(Dr)から成る2人組フォークロックバンド。2014年、米国フィラデルフィアで制作されたアルバム『ロットバルトバロンの氷河期』でアルバムデビュー。2015年、2ndアルバム『ATOM』をカナダ・モントリオールにて制作。2017年、EP『dying for』英・ロンドンにて制作。2018年、3rdアルバム『HEX』を発表し、『Music Magazine』『The Sign Magazine』をはじめ多くの音楽メディアにて年間ベストにランクイン。2019年、ファンコミュニティー「PALACE」の有料版「PALACE Premium」が始動した。



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