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村田沙耶香と松井周が観察する、傲慢で変な「人間」という生き物

村田沙耶香と松井周が観察する、傲慢で変な「人間」という生き物

inseparable『変半身(かわりみ)』
インタビュー・テキスト
宮田文久
撮影:前田立 編集:中田光貴(CINRA.NET編集部)

僕は人生のすべてが稽古だと思っています。(松井)

―……え? ここまでの喋り方は、村田さんのものではないんですか?

村田:決して、喋り方を真似しているわけではないんです。ある編集者さんが、こういう緊張した喋り方をされる方で、それが自然と私にうつっているんですよ。

松井:普段とは違う喋り方だったので、村田さんは緊張するとこうなるんだと思ってました(笑)。

村田:先日も私、ある方と対談しているときに緊張して、この喋り方で話していて……今日もそうなんです。幼少期からの村田沙耶香の喋りじゃないんですよね。ここまでクリアになることは珍しいんですけど、こうやって自分に他の人の喋り方がうつるのも好きなんです(笑)。

周りの人の真似をすることもあります。友人の家に行ったときに、「沙耶香が持ってきてくれたイチゴ、みんなで食べようか」って言っているのを見て、私も誰か友人が家に来たときに真似して、「じゃあこのイチゴを食べようか」って(笑)。

松井:たしかに、よく考えたらそういうことってどこで覚えたらいいのかわからないから、真似するしかないのかもしれませんね。

松井周(まつい しゅう)<br>1972年東京都出身。1996年劇団「青年団」に俳優として入団後、作家や演出家としても活動を開始する。2007年『カロリーの消費』より劇団「サンプル」を旗揚げ、青年団から独立。バラバラの自分だけの地図を持って徘徊する人間たちを描きながら現実と虚構、モノとヒト、男性と女性、俳優と観客、などあらゆる関係の境界線を疑い、踏み越え、混ぜ合わせることを試みている。
松井周(まつい しゅう)
1972年東京都出身。1996年劇団「青年団」に俳優として入団後、作家や演出家としても活動を開始する。2007年『カロリーの消費』より劇団「サンプル」を旗揚げ、青年団から独立。バラバラの自分だけの地図を持って徘徊する人間たちを描きながら現実と虚構、モノとヒト、男性と女性、俳優と観客、などあらゆる関係の境界線を疑い、踏み越え、混ぜ合わせることを試みている。

村田:外で食事するときにも、誰かが割り箸の包みで箸置きをつくっていたら、「そうか、これがマナーなんだ」とか(笑)。

松井:以前に村田さんと仕事をしたとき、間に15分の休憩が入るということがあって。普通、休憩といわれるとみんな、スマホを確認したり、ちょっと外を見に行ったり、なんとなく「休憩っぽい演技」をするじゃないですか。でも、村田さんは突っ立っていたんですよ(笑)。「あれ、休憩ってどうしたらいいのかな」と思っている、人間の「裂け目」みたいなものがガッと見えちゃっていて。

村田:私は基本的に15分前行動なので、15分休憩といわれても、それはもう休憩ではなくて、もう次の行動の準備をしなきゃいけないんですよね。

松井:僕がふと村田さんを見たら、バッと目が合って、僕のことをずっと見ていたんです。

村田:「みんな15分前行動をしていない!」と思って、たぶんリラックスの仕方を観察しているんでしょうね。次に15分休憩といわれたら、みんなに合わせたように、ちょっとスマホをいじるのもしれません。

他の場面でも、みんながなにかを熱心に写真に撮っていたら、そんなに興味がなくても撮ることがあります(笑)。基本はかなりトレースなんですよ。でも、人間って、そういうところがありませんか?

松井:あります、あります。僕は人生のすべてが稽古だと思っていますから。稽古して、「ああ、そういうことね」と学んで、少しずついろんなバリエーションの演技=プレイをできるようになる、というか。演劇のワークショップでもよくいうことなんですよ。

ワークショップでも「プレイ」をめぐる話をいろんな人に聞いて、自分たちが普段どんな振る舞いをしているのかを客観的に見る、ということをしています。先日の神戸のワークショップに参加してくださった女性の話で面白かったのは、女性のトイレでのプレイなんです。誰かトイレに行った人を待つときは、臭いや音が届かないように、ちょっと離れたところで、少し騒ぎながら待っている、とか。

左から:松井周、村田沙耶香

―なるほど。村田さんが手がける小説版の『変半身』は、セックスや家族といった概念が地球から消えた『消滅世界』(河出書房新社)や、人間が無理やり繁殖を迫られる『地球星人』(新潮社)といった作品の問題意識に近い作品だと思われますが、いかがですか?

村田:もしかしたら、無意識の中ではつながっているかもしれないんですけど、共通の「島」の設定を守るので精いっぱいで。というのも私、子どもの頃から二次創作が苦手だったんです。

たとえば『シティーハンター』(『週刊少年ジャンプ』に連載されていた、北条司による作品)が好きで、冴羽獠と槇村香にデートしてほしかったんです(笑)。そういう話を書きたかったんですけど、全然書けなくて。『らんま1/2』(『週刊少年サンデー』で連載されていた、高橋留美子による作品)で早乙女乱馬と天道あかねのデートも書きたかったんですけど、ダメでした。小学生の頃から、人がつくった設定で書けなかったんですよ。

でも今回は途中から、縛られず自由に書こうと思って。ノートに「自由」と書いたんです(笑)。

―「自由」と書かれたノート(笑)。

村田:「なにも考えず」とも書いてあって(笑)。小説の原稿も私はふだん、「共犯者」だと思っている編集者さん以外には見せないんです。でも今回は企画の性質上、途中の粗い原稿でもお見せしました。

松井:村田さんの原稿はものすごく「厚い」んです。勢いがすごくて、どんどん描写して世界が掘られていって……次々に風景が読む側に渡されて、一気に見えてくる。たとえていうと、Googleの「ストリートビュー」の感覚で歩いていく感じなんですね。

一方で戯曲って、まだ俳優の体がそこにないぶん、これから発語され生成変化されていくための土台として、「薄さ」が必要だ、というのが僕の考えなんです。作品の世界を見るときもどちらかというと俯瞰で定点観測していて、群像的に書いていく。村田さんの小説を読んでいると、そこは全然違って、僕は勝手にエネルギーをもらってしまっているというか。とても不思議な体験なんです。

左から:松井周、村田沙耶香
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イベント情報

『変半身(かわりみ)』
『変半身(かわりみ)』

原案:村田沙耶香 松井周
脚本・演出:松井周
出演:
金子岳憲
三村和敬
大鶴美仁音
日髙啓介
能島瑞穂
王宏元
安蘭けい

東京公演

2019年11月29日(金)~12月11日(水)全15公演
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場 シアターイースト
料金:
前売 一般4,200円 学生3,000円 高校生以下1,000円
当日 一般4,500円 学生3,000円 高校生以下1,000円

三重公演

2019年12月14日(土)、12月15日(日)全3公演
会場:三重県 津 三重県文化会館 小ホール
料金:一般3,000円 U-25券1,500円

京都公演

2019年12月18日(水)、12月19日(木)全3公演
会場:京都府 ロームシアター京都 ノースホール
料金:一般3,500円 25歳以下2,000円 18歳以下1,000円

兵庫公演

2019年12月21日(土)、12月22日(日)全2公演
会場:兵庫県 神戸文化ホール 中ホール舞台上
料金:一般3,500円 U-25券2,000円 U-18券1,000円

書籍情報

『変半身(かわりみ)』
村田沙耶香
『変半身』

2019年11月27日(水)発売
発行:筑摩書房
価格:1,485円(税込)

プロフィール

村田沙耶香(むらた さやか)

1979年、千葉県生れ。玉川大学文学部芸術文化学科卒。2003年『授乳』で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)受賞。2009年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、2013年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島賞、2016年『コンビニ人間』で芥川賞受賞。累計発行部数100万部を突破した。著書に『マウス』『タダイマトビラ』『地球星人』『殺人出産』『消滅世界』『生命式』などがある。2019年11月には『変半身』を筑摩書房より発表予定。

松井周(まつい しゅう)

1972年東京都出身。1996年劇団「青年団」に俳優として入団後、作家や演出家としても活動を開始する。2007年『カロリーの消費』より劇団「サンプル」を旗揚げ、青年団から独立。バラバラの自分だけの地図を持って徘徊する人間たちを描きながら現実と虚構、モノとヒト、男性と女性、俳優と観客、などあらゆる関係の境界線を疑い、踏み越え、混ぜ合わせることを試みている。2011年『自慢の息子』で第55回岸田國士戯曲賞を受賞。2016年『離陸』で2016Kuandu ArtsFestival(台湾)に、2018年『自慢の息子』でフェスティバル・ドートンヌ・パリ(仏)に参加した。

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