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志磨遼平×手塚るみ子 手塚治虫の文化的DNAは永遠の命となる

志磨遼平×手塚るみ子 手塚治虫の文化的DNAは永遠の命となる

『NEW GENE, inspired from Phoenix』
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:垂水佳菜 編集:川浦慧(CINRA.NET編集部)

手塚治虫が生涯にわたり、ライフワークとして描き続けた漫画作品『火の鳥』。人類と地球の歴史を見守り続け、その血を飲んだ者は永遠の命を得られるという伝説の不死鳥をめぐる壮大な人間ドラマは、手塚の死後も漫画のみならずアニメや舞台劇など様々な形で展開しており、国内外を問わず、あらゆるクリエイティブに影響を及ぼし続けている。

手塚治虫生誕90周年を迎えている今年、そんな屈指の名作を題材に総勢10組のアーティストが「音楽」で表現したコンピレーションアルバム『NEW GENE, inspired from Phoenix』が、リリースされた。それぞれのアーティストたちが、「火の鳥」を思い思いに表現した本作を聴いていると、改めて『火の鳥』という作品の持つ懐の深さに驚かずにはいられない。

そこで、本作の監修を務めた手塚るみ子と、コンピレーションアルバムに参加した志磨遼平に話を聞いた。これまでにも実父・手塚治虫の作品を使った斬新なコラボ企画を数多く手がけてきた手塚と、手塚作品から様々な形で影響を受けてきたと公言する志磨。ふたりの対談から、手塚治虫のクリエイティビティや、今改めて注目すべき『火の鳥』の魅力を探る。

(手塚作品は)社会的な「善悪の基準」や「倫理規範」に対して、「本当にそれで正しいのか?」という根源的な問いを突きつけてくる。(手塚)

左から:志磨遼平、手塚るみ子
左から:志磨遼平、手塚るみ子

―志磨さんが手塚治虫作品に初めて触れたきっかけは、どんなところでしたか?

志磨:中学生の頃、友人の薦めで読んだ『MW』(ムウ)でした。当然、もっと子供だった頃から『鉄腕アトム』や『ジャングル大帝』といった手塚キャラには親しんでいましたが、自分から進んで手に取った「作品」としては『MW』が最初だったので、読んだときはとにかくショックでしたね。

ストーリーも決して子供向けではなく、複雑な心理描写や同性同士の恋愛、猟奇殺人など倫理的な部分に挑戦するようなテーマを、なんのてらいもなく展開していて。手塚治虫はこんなに恐ろしい漫画も描いていたのか、と中学生ながらにも魅了されました。

手塚:手塚治虫の作品を「白手塚」「黒手塚」と分けるとしたら、同性愛なおかつ少年愛を描いた『MW』は間違いなく「黒手塚」に分けられる作品ですよね。一般的な社会倫理に反したモチーフが出てくるという点では、近親相姦を描く『奇子』と双璧をなすというか。私も中学生の頃に『奇子』を読んで、ものすごくショックを受けました。それまでは父の、「白手塚」の部分だけを見てきたので。

志磨:それまで僕は、親から与えられた児童書や児童文学などを読んでいました。漫画も少年誌を読む程度だったのですが、中学生くらいから、自分で読みたいものを自発的に探すようになってきて。その頃は江戸川乱歩とか、ちょっと耽美で背徳的なものにすごく興味があって。

そういうものをこっそり読んだり、音楽も友人がまだ誰も知らないものや、テレビなどで紹介していないものを好んで聴いたりしていました。

―その延長で『MW』にも手を伸ばしたのですね。

志磨:ただ、手塚治虫先生といえば国民的な作家であり、漫画家なら誰もが憧れるような教科書的な人だと思っていたから、そんな人が『MW』や『奇子』のような作品を描いていたことは本当に驚きでした。「すごいことだな、これは!」と。

志磨遼平<br>1982年、和歌山県出身。ミュージシャン・文筆家・俳優。<br>2006年「毛皮のマリーズ」としてデビュー。6枚のオリジナル・アルバムを残し2011年、日本武道館公演をもって解散。翌年「ドレスコーズ」結成。シングル「Trash」(映画『苦役列車』主題歌)でデビュー。アルバム2枚、E.P.1枚を発表後、志磨以外のメンバーが脱退。現在はライブやレコーディングのたびにメンバーが入れ替わるという唯一無二の活動を続けている。
志磨遼平
1982年、和歌山県出身。ミュージシャン・文筆家・俳優。
2006年「毛皮のマリーズ」としてデビュー。6枚のオリジナル・アルバムを残し2011年、日本武道館公演をもって解散。翌年「ドレスコーズ」結成。シングル「Trash」(映画『苦役列車』主題歌)でデビュー。アルバム2枚、E.P.1枚を発表後、志磨以外のメンバーが脱退。現在はライブやレコーディングのたびにメンバーが入れ替わるという唯一無二の活動を続けている。

手塚:人間にとって最も「タブー」とされている領域へあえて踏み込んでいくことで、社会的な「善悪の基準」や「倫理規範」に対して、「果たして本当にそれで正しいのか?」というような根源的な問いを突きつけてくるんですよね。

―手塚先生は、なぜそういった問いを、漫画を通して投げかけていたのでしょう?

手塚:手塚自身が、生涯にわたってテーマにしてきたのは「人間」そのものです。人間に善良なところばかりでなく邪悪な部分もある。タブーを冒したがる「業」のようなものがありますから、そこをも描かざるを得なかったのでしょう。

一方で、子供たちには夢を持たせなければという思いもあり、そこから『ジャングル大帝』や『鉄腕アトム』のような作品が生まれていたのですが、それぞれの作品に大きな違いはおそらくなかったのだと思います。絵柄が可愛いので子供向けの甘いお菓子のように感じますし、「教育的」と思われていますけど、実際に食べてみると『鉄腕アトム』にも刺激の強い、味付けの濃いエピソードはあるんです。

手塚は、子供に夢と希望を持たせつつも「社会とはこういうものなのだ」ということを伝えたかったのだと思います。社会に対して常に疑問を持ちながら、自分の価値観は自分で作ってもらいたいというメッセージが込められていたのではないでしょうか。

―メッセージは変わらないまま、読む世代によって作品のテイストを変えていくところもあったでしょうし。

手塚:『MW』は確かに青年誌に描かれた漫画ではあったけれども、おそらく10代の子供たちが「大人のお仕着せ」以外の作品に興味を持ち始めたときに、そばにあって欲しい作品というか。自分の世界を広げるきっかけとなったり、自分の中にあるモヤモヤとした気持ちを投影させたりするための作品でもあって欲しいという思いが、『MW』には込められていたのではないかなと思います。今、志磨さんのお話をお聞きしながら改めてそう思いました。

―「白手塚」と「黒手塚」は決してかけ離れたものではなく、表裏一体となって「人間」を表していたのでしょうね。

手塚:手塚も人間ですからね(笑)。「聖人君子」のように言われることもありますが、間近で見ていると全然そんなことはない。嫉妬深い上にコンプレックスも強く、醜い部分もたくさん持った人でした。ただ、そこがあってこそ手塚はあのような作品が描けたのだろうなとも思います。おっしゃるように、「黒」と「白」両方あって初めて「手塚ワールド」なんですよね。

手塚るみ子<br>プランニングプロデューサー。手塚プロダクション取締役。漫画家・手塚治虫の長女として生まれる。大学を卒業後、広告代理店に入社し、セールスプロモーションなどの企画・制作に携わる。父親の死をきっかけに独立し、手塚作品をもとにした企画のプロデュース活動を始める。音楽レーベル・Music Robitaを主宰。
手塚るみ子
プランニングプロデューサー。手塚プロダクション取締役。漫画家・手塚治虫の長女として生まれる。大学を卒業後、広告代理店に入社し、セールスプロモーションなどの企画・制作に携わる。父親の死をきっかけに独立し、手塚作品をもとにした企画のプロデュース活動を始める。音楽レーベル・Music Robitaを主宰。
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リリース情報

『NEW GENE, inspired from Phoenix』 ©Tezuka Productions

『NEW GENE, inspired from Phoenix』

2019年10月30日(水)発売
価格:3,300円(税込)
KICS-3862

1.HONESTY GOBLIN
2.Circle Of Time
3.賢者のダンスフロア
4.藝術編(The Artist)
5.Fireburst
6.THE FLARE
7.Human Is (feat.Fennesz)
8.火の鳥のうた
9.循環進行/逆循環進行
10.速魚

プロフィール

志磨遼平(しま りょうへい)

1982年、和歌山県出身。ミュージシャン・文筆家・俳優。
2006年「毛皮のマリーズ」としてデビュー。6枚のオリジナル・アルバムを残し2011年、日本武道館公演をもって解散。翌年「ドレスコーズ」結成。シングル「Trash」(映画『苦役列車』主題歌)でデビュー。アルバム2枚、E.P.1枚を発表後、志磨以外のメンバーが脱退。現在はライブやレコーディングのたびにメンバーが入れ替わるという唯一無二の活動を続けている。その後5枚のアルバム、4枚のライブ映像作品を発表。シングルに「トートロジー」(アニメ「トリコ」ED主題歌)、「人間ビデオ」(フル3DCG映画『GANTZ:O』主題歌)、「コミック・ジェネレイション」(映画『溺れるナイフ』主題歌)がある。コラム等の文筆活動のほか、近年は俳優としてWOWOW 連続ドラマW『グーグーだって猫である2 -good good the fortune cat-』、映画『溺れるナイフ』『ホットギミック』に出演。2018年には、初の音楽監督作品『三文オペラ』(ブレヒト原作・KAAT)上演。2019年5月、約2年ぶり6枚目のフルアルバム『ジャズ』、11月20日、LIVE Blu-ray & DVD『ルーディエスタ/アンチクライスタ the dresscodes A.K.A. LIVE!』発売。

手塚るみ子(てづか るみこ)

プランニングプロデューサー。手塚プロダクション取締役。漫画家・手塚治虫の長女として生まれる。大学を卒業後、広告代理店に入社し、セールスプロモーションなどの企画・制作に携わる。父親の死をきっかけに独立し、手塚作品をもとにした企画のプロデュース活動を始める。原宿ラフォーレミュージアムにおける展覧会「私のアトム展」をはじめ、劇場アニメ「ジャングル大帝」の宣伝プロデューサー、また手塚治虫生誕70周年記念トリビュートCD「ATOM KIDS」(ワーナーミュージック)や、朝日放送創立50周年キャンペーン「ガラスの地球を救え」年間イメージソングのプロデュース、最近では『手塚治虫文化祭~キチムシ』を開催するなど、様々なジャンルで幅広い企画制作をプロデュースする。「定本オサムシに伝えて」(立東舎文庫)「ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘」(文藝春秋)などの著書がある。また音楽レーベル「MUSIC ROBITA」を設立し、2003年の「鉄腕アトム」生誕にあわせたトリビュートCD「Electric-Brain feat. ASTROBOY」はじめ、手塚作品の音楽企画も制作する。

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