NOISEMAKER×キム・ジョンギ 誰もが表現者の時代のプロの姿勢

音楽とアート、日本と韓国。ジャンルも国境も超えて、2組の表現者たちがコラボレーションを実現した。前作『RARA』(2019年)ではニューヨーク在住のストリートアーティストWKインターアクトとコラボしたロックバンドNOISEMAKERが、10月にリリースした最新シングル『MAJOR-MINOR』で、アートワークを依頼したのは、底なしの筆力で「最強の絵師」とも呼ばれる韓国のドローイングアーティスト、キム・ジョンギだ。領域や活躍のフィールドが違っても、「表現」を生業にする者であれば繋がる心がある。両者の対談から、それが伝わってくるだろう。

制約がないことは、絵を描く人間としてはいいことなのかもしれないし、よくないことかもしれません。(キム)

―NOISEMAKERとキムさんとの出会いはどのようなものだったのでしょうか?

HIDE(Gt):僕とAGが昔からキムさんの作品のファンだったんです。今回の音源が出来上がってジャケットはどうしようと考えたときに、お願いしたいなと思いついたのがキムさんでした。ちょうど日本で展示会をやられていたので、見に行って。それが初対面だったんですけど、その場でジャケットを描いてもらいたいとお願いをしました。

AG(Vo):手紙を韓国語で書いて、音源と一緒に渡したんです。

キム:手書きの手紙をもらったのがひさしぶりで、すごくドキドキしました。字もちょっと子どもが書いたような字で……。

NOISEMAKER:あはは(笑)。

左から:YU-KI、HIDE、キム・ジョンギ、AG、UTA

キム:でも見た瞬間に、丁寧に書いたという気持ちが伝わってきて感動しました。いまだに自分の作業場の机の上に飾ってあります。

AG:ええ! めっちゃうれしいです。

キム:お話自体、魅力的だったので、手紙をいただかなくてもきっと今回のお仕事は受けたと思うんですけど、手紙をいただいたので絶対にやろうと思いました。

―実際のジャケットの制作において、バンド側とキムさんでやりとりはあったんですか? 「こういう絵にしてほしい」とか。

AG:いや。完全にお任せです。ジャケットは自分たちの好きなアーティストからの答えだと思っているので、それについてのノーはないっていう考え方で。むしろどんな答えが返ってくるのか楽しみでしたね。

HIDE:僕らがお願いしたのはデザイナーさんじゃなくて、「アーティスト」の方。デザイナーだったら「こういうデザインにしてください」って要望を出して、修正してもらって……とやりとりをするんですけど、アーティストなので。僕らの作品に対しての、アーティストの方のイメージが欲しいんです。「こういうふうにしてください」っていうんだったら、自分たちで描けばいいわけですし。

NOISEMAKER(ノイズメイカー)
奥から、UTA(Dr)、YU-KI(Ba)、AG(Vo)、HIDE(Gt)
札幌にて結成。4人組オルタナティブロックバンド。パンク、ロックに留まらず、HIPHOPやR&B、グランジ、オルタナなど様々なジャンルをクロスオーバーした自由度の高いサウンドに支持を集める。「ROCK×ART」を信念に掲げ、アートワーク、デザイン、サウンドメイクなど全てをセルフで行い「日本一のDIY ロックバンド」とも評される。
NOISEMAKER『MAJOR-MINOR』を聴く

―「キムさんにジャケットをお願いする」こと自体が作品の一環というか。

HIDE:そうそう。キムさんは下書きなしで緻密な絵を描かれるなど、僕たちには想像もできないようなことをやられていて、要望を出すなんてむしろおこがましいです。

キム:ジャケットのデザインに関してミュージシャンの方から「こうしてください」「これはダメです」といった制約がないことは、絵を描く人間としてはいいことなのかもしれないし、よくないことかもしれません。以前韓国のヒップホップアーティストともお仕事をさせていただいたんですが、そのときはなかなかイメージが思い浮かばなくて苦労して、要望やテーマがあったほうが描きやすかったかなとも思っています。でも今回はお話をいただいた時点で、音楽を聴くよりも前にジャケットのイメージがパッと沸いて。デザインも100パーセント任されていたので、まったく苦労がなかったですね。

―思い浮かんだイメージというものはどんなものだったんでしょうか?

キム:「自分の道をしっかり歩いてる人」が最初に思い浮かびました。韓国ではアイドルなどと比べるとロックってそこまでポピュラーな音楽じゃないんです。韓国に比べたら日本はそんなことないと思いますが、それでもNOISEMAKERさんは10年以上続けていて。しかもバンドは1人で活動するわけじゃなくて、4人で動かないといけないから、4人が協力して、長く自分たちの道を歩いてきたんだと思うんです。その力強さを表現したかった。

キム・ジョンギ
1975年、韓国生まれ。東義大学の美術学科で美術とデザインの修士を取得。2002年『ヤングチェンプ』誌でデビュー作『Funny Funny』を発表。現在はライブドローイングを中心に世界各国で活動している。
キム・ジョンギの作品

結局、自分が満足できないといいものが提供できない。(HIDE)

AG:おお、それはうれしいです。

キム:いまの時代、音楽やアート以外にも楽しめるコンテンツはたくさんあります。その中で彼らはロックミュージックを選んだ。そんな彼らから「世の中の人たちがどう思おうが、どう評価しようが、俺たちはこの道を進む。自分たちの声を出す。この音楽でアピールする」といったイメージが一気に湧きました。私も駆け出しの頃、出版社に絵を売り込みに行っては「人気のあるテイストじゃないから変えて」といわれて苦労したんです。

NOISEMAKERも人知れずそんな苦労を繰り返してきたんじゃないかなと思って。喪失感みたいなものも感じただろうし、最初から演奏がうまかったわけでもなかっただろうし。自分とNOISEMAKERさんがリンクしたんですよね。そのイメージから、人の多い混雑している中で「いつか大きくなる」という強い気持ちを持つ、まだ小さい人を描きました。

AG:キムさんがジャケットに込めた思い、今日初めて聞きました。

UTA(Dr):絵を見たときに、僕には大衆の目に晒される中での弱さと強さを感じたんですけど、やっぱりそうだったんだなと答えあわせができたような気持ちです。

UTA(NOISEMAKER)

YU-KI(Ba):絵だけでも感動していたんですけど、バンドの立ってる位置とかも汲んだ視点で描かれていると知って、さらに感動します。

AG:音楽にもアートにも目にも見えない力があると俺は信じていて。ジャケットを描いてもらう前にお会いしたのは展示会のたった1回だったのに、その一瞬でいまの自分たちの状況や曲のリリックにぴったりな絵のイメージがキムさんの中に浮かんだというのはミラクルですね。

HIDE:今回ジャケットを描いていただいたあと、キムさんからコメントをいただいたんですよ。そこに「作品は大勢の人のために作成するときもありますが、それでも主には自身の創作意欲を満足させることが優先されるのだと思っています」とあって。

なにかを作っている以上、周りからいろんなことをいわれるじゃないですか。いいことも悪いことも。でもそれに影響されすぎると、芯がなくなっちゃうんですよね。結局、自分が満足できないといいものが提供できない。プラモデルみたいなもんというか……完成してうれしい、みたいな。それは売ってもいいし、売らなくてもいい。ただ作りたいだけ。

―その一方で、NOISEMAKERは音楽で生活をしているわけで、ある意味「売れないといけない」わけです。

HIDE:「速い曲がいいんじゃないか」とか「もっとキャッチーな曲を」といわれることもあります。いわゆる「売れ線」の曲を、みたいな。もちろん売れ線の曲を作れるのはすごいんだけど、自分たちのテンションが上がる曲を作らないと、聴いている人を感動させられないと思う。改めて、キムさんからそれをいわれているような気持ちになりました。

HIDE(NOISEMAKER)

アートワークによって僕らが作る音楽自体は変化しなくても、伝わり方は変わっていくんじゃないかなと思いますね。(AG)

―CDに付加価値をつけるためにジャケットやパッケージにこだわるという風潮があると思うのですが、NOISEMAKERがアートワークにこだわる理由はそこじゃないような気がしていて。NOISEMAKERはアートワークをどのようなものだと考えていますか?

AG:自分が影響を受けてきたバンドがアートワークも大切にしていて。たとえばLINKIN PARKはボーカルのマイク・シノダが『ハイブリッド・セオリー』(2000年)ジャケットを手がけている。そういう作品をくらってきているので、アートワークにこだわることは俺の中では自然なことなんですよね。自分たちが影響を受けたものを、自分たちなりにやっているだけです。単純に絵やアートが好きっていうのが一番ですね。

YU-KI:残念ながら僕はまったく絵は描けないですけど、自分たちが憧れてたり、好きなバンドってどの角度から見てもカッコよかった。アートワークにこだわることで、自分たちもそういうバンドになれてきているのかなと思います。

YU-KI(NOISEMAKER)

AG:今日キムさんと話してて思ったんですけど、アートワークは作品にパワーを加えてくれるものかもしれない。というのも、俺らはメロディーとリリックに意味や思いを込めていますけど、今作はそこにキムさんのメッセージが加わって……というか掛け算されている。これは僕らがジャケットも自分たちで描いていたら生まれなかったメッセージなので、そういう意味でアートワークは作品において大切な1つの要素だなと改めて思いましたね。

―今回のようにさまざまなアーティストとコラボすることによって、NOISEMAKERが作る音楽にも変化や影響はありますか?

HIDE:作る音楽が変化することはないですね。音楽に対しては常に進化を求めてはいますが、それはアートワークによってもたらされることではない。ただ、たとえばアートワークから曲を作るのはアリかなとかはちょっと思いました。

UTA:ありですね!

AG:面白そう。

HIDE:たとえばキムさんにジャケットを目の前でライブドローイングしてもらうとか……。

YU-KI:そのジャケットを見て、その場で曲を作って次の日にレコーディングする?(笑)

AG:アートワークによって僕らが作る音楽自体は変化しなくても、伝わり方は変わっていくんじゃないかなと思いますね。入り口も広がるし、CDももっと大切にしてもらえるんじゃないかなと。

AG(NOISEMAKER)
ニューヨーク在住のストリートアーティストWK Interactとコラボした『RARA』(2019年)

素人でも簡単に表現できる時代に、プロがやるべきなのは細部までこだわることなんだと思います。(HIDE)

―やはりストリーミングサービスや配信リリースが定着して、CDが売れなくなっていくことに対する危機感も?

HIDE:ストリーミングでCDが売れなくなっているとはいいますけど、海外に比べたら日本はまだCDが売れる。だったらまだパッケージにこだわらないといけないなとは思います。

AG:あとは単純に自分たちが「ジャケットを大切する」ということを捨てられないんですよ。昔から「このジャケット、かっけー!」っていってジャケ買いしていた世代だから、アートワークは大事にしたいなというのが根本にあるんだと思います。

HIDE:素人でもパソコンで曲を作って簡単に発表できるような時代。じゃあプロでやってる俺らはなにができるか? と考えたときに、それこそ俺らがやるべきなのは細部までこだわることなんだと思います。配信で聴く人はスマホの小さい画面でしかジャケットを見ないとしても。

キム:アーティストの立場からすると、音楽でも絵でも、誰でも簡単にネットにアップできて、そのぶん簡単に消費されちゃうというのはすごく不満です。でも逆にいうと、デジタルで簡単にできる時代だからこそ、アナログなことをやったり、こだわりを持って活動をすることで注目されるし、価値が生まれるんじゃないかなとも思います。

キム・ジョンギの作品

HIDE:そうですよね。僕もそう思います。

キム:数カ月前に展示会で会ったあとに、YouTubeでもNOISEMAKERさんを見ていたんですけど、実際にしゃべってる姿もかっこいいですね。

AG:ありがとうございます。俺は想像していた方と全然違いました。話しかけるまで怖い人かなと思っていて……。

キム:そんな怖い顔じゃないんですけどね(笑)。

AG:あはは(笑)。でも展示会で大勢の人に対して深々と頭を下げている姿を見てすごく感動したんです。すごい先生なんだから踏ん反り返っててもいいはずなのにものすごく低姿勢。それに有名な方だからビジネス的な考えをしてもいいのに、手書きの手紙で仕事を引き受けてくださったり、気持ちで動いている方なんだなと思って。自分もそういう人になりたいなと思いました。

キム:私は有名なわけじゃないですよ……。

NOISEMAKER一同:いやいやいや!

キム:自分では有名になってるという実感はないんです。プロだからお金を稼ぐというのはもちろんですが、自分が楽しめる仕事をやっていたいんです。だから今回も楽しそうだなと思って受けましたし、実際すごく楽しかったです。

HIDE:「楽しかった」といってもらえるのは本当にうれしいですね。

キム:今年の春にパリでフィルハーモニー管弦楽団とのドローイングショーをやったんです。5分の曲だったら5分で絵を描いて、25分の曲だったらそれにあわせて25分で絵を描くっていう。聴覚的な楽しさと視覚的な楽しさがコラボしてすごく面白い体験でした。NOISEMAKERさんとも、たとえばストーリーのある曲なんかで共演してみても楽しいんじゃないかなと思います。

NOISEMAKER一同:おお!

AG:今日のキムさんとのトークショーではその場でドローイングもしてもらいました。キムさんのことを知らない人や、アートに興味のない人もいたと思うんですけど、みんな楽しんでいて。改めて音楽しか知らない人にはアートに興味を持ってもらいたいと思ったし、これからも面白いことがしたいなと思いました。

キム:ロックミュージックとアート、一見関係ないように見えますけど、混ざると掛け算のような効果が生まれて、新しい楽しさが生まれる可能性を感じました。

AG:とりあえず今日はこのままキムさんと飲みに行きたいです!(笑)

リリース情報
NOISEMAKER
『MAJOR-MINOR』(CD+DVD)

発売日:2019年10月16日
価格:1,980円(税込)
品番:VPCC-82665

[CD]
1. MAJOR-MINOR
2. Dry
[DVD]
「RARA TOUR」FINAL@TSUTAYA O-EAST
1. RARA AVIS
2. NAME
3. THIS IS ME
4. Change My Life
5. Something New
6. YayYayYayYayYayYayYayYay
7. SADVENTURES
8. One Day
9. Dharma Light
10. Flag
11. To Live Is


プロフィール
NOISEMAKER (ノイズメイカー)

札幌にて結成。AG(Vo)、HIDE(Gt)、YU-KI(Ba)、UTA(Dr)からなる4人組オルタナティブロックバンド。パンク、ロックに留まらず、HIPHOPやR&B、グランジ、オルタナなど様々なジャンルをクロスオーバーした自由度の高いサウンドに支持を集める。“ROCK×ART”を信念に掲げ、アートワーク、デザイン、サウンドメイクなど全てをセルフで行い”日本一のDIY ロックバンド”とも評される。結成以来、「ROCK IN JAPAN FES」や「SUMMER SONIC」、「OZZFEST JAPAN」、「COUNTDOWN JAPAN」など、全国各地の大型フェスに出演。シンガポール、台湾など海外のフェスにも出演し海外からも大反響を得る。初のワンマンツアー「NOISE MANIA」を大盛況に終えた後、中国ツアー「NOISE MANIA IN China」を開催。2018年1月27日に恵比寿LIQUIDROOMで行われたワンマンライブ「RED APHELION TOUR FINAL ONE MAN」ではソールドアウトし、大成功を収めた。同年5月20日に北海道を代表する大きなフェスにしたいという思いを込め、バンドの故郷北海道(札幌)にて「KITAKAZE ROCK FES. 」を主催。現在まで2年連続で開催している。同年7月にはJESSE(The BONEZ、RIZE)をフィーチャリングゲストに迎えたシングル『Wings』を発売し、東名阪札リリースツアーも即完売させた。近年ではアルバム『RARA』をリリース。AGとHIDEによるアートプロジェクト「DOTS COLLECTIVE」の繋がりから、ニューヨークよりストリートアーティスト 「WK Interact」を招き、制作費約1000万円をかけ渋谷のビルの壁に(12m x 12m)にRARAのジャケットを制作し大きな話題となった。リリース後は全国15ヵ所を巡った「RARA TOUR」で各地軒並み完売を続出。ファイナルの渋谷TSUTAYA O-EASTでのワンマンライブも見事ソールドアウトさせた。

Kim Jung Gi (キム・ジョンギ)

金政基。1975年、韓国生まれ。東義大学の美術学科で美術とデザインの修士を取得。2002年「ヤングチェンプ」誌でデビュー作「Funny Funny」を発表。現在はライブ・ドローイングを中心に世界各国で活動している。



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