特集 PR

わからない自分を疑い反芻する。étéが語る、詩が生まれる瞬間

わからない自分を疑い反芻する。étéが語る、詩が生まれる瞬間

été『episode』
インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:馬込将充 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

自分の中に相反することがある、そのグチャグチャの状態をそのまま言葉にしたいんですよね。

―歌詞を書くうえで、「この言葉は誰かを不快にさせるかもしれない」というようなことは考慮されたりしますか?

オキタ:僕が読んでいて不快に思う文章って、品がない文章なんです。今、ちょっとそういう歌が人気な印象があるんですよ。「バイトが終わって、アパートに帰って、彼女と喧嘩して……」みたいな(笑)。よくいえばリアルなんだけど、悪くいえば詩的ではない。もちろん、竹原ピストルさんみたいにリアルな歌詞でもいいものはいいし、文学性を感じるものはあるんです。でも、彼のようにロマンチシズムを感じさせるものと、そうでないものの差は明確にあるんですよ。品がないものって、あるような気がして。

―オキタさんにとって、詩とは、あるいは「詩的である」ということは、どういうことですか。

オキタ:「言葉にできないもの」が「書いてある」のが詩だと思います。僕が大好きな小川洋子という作家さんがよく書いていることがあって。「言葉にできないほど悲しい」とか、「言葉にできないほど嬉しい」ということを言葉にするのが作家だと。自分もそういうことをやっているんだという意識は大切にしています。

オキタユウキ

―「言葉にできない」ものの存在を信じることが詩を書くことの前提だとしたら、オキタさんの「疑う」という姿勢も、すごくポジティブなことなんだと納得できますね。なにかを疑うことは、それ以外の可能性を信じることだと思うので。

オキタ:やっぱり、自分が書いているものに対して肯定的でいられないと、やっていけないので。そのために芯は必要だし、自分にはそれがあると思っています。それこそ、今回のアルバム1曲目の“Bipolar”は「両極端」とか「双極」という意味で。自分の中に相反するものがあるのは苦しいことだし、どこかで結論を出したり、他のなにかのせいにして自分を守ろうとしてしまうと思うんですけど、僕は自分の中に相反することがある、そのグチャグチャの状態をそのまま言葉にしたいんですよね。それはまさに、言葉にできないものを言葉にしていく感覚なんです。

僕は作詞を通じて、自分自身のことをもっと知ろうと思うんです。

―ここまで歌詞の話をしていただきましたけど、「この歌詞を、どう曲にしていくんだろう?」というところが、まったく想像できない部分でもあって(笑)。

オキタ:これだけ歌詞の話をしておいてなんですけど、実は歌詞は最後に書くんです(笑)。étéの音楽は、構造美や構築美……要は「構成」の面白みによって成り立っているものだと思っていて。なので、「ここはこういうアプローチをしたら面白いんじゃないか?」というようなところから考えて、最初にデモを作り、そこから曲を作っていくんですよね。

―なるほど、曲が先なんですね。では、曲のムードに引っ張られて歌詞の内容が変わっていくこともありますか?

オキタ:もちろん、優しい曲調だったら、言葉の面でも自分の優しい部分が抽出される、みたいなことはありますけど、結局どの曲でもずっと同じことを書いている感覚があるんですよね。それは相互不理解についてであったり、他者に対して懐疑的である自分自身についてであったり、自分を取り囲む漠然とした雰囲気に対して思うことであったり……そういうことは、どの曲でも一貫していると思います。なにより、感情が見える音楽が作りたいんです。そこは一貫していますね。

―新作のタイトルは『episode』と名づけられていますけど、2019年リリースされた作品のタイトルは『Apathy』でしたよね。『Apathy』から『episode』で、ご自分のモードの変化のようなものはあったと思いますか?

オキタ:『Apathy』は、さっきいったような、自分の周りの同世代の人たちに感じる思考停止というか、自分に合うようにパッケージングされたものを手に取り、身に着けていく感覚に対してつけたタイトルで。「僕らで生き抜こう」に賛同していくということも、ある種の無関心を生み出しているし、本当の問題から目を背けるきっかけになってしまっていると思うので。

あと、「アパシー」というのは、心に波が立たなくなってしまう病気の症状でもあるんですよね。自分の心が疲弊してしまって、なにを受け取っても心が動かなくなってしまう。特に今は、受け取るものが多すぎて、みんながみんなそうなってしまう……すごく病的な時代だと思って。あのアルバムは結果として、他者に向いたものになったと思うんです。それは、自分を書き切ることによって、一層、他人のことがわかっていくという意味では、自分にとっては理想的なものだったんですよね。

été『Apathy』を聴く(Spotifyを開く

―そこから『episode』へと至ることで、なにが変化したと思いますか?

オキタ:基本的なモードは変わっていないと思うんです。「episode」というのは、医学的に「あるひとつの症状が続いている期間」という意味合いがあるんですけど、今の時代は病的だなと思うし、僕はここまで周りを疑ったり、自分を掘るために言葉を重ねていく自分自身に対しても、「ここまでいくと病的だな」と思うこともあるし(苦笑)。ただ『Apathy』を経て、3枚目の全国流通盤を作るとなって考えたときに、「まだ自分のことを書けるな」と思ったんですよね。なので、より自分の方向性が定まった感覚が今回はありました。

オキタユウキ

―『Apathy』と『episode』では、歌詞の質感も微妙に異なっていると思うんですよ。でもいっていることは一貫している。その、「いい方」が変容していく道筋によって、この先のétéの表現はさらに奥深いものになっていくんでしょうね。

オキタ:……この間、新譜を聴いてくれた友達に「まだ、そんなにいいたいことがあるんだね」っていわれて、「僕もそう思う」と答えたんですけど(笑)。

―ははは(笑)。

オキタ:でも結局、人が背負うものは、その人が触れてきたものやその人が出会ってきた人じゃないですか。僕は、これは僕のための芸術だと思っているので、自分自身を掘り下げる行為をやり続けていくんだと思います。

―なぜ、オキタさんは他者や社会を疑い、ここまで言葉を積み重ねながら、「自分」という存在を突き詰めようと思うんでしょうね。

オキタ:自分でやろうとしない人は、それを他者や自分の外側に求めるんだと思うんです。他人のことをもっと知りたいと思ってコミュニケーションを取ったり、いろんなものを身につけたり。どちらが正しいというわけではないんですけど、僕はそうじゃなかったんですよね。諦めに近い気持ちで、「他人のことはわからないんだ」って思った。だって、みんな本当にいいたいこともいわないし、思っていることもいわないから。それなら、僕は自分自身のことをもっと知ろうと思うんです。自分が一生一緒にいる自分を言葉にしながら、自分に向き合っていこうと思います。

オキタユウキ
Page 3
前へ

リリース情報

『episode』(CD)
été
『episode』(CD)

2020年1月15日(水)発売
価格:1,650円(税込)
CMI-0075

1. Bipolar
2. skepticism
3. High Hopes
4. Over
5. 何者でもない

イベント情報

été
『été TOUR 2020 “Over”』

2020年3月14日(土)
会場:東京都 下北沢 MOSAiC

2020年3月21日(土)
会場:長野県 松本 ALECX

2020年3月22日(日)
会場:新潟県 CLUB RIVERST

2020年3月28日(土)
会場:福井県 CHOP

2020年4月4日(土)
会場:北海道 札幌 COLONY

2020年4月11日(土)
会場:愛知県 名古屋 GROW

2020年4月12日(日)
会場:京都府 GROWLY

2020年4月19日(日)
会場:千葉県 LOOK

2020年4月20日(月)
会場:静岡県 UMBER

2020年4月26日(日)
会場:神奈川県 YOKOHAMA B.B.STREET

2020年4月28日(火)
会場:香川県 高松 DIME

2020年4月29日(水・祝)
会場:兵庫県 神戸 ART HOUSE

2020年5月1日(金)
会場:山口県 LIVE rise SHUNAN

2020年5月2日(土)
会場:岡山県 CRAZYMAMA 2ndRoom

2020年5月5日(火・祝)
会場:宮城県 仙台 enn3rd

2020年5月6日(水・祝)
会場:青森県 Quarter

2020年5月9日(土)
会場:埼玉県 HEAVEN’S ROCK 熊谷 VJ-1

2020年5月10日(日)
会場:大阪府 北堀江 club Vijon

2020年5月11日(月)
会場:広島県 CAVE-BE

2020年5月16日(土)
会場:福岡県 Queblick

2020年5月22日(金)
会場:茨城県 club SONIC mito

2020年5月23日(土)
会場:群馬県 前橋 DYVER

2020年6月14日(日)
会場:東京都 Shibuya Milky way

料金:各公演 前売2,500円 当日3,000円(共にドリンク別)

プロフィール

オキタユウキ

東京都出身のオルタナティブロックバンド、étéのギター、ボーカル。2015年1月にバンドを結成。当初はギターロックを軸としていたが、次第にポストロックやハードコアの要素にポエトリーリーディングの手法を融合させたスタイルへと変化。2018年に『404 AUDITION』で「グランプリ」を獲得し、初の全国流通盤となるミニアルバム『Burden』を発表。2019年3月に1stフルアルバム『Apathy』を、2020年1月に『episode』をリリースした。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

BIM“Wink”

BIMの新作『NOT BUSY』より“Wink”の映像が公開。ゆるめに結んだネクタイは軽妙洒脱でも、背伸びはしない。どこか冴えない繰り返しのなかで<だって俺らの本番はきっとこれから>と、吹っ切れなさもそのままラップして次へ。BIMの現在進行形のかっこよさと人懐っこさがトレースされたようなGIFアニメが最高にチャーミング。(山元)

  1. 『名探偵ピカチュウ』、キャラ造形や原作との違いの意図を探る 1

    『名探偵ピカチュウ』、キャラ造形や原作との違いの意図を探る

  2. 土屋太鳳が凶悪事件を起こす女性役 映画『哀愁しんでれら』来年公開 2

    土屋太鳳が凶悪事件を起こす女性役 映画『哀愁しんでれら』来年公開

  3. 吉田類がリモート収録で乾杯、BS-TBS『吉田類の酒場放浪記』特別編 3

    吉田類がリモート収録で乾杯、BS-TBS『吉田類の酒場放浪記』特別編

  4. 坂本龍一のドキュメンタリー映画『CODA』が1週間限定で無料配信 4

    坂本龍一のドキュメンタリー映画『CODA』が1週間限定で無料配信

  5. 『SONGS』特別編に嵐、宇多田、あいみょん、椎名林檎、ミスチル、欅坂46ら 5

    『SONGS』特別編に嵐、宇多田、あいみょん、椎名林檎、ミスチル、欅坂46ら

  6. 蒼井優と高橋一生が夫婦役、黒沢清監督ドラマ『スパイの妻』放送日決定 6

    蒼井優と高橋一生が夫婦役、黒沢清監督ドラマ『スパイの妻』放送日決定

  7. 星野源『おげんさんと(ほぼ)いっしょ』急遽放送、初のリモート収録に挑戦 7

    星野源『おげんさんと(ほぼ)いっしょ』急遽放送、初のリモート収録に挑戦

  8. ヨーヨー・マ、バッハ『無伴奏チェロ組曲』全曲をライブ配信 8

    ヨーヨー・マ、バッハ『無伴奏チェロ組曲』全曲をライブ配信

  9. 有安杏果、結婚を発表。その経緯、お相手など、赤裸々に語る 9

    有安杏果、結婚を発表。その経緯、お相手など、赤裸々に語る

  10. YOASOBI、ボカロ文化と繋がる「物語音楽」の新たな才能の真髄 10

    YOASOBI、ボカロ文化と繋がる「物語音楽」の新たな才能の真髄