特集 PR

春ねむり、愛と怒りで叫ぶ激情 この世はクソ、でも優しく生きたい

春ねむり、愛と怒りで叫ぶ激情 この世はクソ、でも優しく生きたい

春ねむり『LOVETHEISM』
インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:松永つぐみ 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
2020/04/30

「ロックンロールって、ずっと新しくなり続けることだなって私は思うんです」

―「許す」というのは、ひとりぼっちな、孤独な行為だなと思います。

春ねむり:そうですね。だから、宗教は外側に理由を作るんだと思うし。でも、人を許すために外側に理由を作るのは、私はすごく罪深いことだと思う。私は、私自身の「許し」に他人を巻き込むのが怖いです。怖いから、それをしないように自分に言い聞かせている。本当にひとりでいないと、本当のことはわからないんだろうなって思います。

春ねむり

―ねむりさんの書く歌詞には、ときに「神」という言葉が出てきますね。それを聴いていて感じるのは、ねむりさんは神や信仰の存在をすごく疑っているし、ときに嫌悪もしているんだけど、それでもどうしようもなく祈ってしまう、祈らずにはいられない……そんな人間の在り様を、音楽に刻んでいるんじゃないか、ということで。

春ねむり:そうですね……。私、中高6年間キリスト教の学校に通っていて、そこでは毎日、礼拝があったんですよ。私、その礼拝の時間がすごく嫌いで……。手垢のついた思想が嫌いなんですよね。アップデートしないものが嫌い。

歴史を知ることと、そこにあるものにすがりつくことは全然違うことだから。新しくならない人や、新しくならない思想がすごく嫌いなんです。でも、宗教って、そういうシステムじゃないですか。私自身がそう見られるのも嫌だし、自分がなにかをそうやって扱ってしまうことも嫌だなって思う。

―うん。

春ねむり:学校の礼拝の時間では、礼拝堂に集合して、歌って、先生の話を聞いて、また歌って、そのあとに祈るんです。私は宗教とか、礼拝自体は嫌いだったけど、祈る時間だけは好きだったんですよね。

その空間では、いわゆるキリスト教的な神は、もはや形骸化しているんですよ。でも、みんなそれぞれ違うものに祈っている。「祈り」だけが、ただそこにあるっていうことが、すごく美しいなと思っていました。

―祈るというのも、また、すごく個人的な行為だなと思います。

春ねむり:だからこそ、「その祈りに名前をつけないでくれ」ってずっと思ってきたし、そういうことをしている人を見ると、本当に腹が立つ……。なんで、「ただ、そこにある」だけで美しいものを、わざわざ引きずり降ろして、みんなでわかり合う必要があるんだろう? って。ミュージシャンでそういうことをしている人を見ると、「なんのために歌っているんだろう?」って思う。「なんのために旋律はあるの?」って。

春ねむり“Pink Unicorn”を聴く(Apple Musicはこちら

―暴論なので怒られるかもしれないですけど、言い切ってしまうと、僕のなかで「神や信仰を持たない祈り」というのは、ねむりさんの歌詞のなかにも出てくる「ロックンロール」という言葉と、ほとんど同義なんです(笑)。

春ねむり:なるほど(笑)。……「ロックだなぁ」って思う人はいっぱいいるけど、「ロール」している人ってあんまりいないですよね。ロックンロールって、ずっと新しくなり続けることだなって私は思うんです。変わることって、すごく怖いことで。でも、アップデートしていかないと本当の意味で、優しくはなれないから。

だから、「この人はロックンロールだな」と思う人って、すごく優しいなって思う。もしかしたら、その軸に、祈りがあるのかもしれない。なにもかもが変わっていく、その軸に、ただあるだけの祈り。なんて美しい……なんだか曲が書けそうですね(笑)。

春ねむり

「『ただそこにある』ことを自分が認めてあげられることが、大きな意味での『愛』だと思うんですよ」

―新作『LOVETHEISM』の話にいくと、音楽的にはヘビーな作品ですよね。たとえば“海になって”のギターサウンドとか、ものすごく激しく、それでいて静けさがありますね。

春ねむり:私、ギターを弾けないので、「こういう感じの音にしたいです」ってギタリストの方に送ってから、届いた音を、またエンジニアさんに「こういう音にしたいです」って送るんですけど、毎回、「もっと歪ませてください、もっと歪ませてください」って言っているんですよね。だから、通常よりも歪んでいるのかもしれない(笑)。

―ははは(笑)。

春ねむり:“海になって”って、2017年に作った曲なんですよ。今回の曲のなかで一番古い曲なんですけど、この曲のギターは西田修大さん(ex.吉田ヨウヘイgroup、現在は中村佳穂や君島大空のサポートなどで活動。西田は春ねむりの大学の先輩にあたる)に弾いてもらったんです。

春ねむり“海になって”を聴く(Apple Musicはこちら

春ねむり:でも、エンジニアさんとのコミュニケーションが上手くいかなくて、一度、西田さんにクリーンの音を送ってもらって、「Logic」(Appleによって開発・販売されている、macOS上で動作するMIDIシーケンサー及びデジタルオーディオワークステーションの機能を持つ音楽制作ソフト)に入れたその音を自分で、とりあえずフルテンからいじっていくっていう感じで作りました(笑)。そのときライブで台湾にいたので、台中から台北に行くバスのなかで、イヤホンをしながらその作業をやったんですよ(笑)。

―(笑)。今作の音を聴いていると、「不在の在」というか、音のなかに、ねむりさんが「いないのに、いる」という感覚を受けました。

春ねむり:嬉しいです。私のなかで、「私」と「春ねむり」ってちょっと違うんですよね。すごく違うわけではないんだけど、ちょっと違っていて。私が「こういうふうに生きたい」と思う在り方そのものが「春ねむり」だから、踊っているのも歌っているのも「私」だけど、「私じゃない」っていう感じはすごくあるんです。

だから、ステージのうえで歌ったり踊ったりしているのも私だけど、本当の意味での「私」は、そこでただ祈っているだけなんです。そういう意味では、観ている人と、そんなに大差ないんですよね。その状態が一番美しいと思うんです。

春ねむり

―タイトルもそうなんですけど、この作品のなかでは「愛」という言葉が、とても大切なものとして歌われているという印象を受けました。ねむりさんにとって「愛」という言葉は、どういうニュアンスを持つものですか?

春ねむり:なんだろう……「ただそこにある」ことを自分が認めてあげられることが、大きな意味での「愛」だと思うんですよ。でも、それを信じられなくなるときってよくあると思うんですよね。

「生きていけない」と思ったり、誰かを「わかりたくない」と思ったり、意味のわからないものとして切り捨ててしまいたくなったり。私はそういう態度をとることで、どんどんと「愛」そのものから遠ざかっていってしまう気がするんです。自分にも、そういう部分があるんだって、言い聞かせている感じもするんですよね、この作品は。だから、<愛よりたしかなものなんてない>って、半ばやけくそに叫んでる(笑)。これはもう、自分に言い聞かせているなって思うんですよね。

Page 3
前へ 次へ

リリース情報

春ねむり『LOVETHEISM』
春ねむり
『LOVETHEISM』

2020年3月20日(金)配信

1. ファンファーレ
2. 愛よりたしかなものなんてない
3. Pink Unicorn
4. Lovetheism
5. 海になって
6. Riot
7. りんごのうた

春ねむり
『LOVETHEISM』(CD)

2020年6月12日(金)発売
価格:2,000円(税込)
TO3S-0014

1. ファンファーレ
2. 愛よりたしかなものなんてない
3. Pink Unicorn
4. Lovetheism
5. 海になって
6. Riot
7. りんごのうた

プロフィール

春ねむり
春ねむり(はる ねむり)

神奈川・横浜出身のシンガーソングライター / ポエトリーラッパー。2016年に“春ねむり”としての活動を始め、自身で全楽曲の作詞・作曲を担当する。2018年4月に初のフルアルバム「春と修羅」をリリースした。2019年にはヨーロッパを代表する20万人級の巨大フェス「Primavera Sound」に出演。さらに6カ国15公演のヨーロッパツアーを開催し、多数の公演がソールドアウトとなった。2020年3月に約2年ぶりとなるオリジナルアルバム「LOVETHEISM」を配信リリースした。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

あらかじめ決められた恋人たちへ“日々feat.アフロ”

何かを我慢することに慣れすぎて忘れてしまいそうになっている「感情」を、たった10分でこじ開けてしまう魔法のようなミュージックビデオ。現在地を確かめながらも、徐々に感情を回転させていくアフロの言葉とあら恋の音。人を傷つけるのではなく、慈しみ輝かせるためのエモーションが天井知らずの勢いで駆け上がっていった先に待ち構えている景色が、普段とは違ったものに見える。これが芸術の力だと言わんばかりに、潔く堂々と振り切っていて気持ちがいい。柴田剛監督のもと、タイコウクニヨシの写真と佐伯龍蔵の映像にも注目。(柏井)

  1. アイナ・ジ・エンドの心の内を込めた『THE END』 亀田誠治と語る 1

    アイナ・ジ・エンドの心の内を込めた『THE END』 亀田誠治と語る

  2. 佐藤健がギャツビー新イメージキャラクターに起用、ブランドムービー公開 2

    佐藤健がギャツビー新イメージキャラクターに起用、ブランドムービー公開

  3. 広瀬すずがワンカット撮影にチャレンジ AGCの新テレビCMオンエア 3

    広瀬すずがワンカット撮影にチャレンジ AGCの新テレビCMオンエア

  4. 『鬼滅の刃』をイメージした眼鏡コレクションに煉獄杏寿郎モデルが追加 4

    『鬼滅の刃』をイメージした眼鏡コレクションに煉獄杏寿郎モデルが追加

  5. 隈研吾が内装デザイン 「イッタラ表参道 ストア&カフェ」2月19日オープン 5

    隈研吾が内装デザイン 「イッタラ表参道 ストア&カフェ」2月19日オープン

  6. 青葉市子『アダンの風』全曲解説。作曲家・梅林太郎と共に語る 6

    青葉市子『アダンの風』全曲解説。作曲家・梅林太郎と共に語る

  7. 片岡愛之助がイヤミ役 ワイモバイル新CMで芦田愛菜、出川哲朗と共演 7

    片岡愛之助がイヤミ役 ワイモバイル新CMで芦田愛菜、出川哲朗と共演

  8. 水原希子×さとうほなみ Netflix『彼女』に真木よう子、鈴木杏、南沙良ら 8

    水原希子×さとうほなみ Netflix『彼女』に真木よう子、鈴木杏、南沙良ら

  9. King & Prince平野紫耀と杉咲花がウサギ姿で一悶着 Huluの新CM 9

    King & Prince平野紫耀と杉咲花がウサギ姿で一悶着 Huluの新CM

  10. Netflixドラマ『ブリジャートン家』、時代劇ロマンスが大ヒット 10

    Netflixドラマ『ブリジャートン家』、時代劇ロマンスが大ヒット