インタビュー

THA BLUE HERBが表す2020年 大きな未来よりも、確かな実感を

THA BLUE HERBが表す2020年 大きな未来よりも、確かな実感を

インタビュー・テキスト
石井恵梨子
撮影:新保勇樹 編集:矢島大地、久野剛士(CINRA.NET編集部)

今でも格好よくありたいと思ってる。でもリアルが一番重要だし、だからこうやってさらけ出していく。ラブソングではないんで。生活の歌なんで。

―たとえば、いっそこの国を捨ててどこかに移住しちゃうっていうのも考え方のひとつですよね。

BOSS:おおいに。世界中、たくさんいいところあるからね。

―よく旅をしているBOSSは、そういうこと考えません?

BOSS:考えて……でも、だとしたらずーっと後悔するんじゃないかなと思う。どっかの場所で生きながら、最後の10年間くらいは「日本に帰りたいなぁ」と思いながら……どこかの、スペインの田舎町とかでずっとそんなこと思ってるんだろうな。だから、その選択肢はやっぱりないかな。

ほんと自分は日本人なんだっていう感覚は海外に行くとより濃く出てくるし、日本を捨てちゃったりなんかしたら俺はずっと後悔するだろうなと思う。変な国だなぁってすごく思うけど、たぶん一番好きな国は日本だし。でも、なんでこうなるのかなっていう疑問もいっぱい持ってる。その愛憎が自分の中にある。そしてそれが愛国心だと思ってる。

ILL-BOSSTINO

―それって多くの人が感じていることだと思います。愛国の文字をわざわざ看板に掲げる人たちが一部いるけど、そうじゃない人々はもっと複雑な思い、相反するものを抱えながら、それでもこの国を愛そうとしてる。

BOSS:かもね。あと「ここまでヤバいか、この国の政治は!」ってわかったの、この3ヵ月くらいじゃん。だから意外と始まったばっかりかもしれない。今までもずっと「ダサい政治だなぁ」って普通に思ってたけど、この数ヵ月の出来事ってあまりにも強烈だったから。

―まぁ「マスク2枚か!」って愕然としましたよね。ここから選挙に行かないと言われ続けた我々の世代、さらに若い世代がようやく動くかもしれない……っていう見通しは甘いですかね。

BOSS:そこは見ものだよね。でも希望として、なんだけど、今回作った曲にしてもこれから作る曲にしても、自分たちがやってきた活動すべては、世の中平和で上手くいってるときにはあんま響かない。すっごい景気がいいときに「みんな選挙行かなきゃヤバいぞ!」って騒いでも「何言ってんのあいつ、何でも反対したいだけじゃん」って言われるけど。

でもいい加減みんなわかってきてるから。だから俺らはキープ・イン・タッチって感じ。そのまま、今のままメッセージを投げかけていく。当たり前のことなんだけど、自分の国は自分で考えて作っていくんだよっていう目覚めを促していく。そこはずっと変わらないと思う。

―わかりました。あと、ツアーの日々を綴った“バラッドを俺等に”は異色とも言えますが、これが生まれたのはなぜだったんでしょう?

BOSS:これはね、ちょうど今年のアタマくらいに書き始めてて。ライブやりながらメモってたんだけど、ツアーの移動中の、改札の情景が頭に残ってて。今発表すると、まるでかつての日常を振り返ってるみたいな印象になるけど、ほんの3ヵ月前は普通のことだったんで、それをそのまま歌った。ライブの曲は数あれど、「盛り上がろうぜ」って曲が多かったので、そうじゃない視点のライブの曲もいいかもなって気づいて。

―いろいろ意外でした。まず自分たちの曲に初めて「バラッド」という言葉を冠したこと。

BOSS:「バラッド」って最後は悲劇で終わるという定義があるんだけど、俺にとって<別れる事で完成する>のがライブのすべてで。札幌の仲間とだと、この気持ちにはなかなかならないんだよね。やっぱり札幌から外の街に行って、数時間を一緒に過ごす、そして最後に別れる、っていうことがあるからバラッドになりうる。そういう感覚だった。期せずして、人と人が会えない時期に誰かを思う歌になってて。「この曲で、気持ちも繋がりも切れないでいたい」、そういう曲になってくれたら結果的にいいのかなって思う。

―歌詞の具体性も、疲れて食べられないおにぎりがもったいないとか、そんなことまで書いちゃうんだって驚きます。

BOSS:だんだんそうなってるよね、俺が。日常に立ち戻っていく。23年やってるからね。最初の3年ぐらいは格好いいことを求めたし、今でも格好よくありたい、格好いい曲を作りたいと思ってるけど。でもリアルが一番重要だし、だからこうやってさらけ出していく。自分の生活を歌って共感を得られなかったら何で得られるんだろうって。ラブソングではないんで。生活の歌なんで。

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リリース情報

THA BLUE HERB『2020』
THA BLUE HERB
『2020』(CD)

2020年7月2日(木)発売
価格:1,760円(税込)
TBHR-CD-034

1. IF
2. STRONGER THAN PRIDE
3. PRISONER
4. 2020
5. バラッドを俺等に

プロフィール

THA BLUE HERB(ざ ぶるーはーぶ)

1997年に北海道・札幌で結成。ラッパー・ILL-BOSSTINO、トラックメイカー・O.N.O、ライブDJ・DJ DYEからなる一個小隊。ヒップホップの矜持を保ちながら、あらゆるジャンルとクロスする音楽性・活動を展開。これまでに『STILLING, STILL DREAMING』『SELL OUR SOUL』『LIFE STORY』『TOTAL』『THA BLUE HERB』 などをリリースし、2017年には結成20周年を記念して日比谷野外大音楽堂にて単独公演を開催。2枚組30曲となった『THA BLUE HERB』以来1年ぶりとなる作品『2020』を、7月2日にリリースした。

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