インタビュー

THA BLUE HERBが表す2020年 大きな未来よりも、確かな実感を

THA BLUE HERBが表す2020年 大きな未来よりも、確かな実感を

インタビュー・テキスト
石井恵梨子
撮影:新保勇樹 編集:矢島大地、久野剛士(CINRA.NET編集部)

いろんな人たちが2020を歌っていけばいい。そういうものがどんどん出てくれば、自分の居場所も明確化すると思う。「こんなに歌うべきことがある年って逆にないんじゃね?」と思うけどね。

ILL-BOSSTINO

―共感。BOSSの言う共感ってどんなものですか。

BOSS:暴力とセックスとカネみたいなものへの興味は19、20代くらいでとっくに終わってる。もう48なんで。どんどん素の生活に戻っていくし、何を歌にするのかって、俺はやっぱり自分の目線でしか歌ってないんだよね。19、20の人には彼ら彼女らなりの共感がある。彼らに対して言えるのは「あなたがたが僕の年に近くなったときに、こいつってこういうこと言ってたんだ、と思ってくれたら」って感じですね。

俺はMCバトルのチャンピオンでもないし、暴力でのし上がってきたわけでもないし、ファッションリーダーでもない。そういう共感を歌う人になりたかったし、そういう存在に憧れてた。俺は共感が一番好きだね。共感がお金に姿を変えると思ってる。共感してもらって、お金を払ってもらってる。

THA BLUE HERB『LIFE STORY』を聴く(Apple Musicはこちら

―「みんなで共感」みたいな言葉、私は苦手なんですけど。

BOSS:俺もそうだよ。

―今BOSSが言ったのは、自分と向き合うこと、自分の実感だけをさらけ出すこと、ですよね。

BOSS:そうそう。だってリキッドルームでライブして「1000人がひとつになろう」なんて、俺そんなこと恥ずかしくて言えない(笑)。むしろみんな自分と向き合って、俺のリリックと一対一になって、それぞれが自分の尺度で共感してくれればそれでいい。最小公倍数じゃなくて最大公約数って感じ。全員バラバラだし、一曲の中でその人が感じ入る箇所、「あ、これ俺のことだ」って思える箇所は絶対一緒なわけがない。っていうくらい膨大なリリックを俺は用意してるんで、それぞれの場所で「あ、これ俺のことじゃん」って思ってほしくて俺はやってる。見知らぬ人に「俺のこと歌ってたんですね」ってずっと言われてきたラッパー人生なんで。そこに共感は必ずあるよ。

ILL-BOSSTINO

―このEP、大きく言うなら共生と共感の精神で作られているんだろうなと思います。

BOSS:それが2020っていうこの年に生まれたフィーリングなのかもしれないね。この3ヵ月間に制作したからこそ、全体がこういうテーマになったのかもしれないけど。過程のルポとしての作品なんで。

―そうやってドキュメント的に作ったのも初めてのことですよね。

BOSS:そうかもしれないね。ただ、結局主観が入ってきちゃうから。自分の思想がどんどん入ってくるし、そこは排除しようがないから「これが2020年のルポルタージュだ」とは思わない。だから、いろんな人たちが2020を歌っていけばいい。今の政治を支持する人たちの2020もあるだろうし、たとえば19、20のラッパーが考える2020は全然違うものになるだろうし。そういうものがどんどん出てくれば、自分の居場所も明確化すると思う。

―みんな、どんどん今を歌えばいい、と?

BOSS:そう。「こんなに歌うべきことがある年って逆にないんじゃね?」と思うけどね。別に音楽だけじゃなく。どんどんどんどん勝手なことやっていけばいいんだよ。「今チャンスだぜ」って。

―そう思えるかどうかが大きい気がします。今はとりあえず静観というミュージシャンも多いし、インタビューも「今はちょっと確たることが言えない」って断られたりするから。

BOSS:あぁ、そっか……なるほどね。でも、そういう奴らばかりでは絶対ないはずなんだよね。で、やるなら140字の中で終わらせるなよって思う。今回CDにして出したのもやっぱりそれで、3月4月にSNS上でいろんなリレーが行われてた中、俺らはずっとスタジオ入ってたから。

そのときも思ってたけど、やっぱり今起こっていることを一過性のもので終わらせていくにはあまりにももったいない。もちろん、インスピレーションはタイムラインで流れている歌の中にもいっぱいあって、俺が興味を惹かれたとしても、翌日になったらもう探せないし、SNS上のあれは今となってはどこにあったのかもわかんない世界で。一方でこの作品は、今はもう暮らしに存在している。だから、みんなもっと作品にすればいい。2020、まだ半分あるから。

―ちなみに、今もふさぎ込んだまま「コロナが怖い、未来が見えない」って迷ってる人がいるとして、BOSSならどういう声をかけますか?

BOSS:それもいいんじゃない? さっき言ったように世の中を変える大きな力が何よりも必要とは思わないし、俺は俺のやりたいことをやっていくだけ。そんな感じかな。みんな、自分を解放して好きに生きるのがベストだと思う。

ILL-BOSSTINO
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リリース情報

THA BLUE HERB『2020』
THA BLUE HERB
『2020』(CD)

2020年7月2日(木)発売
価格:1,760円(税込)
TBHR-CD-034

1. IF
2. STRONGER THAN PRIDE
3. PRISONER
4. 2020
5. バラッドを俺等に

プロフィール

THA BLUE HERB(ざ ぶるーはーぶ)

1997年に北海道・札幌で結成。ラッパー・ILL-BOSSTINO、トラックメイカー・O.N.O、ライブDJ・DJ DYEからなる一個小隊。ヒップホップの矜持を保ちながら、あらゆるジャンルとクロスする音楽性・活動を展開。これまでに『STILLING, STILL DREAMING』『SELL OUR SOUL』『LIFE STORY』『TOTAL』『THA BLUE HERB』 などをリリースし、2017年には結成20周年を記念して日比谷野外大音楽堂にて単独公演を開催。2枚組30曲となった『THA BLUE HERB』以来1年ぶりとなる作品『2020』を、7月2日にリリースした。

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