dodoは名もなき人生をラップする もうゲームの勝ち方に興味はない

7月17日に、2ndアルバム『normal』をリリースした、ラッパー / トラックメイカーのdodo。去年、月に1曲のペースで楽曲を配信していくなかで“nothin”や“im”といった楽曲がスマッシュヒットしたことで存在感を強めた彼だが、元を辿れば、2013年『高校生ラップ選手権』に出場したことから本格的に活動をスタートさせた、決して短くないキャリアを持つアーティストでもある。

dodoは、自身のアーティストとしてのスピード感を「遅い」と語る。しかしながら、高校卒業後に洗足学園音楽大学に入学し音楽を学び、その後、正社員として働きながらも制作を続けていたという彼の、様々な紆余曲折を経てたどり着いた音楽には、彼自身の人生哲学が色濃く刻み込まれた、普遍的な輝きがある。『normal』にはその輝きが、とても優しく、深く、沁み込んでいる。

今回、僕は初めてdodoにインタビューをさせてもらったが、彼の語り口は独特だ。彼は非常に丁寧な言葉で話す。その語りのなかで彼は、音楽がビジネスであり、自身が「自営業者」であることを強調する。取材のために彼の地元を訪れた我々取材陣に対し、彼は手土産を用意してくれていた(!)。その素直で生真面目な好青年っぷりには思わず「ラッパーっぽくない」と呟きそうにもなるが、ステレオタイプなラッパー像を踏襲していないdodoの佇まいこそが、この時代の中心なのだ。彼には今、この日本という国で「自分が描くべき人間の在り様」が明確に見えている。彼のラップは非常にシンプルな日本語によって綴られているが、しかし、そのシンプルな日本語の連なりが露わにするものは、dodo曰く、「未だ描かれていなかったもの」なのだ。

※本記事の公開と併せて、dodo“era it”のミュージックビデオが解禁されました。ぜひインタビューと一緒にお楽しみください

dodo(どど)<br>神奈川県川崎市中原区在住の24歳、高校生ラップ選手権出場をきっかけに活動を本格化させるも、一時期活動を休止。2017年から再度本格化させ、2019年にはアルバム『importance』をリリースし、初のワンマン「ひんしの会」も開催。その後、夏には『FUJI ROCK FESTIVAL '19』にも出場。2020年7月17日、ニューアルバム『normal』を発表した。
dodo(どど)
神奈川県川崎市中原区在住の24歳、高校生ラップ選手権出場をきっかけに活動を本格化させるも、一時期活動を休止。2017年から再度本格化させ、2019年にはアルバム『importance』をリリースし、初のワンマン「ひんしの会」も開催。その後、夏には『FUJI ROCK FESTIVAL '19』にも出場。2020年7月17日、ニューアルバム『normal』を発表した。

「川崎のラッパー」という枕詞を置いて。名もなき人生とその視点に立ってラップする「この国の本当のリアル」

―今日はdodoさんの地元である、川崎の武蔵小杉駅周辺で撮影もさせていただきました。新作『normal』に入っている“nambu”という曲の歌い出しには、<俺は、旅立つよ この町から>というリリックがあって、ご自身の地元との決別を歌っているのかと思ったんです。

dodo:一度就職で離れはしたんですけど、僕は小学2年生の頃からずっとこの辺りが生活圏で。僕は別に誰に許可を取ったわけでもなく「川崎のラッパー」という冠を使用させていただいて、美味しい思いもしていたんですけど(笑)、今回のアルバムは、その終止符的な作品かなと思っているんです(関連記事:磯部涼×細倉真弓『川崎ミッドソウル』 アフター『ルポ 川崎』)。

ここで暮らしている間、犬を2匹飼っていたんですけど、1匹は2年前に死んで、もう1匹は半年前くらいに死んでしまって。犬もいなくなったし、今年から音楽家として自営業デビューもしたので、もうここにいる理由がなくなったなっていう。“nambu”は、そういうニュアンスの曲ですね。

dodo“nambu”を聴く(Spotifyで聴く / Apple Musicで聴く

―「川崎のラッパー」という枕詞は、dodoさんにとっては「使用させてもらっている」という感覚のものだったんですね。そして今は、そこから飛び出そうとしている。

dodo:「シーン」とか「界隈」から抜け出したいっていう気持ちはありますね。あと、今回のアルバムはコロナ禍に作っていたというのも大きくて。最近、また感染者数も増えていますけど、「今いる場所からエスケープしたい」と思っている人たちもいるかもしれない。そういうことも、重ねて考えていましたね。

―今、日本にはたくさんラッパーがいますけど、そのなかで、自分はなにを担っている存在なのだと、dodoさんは思いますか? “nambu”では<もう興味はないゲームの勝ち方>ともラップしていますね。

dodo:「ヒップホップとはなにか?」ということはずっと考えてきたんですけど、ヒップホップで一番重要なのは、「如何にリアルであるのか?」ということだと僕は思っています。それを日本でどうやるのか? ということは、常に意識していて。

dodo“Fo”を聴く(Spotifyで聴く / Apple Musicで聴く

―dodoさんにとっての「リアル」というのは?

dodo:話にも出ないような、映画にもならないような、誰も興味を持たないような日本の「素」の部分、日本の大衆的なもの……そういうところですね。そういう日本の「素」の部分を、ヒップホップとどう融合させようか、ということを常に考えてきました。

たとえば、どこの学校のクラスでも、「明るくて場を沸かせる人」とか、「地味で大人しい人」とか、ある程度、「層」があると思うんですけど、そこにおいても、なんて表現すればいいかわからない層の人たちがいると思うんですよ。僕自身、そういう層として存在してきたと思うんですよね。

「ワル」でも「ナード」でもない「普通の子」のためにーーdodoがヒップホップで掬い取るもの

―なるほど。

dodo:今の日本のヒップホップは、ワルで、不良っぽい層の人たちが人気者になっていると思うんですけど、人口比的に見ると、クラスの大半は「まあ、普通の子だよね」と言われるような層の人たちだと思うんです。親に「どういう子?」と訊いても、「普通の子」と答えられるような。自分が表現しているのは、そういう層の子どもが、社会的に大人になった姿で。

dodo:いわゆる「中間層」というか、「中流階級」と昔から言われてきた価値観の延長上にいる日本人。僕もそれに部類するんですけど、「中流階級」なんて今の日本にはないと思うんです。

もう、その言葉では形容できなくなってしまっているのに、価値観だけ独り歩きしている状態だと思う。その、「幻の中間層」をヒップホップでどう残していくのか? ということは、意識していますね。

―今言ってくださったことは非常にしっくりきます。乱暴な言い方になってしまいますけど、dodoさんは「ワル」な感じはもちろんしないんですけど、いわゆる「ナード」とか「オタク」といわれるような感じもしないんですよね。

dodo:そう言っていただけるのは嬉しいです。それは、ちゃんとオンリーワンな存在になれているというか、「別の系譜を作ることができている」ということですよね。

上の世代の人たちでも、日本の中流階級的な価値観をヒップホップのなかに取り入れようとしてきた人たちはいると思うんですけど、僕はアニメや漫画も全然好きじゃなかったし、僕はそもそもUSのヒップホップに触発されてラップをはじめて、ギャングスタ・ラップにも憧れがあるから「強さ」も表現したいとも思う。

dodo“number”を聴く(Apple Musicはこちら

dodo:それに、僕は外見以上に内面が腹黒いですし(笑)。そういう部分でも、僕は上の世代とも違うと思うんですよね。だからこそ、「離れ小島」的な活動ができていると思うんです。

―どちらでもないし、どこにも属していないわけですよね。

dodo:僕は、形容ができない人々、形容ができない層を、ヒップホップで残したいです。今は社会を見ていても、形容しやすい、表現しやすいものはたくさんあると思うんですけど、僕はなにも形容ができないマイノリティ感を残していきたい。たとえば、“kill more it”とかは、まさにそういう感覚が強く出ていた曲だったと思いますね。

dodo“kill more it”を聴く(Spotifyで聴く / Apple Musicで聴く

―dodoさんの言う「マイノリティ」というのは、実際的な数字の問題ではないわけですよね。

dodo:そうですね、表現されないし、議論もされないから、いるのかいないのかもわからないけど、実は結構な数がいる。そういう意味でのマイノリティですね。

この国の「リアル」を見つめるdodoのアイデンティティと、容姿差別にさらされた過去

―お話を聞いていると、dodoさんが“nambu”で<この国の本当 それがあるのはどこ?>とラップされている意味がわかったような気がします。

dodo:僕は神奈川で生まれ育ちましたけど、前の仕事をしていた頃は浜松にいたこともあったし、四国や九州、北海道にも行かせてもらう機会もあって。浜松の人は浜松の人で独特だし、大阪の人も九州の人も、言葉や、その土地に暮らしたことで染みついたものも全然違う。

そういうのって、体系的な意味で「民族」という分け方はできないけど、僕は、日本もアメリカのように多民族国家だと思っていて。それを一括りで「日本人」と呼んでしまうのはヤバい。みんな顔も身長も違うじゃないですか。みんな全然違うけど、それを「日本人」という言葉で一括りにしてしまっているんじゃないかって感覚があるんです。「日本人」という括り方をすること自体、よくも悪くも「日本的だな」とも思うんですけどね。

dodo“story”を聴く(Apple Musicはこちら

dodo:たとえば歴史的に見て、首都が東京に移ってきたのも江戸城ができてからだし、その前の中心は関西だったわけで、それは今後、変わるかもしれない、とか……そういう可能性も広く見ていきたい気持ちもあって。<この国の本当 それがあるのはどこ?>というのは、まさにそういうことですね。

―「日本人」と一括りにした、その奥にある人間の多様さや複雑さを意識するようになったのは、どういったきっかけがあったのだと思いますか?

dodo:容姿の話が大きいかもしれないですね。今話した「日本人像」みたいなものについては、『高校生ラップ選手権』に出させてもらった頃からずっと考えていたんですけど、僕は中高生の頃にインターネットで受けた誹謗中傷が、自分のアイデンティティになっている部分もあって(苦笑)。

そのときは外見的な部分に対してコメントを書かれることも多かったんですけど、僕は「障害者」とよく書かれたんですよね。僕の見た目がそう見えているということは、それを書いている人たちから見れば、「僕はどこか違う人間として見えている」ということじゃないですか。そういうところから、人の容姿を注視するようになっていった気がします。

dodo:あと、僕はエッチなものも好きなので、女優さんの顔も見るじゃないですか(笑)。そういうところでも、「同じ日本人といっても、全然違うな」と思います。

―新作の『normal』というタイトルは、今話してくださった話を象徴している言葉のような気もしますね。

dodo:そうですね。あと、僕は『高校生ラップ選手権』のオーディションに行ったときに「普通すぎるラッパー」というキャッチフレーズを付けていただいたんですけど、それも関係しているタイトルではあります。

―「話に出ていないし、映画にもなっていない」という前提で訊くのは野暮な質問なのですが、dodoさんがおっしゃる、日本の「素」の部分を表現し得ているという点で、自分と近いなと思うような存在はいますか?

dodo:YouTuberのなかには、もしかしたら近い人たちはいるのかなと思います。テレビのシェアが持っていかれているのも、結局、今までのメディアでは出せなかった、「日本で生きている人の感覚」みたいなものを、YouTuberは上手く落とし込めているからともと思うので。

でも、最近は芸能界の人たちがYouTubeにいくようになっているじゃないですか。YouTubeも飽和してきちゃうのかなと思うと、難しいですけどね。

“im”での思わぬヒット、音楽自営業者になったことーー<もう興味はないゲームの勝ち方>とラップして、dodoは今までとは違う地平を見つめる

―最初に「終止符」という言葉も出ましたけど、改めて、『normal』はご自身にとってどういった位置付けの作品なのでしょうか?

dodo:今年から自営業になったということもあって、このアルバムからは、いかにアーティストとして日本市場で生き残っていくか、ということを考えていこうと思っているんです。そういう意味でも、自分のキャラも変えて作った作品ではあるんですよね。

―「キャラを変えた」というのは、ご自身としてはどういうふうに変わったんですか?

dodo:去年、“im”という曲がヒットして、それによって自分は自営業者として、音楽で生活できるようになったんですけど、あの曲の成功から、リスナー層がだいぶ変わってきたんです。

dodo“im”を聴く(Spotifyで聴く / Apple Musicで聴く

dodo:あの曲はTikTokにも運よくハマってくれた曲なんですけど、YouTubeやInstagramの統計を見ると、今の自分のリスナー層は18歳から24歳くらいの層が過半数で、男女比で言うと、「男:女」が「7:3」くらい。

“im”は特に中高生や大学生、多感な時期の、いわば青春時代を生きている人たちに聴いてもらえたので、そこを意識している……といったらおかしいんですけど、もう少しJ-POP的な、聴きやすい作品に落とし込むにはどうすればいいかを考えたのが『normal』ですね。なので、転び方はすごく楽しみなんです。これはセルアウトに捉えられるのか、なにも触れてもらえないのか、J-POP的なウケ方をするのか。

―“im”を作ったときには、ある種、ヒットを狙った部分もあったんですか?

dodo:いやあ、全然狙ったものではなくて。ヒットしてから、その意識が芽生えました。

僕はいつもトラックから作るんですけど、“im”のトラックは、The Chainsmokersの“Closer”という5年前くらいの大ヒット曲を今さら聴いて(笑)、その曲のコード進行だけを切り取って作ったんです。歌詞は、自分にリアルにあったことを書いたので、本当にシンプルに、ある女の子に向けて書いた曲がバズったっていう感じでね。

dodo:ただ、あれは『高校生ラップ選手権』から『フリースタイルダンジョン』があっての「バブル」のなかで生まれたヒットだったと思うんですよね。そういうことを鑑みても、やっぱり音楽はビジネスなんだと思うし、今年、自営業をはじめたのもあって、より一層思いますね。

「音楽はビジネス」とdodoが語ることのリアル。初就職で味わった現実の過酷さ、職業訓練校に通った2年間を経て

―ビジネスと言うとすごくドライな捉えられ方をする場合もあるかと思うんですけど、最初の話にもあったように、dodoさんが生み出す曲は、dodoさんにとってすごくリアルなものなんですよね?

dodo:そうです。今までの曲もそうですけど、自分が思ったことを元にして曲を作ってきたので、8割はリアルですね。トラックも、持っているプラグインで、自分ができることしかやらないですし。

ただ、そこまで極端に「自分を知ってほしい!」というのも、特にないんですよ。「dodo」はひとつのペルソナでもあるので、今はとにかく、「曲を聴いてほしい」が一番。結局、現金化されるのは作品だし、自分を崇めてほしいとも思わないです。とにかく、曲を聴いてくださいっていう感じなんです。

―でも、それだけ、自分の作る音楽は今の時代において聴かれるべきものなんだ、という確信もある?

dodo:う~ん……確信があるかというと微妙ですね(笑)。とにかく自信がないし、自分の曲は大嫌いだし、ライブだってやりたくないくらいですし。でも、生きるために、自分が知っているお金の稼ぎ方として今、最適なものが音楽なので、とにかく音楽に時間を割いている感じです。

―ご自分の曲は嫌いなんですか?

dodo:トラックは好きなんですけど、歌詞を書くのって責任を伴うので。あとから自分で読み返して「う~ん」となることもあるし、自分の曲は大嫌いですね。自分が出した曲は一切、聴かないです。

―それでも、“im”を含めて去年もすごく曲を出されていましたよね。そこにあった原動力はなんだったんですか?

dodo:2年間職業訓練学校に通っていたんですけど、去年が卒業する年で、「ここで結果を出さなきゃ、また就職だよ」という思いがあって、それが原動力になっていた部分はありますね。

僕自身の能力として、音楽を作る能力が高いと思うし、音楽をやることが自分の人生を豊かにするんじゃないかと考えていたんです。働くことが嫌いなわけではないんで(笑)、もし結果が出ていなかったら就職するつもりでしたけど、ギリギリ結果が出たという感じでした。

dodo“era it”を聴く(Spotifyで聴く / Apple Musicで聴く

―そこにあるのは、「音楽で生きていきたい」という強い欲求ですか?

dodo:いや、「音楽で生きていきたい」ってこととはまた違って。生きていくのはどんな形でもいいんですけど、人生が終わるまでに、いわゆる傑作と呼べるようなものを世の中に産み落としておきたいって気持ちですね。「作品を残したい」って気持ちが強いんです。

たとえば、クラシックの世界だったら、ベートーヴェンみたいな有名な作曲家は偉人化されるじゃないですか。それで、生まれた家が観光地になったり。そういう感じで、偉人になることに憧れる少年みたいなところが自分にはあって。大成したい、名を残したい……そういう欲は、原動力になっていると思います。

―少し話を戻すと、今まで語られていなかった日本の「素」の部分を表現する、そのためにヒップホップという表現形態であるべき理由というのは、dodoさんのなかにありますか?

dodo:ヒップホップには象徴的なスラングがあって、たとえば、一時期流行っていた「SWAG(『自分を持っている』や『個性がある』というニュアンスを含む、『かっこいい』『イケてる』という意味のスラング)」だったり。

そのなかで、僕は「レペゼン(『代表する』という意味の『Represent』のこと)」という言葉が大事だと思っていて。自分が所属するギャングのグループをレペゼンするのでも、自分の人種をレペゼンするのでも、ヒップホップは、「如何に自分を代弁するのか?」っていうことが大事な表現だと思うんです。

dodo“friends”を聴く(Spotifyで聴く / Apple Musicで聴く

dodo:だとしたら、自分がレペゼンしようとしているものは、まだ誰もレペゼンしていないものだし、それをすることによって、もしかしたらリスナーさんが「俺の気持ちを代弁してくれている」と思ってくれるのかもしれない。

―「レペゼンする」ということは、「肯定する」というニュアンスも含まれているように思うんです。そういう意味で、dodoさんの音楽は、非常に肯定的な音楽だと思うんですよ。

dodo:おっしゃるとおりで、僕は、否定しても仕方がないと思うんですよね。「もっとこうだったらよかったのに」とか、自分も考えてしまいますけど、それって考え続けるだけ沼だと思う。それよりも、まず現状を客観的に見て、理解して、受け止めることが大事だと思っていて。さっき言った“kill more it”も、「受け止めて、歌う」っていう感覚だったんですよね。

「僕は『言葉は力』だと思う」――<俺らは綺麗>というラップに込める、願いと断定

―新作の1曲目にある“kill late it”は、タイトルからして“kill more it”を意識して作られていると思うんですけど、<俺らは綺麗>というフレーズからはやはり、「自分が象徴するものを肯定しよう」という意識を感じさせますよね。

dodo:まさに、この曲は“kill more it”のパート2として書いた曲で。“kill more it”のときの僕は、YouTubeの再生数が伸びても10万回くらいで、相当どうしようもない状態だったんです。

でも、“im”のヒットもあったし、『フジロック』に出たりもして、「ようやくここまできた」っていう感覚があって。なので、この曲の前提には自分の「やってやったぜ」感もあるような気がします(笑)。

dodo“kill late it”を聴く(Apple Musicはこちら

dodo:あとは、最近のインターネットの誹謗中傷のこととかも考えましたね。自分も経験してきたことだし、昨日今日あった話ではないんですけど、そういうことをどう落とし込むかっていうことを考えながら作った曲です。

―自分もネットの誹謗中傷を体験してきているからこそ、<俺らは綺麗>と言い切ることができた?

dodo:結局、僕は「言葉は力」だと思うんです。自分が言ったことはリアルになると、僕は信じている。だからこそ、<俺らは綺麗>ってラップするのは、願いでもあるし、断定でもあって。そもそも、「俺らは綺麗『だと思う』」とはラップでは言えないんですよね。ラップは短く言い切らなきゃいけないからこそ、願いや断定を込めて表現できるんじゃないかと思いますね。

―「言葉は力」というのは、「言霊を信じる」という言い方もできますかね。

dodo:うん、僕はそう思っていますね。僕もインターネットを通して見ているだけなのでなんとも言えないですけど、Pop Smokeもギャングシットを歌いすぎて殺されてしまったとも言えるし。

なんというか、言葉にすればするほど不幸になっていくことってある気がするんですよね。これはまあ捉え方のひとつですけど、でも、僕は歌うことはリアルになると信じていますね。

「結局、地獄のこの世で、如何に自分自身を鍛え上げていくのか、いろんな経験をして成長できるのかってことかなと思います」

―“kill late it”のリリックには<この世は惨め、地獄、いじめ どんな状況でも俺らの心はリッチです>ともありますよね。dodoさんがこの世界を見る前提には、ある種、「この世は惨めな地獄なんだ」という認識があるようにも思えるんです。だからこそ、肯定的な言葉が強く響くというか。

dodo:ああ~、そうですね。仏教では「輪廻転生」というか、「仏様は輪廻から解脱した存在だから、この世には生まれてこない」っていう説があるじゃないですか。その理論から言うと、僕たちがこの世に生まれてくるのは、それだけ僕らが業も欲も深いからなのかなって思うんですよね。そう考えると結局、この世が地獄なんじゃないかと思うんですよ。

dodo:僕は犬を飼っていたので余計そう思うのかもしれないですけど、スーパーに行けばいろんな動物の肉が売っているじゃないですか。ああいう殺生の光景も地獄の一部だと思うんです。

僕は前の仕事で牛の肉をブロックで切っていたんですけど、そこから流れるのも、人間と同じ「血」じゃないですか。動物は、人間と同じような感情を持っていないとか、人間と同じような情報活動がないっていうのはありえないと思う。

―そうですね。

dodo:僕も今は実家で暮らしているので、「ごめんなさい」と思いながらお肉を食べるときもありますけど、きっと牛だってそれぞれ性格が違っただろうし、動物にも気持ちがあるはずだと思うし。それって、なにかが黙認されているだけだなって思うんですよね。

そこにちゃんとした認識がなされるまで、これから何百年何千年かかるのかわからないですけど、そのために貢献していきたいですし、そういうことは歌詞にも込めています。

―地獄のうえで、それでもやはりdodoさんのラップは悲観することはなく、むしろ肯定的な言葉を重ねていきますよね。

dodo:そうですね。結局、地獄のこの世で、如何に自分自身を鍛え上げていくのか、いろんな経験をして成長できるのかってことかなと思いますね。

「川崎のラッパー」と「普通すぎるラッパー」の狭間で紡いできたストーリーは、次のステップへ

―“Delay”では、ご自身の人生の「速度」について歌われていますよね。すごくdodoさんの生き様を感じさせる曲ですが、自分は「遅い」という感覚がありますか?

dodo:それは、とてつもなくありますね。

dodo:僕は、社会の流れというか、同世代と比べても人生スピードが遅いと思う。でも、日本の若者って、世界的に見ても遅い成長の仕方をしていると思うんですよ。たとえば、ロシアと日本では平均寿命が10年くらい違うらしいんです(「厚生労働省・平均寿命の国際比較」参照)。日本は若者の成長スピードがただでさえ遅いのに、そのなかでも遅いとなると、自分は地球上で相当「遅い」部類の人間なんだなと思うんですよね。

―なるほど。

dodo:逆にUSのラップは「Live Fast Die Young」な感じだと思うんですけど、その反対に自分はいるんだと思うと、それは武器にもなるのかなと思います。そういう意味でも、この曲は「長寿国・日本」を表現した曲にもなっているのかなと思いますね。

dodo“delay”を聴く(Apple Musicはこちら

―これまでリリースされてきたEPやアルバムと、今回の『normal』は、アートワークのデザインが同じコンセプトで作られていますよね。ここに、dodoさんの物語が込められていると捉えることは可能でしょうか?

dodo:もちろん、それはあります。最初のEPが『default』なんですけど、『default』の頃は、それまでずっと他の人たちと音楽を作ってきてなかなか結果が出なかったっていう過去をdefault(初期化)したいっていう意識があって。で、その次の『pregnant』は、全部がリセットされたうえで「妊娠」したよっていう、ちょっと意味がわからない感じなんですけど(笑)。

dodo『default』を聴く(Apple Musicはこちら

dodo『pregnant』を聴く(Apple Musicはこちら

―実りはじめた、ということですよね。

dodo:そうです、そうです。で、次の『importance』は「重要性」ということで、自分が日本のヒップホップシーンにおいてどれだけ重要なのかっていうことを誇示したい、という意味合いがあって。そして、今回の『normal』に続くっていう感じです。

dodo『importance』を聴く(Apple Musicはこちら

dodo:一応、ジャケットのフェーダーの音量は、『default』からどんどん増えていっているんですよ。これがマックスになるまでは、このシリーズを続けようかなと思っています。なので、dodoのストーリーを知ったうえで、リスナーさんが各々のストーリーを進めていただければ、という感じですね。

リリース情報
dodo
『normal』

2020年7月17日(金)配信

1. kill late it
2. era it
3. Fo
4. nambu
5. delay
6. number
7. friends
8. story

プロフィール
dodo
dodo (どど)

神奈川県川崎市中原区在住の24歳、高校生ラップ選手権出場をきっかけに活動を本格化させるも、一時期活動を休止。2017年から再度本格化させ、2019年にはアルバム『importance』をリリースし、初のワンマン「ひんしの会」も開催。その後、夏には『FUJI ROCK FESTIVAL '19』にも出場。2020年7月17日、ニューアルバム『normal』を発表した。



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