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蓮沼執太が訴える「音」を聴く重要性 誰かが声を上げるこの世界で

蓮沼執太が訴える「音」を聴く重要性 誰かが声を上げるこの世界で

Ginza Sony Park
インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:高木康行 編集:石澤萌(CINRA.NET編集部)

「音を聴くことが、『物事にはさまざまな背景がある』ってことに耳を傾ける準備運動のようになってほしい」

―今は世界中で人々が声を上げている状態で、だからこそ、「聴く」ということの重要性が増している。無音になることで、「聴く」という行為に意識的になるということは、その前段階にあたるというか。

蓮沼:今は「コロナ前に戻ろう」っていう経済や社会側からの運動が激しいですけど、もうそれは無理だと思うんです。コロナになって、「人間ちょっと落ち着け」ってなったのに、またそれを無理やり戻そうとするのは無理な話で、労働とか社会の仕組み、全部そうですけど、見直さないといけない状況です。

蓮沼:今回は、世界各国のアーティストが「パブリック」をテーマに作ってくれた音を聴くことが、「物事にはさまざまな背景がある」ってことに耳を傾ける準備運動のようになってほしいなとは思います。

―トリガーになるというか、気づきの場になるというか。

蓮沼:今回のビジュアルはスイスのドロテー・デーラーさんという方が担当されていて、「PARK」の中に「SILENCE」があるっていうニュアンスで作ってくれたんだと思うんですけど、当然受け取り方は人それぞれで。「人はそれぞれ受け取り方が違うんですね」っていう気づきにもなってくれるといいなと思います。

『Silence Park』メインビジュアル
『Silence Park』メインビジュアル

人間中心的な考えはもう限界。私たちが「当たり前」だと思っていることを、疑う時代になった

―蓮沼さんはわりと日常的にフィールドレコーディングをされているんですか?

蓮沼:いや、今は何かテーマがないと環境音は録らないです。例えば、展覧会の作品の中に環境音を使うとか、何かしらコンセプトに基づいてやることがほとんどですね……まあ、いつでも機材を持って行けるように準備はしてますけど(笑)。

―旅先だったり、どこかに行ったときに「とりあえず録る」みたいなことはしない?

蓮沼:レコーダーを持ってたら、「とりあえず録る」もあるにはあります。ただ、フィールドレコーディングで何が一番大切かって、「録る」じゃなくて、やっぱり「聴く」なんですよ。ドローイングみたいなもので、音を録るのは誰にでもできるけど、一番大切なのは聴くこと。なので、「とりあえず録ったら、とりあえず聴く」っていうのを絶対条件にしてるんです。

「お! この音かっこいい」みたいなピュアな気持ちで音を探すとき、やっぱり大切なのはレコードされた音に何が詰まっているのか。録音された環境音は急にできあがるわけじゃなくて、過去から現在に繋がる、その下積みになっているいくつもの歴史があった上で、今現在の音になっているわけで。

蓮沼執太
蓮沼執太

―積み上げられてきた歴史含め、音の重みを感じるということですね。

蓮沼:そんなことを考えながら聴くと、とりあえず録ったものであっても、あんまり聴き飛ばせないんです。もっと簡単に、「はい、録りまーす」みたいな気持ちで録りたいとも思うんですけど、聴くことに対して手が抜けないタイプで、どうしても時間が必要になるので、そんなに簡単には録らないようにしてますね。

―先日「CINRA.NET」で蓮沼さんが“ALIVE”を提供したRYUTistに関しての取材をさせていただきましたが(参考記事:蓮沼執太とRYUTist運営が語る、コロナ以降の「アイドルと楽曲」)、その中で<桜並木が恋をして>という歌詞に関する話になったときに、「人間だけが主役じゃない。ずっとそういう立場で作品を作っています」とおっしゃっていたのがすごく印象的で。

つまりは、場所があって、人がいて、人以外もいて、そこに時間の流れがあって、環境そのものが音であり音楽であり、それを「聴く」ことが重要だっていう、そういう話でもあるのかなと解釈しています。

蓮沼:「主体が人間じゃない」っていうのは、「主体が作家ではない」っていうのと一緒で、当たり前に「主体」だと思ってるものは疑わないといけないと思っているんです。全部を人間中心に考えてきたから、今こんなことになってますよっていうのが、この5年くらいであからさまに、目に見える形になっています。現代哲学とエコロジーの関係も近づき、人間中心的なことを考え直そうとさまざまな分野で提唱されていますよね。ここ数年のコンテンポラリーアートのトレンドでもありますが、そういう風潮から人々が考えていくきっかけになればと思います。

―音楽シーンだけを見ても、近年気候変動の問題がかなり取り上げられていますよね。もちろん、それも以前からあった問題だったわけですが。

蓮沼:そうですよね。今まではあくまでアートが主体で、それにはコンテクストなり歴史が作品なり作家なりに含まれていたわけですけど、今回の『Silence Park』はアートピースというよりも……主体と客体をひっくり返すっていう、そういうプロジェクトなんだと思います。その意味では、さっきのRYUTistの歌詞ともシンクロする部分はありますね。

―ただでさえ人間中心的な考え方の限界が見えてきていた中で、今回のコロナの一件でそれがより明確になった感じはありますよね。

蓮沼:僕はことあるごとに、こういうことをいつも言ってますけど、その気持ちがさらに強くなったのは間違いないです。資生堂ギャラリーの展覧会(2018年4月に開催された『 ~ ing』)のときに、初めて社会との関係性についてはっきり言ったんですよね。主体と客体のこと、現代社会が人間中心的過ぎるってこととか、音と人との関係性を捉え直す機会になるような作品にしていくことなどについて。

そこから早2年、その気持ちはさらに強くなってます。蓮沼執太フルフィルの最新作『フルフォニー』も、たくさんの人が集まって合奏すること自体、今は安易にできなくなってるわけです。ありえないことって起こるので、やっぱり当たり前だと思ってることも疑わないとだめな時代に突入しているんです。

蓮沼執太フルフィル『フルフォニー』を聴く(Apple Musicはこちら

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イベント情報

『「Silence Park」curated by Shuta Hasunuma』
『「Silence Park」curated by Shuta Hasunuma』

2020年9月7日(月)~10月11日(日)

『Silence Park』は、音楽家の蓮沼執太と世界各国のアーティストたちが、各地の街や自然から採取した音で作られた作品で、Ginza Sony Parkの新しいバックグラウンドサウンドです。
この環境音による作品は「パブリック」をコンセプトに制作され、さまざまなアーティストが参加することによって形を変え続けながら、Ginza Sony Parkが閉園する2021年9月までの期間、継続的に実施します(今後の日程は未定)。

2020年9月7日(月)からは、スペインの音楽家フランシスコ・ロペスと、ドイツのエレクトロミュージシャンであるヤン・イェリネック、そして蓮沼執太の3名による作品が園内に流れます。特設サイトでは、蓮沼執太と各アーティストとのやり取りを示した「往復書簡」や、それぞれの作品説明をご覧いただけます。

プロフィール

蓮沼執太(はすぬま しゅうた)

音楽家、アーティスト。1983年東京都生まれ。蓮沼執太フィルを組織して国内外でのコンサート公演をはじめ、映画、演劇、ダンス、CM楽曲、音楽プロデュースなど、多数の音楽制作。また「作曲」という手法を応用し物質的な表現を用いて、展覧会やプロジェクトを行う。2013年アジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)のグランティとしてニューヨークに渡り、2017年文化庁東アジア文化交流使として中国に滞在制作を行う。主な個展に『Compositions』(ニューヨーク・Pioneer Works 2018)、『 ~ ing』(東京・資生堂ギャラリー / 2018年)、『OTHER 'Someone's public and private / Something's public and private』(東京・void+、2020年)。2019年に『Oa』(Northern Spy Records, New York)をリリースし、最新アルバムに蓮沼執太フルフィル『フルフォニー』(2020年)。第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。⁠

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