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山崎まどかが解説 ソフィア・コッポラの新作に見る「脱少女宣言」

山崎まどかが解説 ソフィア・コッポラの新作に見る「脱少女宣言」

『オン・ザ・ロック』
インタビュー・テキスト
松井友里
編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

ソフィアは、自分が表現者になることを選んだ人なんだと、『ロスト・イン・トランスレーション』を観て感じたんです。

―いま山崎さんがおっしゃられていた警官との関係性もですが、今回ビル・マーレイが演じた父は、ビル・マーレイ自身のチャームもあって、圧迫感がある人物として描かれているわけではないものの、非常に権力を持った存在でもあります。ソフィア・コッポラの映画では、しばしば力を持った男性と、その陰で閉じ込められた女性の存在が出てくると思うのですが、今回の作品では山崎さんはどのように感じられましたか?

山崎:2人の力関係がいい感じに描かれているなと思いました。娘は成人しているし、父よりものがわかっている場面もある一方で、とても子どもっぽい部分もある。2人がイコールで主役になっていて、どちらかが圧倒している感じがしないんですよね。面白いなと思ったのは、今回、横並びのシーンがものすごく多いんです。ノーラ・エフロン(1993年『めぐり逢えたら』などで知られる、アメリカの脚本家)も言っていることですけど、ニューヨークを舞台にしたスクリューボールコメディやラブコメディって、基本的には歩きながら2人が喋って、街を行き交うんですよ。でも今回、ソフィア・コッポラらしいなと思ったのが、ソフィアってロサンゼルス育ちだから、歩くシーンがあまりないんです。

―ああ、ロサンゼルスは車社会ですものね。

山崎:だから車移動のシーンがすごく多くて、必然的に横並びのシーンが増えるんです。ベーメルマンス・バーのシーンでも、向かい合うのではなく、横並びでしたよね。この2人の力関係みたいなものが象徴的に表れているなと思いました。

それに、ビル・マーレイとラシダ・ジョーンズが上手だからなんだと思いますが、あの2人は顔も似ていないのに、とても自然に親子を演じていてお話の上でも、娘が一方的に父を崇めたりするのではなく、友達に近い存在になっていきますよね。ロマンティックコメディには、話し合いながら2人が親密になっていく話が多いですけど、今回は親子を超えて友達になっていく。そんな2人の関係性の変化も面白いなと思います。

『オン・ザ・ロック』 ©2020 SCIC Intl Photo Courtesy of Apple
『オン・ザ・ロック』 ©2020 SCIC Intl Photo Courtesy of Apple

―山崎さんはこれまでのソフィア・コッポラ作品や、ソフィアという作家については、どのようにご覧になってこられましたか?

山崎:最初からすごく好きだったかというと微妙なところで、『ヴァージン・スーサイズ』(1999年)のときは、なんとなく疑問もあったんです。

―それはどうしてですか?

山崎:趣味はいいけれど、ミュージックビデオっぽいなと思ったんです。編集などのうまいスタッフは、お父さんが連れてきた人たちで、やっぱり「お嬢さんだな」とも思っていたし、私は『ヴァージン・スーサイズ』の原作がすごく好きなんですけど、ソフィアが原作をサーストン・ムーア(アメリカのバンド「Sonic Youth」のギターボーカル)に教えてもらったと知って、「趣味のいい男子に教えてもらったのね、自分の趣味じゃないんじゃないの?」みたいな思いがあったんです(笑)。

でも『ロスト・イン・トランスレーション』を観たときには感動しました。ソフィア・コッポラって、自分の世界がある人なんだと思ったんです。さきほどモネのシーンの話をしましたけれど、ああいう恵まれた世界でなにもせずとも生きていける人にも関わらず、『ロスト・イン・トランスレーション』で彼女は自分の個人的な世界を開示してくれた。それによってなにかが失われていくことも描いていた。描くことによってそれは彼女だけのものじゃなくなっていく。表現者って、無傷ではいられないんですよね。それでも彼女は、自分が表現者になることを選んだ人なんだと、あの作品を観て感じたんです。それからは彼女のやろうとしていることを、一生懸命観ようとしています。あとは、コッポラ家の「跡目」としても見ていて。

―跡目、ですか?

山崎:コッポラ家ほど、『ゴッドファーザー』(フランシス・フォード・コッポラ監督 / 1972年)のコルレオーネ家的な家族はいないんです。期待していた長男は亡くなってしまうし、次男もだめで、別の分野にいた三男ことソフィアを連れてくるしかなかった。本作もですが、フレッド・ルースという長くフランシス・フォード・コッポラと組んでいるプロデューサーがソフィアの作品にはずっとついていて、私は、フレッド・ルースはソフィアのことを「お嬢」と呼んでいるんじゃないかと妄想しているんですが……。

―お嬢(笑)。

山崎:コッポラ家の番頭みたいな感じで、フランシスに「ローマン(次男)どうだ?」って聞かれて、「ローマンはだめです、お嬢に頑張ってもらいましょう」と言っているイメージがあって。なぜかと言うと、フレッド・ルースはソフィアの映画と、ソフィアのお母さんのエレノアが撮った映画(2016年『ボンジュール、アン』)にまで関わっているのに、ローマンの映画だけプロデュースしていないんですよ。

―なるほど……。

山崎:私はローマン・コッポラのこと、好きなんですけどね。映画監督としては一つも才能がないんだけど、センスだけはソフィアを凌駕していると思うんです。そういう面でもコッポラ家やソフィアについては、ニヤニヤしながらいつも楽しんで見ています。ソフィアのすべての作品が好きというわけではないのですが、『オン・ザ・ロック』は『ロスト・イン・トランスレーション』と並んで一番くらいに好きだなと思いました。

『オン・ザ・ロック』ポスタービジュアル ©2020 SCIC Intl
『オン・ザ・ロック』ポスタービジュアル ©2020 SCIC Intl
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作品情報

『オン・ザ・ロック』
『オン・ザ・ロック』

2020年10月2日(金)から全国公開、10月23日(金)からApple TV+で配信

監督・脚本:ソフィア・コッポラ
出演:
ビル・マーレイ
ラシダ・ジョーンズ
マーロン・ウェイアンズ
上映時間:97分
配給:東北新社、STAR CHANNEL MOVIES

プロフィール

山崎まどか
山崎まどか(やまさき まどか)

15歳の時に帰国子女としての経験を綴った『ビバ! 私はメキシコの転校生』で文筆家としてデビュー。女子文化全般 / アメリカのユースカルチャーをテーマにさまざまな分野についてのコラムを執筆。著書に『優雅な読書が最高の復讐である』『映画の感傷 山崎まどか映画エッセイ集』(DUブックス)、『ランジェリー・イン・シネマ』(リアルサウンドブック)、共著に『ヤングアダルトU.S.A.』(DUブックス)、翻訳書にレナ・ダナム『ありがちな女じゃない』(河出書房新社)等。

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