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山本達久、実験音楽家として語る「音楽の魔法」と身体・脳の関係

山本達久、実験音楽家として語る「音楽の魔法」と身体・脳の関係

山本達久
インタビュー
松村正人
撮影:山本華 テキスト・編集:山元翔一

「この人はできると思ったのはグレンさん以来でした。私がドラムスに求めることは、ドラムスをどう叩くかではなくて、曲をドラムスでどう演奏するかなんです」

これは『Simple Songs』(2015年)リリース時に刊行された『︎別冊ele-king ジム・オルーク完全読本』(2015年、Pヴァイン)内で、ジム・オルークが本稿の主人公である山本達久を評した際の言葉だ。同書に収められたインタビューで山本達久は、ジムに手渡されたCD-Rによって音楽の聴き方が激変したと語っている。なお、「グレンさん」というのは、今やWilcoのメンバーとして知られるグレン・コッツェである。

ジム・オルークと石橋英子とのカフカ鼾や「マームとジプシー」の音楽をはじめとした様々なプロジェクト、七尾旅人やUA、前野健太のサポートドラムとして名を馳せる山本達久。彼が4年の歳月をかけて完成させた『ashioto』『ashiato』には、山本自身の人生が、ドラマーとしての哲学が、音楽家としての尽きせぬ探究心と芸術性が投影されている。この双子のアルバムが内包するものを、『︎別冊ele-king ジム・オルーク完全読本』の監修・編集、また『前衛音楽入門』(2019年、Pヴァイン)の著者である松村正人とともに紐解いた。

山本達久(やまもと たつひさ)<br>1982年10月25日生。ドラマー。2007年まで地元山口県防府市bar印度洋を拠点に、様々な音楽活動と並行して様々なイベントのオーガナイズをするなど精力的に活動し、基本となる音楽観、人生観などの礎を築く。独創的なソロ(ライブセット / 電子音楽作品)や即興演奏を軸に、ジム・オルーク / 石橋英子との様々な活動をはじめ、カフカ鼾、石橋英子ともう死んだ人たち、坂田明と梵人譚、禁断の翼棟、Sweet Herringbone、オハナミ、NATSUMENなどのバンド活動多数。ex.芸害。青葉市子、UA、カヒミ・カリィ、七尾旅人、phew、前野健太、山本精一など歌手の録音、ライブサポート多数。演劇の生伴奏・音楽担当として、SWANNY、マームとジプシーなど、主に都内を中心に活動。2011年にはロンドンのバービカンセンターにソロパフォーマンスとして招聘されるなど、海外公演、録音物も多数。活動は多岐に渡る…。
山本達久(やまもと たつひさ)
1982年10月25日生。ドラマー。2007年まで地元山口県防府市bar印度洋を拠点に、様々な音楽活動と並行して様々なイベントのオーガナイズをするなど精力的に活動し、基本となる音楽観、人生観などの礎を築く。独創的なソロ(ライブセット / 電子音楽作品)や即興演奏を軸に、ジム・オルーク / 石橋英子との様々な活動をはじめ、カフカ鼾、石橋英子ともう死んだ人たち、坂田明と梵人譚、禁断の翼棟、Sweet Herringbone、オハナミ、NATSUMENなどのバンド活動多数。ex.芸害。青葉市子、UA、カヒミ・カリィ、七尾旅人、phew、前野健太、山本精一など歌手の録音、ライブサポート多数。演劇の生伴奏・音楽担当として、SWANNY、マームとジプシーなど、主に都内を中心に活動。2011年にはロンドンのバービカンセンターにソロパフォーマンスとして招聘されるなど、海外公演、録音物も多数。活動は多岐に渡る…。

七尾旅人やUAらのサポートで知られる名ドラマー、しかしその哲学は主流には沿わず。ジム・オルークらと過ごした10年の濃密な時間が山本達久にもたらしたもの

松村:『ashiato』と『ashioto』、今回同時リリースされた2作品を聴いて、達久さんって一流のアーティストだったんだって思いました(笑)、本当に。

山本:いやいやいや(笑)。

松村:千住宗臣さんとのアルバム(2009年発表の山本達久&千住宗臣『a thousand mountains』)は、ドラマーとしての観点があったと思うんですよ。ドラマーとしてどうするか、ドラマーとしてそのドラム道をどう外していくかってことだったと思うんですけど。

山本:そうですね、完全に。

松村:それから達久さんもいろいろな活動をしてきて……この言い方が正しいかわかんないけど、いちドラマーではなくなったと思うんです。

山本:まあ道を外れてるっていう(笑)。

松村:悪い意味で言ってるわけではないんだけどね。

山本:いや、わかります(笑)。

松村:『ashiato』『ashioto』を聴いて、そのような立ち位置にいるんだとますます思いました。その点についてはいかがですか?

山本:まあ俺、家で全然練習しないし、クリックを聞いて練習することも本当にしてないんで。今の世の中で求められている生ドラムの演奏って、ステディでシャープでクリッキーなものだと思うんですけど、俺そこから全部逸脱してるから(笑)。

テンポが揺れないドラムって、叩いてる人の感じがわからないから面白くないし、ハッキリ言って誰が叩いててもほぼ一緒じゃんと思っちゃうんですよね。打ち込みとかプログラミング、コーディングのほうが人力で不可能なこともできるから、音楽の進化としては面白いはずなんですよ。それなのにみんな退化しようとしてるのかなって感じますね。

松村:その境地に達したのは、ジム(・オルーク)さんとずっとやっているのが大きい?

山本:まあこのアルバムに関してはそうですね。ジムさんとか(石橋)英子さんとか須藤(俊明)さんとかこの10年間一緒にやってきた人たちから、いい影響も悪い影響も全部受け取ってて。やっぱ、距離が近すぎたんですよ。どれがいい影響なのか、どれが悪い影響なのかを洗いたくて、今回自分の作品を作ったところもあります。

2016年とかは特に忙しすぎて、「自分が本当に好きなものって何だろう?」ってわかんなくなっちゃって、これはよくないなって思ってました。もちろんジムも英子さんも須藤さんも先輩だし、いろんな面白い芸術を教えてくれて、「これは引っかかったな」「これは引っかからないな」とかいろいろあったんですけど、それを整理する時間は設けてなかった。入れるだけ入れてはよくないなと思ってたんです。

左から:ジム・オルーク、山本達久(2014年1月掲載記事:「死ぬまでにこんな仲間に出会えるか カフカ鼾インタビュー」より) / 撮影:三野新
左から:ジム・オルーク、山本達久(2014年1月掲載記事:「死ぬまでにこんな仲間に出会えるか カフカ鼾インタビュー」より) / 撮影:三野新

4年間かけて行われた制作の終盤に訪れたコロナ禍。4月以降、Bandcampで精力的にリリースを重ねていた背景

松村:コロナ禍になってから達久さんはBandcampに結構な数の音源をあげていますよね。

山本:そうですね。俺、今年の頭ぐらいに手術をして内臓を取ってるんですけど。

松村:そうなんですか!?

山本:胆嚢にでかいポリープができて手術するしかないってなって、今年の1月の終わりくらいに仕事も制作も家で何でもできるように機材を一新したんですよ。そのときは手術後で体力も超低下してるんで、3月くらいまでは仕事も全部セーブして4月からやろうとしてたんですけど、4月からいきなりコロナで全部の予定が飛んで(笑)。

松村:図らずも制作環境も変化したんですね。

山本:そうですね。もう収入がなくなるんで切り替えざるを得なかった。サポートの仕事も基本的には全部口約束だから、キャンセル料をもらえるわけでもないんで。

松村:前向きに何かやっていくしかないってことですよね。それまで電子音楽というか、こういった音楽制作は日常的にやられてました?

山本:機材はいくつか持っていじってはいたんですけど、日常的にはやってなくて。それこそ『ashiato』と『ashioto』作るにあたっては須藤さんに手伝ってもらって。わからないことは任せるんじゃなくて、質問して勉強しながら一緒にやるっていうスタンスでやってたんです。ミックスもやりながら4年間じっくり時間をかけてやってた。

松村:須藤さんしかり、電子音楽や実験音楽の分野では達久さんの周りにはすごい人がいっぱいいますもんね。

山本:だから俺の仕事じゃないくらいに思ってたんですよ。でも実際やってみると自分で録れたほうがいいなって思いました。たとえば、「このお茶ちょっと苦いから、もう少しだけ苦味を抑えてくれる?」って3人にオーダーしてもやり方は全員違うと思うんですよ。

松村:水を足したり、元のものを薄くしたりとか、いろいろあるからね。

山本:そう。だから、過程も結果も人によって違うものを他人に任せられないなと思って。

松村:そのプロセス自体を自分で工夫してみるのも面白いんじゃないかってことなんでしょうね。

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リリース情報

山本達久『ashioto』
山本達久
『ashioto』(アナログ盤)

2020年9月18日(金)発売

山本達久『ashiato』
山本達久
『ashiato』

2020年10月21日(水)配信

山本達久
『ashiato』(アナログ盤)

2020年10月21日(水)発売
価格:3,300円(税込)
PEJF-91031 / NWM-005

[SIDE-A]
ashiato part 1

[SIDE-B]
ashiato part 2

プロフィール

山本達久
山本達久(やまもと たつひさ)

1982年10月25日生。ドラマー。2007年まで地元山口県防府市bar印度洋を拠点に、様々な音楽活動と並行して様々なイベントのオーガナイズをするなど精力的に活動し、基本となる音楽観、人生観などの礎を築く。独創的なソロ(ライブセット / 電子音楽作品)や即興演奏を軸に、ジム・オルーク / 石橋英子との様々な活動をはじめ、カフカ鼾、石橋英子ともう死んだ人たち、坂田明と梵人譚、禁断の翼棟、Sweet Herringbone、オハナミ、NATSUMENなどのバンド活動多数。ex.芸害。青葉市子、UA、カヒミ・カリィ、七尾旅人、phew、前野健太、山本精一など歌手の録音、ライブサポート多数。演劇の生伴奏・音楽担当として、SWANNY、マームとジプシーなど、主に都内を中心に活動。2011年にはロンドンのバービカンセンターにソロパフォーマンスとして招聘されるなど、海外公演、録音物、ソロ作品も多数。

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