インタビュー

小森はるか監督は、映像で忘れられがちな人の営みを語り継ぐ

小森はるか監督は、映像で忘れられがちな人の営みを語り継ぐ

インタビュー・テキスト
木村奈緒
撮影:大畑陽子 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

東北を拠点に、岩手県陸前高田に暮らす人びとの日々の営みや、刻々と変わりゆく風景を記録してきた映像作家・小森はるか。前作『息の跡』(2017年)で、東日本大震災による津波のあと、自力で「たね屋」を再建し、独習した外国語で自身の体験を綴る佐藤貞一さんに出会った私たちが、最新作『空に聞く』で出会うのは、どのような人なのか。小森のカメラの先にいたのは、津波による途方もない喪失のあと、その地で「声」を伝えつづける阿部裕美さんというラジオパーソナリティーだった。映画を通じた阿部さんとの出会いに先駆けて、小森に話を聞いた。

小森はるか(こもり はるか)<br>1989年静岡県生まれ。映像作家。映画美学校12期フィクション初等科修了。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科卒業、同大学院修士課程修了。2011年に、ボランティアとして東北沿岸地域を訪れたことをきっかけに、画家で作家の瀬尾夏美と共にアートユニット「小森はるか+瀬尾夏美」での活動を開始。翌2012年、岩手県陸前高田市に拠点を移し、人々の語り、暮らし、風景の記録をテーマに制作を続ける。
小森はるか(こもり はるか)
1989年静岡県生まれ。映像作家。映画美学校12期フィクション初等科修了。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科卒業、同大学院修士課程修了。2011年に、ボランティアとして東北沿岸地域を訪れたことをきっかけに、画家で作家の瀬尾夏美と共にアートユニット「小森はるか+瀬尾夏美」での活動を開始。翌2012年、岩手県陸前高田市に拠点を移し、人々の語り、暮らし、風景の記録をテーマに制作を続ける。

大切にしているのは「被災者と撮影者」ではない距離感

今から9年前、東京の美大に通っていた小森が東北に足を運んだのは、2011年3月11日に起きた東日本大震災がきっかけだった。それまで東北は小森にとって「まったく縁もゆかりもない土地」だった。

小森:大学院にあがる春休みに震災があって、後にアートユニットとして一緒に活動する友人の瀬尾夏美から「ボランティアに行ってみないか」と誘われたので、映像を撮ることは全然考えずにボランティアとして東北へ行きました。実際にそこで暮らしている人たちに出会ったり、被災した場所を見たりして、カメラを向けたいという気持ちはわかなかったんですけど、ある避難所で、おばあさんに「あなたたちカメラ持ってるの?」と聞かれて、一応、小さいカメラを持ってきていたので「持ってます」と言ったら、「自分のふるさとも津波でやられてしまったらしいんだけど、見に行く足(移動手段)がないし、行けたとしても壊れてしまったふるさとを直視できないかもしれないから、代わりに撮ってきてくれませんか」とお話しいただいて、それだったらカメラを向けることができるかもしれないと思って。そのときに、カメラの持っている「記録」という役割に初めて気づいて、それをやりたいと思うようになりました。

小森はるか

震災から3週間後にボランティアとして東北沿岸地域を訪れて以来、1年に渡って東京から同地に通い続けた小森。翌2012年には、先述の瀬尾夏美と陸前高田に移住。2015年に仙台市に拠点を移した後も、現在に至るまで陸前高田に通い続ける。陸前高田で暮らした3年間は、蕎麦屋で働きながら休日にカメラを回す日々。取材者としてではなく、あくまで「蕎麦屋の姉ちゃん」として陸前高田の人びとと出会ってきた。

小森:陸前高田の人たちとは、「被災した人との付き合い」では全然なかったんですよね。私が蕎麦屋の姉ちゃんとして、そこにいたからこそ受け入れてもらえたというか聞けた話があって、「カメラを持ってたから出会えた人たち」ではなかったんです。むしろ、カメラを向けた途端、「被災した人」と「それを撮ろうとしている人」の関係になってしまうことが怖くて、人を撮れない時期がありました。(『空に聞く』の)阿部さんに対しても、半年ぐらい経ってから撮らせてほしいとお願いしたんです。

東日本大震災の後、約3年半にわたり「陸前高田災害FM」のパーソナリティーを務めた阿部裕美さん。地域の人びとの記憶や思いに寄り添い、いくつもの声をラジオを通じて届ける日々を、カメラは親密な距離で記録した。<br>映画『空に聞く』ポスター
東日本大震災の後、約3年半にわたり「陸前高田災害FM」のパーソナリティーを務めた阿部裕美さん。地域の人びとの記憶や思いに寄り添い、いくつもの声をラジオを通じて届ける日々を、カメラは親密な距離で記録した。
映画『空に聞く』ポスター(公式サイトを見る

陸前高田に生まれ育ち、2011年12月の開局当初から「陸前高田災害FM」でパーソナリティーを務めた阿部裕美さんも被災者の一人だ。阿部さんの語りや、映像の端々から阿部さんが被災したことは察せられる。しかし、映画は阿部さんを「被災者」としては映さない。

小森:阿部さんも、もちろん被災はしていらっしゃるけれども、その町にいながら「声」を通じて人の気持ちや町をつなぎ直そうとしている人で、そこを入口として撮影していこうという意識がありました。阿部さん自身もラジオを通して、その人が「被災した人」ではなく、どういう人であって、どんな思い出を大事に生きていらっしゃるかを聞いていらして、それは私が撮りたくても撮れなかった、「人の語り」だったんです。自分が撮ろうと思って撮れなかったものを、阿部さんの姿を借りて撮らせてもらえたと感じています。そこに住んでいながら、誰も聞こうとしなかった人の話を聞いて残そうと思い至った阿部さんは、すごくかっこいいというか、私からすると憧れの人なんです。

ラジオパーソナリティーの阿部裕美 / 『空に聞く』©KOMORI HARUKA
ラジオパーソナリティーの阿部裕美 / 『空に聞く』©KOMORI HARUKA
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作品情報

『空に聞く』
『空に聞く』

2020年11月21日(土)より、東京 ポレポレ東中野にて公開、ほか全国順次公開

監督・撮影・編集:小森はるか
撮影・編集・録音・整音:福原悠介
特別協力:瀬尾夏美
企画:愛知芸術文化センター 制作:愛知県美術館
エグゼクティブ・プロデューサー:越後谷卓司
配給:東風

プロフィール

小森はるか(こもり はるか)

1989年静岡県生まれ。映像作家。映画美学校12期フィクション初等科修了。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科卒業、同大学院修士課程修了。2011年に、ボランティアとして東北沿岸地域を訪れたことをきっかけに、画家で作家の瀬尾夏美と共にアートユニット「小森はるか+瀬尾夏美」での活動を開始。翌2012年、岩手県陸前高田市に拠点を移し、人々の語り、暮らし、風景の記録をテーマに制作を続ける。2015年、仙台に拠点を移し、東北で活動する仲間とともに記録を受け渡すための表現をつくる組織「一般社団法人NOOK」を設立。2015年、長編映画第一作となる『息の跡』が山形国際ドキュメンタリー映画祭2015で上映され、2017年に劇場公開される。最新作は、2020年11月公開の『空に聞く』。

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