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西加奈子が書く、肯定の世界。完璧じゃない自分を認めて生きたい

西加奈子が書く、肯定の世界。完璧じゃない自分を認めて生きたい

『さくら』
インタビュー・テキスト
羽佐田瑶子
編集:川浦慧、久野剛士(CINRA.NET編集部)

小説を書くからにはこの苦しみを引き受けないと、と思って目を背けたくなるようなニュースも見るようになりました。

―主にSNSでは、たった一度の過ちですべてを失ったりぞんざいな扱いを受けたりする厳しい状況になっていると思っていて。

西:そうかもしれないですね。だから、『さくら』でお父さんを書いてよかったと思いました。ハジメの死をきっかけに家族から逃げてしまうわけですが、彼なりに理由がありました。逃げたとしても、どんな人間でも、もう一度集まったりやり直したりするチャンスがある。お父さんを通して、そういうことを書けていたことは、かろうじてあの頃の自分を認めてあげたい部分です。

©西加奈子/小学館 ©2020「さくら」製作委員会
©西加奈子/小学館 ©2020「さくら」製作委員会
©西加奈子/小学館 ©2020「さくら」製作委員会
©西加奈子/小学館 ©2020「さくら」製作委員会

―西さんの作品は、全体を通して肯定感が強い印象があります。どんな人だろうと、過ちも喜びも、その人が生きてきたことを肯定する。映画でも、そうした部分が光り輝いていました。

西:嬉しいです。私の小説をそう読んでもらえるのは、自分自身がダメ人間なので「肯定してほしい」っていう気持ちがあって(笑)。他人よりも、自分を肯定したいから書いているところがあります。

―そうなんですか。西さんはダメ人間のようには見えないです。

西:せこいですしね。嘘をつくこともありますし、ひどいこともしましたし。

―西さんにとって小説を書く、ということは自分を肯定するセラピー的な行為なんでしょうか?

西:『さくら』を書いていた初期の頃は、ただ書きたくて書いていました。でも、最近は自分を肯定するためよりも……社会に自分を向き合わせるために書いている気がします。小説を書いていなかったら、自分に都合のいいニュースしか見ていなかったと思うんです。でも、小説を書くからにはこの苦しみを引き受けないと、と思って目を背けたくなるようなニュースも見るようになりました。もちろん当事者が一番苦しいですし、傲慢な気持ちではありますが、それでも引き受けなきゃと思って。

―引き受けることは、しんどくなりませんか?

西:もちろん、弱虫なので本当にしんどい時は逃げちゃいます。だけど、少なくとも逃げたことを覚えておこうって思います。私がそういうタイプなので、登場人物にも辛い時は逃げちゃう人が多いですね。相手のことを「わかるで」って、肯定したいのかもしれません。

―多くの人がそうだと思いますし、しんどいときは逃げないと苦しくなりますよね。完璧な人間には、絶対になれないと思うので。

西:本当にそうやと思います。完璧な人もいるかもしれないけど、完璧じゃない自分を認めていきたいですよね。『さくら』の物語にも、そういうところは反映されていると思います。

全力で書いた小説なので、当時の自分を否定するつもりはないですけど、今だったら絶対に死なせないです。

―原作発表から映画化まで時間が空いていますが、映画化のお話を受けた時のお気持ちを聞かせていただけますか?

西:これまで『きいろいゾウ』(2013年)、『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』(2014年)、『まく子』(2019年)と4作品が映画化されましたけど、『さくら』はそれよりも前、おそらく初めて映画化の依頼を受けた作品だと思います。でも、企画がなくなったり生き返ったりを繰り返していて。自分でも把握していなかったので、今回の矢崎監督の企画を伺って驚きと嬉しさがありました。

『さくら』キービジュアル
『さくら』キービジュアル(サイトで見る

―映画を観られた感想を伺えますか。

西:私は映画ファンでもあるので、映画については「監督のお好きに」、と思っています。映画を拝見して、自分が書いた作品なのであらすじをわかっているはずなのに、役者のみなさんが素晴らしくて。作者としての自分を忘れる瞬間が何度もありました。

たとえば、3兄弟の末っ子であるミキ(小松菜奈)はハジメ(吉沢亮)のことが好きって知っているのに、映画を観ただけだと「この子は何か、体内に発光したものを持っている」とだけ感じられて。

©西加奈子/小学館 ©2020「さくら」製作委員会
©西加奈子/小学館 ©2020「さくら」製作委員会
©西加奈子/小学館 ©2020「さくら」製作委員会
©西加奈子/小学館 ©2020「さくら」製作委員会

―直接的な言葉で「好き」とは伝えないですもんね。ただ、近くに常にいたり、最後に寄り添ってくれたり。

西:あとは、書いたのが約17年前なので、自分の若書きに声をあげたくなりました(笑)。「こんなこと言わしてたんかー!」って。そもそも、『さくら』に対しては、作家としてハジメをあんなやり方で殺してしまったことに、後悔がある作品なんです。他の作品でもいろいろ失敗したと思う書き方はありますし、人が亡くなることもありますけど、「あんなやり方で殺す必要なかった」と思い続けている作品は『さくら』だけです。

―他のインタビューでも、「いまだったらハジメくんを殺さない。別の生き方を選択させる」とおっしゃっていましたよね。

西:そうですね。全力で書いた小説なので、当時の自分を否定するつもりはないですけど、今だったら絶対に死なせないです。

―そうしたら、完成した映画を見るのは怖かったですか。

西:ハジメくんのシーンを見るのは緊張しました。でも、矢崎監督が映画を通して、あなたは間違えたかもしれないけど間違った過去も含めてあなただ、と言ってくださった気がします。作者の失敗も含めて矢崎さんが物語を愛してくださった感じがすごくして、間違ったけど生きていることを肯定してもらうような気持ちになりました。それは作者だから言える、贅沢な感想ですね。映画にしてもらえて嬉しかったです。

©西加奈子/小学館 ©2020「さくら」製作委員会
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©西加奈子/小学館 ©2020「さくら」製作委員会
©西加奈子/小学館 ©2020「さくら」製作委員会
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作品情報

『さくら』
『さくら』

2020年11月13日(金)全国公開

出演:北村匠海、小松菜奈、吉沢亮、寺島しのぶ、永瀬正敏、
小林由依(欅坂46)、水谷果穂、山谷花純、加藤雅也、趙珉和
原作:西加奈子『さくら』(小学館刊)
監督:矢崎仁司
脚本:朝西真砂
音楽:アダム・ジョージ
主題歌:東京事変『青のID』
配給:松竹

プロフィール

西加奈子(にし かなこ)

1977(昭和52)年、イランのテヘラン生れ。エジプトのカイロ、大阪で育つ。2004(平成16)年に『あおい』でデビュー。翌年、1匹の犬と5人の家族の暮らしを描いた『さくら』を発表、ベストセラーに。2007年『通天閣』で織田作之助賞を受賞。2013年『ふくわらい』で河合隼雄物語賞受賞。2015年『サラバ!』で直木賞受賞。その他の小説に『窓の魚』『きいろいゾウ』『うつくしい人』『きりこについて』『炎上する君』『円卓』『漁港の肉子ちゃん』『地下の鳩』『ふる』など多数。

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